2012年06月20日

酒井ファンタジーセンター 第10回

シンクラヴィア手術 

作・酒井景二朗



狼を追ふな資本を疑へとがなり續ける巨大テルミン


忸怩たるものを抱へて景品の白いギターを捨てる旅に出る


プリペアド・ピアノの中で死んでゐる小學五年生を救ひ出せ


轆轤首(ろくろくび)映る障子を開け放てば篳篥(ひちりき)千切る一陣の風


愛のこと何も受け付けない君はただ横たはるシタールだつた


大人ならやるべきことがあるだらう早く歸れとカリヨンが鳴る


ナナハンを樂器と言ひ張る男達なんか夕日に燒かれてしまへ


遠い日のでんでん太鼓聞くやうに眠れば去るか今日の不遇も


抱き難いぜ シンクラヴィアに成る爲の手術を受けた後のお前は


土星人でしたか夕べ訪れてオンド=マルトノ彈いたあなたは


銀色の古いSF服を着てミブリ操る人の若白髮


熱い海に沈沒していくメロトロン ダリの最後の叫びを鳴らし


ギュロを彈く要領だよと燒きそばをかき囘す手に惚れてしまふな


もう一行書かない譯にゐられない奴のチューバの風を受けたら


蓮の花開く三味の音 この町で僕は退化を始めるでせう



タイトルと選・笹公人

お題「楽器」
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2012年03月27日

酒井ファンタジーセンター 第9回


葦の根の世を明らめかねて

作・酒井景二朗



三枝の水にくるぶし浸す兒の笑へば夏の轟く光



男等はまなこ閉ぢたり麻裳よし風紀委員の立ち去りし後



美少女のフィギュア作りの水無瀬川下着に凝れば朝明け早し



磯松の常に起き臥すこの部屋に開けず舊りたる書のうづたかし



白眞弓春になつたら會ひませう大人の惡いとこを削つて



子を包むタオル展げて垂乳根の母は雨降る軒下に立つ



ささやかな言葉綴つてゐるのです葦の根の世を明らめかねて



タイトルと選・笹公人

お題「枕詞を使った歌」
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2012年02月01日

酒井ファンタジーセンター 第8回


骸骨が咲いてゐる

作・酒井景二朗


少年のはにかむやうに咲いてゐる冬は骸骨だつた紫陽花



病院の事務職員がつきつける厚い書類はチューリップ色



咲きほこる皐の下に開けられた目白一羽の爲のトンネル



うつむいて咲くのが菫 うつむいてゐてはならない我ら人類




タイトルと選・笹公人

お題「花」
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酒井ファンタジーセンター 第7回


アトムの遺骸

作・酒井景二朗


「死んでやる」そんなルージュの傳言が酸をかけても消えてくれない



圓鏡の藝風だねと言ひ乍ら輕い自虐を分け合ふ僕ら



千早振るカミオカンデの靜水に沈む鐵腕アトムの遺骸



そんなにも眞正直で疲れないか?夜に鏡にささやいてゐる



アリス、もう君を待つ者ことごとく消えてしまつた鏡の國だ



タイトルと選・笹公人

お題「鏡」
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2011年03月02日

酒井ファンタジーセンター 第6回

夕日のモアイ部

作・酒井景二朗



あたたかい罐珈琲を抱きしめて天文部員のカウントダウン



女子部員のベリーロールの瞬間があるからもつと走れる僕ら



飴色の夕日に染まる校舎横モアイ部がまだじつとしてゐる



さうですよリミックス部の部室ならカンディンスキー色のあれです



タイトルと選・笹 公人

お題「部活動」
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2010年10月16日

酒井ファンタジーセンター 第5回

國道の竹節蟲(ななふし)

作・酒井景二朗


毛だらけの蛾の羽ばたきを思はせる音を響かせ去りゆく單車


しどけなくつぶれた蝉をまたいだら向かひの屋根に秋が來てゐる


太陽に傷つけられた子の夢は尺取蟲で測れるぐらゐ


薔薇十字會の跡地といふ場所に光る蛹がいくつもいくつも


透明な巨大水黽(あめんぼ)あらはれて消えたロプ・ノール湖の水面に


斑猫(はんめう)をさしむけられたあの日から毛拔き迄もが怖くてならない


ラフレシアに噛みつく蟲の數々を集めて作る 囘春藥を


てつぺんにミンミンゼミをとまらせてヤケにはりきるトーテムポール


國道をまたぐ竹節蟲(ななふし)から落ちる少女(をとめ)の涙、裂けた携帶


軒先に蜂の巣下がる家見れば何か家ごと泣いてゐるやうだ



タイトルと選・笹公人

お題「虫」
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酒井ファンタジーセンター 第4回

地獄の聯絡網

作・酒井景二朗


聯絡網前も後ろも敵だとは母にはとても告げられなくて


學校を燒く火が欲しい 電話線は導火線にはならないものか


どんなにか辛い毎日だつたらう もう動かない錆びたダイヤル


電話機をばらばらにして取り出した磁石を墓に入れてあげよう


昨日迄悲しみなんか知らなかつた 電話よ俺はお前を憎む


「好き好んで肥滿兒になつた譯ぢやない」脅迫電話片手に泣いた


ああ電話詐欺といぢめと陰謀の道具が街を埋め盡くしてゐる


多摩川で休んでゐたら鳴り出した野戰電話は取るべきなのか


一本の電話が僕を狂はせた そして狂つたまま生きてゐる



タイトルと選・笹公人

お題「電話」
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酒井ファンタジーセンター 第3回

彗星ワイン

作・酒井景二朗


骨董屋遊歩堂にてご主人とひとしきり飮む彗星ワイン


新世紀 鷲のマークのUFOがアジアの空を横切つて行く


オリハルコン船底に隱すタンカーにおほひかぶさるUFOの群れ


校庭に歪んだ夢を落つことし町燒き拂ふUFOを待つ


解剖の痕かも知れぬ君のその鎖骨に浮かぶ淡き梵字は


秋葉原 ガス生物に乘つ取られ全端子から漏れる憎しみ


屋久杉を宇宙人とも呼んでみる 叡智はいまだ語られぬまま


宇宙人とても所詮は人なれば芳賀書店にてお會ひしませう


宇宙人だからこんなにいぢめられるのかと母に訊いた夕空


校庭に殺戮裝置、肌の色違へど同じ眼鏡が二人


宇宙人どもよ即刻去りたまへ地球の價値は地球が決める



タイトルと選・笹公人

お題「UFO・宇宙人」
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酒井ファンタジーセンター 第2回

神がそつぽを向いた荒野

作・酒井景二朗


雜穀をたつぷり投げて清めよう神と雀が遊ぶ庭先


醫師は行く道具と涙携へて神がそつぽを向いた荒野へ


丁寧に神籤を結ぶ指先にネイルアートが無いのに氣づく


「珍しく怒つた顏の道祖神なんです」と言ふ老いた寫眞家


七福神巡りの途中猫に逢ひ布袋以降に詣で忘れた


書棚から精神科醫の診斷書はみ出してゐる空つぽの部屋


あちこちの路上に眠る人々に神がつまづくガラクタの國



タイトルと選・笹公人

お題「神」
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2010年04月26日

酒井ファンタジーセンター 第1回

俺の青春

作・酒井景二朗


「重戦機エルガイム」

眼の前に機械があつて友がゐて戰爭がある俺の青春



「巨人の星」

傳説のひとつひとつを噛みしめてコンダラを牽く新入部員



「キン肉マン」

友情の熱き息吹にあふられて遙か虚空を行くアデランス



「Theかぼちゃワイン」

JIS規格適用外の二人なら戀も唯一無二になる筈



タイトルと選・笹公人

お題「アニメ(2010年度版)」
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