2010年03月18日

鶴太屋劇場 第24回

浜辺のキューピー

作・鶴太屋


露の玉しとどなりけり流し雛暁(あけ)の空ゆけ悲の紺を薙ぎ


冬の浜辺に打ち上げられしキューピーを幻覚しをり位牌を担ぎ


はに丸ののたれ死にをる花野にて白ききのこを踏み躙りゐる


脣(くち)紅きからくり人形茶を運ぶ閑日の机(き)に黄昏の相


おきあがりこぼし倒れて返らぬまま泉水の亀が火を喰ひ散らす


藁人形火に焼(く)べ身命保ちたり二月の寒燈わが貌(かほ)映し


首もげしバービー悼みドーナツ食ふ睫毛きらりと蒼穹を刷(は)き


ぬひぐるみのお腹ほつれてふはふはと六腑真綿の陀羅尼をなぞる


九字切ればペコちやん人形あらはれりわが遠天(をんてん)の祈り揺るがせ


くれなゐの血と肉持てるわれなるかマネキン銃弾撃ちこまれ冬


マネキンに銃痕三つ虚空(そら)が視えぼくがみえちちははがゐる


マネキンの罅割れに舌挿し入れて夜毎堕ちゆくわが海のあり


マネキンに体温ほのと移るとき抱きしめてゐる乳房重たく


手にとりてずつしり重き銃弾と何も見てゐぬマネキンの眸(まみ)


膨らみゆくヒヤシンスの球痛ましく春愁ひのマネキンに備はざる


マネキンの両腕縛る春宵は自涜の花粉に渇きゐしわれ


廃ビルの庫(くら)にぎつしり詰まりゐるマネキンどれもどこかが欠けて


首筋に淡き愁ひの蜘蛛の子とぼくが見てゐる水着のマネキン


マネキンの朱き唇夢に顕ち褪せゆくままに冬ざれのデパート



タイトルと選・笹 公人

お題:「人形・ぬいぐるみ」


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2009年09月06日

鶴太屋劇場 第23回

てのひらの海王星

作・鶴太屋


鬱血のリング泡だち韻(ひび)きたれボクサー倒るればまなかひの海


黒き楽譜にくるむトカレフ砂に埋め青年の眸(め)の冬の海荒る


象亀の眸(まみ)に古代の海映るごときゆふやけ拳(けん)かたく矚(み)る


信天翁(あはうどり)白き羽搏つ泥濘や海鳴りくらきおほき曇り日


冬の霓(にじ)たつ楡の天辺(てつぺん)吹かれゐつ遠景に鳴る荒海あをき


星満ちて水甕あふる百日紅(さるすべり)白き花噴き海が呼んでる


俯きて莨火つける 激浪の海鳴り聴きつつ男の背中


海昏れてうつせみのわが繋ぎゐる漁船は涙(なんだ)と汗に饐えをり


昏れて雪 鮟鱇ぶつ切る刃に触れて海辺の焚火のひとり視てゐる


鷹の眸(まみ)くれなゐ走る 碧天は死に満ちたれば海の夏なり


うつくしき溺死者海をさまよふを金貨に刻むウンディーネ恋ふ


太古の素甕に棲みたる蛸のたこやきなり海の底まで流涕したり


石榴狂へる天(あま)つ光に風生まれギリシャの海の夕凪澄めり


絶海にひとり浮きゐる夢を見て露のヴァイオリン弾けば露の音(ね)


音叉鳴る暮春のころは笛吹きて海の上ゆき鯊(はぜ)も釣りたり


春の潮(うしほ)鬱鬱と荒れ船長は阿片に溺れゐき海の泡


むらさきに海鼠(なまこ)暮れゆく冬の日は海の底吹く木枯しの音


白き海光窓辺にうるむ海葡萄噛めば壊れし古時計鳴れり


青銀河は雛罌粟(ひなげし)の束てのひらに海王星はしづかに炎ゆる


渤海より使者来(きた)れりと古文書の紙魚の食ひ跡日本いつ滅ぶ




タイトルと選・笹 公人

お題「海」
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2009年06月25日

鶴太屋劇場 第22回

ふるさとの味

作・鶴太屋


はまぐりのしぐれ煮舌を過ぐるとき未生のわれをたまらなく恋ひき


たけのこの木の芽和へ食ふゆふまぐれ昔のごとく蝌蚪生(あ)れにける


うちむらさき割く一閃の断崖(きりぎし)をけふは離(か)れたりこころの夏


茜濃き夏ゆふぐれの冷めゆきて煙霧のごとき胃のところてん


冬の海あんこう鍋を惜しみてはまた注(つ)ぐ酒の杯の青菊


春菊のほろ苦かるを食ひにけり青鈍(あをにび)色のさやけき弥勒


蕗味噌の香にぞ噎(むせ)ぶは我ならずふるさととは杳(とほ)き煉獄


若き日の山椒もみづる晩秋(をそあき)をうな丼熱き舌に崩るる



タイトルと選・笹 公人

お題「食べ物」
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2009年04月16日

鶴太屋劇場 第21回

鶴太屋の館

作・鶴太屋


校舎ごと時空を漂流するならばぼくは噛みくだく白き錠剤(タブレット)


グワシして指攣(つ)る日本は花冷えの楳図ハウスを訪なふ神神


あめーばの分裂してゆく夜のシャーレ旧館奥のピアノは透きつつ


東京タワー裡(うら)に鎮座せしUFO覗けばDEVOのさてぃすふぁくしょん


マチュ・ピチュの遺跡しづかに炎えやすく乾季待つこころの花まつり


エッフェル塔離陸する刻(とき)百人の吟遊詩人の黒焦げのギター


世界貿易センターのかけら刃のごときを握りて奔る新聞少年


ジョン・ベリマン詩集にうすく凍りたる雪を払ひて図書館の冬


アラミーダ・ホテルの微塵の空焼けてエリオット・スミスは翳を歌ひき


千枚の翅の顫へる蝶の吻(くち)、塔に縊(くび)れし屍(し)に群がりて


ピサの斜塔きぬぎぬのごとかたむくを裸のままに剥きゐる林檎


夏の港の倉庫に犇く貘たちの夢は凛(さむ)くて一屯(トン)の氷塊


後架わきの早咲きの薔薇 枯草熱のぼくは洟かむ春の館に


大理石にうるはしき接吻(キス)刻みたるタージ・マハルは熱く冷えゐる


麗(うらら)かなるパルテノン神殿の朝焼けは青く燃えつつ眠れる水夫


玉葱齧るごとし眸(ひとみ)に沁みとほる甘き曇天のサグラダ・ファミリア


春は痩せ犬、夏片眼猫 億万の涙(なんだ)を歌ひて万里の長城


素寒貧、胃の底までも風沁みれば皇居の堀の鳰(にほ)裂き啖(くら)へ



タイトルと選・笹公人

お題「建物」
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2009年03月11日

鶴太屋劇場 第20回

バチヘビの酒

作・鶴太屋


射殺され逆毛(さかげ)の人食ひ猫の尾も今は路傍に揺るる水仙

黒き笑ひのデヴィル・ウォンバット聴きし者耳を残して失踪したり

毛の生えしテレビが増殖する夢を覚めて憶へば髭ばかり伸びる

銛撃たれモビー・ディックが跳ねるとき海は血潮の聖杯となる

満身創痍のモビー・ディックはやすらへり潮噴きあげればアメリカが見える

夢を喰ふ獏(ばく)子飼ひして三十年ひともとの帆柱(マスト)睡りに残る

黒き獏わが血脈に棲むゆゑに空翔ぶものをなべて憎めり

夢喰はれ眠りは黒き山河となる花散る闇で吾(あ)に憑きし獏よ

みどりの夜春の卵が落ちてゐる路地に尿(しと)せり恋のウナギイヌ

小春日和の空き地に眠るウナギイヌ秋桜(コスモス)のひかり一身に浴び

ウナギイヌに雪玉ぶつけし子供らの雪夜は黒き鰻に巻かる

ツチノコの噂に賑ふ子供らの背なには黄金(きん)の夕陽が響き

みちのくのツチノコ酒飲めば甦る祖母に食はされしイモリの黒焼き

風の他界の矢口薬種店バチヘビの泡盛漬のつぶらな眼(め)せり

ラムネ飲みて河童天国想ひをり紫雲たなびく晩ともなれば

河童の木乃伊焼きし夜より人間の水掻き有(も)たぬことを怖れり

桃源郷に遊ぶ河童の幻影を霞む瞳(め)で視(み)し胡瓜をかじり

河童は頭(づ)の皿罅割れて死にたりと蠅の複眼の千の海干る



タイトルと選・笹公人

お題「UMA(未確認生物)」
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2009年02月13日

鶴太屋劇場 第19回

冬籠り

作・鶴太屋


喫茶店の卓に彫られしハングルのあはきを見てゐつ愛憐の語か


青き霙しんしんと降る夜の深さ喫茶ほんやら洞をつつめり


冬籠り凍星酒盃に浮かべれば憶ふもつきり屋の少女を淡く


流れ降りしき降る雪のほの明かり鰻屋うな八越(こし)の冬なり


場末なる哈爾濱食堂こきこきと支那竹噛めば夕焼けにけり


秋元屋にやきとん食らふ淋しさは橋の墜ちゆく冬夜の深み


豆腐屋の柩に水漬(みづ)く豆腐なれば血の釘一本孕みてゐたり



タイトルと選・笹公人

お題「店屋・店名」
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2008年11月29日

鶴太屋劇場 第18回

睡りの国のウラシマ 

作・鶴太屋


金太郎のまさかり暗く冷えゐるに母恋ひのうたは繊(ほそ)く聞こえ来(く)

睡りの底の浦島 罌粟(けし)の咲くごとく竜宮城は四季薫りゐし

熱き栗爆(は)ぜる刻(とき)いつさるかにの合戦閉ぢて北をし思ふ

あらぬ世の花さか爺(ぢぢ)のさくらばなひかりに濡れて汝(な)が胸を流る

夏陽(なつび)の少年頬紅潮したとふれば滾つ瀬い征く一寸法師

『かさこ地蔵』
雪に雪地蔵の凛たる賜物(たまもの)を憶(おも)へば目深に帽かぶり去る

『かちかち山』
仔兎の籠見つめをり隠(こも)り沼(ぬ)の狸をさらに殴(う)ちし春雪

『こぶとりぢいさん』
こぶ取られ頬を裹(つつ)める春風の霊気に満つる嶽(やま)を呼吸す

『鶴の恩返し』
しまし丹頂憩ふ水の上(へ)機(はた)を織る曾祖母の写真褪せて黄葉(もみぢば)

『おむすびころりん』
おむすびを臼搗(づ)く白き鼠たち根の国の秋を饒(ゆた)かに踊る

『わらしべ長者』
藁の代はりにギターを抱(かか)へ放浪のつまづけば気儘な愛欲(ほつ)し

『分福茶釜』
茶釜に尾の生えしを思(も)えば苦き笑み新茶の馥(かを)りの綱渡り少女

『舌切り雀』
日向ぼこ黄金(くがね)のごとき麦秋に雀と爺(ぢぢ)の侘びしきなからひ

〜『舌切り雀』へ捧ぐ〜
こころ羞(やさ)しくスズメ焼きをり頭より齧れば涙の舌滂沱たれ



タイトルと選・笹公人

お題「日本昔ばなし」
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2008年10月01日

鶴太屋劇場 第17回

水色の墓標

作・鶴太屋


水無月の耀(かがよ)ふ墓標白きまで丘埋めつくせり疼(うづ)ける鎖骨


水色の墓標ばかりの昼下り蜥蜴(とかげ)を跨ぎて勁(つよ)き踝(くるぶし)


水妖(ウンディーネ)の贄に首断つわが夢は涙でいつぱいの花籠に生(あ)る


ディアーヌの水浴を見てし目を灼かるるロマのギターラ月と響(な)り交ふ


あかときに覚めておもたき水の身か風吹く牡丹のもろきくれなゐ


シーラカンスの暗き水彷徨(ゆ)く生と死のいづへの方を孕(は)らめる地球


水の夏受胎の季(とき)と思へども西瓜を齧りては種子飛ばしゐる


水郷の墓域ははつかに水明かり幽体離脱しつつ猫もゐたりき


壜に充つる乾海鼠(ほしなまこ)睡れ水曜の玻璃戸破れば群羊の日本



タイトルと選・笹公人

お題「水」
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2008年08月01日

鶴太屋劇場 第16回

あらくれの裔

作・鶴太屋


駿馬いななく荒野(あらの)のひかり厩戸皇子は蹄の足掻きに生(あ)れぬ

熱き血の小野妹子の眸(め)に咲(ひら)く紅梅一輪海に散りたる

蘇我馬子の墓陵に佇ちて懐かしむ冥(くら)き祭事と恋と酒かな

新緑あふれ坐して歌詠む人麻呂の想ひに浄きうぐひす孵(かへ)る

稗田阿礼の誦する神話のいまさらに病む民と馬の聖家族なせり

『古事記』成る 太安万侶筆投げて五勺の酒汲む古き酒甕

「憶良らはいまは罷らむ」酒場(バー)出でてさや鳴る星夜そびらに享ける

髻華(うず)に桃挿す少女まぶしも雑草(あらくさ)に寝転び春を家持惜しむ

定家歌集ポケットに詰め奔りをり蒼き陽の差す裂創の若木

葉桜の仁王像立ち闇照らす瞋恚(しんに)の眼(まなこ)運慶偲ばゆ

一遍の踊り念仏街にあふれ今日も明日も生きの同胞(はらから)

読みさしの花伝書風に捲(めく)れたりそこより三歩たましひの世阿弥

連歌師の宗祇旅する言葉のみ武器として持つあらくれの裔(すゑ)

金堂のうちに雪舟筆ふくむ野分到(いた)れる枯山水見て

風と光に聖書はためきザビエルのともがら想ふ裸身の耶蘇

島原の燈(ひ)は揺るれども血潮噴く天草四郎に耶蘇の血循(めぐ)れ

みちのくの羇旅青年を連れ歩く芭蕉の明眸「侘び」にやすらぐ

赤富士は孤(ひと)つ雲呼び南蛮の酒を嘗めつつ北斎はゑがく

スカラベ乾(から)びて大杉栄のペン尖に「惨殺」の一語雨に濡れゐる

はつなつの冤罪にして死を賜はる秋水の獄より群るる十薬(どくだみ)



タイトルと選・笹公人

お題「日本史上の人名」
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2008年05月20日

鶴太屋劇場 第15回

温泉街で見た基督

作・鶴太屋


深秋の熱き身沁むる空つ風 夢幻のむかうに虎ノ湯炎ゆる 


路地奥の松ノ湯の光(かげ)燦燦と若き阿修羅がずんと湯浴みす


電気湯に浸かれるウナギ犬もゐて青き憤怒の今凪ぎはじむ


泉にて沐浴しゐる水精(ニンフ)らの淡き壁画の白樺の湯


鉱泉宿に泊まれば流離の断ちがたく 小庭に灯る侘助椿


白骨の出湯に浸かれば匕首(ひしゆ)のごとき山稜視えて零(ふ)りくる雪


浅間温泉街をもとほる乞食(こつじき)の白きはだへの基督羞(やさ)し


柚子の湯の浴槽(ゆぶね)に泛かぶわが身体 股間に黒き夜漂はせ


菖蒲湯に芯まで熱く沈みをり 五月の燕の描(か)く自由(フリーダム)


三軒隣ロココ調なる銭湯の煙突のぼれど杳(とほ)きアトランティス


明治生れの祖父と通ひし湯屋も無くかぽーんかぽーんと響(な)る音残る


巨いなる欅の裸身の父の背を湯に矚(み)し記憶も模糊たる冬


青きカランの噴く寒のみづ 隣家(となりや)の老ひの謡ひもいつしか絶えにし


湯煙りに曇る祖父(おほぢ)の眼鏡置く夜光に耀(て)りてそのままにあれ


髪洗ふ妻の哀しみ 一瞬の風の奔流に黒蝶乱(みだ)る


湯屋を出て十字路の夜 洗ひ髪冷えゆくままに蛮歌に泣かゆ


家風呂に浸かりてこぢんまりとゐし弟(おと)を憶へば西瓜のかをり



タイトルと選・笹公人

お題「湯・風呂・温泉」
posted by www.sasatanka.com at 08:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 鶴太屋劇場 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする