2009年04月16日

かんなのうた 第6回

夏の螺旋階段

作・かんな


夏の日のビッグエッグを飛び跳ねるオレンジ色のスーパーボール


巻き貝のなかをたどってゆくような古灯台の螺旋階段


たんぽぽの綿毛ほわんと六本木ヒルズの上に花を咲かせる


コンパスを優雅にまわす丸ビルの設計技師の細い指先


取り壊し期限が迫るアパートの外階段に腰掛け眠る


少年は太陽の塔の影の下、時限爆弾胸に抱えて


ポッキーを並べたような影が消え高層ビルは闇へと溶ける


はりぼてのケーキのような教会で確かめられる「真実の愛」


「その昔、耐震偽装があったとさ」古い厨で蓮根を切る



タイトルと選・笹公人

お題「建物」
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2009年02月13日

かんなのうた 第5回

かんな商店街

作・かんな


もう君は待っていないと知っている吉田書房をまた覗き込む


「どうしても欲しい物」などない事をドンキホーテへ確かめに行く


あの人を射止めたいのと小間物屋「秀」で少女は簪を買う


KIOSKで一緒に買った溶けかけのポッキー君はどこにいますか


一月の果物店に溢れだす春の香りをひとつください


メールさえ返してこない人を待つオープンカフェに北風が吹く


もう誰も立ち止まらないマハラジャのネオンがかつて輝いた場所


ハイヒール脱いで夜明けのファミレスの濃くなりすぎたコーヒーを飲む


横丁の風呂屋を探しに父は行く四十年の時遡り


小料理屋「さだ」にあかりが灯る夜男が一人町から消える


廃業の薬局の床に正露丸数珠玉のごと転がってゆく


極寒のネイルサロンを包み込むダイアモンドダストのま白き光


午前五時メイド喫茶の壁際に充電中の少女が並ぶ



タイトルと選・笹公人

お題「店屋・店名」
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2008年11月29日

かんなのうた 第4回

闇の乙姫

作・かんな


「浦島太郎」
乙姫が竜宮城の奥の間で今宵も食べるスッポンスープ


砂浜に座り続ける老人の記憶は波にさらわれてゆく


「かぐや姫」
かぐや姫ぐらいもてたい、真夜中にムーンストーンのピアスをはめる


「桃太郎」
桃太郎神社でかった御守りを握って義母と一緒に暮らす



タイトルと選・笹公人

お題「日本昔ばなし」
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2008年10月01日

かんなのうた 第3回

オレンジ電車

作・かんな


はじけなくなってしまったソーダ水 夏の終わりが近づいている

西陽さす卓袱台の上に置いてある水蜜桃は明子の香り

夏の日に水平線を見に行ったオレンジ色の電車をさがす

かき氷溶けてしまって紅色の水だけ残る祭りの終わり

真夜中に姉が見つめる水鏡 楳図の描く少女をうつす

オール漕ぐ音しかしない初デート暗い水面を見つめるばかり

上向きに蛇口をひねり水を飲むあの日の君の残像を追う

水上の花火を見つつ繋いでた右手の熱さを忘れられない

溶けだした水性ペンの青い文字君の気持ちは見えなくなって

夕立の初めの一粒落ちてくる麦藁帽のほつれたつばに

鏡台の香水瓶を開けるとき祖母の秘密は風の中へと



タイトルと選・笹公人

お題「水」
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2008年08月01日

かんなのうた 第2回

小次郎のシャツ

作・かんな


信長の決断力が欲しい夜はロデオボーイに一人跨がる 

春の日のモンゴル相撲 義経に似た少年が身をひるがえし

もうここに山下清はいませんと車道を転がりゆく赤い傘

海のない奈良の都に雨は降り蘇我入鹿を濡らしはじめる

こっそりと紫式部が履いてみるもう滑れないローラースケート

六ヶ月連続一位をキープする『紀貫之のおねえなブログ』

真夏日の物干し竿に残されて干からびてゆく小次郎のシャツ

もう二度と振り返らない わたくしの背を師宣は見送っている



タイトルと選・笹公人

お題「日本史上の人名」
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2008年05月24日

かんなのうた 第1回

夜の長さを

作・かんな


銭湯へ行くたび父が持っていた古びてあせた手ぬぐいの赤 


今朝ぼくを濡らした雨が薄暗い風呂の中まで追いかけてくる


もう同じ湯船に浸かることのない人へと返す錆びた合鍵


本棚の温泉雑誌の背表紙は色あせ君は戻ってこない


冷えきったユニットバスの床を踏む、夜の長さを確かめている



タイトルと選・笹公人

お題「湯・風呂・温泉」
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