2012年02月01日

かんなのうた 第16回


四月の海へ

作・かんな


木蓮のような日傘を傾けて少女は春の終わりを歩く



残るのはハマボウフウと六月の雨と止まったままの時計と



早すぎる春の別れに薄紅のスイートピーはふるえ続ける



花びらの形に涙は切りとられ四月の海に向かうのでしょう



色褪せる押し花のごと思い出の輪郭だけが今は残って



タイトルと選・笹公人

お題「花」
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酒井ファンタジーセンター 第8回


骸骨が咲いてゐる

作・酒井景二朗


少年のはにかむやうに咲いてゐる冬は骸骨だつた紫陽花



病院の事務職員がつきつける厚い書類はチューリップ色



咲きほこる皐の下に開けられた目白一羽の爲のトンネル



うつむいて咲くのが菫 うつむいてゐてはならない我ら人類




タイトルと選・笹公人

お題「花」
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酒井ファンタジーセンター 第7回


アトムの遺骸

作・酒井景二朗


「死んでやる」そんなルージュの傳言が酸をかけても消えてくれない



圓鏡の藝風だねと言ひ乍ら輕い自虐を分け合ふ僕ら



千早振るカミオカンデの靜水に沈む鐵腕アトムの遺骸



そんなにも眞正直で疲れないか?夜に鏡にささやいてゐる



アリス、もう君を待つ者ことごとく消えてしまつた鏡の國だ



タイトルと選・笹公人

お題「鏡」
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鶴太屋劇場 第32回


狂院の桜鯛

作・鶴太屋


ひまはりの首断ち切れば耳もとに氷のきしる氷河の呼びごゑ



さるすべり夏空占めて輝けば頬を掠めて黄金(きん)のクラゲよ



茄子の花むらさき零す夏の光(かげ)露とばかりにいちにんの訃



夏色の少年兵のゑがほなどピンで留めおけ高きたかきカンナ



青き菊を風に挿したり鉄にほひわれの骨壺歌ひだす日に



断弦のギター炎やせよ狂院の桜鯛煮(た)く死後のキッチン



師の墓の侘助椿ふるふると淡墨(うすずみ)の風に怺へゐるのみ



紅梅の一輪冱える羞(やさ)しさに雪明りするこの傘の中



タイトルと選・笹公人

お題「花」

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鶴太屋劇場 第31回


火の鏡

作・鶴太屋


曇り日の鏡に沈む海鼠かな愛をむさぼるその虚無の口



冬の鏡に枯れ蔓つたひ鷹睡るこの生命の愛(いと)しきろかも



鏡のごとき春の泉に膝折れば惑ひの水精もいつしか水仙



女鳥羽川、寒の流れの泡寄せる泉鏡花を読みそめて冬



火の鏡に数瞬の夏封じこめオリーヴの実を眼に埋づめ去れ



合はせ鏡の無限にわれら遠ざかり夢幻の桃を欲る終身刑



夏の鏡に髪梳(と)く乙女 兄われに薄紅色の雨ひとしきり



われらが祖(おや)の霊は満ちたり係累の血の鏡から虚無が滴る



タイトルと選・笹公人

お題「鏡」
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