鶴太屋劇場 第14回
彗星のイマージュ
作・鶴太屋
目醒めれば未開社会の宴なるマンモス炙りて歌ひ啖(くら)へり
電話機のむかうに聴きゐる虹色の石油の時雨過ぎゆく火星
寒月に震へる外郎(ういらう)食ひゐれば月の十字架放つプラズマ
投函せし手紙が届く百年後の築地市場にくれなゐの鮪(まぐろ)
昼餐の胃袋を匍匐前進する隊員想ひ啖(くら)ふレバニラ
巨大ダコに搦めとられし折りも折り司法試験合格通知
ロプロプの棲む森に住むエルンスト訪(おとな)へば銀色の宇宙服
豆タヌキの根付彫りゐる晩冬の小人国(リリパット)への求人打診
テレビ百台燈りてゐたる駅頭の電器店に潜(ひそ)む宇宙難民
空港の扉のひとつ過(あやま)ちて開ければ驟雨に濡れゐたるモア
群青の風につつまれピエロ哭(な)く春の鬱屈のテレパス少女
白魚啜(すす)る青年の夏パンドラの箱の透視を試みむかな
タンギーの黄昏の地を増殖するみだらなオブジェどれも翳もつ
ジョアン・ミロ画集を開けば一滴の涙を蔵し宇宙(そら)ゆく破船
ニュートンを喚び出してゐる交霊の寝室に浮くくれなゐの林檎
かりがねの空を渡れる永遠の銀いろの糞零れこぼれゐき
初夏の巷に転(まろ)べば百匹のピンクの豚が飛びゆきに候(そろ)
砂嵐の真夜の戸外を沈思せりひたひたと湧く火星への郷愁
木星のドリアン熟れれどテレポートする気も湧かず洟をかみをり
メタセコイアの幹を透かして視る太古 人類の記憶が露に濡れゐる
輝ける純正律響(な)る黄金(きん)の宇宙 ステップ軽くフーガを踊る
卵より孵(かへ)りしダリの口髭のアンテナがさす夢なる鮟鱇
石榴をめぐる蜂にも飽きて四次元の樹間に透けるわが身体かな
扉(ドア)より雲がしのびこむ夏 木苺のジャム煮詰めゐる勝利は苦し
星間を渉れる宇宙キャラヴァンの商ふ悲哀の女(ひと)のイマージュ
記憶より青き血滲む月曜日 冥王星に凛(さむ)き玻璃降る
地底の檻の青きランプに照らされてときには燃えあがる猛き麒麟
薄明の冬に手紙(ふみ)焚く 宇宙空間さまよふ薔薇は想ひ出の影
月光の炎えゐる黒き森に彳(た)ち彗星の女(ひと)への繁(しじ)なる恋慕
タイトルと選・笹公人
お題「SF」
鶴太屋 2007-12-21
: 01:09:34
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鶴太屋劇場 第13回
鶴太屋エレジー
作・鶴太屋劇場
〜『寺島町奇譚』を読みて〜
寺島町の路地を雪駄で歩みをり少年時代の滝田ゆうに会つた
駅前であんパンを買ふ松本零士に銀河鉄道の駅尋ねをり
たらこくちびるの東海林さだおが食(た)うべゐる海鮮丼に鱈子はあらず
秘湯にてつげ義春の跡を追ふ「湯の町エレジー」低く歌ひて
田河水泡のらくろ描(か)きゐしかりかりとペン先駆つて敗戦に呆
吾妻ひでおと同じ道歩みゐる兄の肝臓その他、やけくそ天使
〜『無能の人』を読みて〜
つげ義春粥一杯におとろへて石売る河原はかげろふのなか
〜『東京物語』を読みて、またはバブル東京〜
吸ひさしの莨も風に尽きたりといしかわじゆんは斜陽に佇ちて
〜『GTroman』を読みて〜
喫茶ロマンに憩ふ西風ペン先にエキゾーストの鋭(と)き音蔵し
〜『アイデン&ティティ24歳/27歳』を読みて〜
ディラン聴く酔ひ醒めの身が恋ほしくてみうらじゆんはヴォリュームあげる
〜『まんだら屋の良太』を読みて〜
温泉(いでゆ)に泛かぶ畑中純の股間にはあはき夕月うつろふエロス
タイトルと選・笹 公人
お題:「漫画家」
鶴太屋 2007-10-24
: 09:12:01
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鶴太屋劇場 第12回
フーテン東京
作・鶴太屋
くるぶしを押へて泣いてゐたつけか武蔵野の薔薇めぐれる墓地で
擦りむいた右膝抱いてきみの目に秋の電車は四谷を過ぎる
放課後の哈爾濱食堂ラーメンのどんぶり捧げて少女匂へり
臭豆腐(ちょーどうふ)齧りつつゆく台北の夜は昔のちりめんの月
新潟土産の越乃寒梅少しづつ減りゆく祖父(おほぢ)の仏壇磨く
浅草でおでんを突つく深秋の淋しきにぎはひチクワを覗く
白骨(しらほね)の湯に浸かりつつスケルトンの人体模型と肩を並べつ
遠野の宿に柳田憶ひて円錐の夜闇の郷(さと)をさまよひ畏る
停電の夜にさみしさ伝はれと受話器に聴いてる風の留萌よ
鮎の香のくちびるそつと夜に捺すきみの想ひに泛かぶ択捉(えとろふ)
東京の海の潮騒さやさやと胸に求(と)むるは青き楽譜ぞ
愛別離の一生(ひとよ)燦たり金沢の汀に崩るる波を見てゐる
柴又に団子頬ばり懐かしむ香具師の口上その背なの風
フーテンと淋しさわかつ上野駅苦き秋刀魚のはらわた想へ
木枯しの抜ける塩尻駅ホーム鯛焼き食(は)めば餡のはみ出づ
祖母(ばば)の舎(や)に弾む風船「トンプク」と昔富山の薬売り在り
タイトルと選・笹 公人
お題:「地名」
鶴太屋 2007-09-25
: 02:41:27
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鶴太屋劇場 第11回
埋蔵金探知犬クイール
作・鶴太屋
屈葬のされかうべ持ち講義する白骨(しらほね)教授の聡き眼差し (鶴太屋)
警視庁裏に埋もれる不発弾錆びて真桑瓜(まくはうり)太く実れり
埋蔵金探知犬の育成に一生(ひとよ)励みて華やげり父
ごきかぶりに狙ひをさだめて笑む老婆 夢占ひのガラス玉も曇る
電源の切れたるドラえもん抱きしめて野比家のうへの青に澄む空
〜江戸川乱歩に捧ぐ〜
少年探偵こころに養(か)ひて中年のサラリーマン風情泥酔すらし
〜寺山修司に捧ぐ〜
霧の街 力石徹の葬儀終えハンチング深くかぶれり、燕よ
タイトルと選・笹 公人
お題:「都市伝説」
鶴太屋 2007-07-15
: 02:46:58
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鶴太屋劇場 第10回
春の旅人
作・鶴太屋
春光の街を闊歩し靴鳴らすこの歓びの桜いろなる
春の扉(と)を押して風吹く日曜日土筆(つくし)摘みけりこのほろ苦き
陽だまりに春の生まるる一日を無為に過ごせり土龍(モグラ)鳴けるも
春塵の道を行き交ふ旅人の永遠のゆふべ背(せな)に残れる
夜の水に散るさくら花金泥の影をば曳きて春惜しむなる
春雪の飛騨望みおく窓際にランプ玉そつと研(みが)くたそがれ
歳月はまばゆいばかり蕗味噌の苦みを愛(を)しみ酒を酌むかな
花街をたもとほる日々燕待つ五月の想ひに澄みわたる空
春雷に銀碗の光(て)り鈍く浮く箸さへ持てぬだるき熱の身
タイトルと選・笹 公人
お題:「春」
鶴太屋 2007-06-05
: 00:03:01
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鶴太屋劇場 第9回
しろたへに浄めて
作・鶴太屋
白き露地を猫の貌して来につれば秋刀魚焼くる香冴ゆる良夜ぞ
漆黒の地球凍れる大寒のお達者くらぶベーゴマ大会
友無き日かなしみ憩ふ緑風荘うらに仔犬を抱きて滂沱たり
磊落をよそほふ同僚(トモ)の白き影銹(さ)びしヤカンが秋の陽の中
師の淡き影踏みつければ不意に昏れ俺は黄桜の酒に華やぐ
小麦いろの肌のマブしき十五歳菜穂子はイルカの海を身に有(も)つ
睦ハウス庭の白梅夕風に薫りて寒の熱の身体(み)恋ほし
熱燗のうつしみ過ぐる軒先に黒猫眠れり昔のごとかり
青き眼の仁王老いたり門前に焼き芋屋来たりショーバイはじむ
夏の火焔樹截り倒さずんば紺碧の仁王の尿(ゆま)る音が聴きたし
嗄れがれのこゑほんのりと紅(こう)ふくみ夏の座敷に鮎を食(た)うぶる
燗酒の咽喉(のど)灼くうつつ酒舗のうち黒猫眠るは昔のごとし
酔ひはてていよよ一縷の正気冴え狂気とまがふナイフしろがね
昼酒の胃の腑涼しききさらぎの郵便ポスト赤く佇ちゐる
棚に犇く書(ふみ)の黴くさきを愛し『青猫』もとめる寒の古書市
ここ過ぎれば京(みやこ)廃れて霊媒師の姉の居館にくれなゐの蔦
鉄屑の峨峨たる砦は蠅の王ひねもす睡る緋の襤褸(ぼろ)につつまれ
ほだ木には露の椎茸太りをり蒼き月光浴び一途なれ
朱欒(ざぼん)色の黄昏われを打ちのめし泣かせてくれる寒蝉のこゑ
弟切草のはなびら淡き黄をふくみ胃の腑の唏(な)けるひもじさにあり
風さわぐ烏滸(をこ)なる夏ぞ掏摸(スリ)の政余罪追及みどりの夜に
鬱金の半纏風にはためきゐたりけり世界尽まで咲きつづける薔薇
寵児得て一瞬玻璃に父の影 墓域にひろがる夕霞あかね
寒すずめ朝(あした)転(まろ)べりしろたへに身は浄まりて銀色の霜
タイトルと選・笹 公人
お題:「色」
鶴太屋 2007-04-20
: 13:13:43
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鶴太屋劇場 第8回
おはやう!アフリカ
作・鶴太屋
「チャーリー・パーカー(バード)」
胸灼く熱砂うけていま起つ 青春の淀む風裂きバードの吹奏(ブロウ)
「マイルス・デイヴィス」
金管を零れて輝け黒き楽音(ノート) ゾンビのごとくいざ生きめやも
「ジェイムズ・ブラウン」
シャウトするたび皓歯零るるJBの赤血球にも満ちおはやう!アフリカ
「ビル・エヴァンス」
白鍵に淡青(たんじやう)の涙(なだ)落つる夏 硝子の迷路さし覗くや父
「シャルル・トレネ」
「青い花」もとめて果てし叔父の墓 男の愛満つる地中海に向き
「パコ・デ・ルシア」
白堊の修道院(モナステリオ)ひとりギター弾く男の影に接吻の尼僧
「レッド・ツェッペリン」
耳削がれわが墜ちゆける罪業の蒼穹(そら)なる深みはがねの飛行船(ツェッペリン)
「ムーンライダーズ」
月の使者謀叛のかをり滔滔と杏仁豆腐ひとすくひ夏
「B.B.キング」
ブルース!ブルース!まづペンタトニックを弾きいづる幔幕ふるはせ巨神の咆哮(ロアー)
「トゥーツ・シールマンス」
うるほふ窓ほの明かりしてハーモニカ吹くやいづこも愛の屑星
「ロバータ・フラック」
白あぢさゐに極彩したたる真夜のこゑアフロディーテの半身は海
「オーティス・レディング」
どつくおぶざべい最後に聴きたる日々はいつ てのひら一瞬黒き花びら
「チェット・ベイカー」
桃の蜜 心音の孤独棲まはせてヘルマフロディトスのこゑ沁みる傷
タイトルと選・笹 公人
お題:「バンド・ミュージシャン・歌手」
鶴太屋 2007-03-04
: 17:26:03
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