どぜうすくいでつかまえて
作・沼尻つた子
おもわれているほど清らかな瞳じゃなくて こぼす黒真珠
竜のように横たわる男の顎の下なでて逆鱗ねむらせておく
やどかりの別荘として砂浜に置く食べかけのクリームコロネ
まだ恋を知らない海女の腰巻の奥にひそんだ磯巾着よ
脚もがれ詰まった紅い身ひきぬかれねぶられる蟹を羨む吾は
鰻の肝ふたりで吸った夏の夜 奪いあうため補いあった
口もとは微笑んでたけど赤かった目を忘れないウーパールーパー
海老天のしっぽも残さぬひとだった 転居先不明の賀状の朱印
にちようび白いひらめの縁側にあなたと座って海を見ましょう
血の赤が最上級なら左胸へ 君に贈られた珊瑚ブローチ
虹鱒になれない鱒の涙にも似た小雨ふる7月の朝
じゃこのなかの小海老をよりわけるように君は私をみつけてくれた
鯛よりも鯉の輝く卓につき海なき県の花嫁になる
シザーハンズになり果て抱(いだ)きあえぬ夢 ふたりで蟹味噌啜りし夜の
真夜中に漕ぐ自転車のライトへと宿る提灯鮟鱇の霊
月のない夜に歩けば深海の魚の尾鰭が頬をかすめて
オスどうし愛をこめあう青い池の軟体生物をエロイカという
炙りスルメ丸まりゆけば晩年のいかりや長介の演技をおもう
お見合いで趣味を聞かれて披露する一子相伝のどぜうすくいを
あまくとけるけどなまぐさい季節です私の春は牡丹海老色
河豚刺しの絵皿に透けるしたごころ 襖の向こうの緋の絹布団
八本の腕と脚とをからませた ふたりでひとつの真蛸のように
噛み切れないつながったままのイカソーメン 削除できない最後のメール
一億年かけて炎になれる雪 プランクトンは海底に降る
タイトルと選・笹 公人
お題:「魚介類(海の生き物)」
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仄明るい沼の底から
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