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トリビアの小池 by・斉藤真伸

笹師範です。
少しは楽になるかと思ったら大間違いで、まだろくに寝る暇もない生活を送っております。
僕の場合、二十代の頃は眠りたい放題眠って怠けていたので、いい経験かもしれないと思ってがんばっています。

朱川湊人×笹公人
「遊星ハグルマ装置」
更新されました!
今回は僕の短歌「白魔術の女」です。

3月20日(金)

笹 公人 第三歌集 『抒情の奇妙な冒険』
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定価 1,365円
ISBN: 978-4-15-208907-6 刊行日: 2008/03/20

イラスト:とり・みき 
デザイン:岩郷重力+Y.S
帯文:山田太一 解説:栗木京子
発売:(株)早川書房


が全国書店にて発売されます!
ぜひ買ってください!

今回の真伸さんのエッセイは、
僕も尊敬している歌人・小池光さんについてです。
『念力図鑑』で跋文を書いてくださっているので、名前を知っている人も多いでしょう。

では、お楽しみください。

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「トリビアの小池」 by・斉藤真伸

たとえば皆さんが観光地に行ったときに歌を作るとしたら、どんな事柄を素材にしますか。

まあ、たいていの人はそこの土地の名物ですとか、名所を詠み込むと思います。ですが歌人の小池光さんに言わせると、それでは本当に面白い歌は作れないのだそうです。
その土地の名物や名所を歌に盛り込むだけでは、「絵ハガキ」みたいな歌しか作れません。特に古くからの名所旧跡だと、だいたい有名な歌人が何らかの歌を残していますから、それに勝つことは到底不可能です。
では、観光地で小池さんはどこに注目するのかというと、観光客が足を踏み入れないような裏道なんだそうです。そこには、観光地で暮らす人間(土産物屋やホテルの従業員など)たちの生活臭に満ちています。
そこにこそその土地の「リアル」があると小池さんは言います。

小池光さんは一九四七年に宮城県で生まれました。「短歌人」という結社の主要歌人の一人です。初期は


父の死後十年 夜のわが卓を歩みてよぎる黄金蟲あり

いちまいのガーゼのごとき風たちてつつまれやすし傷待つ胸は



といった繊細でロマン性の高い作風が特徴でした(共に歌集『バルサの翼』)。いまでもその基調は変わっていないとは思うんですが、その後はだんだんと人を食ったような作品が多くなっています。


佐野朋子のばかころしたろと思ひつつ教室へ行きしが佐野朋子をらず


たとえばこの一首。『日々の思い出』という歌集の中の一首です。小池さんは長いこと高校の物理の先生をされていましたから、「職業詠」と言えましょう。でも、この一首が発表されたとき、あまりにも「短歌らしさ」を裏切っているので、どう評価するかみんな困ったみたいです。

で、今回小池さんの歌から何を学んで欲しいかというと、自分が発見したことをどう歌にしていくかということです。


聴衆にねむる人かならず居りたればねむりの品(ひん)をわれ観相す


『滴滴集』(短歌研究社、二〇〇四年)という歌集の一首です。どこかに講師として呼ばれたときの歌でしょうか。上句はたしかに「発見」といえば「発見」なのですが、恐ろしいのが下句。「それ、堂々と居眠りしている人間の様子でも観察してやろうか」なんて余裕を持って構えています。こんな講師の前ではおちおち居眠りもできませんね。『滴滴集』から何首か引いてみましょう。


鳥偏(とりへん)にふしぎなる文字(もんじ)あまたありそのひとつ「鴆(ちん)」、鴆のこゑいかに


小池さんには漢字という文字の面白さをテーマにした歌が多くありますが、これはその一つです。内容としては「ただそれだけかい!」と突っ込みたくなるのですが、なぜか読者をもその「鴆」という鳥の不思議さに引き込んでしまう一首です。「鴆」という鳥の正体が知りたい人は漢和辞典を引くか、そのままググってみましょう。この歌に隠されたもう一つの仕掛けがわかります。


をさなき日八犬伝に出会ひたる軍手五倍二(ぬるでごばいじ)の名をば忘れず


これはまさに「軍手五倍二」という人名のインパクトを伝えるためだけの歌です。この人が「八犬伝」中でどんな役割を果たしているかはあんまり重要ではありません。たぶん作者自身もどんな人物かは忘れてます。これもおそろしく人を食った歌ですが、幼い日の郷愁ですとか、ノスタルジーがなんとなく伝わってくる変な作品です。

まえに穂村弘さんの「なるべく具体的で小さな違和感」という言葉を紹介しましたが、今回紹介した小池さんの歌は、「具体的ででっかい違和感」だらけです。でも裏を返せば、どんな素材でも歌にできるんだと、これらの歌は教えてくれているのです。

ではまた。

笹 師範 2008-03-18

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