2006年09月21日

鶴太屋劇場 第4回

黒猫とウィスキー

作・鶴太屋


祝祭の果てなる朝に飲むレッド・アイ 卵の黄身のまなこ落として 


アラスカを飲むバー過ぎたる半世紀あのオーロラに棲めるちちはは


酒旗はためく水辺の村にのむ白酒(バイチュウ) 酔ひ痴れてまた泥のごとくゐる


大吟醸そそぐ酒杯に銀のひびき わが内耳と鳴り交ふ春雷


白樺の林に憩へり麦酒(ビール)飲み惑星の数かぞへなほしてゐる


李白恋ほし 銀壺(ぎんこ)の酒にあふるるは未来永劫酒呑みのあかし


マイヨールの裸婦像つねにこころに秘め或る日のワイン・グラスに見惚る


血まみれマリー夜のみだらな鳥のごとぼくは愛せり檻のなかにて


潮の香のウィスキー唇(くち)をしめらせて遠い古代の海を視てゐる 


青きランプの影すぐり酒微光して武蔵野のバーにたをやめ眠る


野分いたる微熱の頬をなぶられてギネスをあふる黒き悦楽


焼酎引つ提げ月見草を嗅いでゐる信濃の市(いち)に風宴ひらく


やきとん屋でホッピーそそぐグラスにはひとの手だけの指紋のこれる


冬籠りホット・ウィスキー飲むわれを眺めてひとこゑ鳴けり黒猫


タイトルと選・笹 公人

お題:「酒」


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2006年08月08日

鶴太屋劇場 第3回

海鳴りの夜

作・鶴太屋


樹に耳をあてて倚(よ)りゐる秋の日は鰯雲飛ぶ空にねがはず 

吹流しはためく五月まれびとの卒然と去れば金魚玉曇る

透明なる七月の日々もの憂くてバケツの底に鯰くねれり

阿古耶貝ひらいて真珠抉りだす 処女懐胎の異腹(ことはら)めいて

若鮎の少女みなづき水の香の素足わたれる青き炎(ひ)のうへ

岩魚焼く夜の底ひに火をつぐはわれにあらずや涙ながるる

白鱚の少年海を眩(まぶ)しみて幾何学の書強く抱けり

赤エイが尾を垂らす闇ひたひたと過去を充たしめ血のにほひする

蛍烏賊食(た)うぶる初夏のおぎろなき地球の夜にUFOともる

ほろにがき秋刀魚の腸(わた)を友として秋いつまでのゆふぐれなるか

鬼笠子(おにかさご)胃の腑よぎりて食卓の脚断(き)りをるは窈たる愉しみ

春の夜かぜ菜の花ばたけをすぎるとき漁り火に泡立つ白魚の白

鮟鱇のやみを吊るせる夜の港 夢に鬼籍の女(ひと)の手紙(て)届く

蛾の舞へる光もとめて暴動の街をゆくめり 翻車魚(まんばう)の睡り

古書市に『どくとるマンボウ航海記』めくり傷繰れば黄金(きん)の栞

酒盃に光 たたみいわしの魂の海の青ごと噛みくだしゐる

蛸つかみ明石の港に佇ちゐれば漁夫あかときの墨濃き宇宙

氷下魚(こまい)釣る海精霊の脚のごと夕虹顕(た)てるあはあはとして

終着の駅に鯊天(はぜてん)蕎麦くらひ訛りの濃(しる)き街角終る

ハリセンボン全身全霊の刺(とげ)起(た)ててわれと恋敵のあひだ一千メートル

波寄せる河豚のかばねの鰭震ふ 蒼き曇天ひたすら尽きず

人生の涯の一日(ひとひ)のはなむけに枯葉いろの鰈の瞳を



タイトルと選・笹 公人

お題:「魚介類(海の生き物)」
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2006年07月13日

鶴太屋劇場 第2回

ナムジュン・パイクの塋(はか)

作・鶴太屋


耿耿と燈るテレビの真夜にしてかひこの睡りうつくしく想ふ 


蜃気楼決して映らぬテレビ捨てわがこころのタクラマカン沙漠


テレビとふ檻に戻らぬ鸚鵡ゐて真夜緋のシャツを截り刻むなり


ホワイト・ノイズはわが星宿を支配してチャンネル変へる指を御したり


ブラウン管ひずむ深更一瞬をドッペルゲンガー花と消えたり


こころにゑがく東野英心の俤は愕然と濃しはつちやくよりも


百台のテレビ滅裂にわれ映しナムジュン・パイクの塋(はか)冴えかへる


カシミールの少女の髪の黒ささへ哀しみの礎(いしずゑ) 「新世界紀行」


熱帯雨林にテレビのアンテナ聳えつつ交感してゐる夜のどうぶつ


あざらしに一瞬友の貌(かほ)髣髴し画面に満つる氷塊の青


テレビの奥に消えし白球追ひもとめ膚(はだ)薫る少年の日々ありき



選とタイトル・笹 公人

お題:「テレビ・テレビ番組」
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2006年06月21日

鶴太屋劇場  第1回

昭和の残り香

作・鶴太屋


サッポロ一番絶えてくらはず物干場にのぼりて望む極北の星 

極洋のさば水煮缶コキコキと開いてゐれば昭和のかをり

コークの赤き缶蹴りながら夕映の帰路はミノタウロスの迷宮なせる

中村屋インドカリー食ふガンジス川望みて四畳半こそ広き

キューピーパスタ倶楽部厨(くりや)にころがつて入会したる記憶はおぼろ

コカ・コーラ夏の終りを噛みしめて飲み干すわれの咽喉(のみど)は暗し

新装開店ペプシ・コーラが一打(ダース)コークの陰に夢幻のごとし

ネスカフェを白湯もて溶かす一瞬にかをれりブラジルの高原の風

フリスクのぎつしり填まつてゐる朝は異星の貨幣のごときしあはせ

路地裏の自販機のみに残りゐしドクター・ペッパー飲めば快晴

緑釉(りよくいう)の杯にキリン淡麗差し夫婦のゆふぞらいよよ濃きかな

居酒屋「茂吉」にヱビスビール杯かたむけ昭和の残り香あぢわつてゐる

キリン生茶に溺れてゐたる一夏の祭りの終り 海鞘(ほや)刻むなり

上海冷茶のめば「上海異人娼館」観し記憶あり 銀のかけら

カナダドライ森深くきて炭酸のはじける音に澄みきつた耳

伊右衛門のペットボトルがころがつて花鳥風月の季(とき)も過ぎたり


タイトルと選・笹 公人

お題:「商品名を詠む」
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