2008年10月31日

「日本昔ばなし」総評

おひさしぶりです!

待ちましたよ〜! 
首を長くして。

おまえの首の長さは生まれつきだろ!
ということで、
なかなかまとまった時間がとれず、
大変遅れてしまってごめんなさい!
まだかまだかと毎日チェックしてくださったみなさん、
ありがとうございました!
このプレッシャーが短歌Blogを続けていく原動力になってます。

ほんとですか……?
そのプレッシャーに負けて逃げないでくださいよ。

いろんな短歌コンテストの選者をやっている関係で、毎年この時期は、何千という応募用紙がテーブルの上に並んでいます。
いま「総評」をやらないと、来年になってしまうと思い、強引にUPすることにしました。
そのため選評が少なめですが、ご了承ください。

今回の「日本昔ばなし」ですが、
危惧していたとおり、
昔話のあらすじを説明したものや、
ストーリーの焼き直しが多かったです。

たとえば、

「みそ五郎伝説」
・「こがん風負けられんばい」みそ五郎 船を引っ張り村人助ける
(はづき生)

というような歌です。

こういった歌がなぜダメなのか
『念力短歌トレーニング』
の「SF」などのページで詳しく説明していますので、
読んでいないという人は(ま・さ・かいないとは思いますが)
この機会にぜひ読んでみてください。

SFとか都市伝説とか昔話とか
そういう物語系のお題はやっぱり難しいのですね。
物語に呑み込まれないように気をつけて、
匂わせるにとどめるというのがコツかと思います。

なるほど!

Blogの故障がまだ直らないので書き下ろした原稿もUPできず、選歌もなかなかはかどらず、おまけに風邪もひいてしまい、
元気をなくしかけていましたが、
10月27日の「朝日新聞」朝刊「秋の読書特集」の
架空の全集を組むという企画で、
細野晴臣さんが
「音楽が聴こえてくる本全集」
全10巻のうち、第5巻を『念力姫』にしてくださっていたので、
また元気が戻ってきました。

製作期間が約2週間で、勢いでつくった本なので、
まったく自信がなかったのですが、
意外と「これが一番好き」という人もいて、不思議な本です。
なんといっても「神様」である細野さんに選んで頂けたことがうれしかったです。
自分の中でのこの本への評価も変わりそうです。
コメントも、YMOのおもしろ精神を受け継いだものという感じで書かれていて、感涙ものでした。

『念力姫』笹公人・著
(KKベストセラーズ 1680円) 2005年・刊


まだ読んだことがないという方は、ぜひこの機会に読んで頂きたいです!
絶版になるその日のまえに宣伝しておきました。

いよいよ明日、11月1日から

「その日のまえに」(大林宣彦・監督)
が全国で公開されます!
明日は角川シネマ新宿で舞台挨拶もあります。

師範も舞台に上がるのですか?

いや。上がってもいいと言われたけど、
僕がいたところで「誰こいつ?」という感じになるので、
客席から(立ち見で)応援することにしました。

とにかく素晴らしい大傑作なので、ぜひ観に行ってほしいです。
パンフレットには映画のオマージュ短歌が載ってますので、
そちらもよろしくお願いいたします!

映画を観る前に大林監督のこのロングインタビューを読むと、より楽しめると思います。

『わしズム』秋号(小学館)
絶賛発売中です!
連載「タイムスリップ31」、今回は「昭和の健康法」です。

では、「総評」にいきます!

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まずは、
てこなさんです。


「おむすびころりん」
・ねずみの巣みつけたとき用おむすびを持って家族で山登りする
(てこな)

「かさじぞう」
・やってくと決めたの地蔵に笠ぜんぶ捧げてしまうようなあなたと

素朴な良い歌です。


「鶴の恩返し」
・キッチンで今夜のために抜く体毛 人妻はみなひそやかに鶴

「天女の羽衣」
・十枚の離婚届を羽衣のようにまとって妻参上す

「はなさかじいさん」
・ぽやぽやとシロの冬毛も舞うだろう灰で咲かせた桜散る日は

「ぽやぽや」というオノマトペがよかったです。

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岡本雅哉さんです。

・羽衣のようなボディコン身にまとい天女であった妻はいづこへ
(岡本雅哉)

少し前のジュリアナ復活騒動を思い出しました。


・雪おんなみたいな妻がなんだって冷房をすぐOFFにしたがる

・寄る辺なき着たきり雀は漫喫でインターネットにつづらを隠す


いまの時代、コインロッカーに預金通帳を入れたりとか、
あると思います。

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ヤマダワタルさんです。

・雪女の見初めるきこり役として抜擢されし大沢たかお

たしかに合いそう。


・玉手箱開きしやうに十年は消え去りバブル貴族の白髪

・ああこんな顔をしてたなサンダルを脱げばのつぺらばうの足裏

・欲張りが悪徳でなくなりてよりすべては「むかしむかし」となりぬ


この歌の上の句に書かれていることが、
日本人が劣化した原因のひとつでしょうね。

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伊藤夏人さんです。

・そう言えば何でこんなに僕たちは桃太郎さんに仕えているのか

洗脳が解かれつつあるお供たち。


・きびだんごふたつで僕のお供らは買収されてしまったようだ

・砂浜で助けなければゆっくりと歩めましたかもしもし亀よ


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中村成志さんです。

「さるかに合戦」
・いま栗が爆ぜたところか台本を袂に仕舞う屋根上の臼
(中村成志)

失敗は許されないという緊張感が伝わってきます。


「桃太郎」
・包丁の持ち出されくる気配聴きそつと片へに寄る桃太郎

「金太郎」
・上手投げ、おかっぱ、丸きお尻の絵(あれは欲情だったんでしょう)

「浦島太郎」
・浦島は叩きつづけるあの子らの名の刻まれた亀甲墓を

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渡口 航さんです。

・母鬼の桃太郎語り凄まじく眠れぬ夜に桃は熟れゆく
(渡口 航)

・浦島太郎宇宙飛行説展開し老物理教師ある日消える

「ある日消えたり」にしたほうが、
まとまりが良いです。

・渋谷のヤマンバもはや死語となり安達ケ原にただ風が吹く

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松木 秀さんです。

「因幡の白うさぎ」
・日本にもフランス人はいたらしく兎の皮を剥ぐグルメかな
(松木 秀)

・じいさんのこぶは生物だったかも『こぶ天才』を読みつつおもう

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西畠勇氣さんです。

・ブルガリとプラダとシャネルとカルティエを「月に帰る」と受け取らぬ君
(西畠勇氣)

・「打ち合わせ」月火水木埋め尽くし日曜だけが耳なし芳一

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外神田外堀( ´・ω・)江戸秋葉原狂歌師さんです。

・子供らの夢は容易く転がされ金太郎から麻薬反応
(外神田外堀( ´・ω・)江戸秋葉原狂歌師)

金太郎のあの格好は、
たしかにイっちゃってるよね。


『さるかに合戦』
・仇討(あだうち)の昔話は喜んで死刑制度の賛否はどちら

意外と鋭い。

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やましろひでゆきさんです。

・なよたけのかぐやのほしいものリスト最後の最後にどこでもドアが
(やましろひでゆき)

「竹」にかけて「タケコプター」にしたほうがよかった。


・十二支に猫が入ってない訳を教えてあげるからウチへ来ないか

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みうらしんじさんです。

・マンゴークッキーお腰につけて全国を行脚している南国太郎
(みうらしんじ)

・しろたえの家具屋の娘と抱(いだ)きあう 月にものぼる心地しながら


宮崎ではありがとうございました!
マンゴーゼリー美味しかったです。

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暮夜 宴さんです。

「おむすびころりん」
・転げたらどこまでも追えおむすびは そこから物語は始まる
(暮夜 宴)

「鶴の恩返し」
・おバカでもいつも一生懸命なつるのが島田に恩返しする

そのうち『つるの恩返し』(つるの剛士・著)というタイトルの
エッセイ本が、扶桑社から出そうな予感……。

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砺波湊さんです。

・件名:いま 本文:川に浮いてたよ 巨大な桃の写メつきメール
(砺波湊)

なぜかリア・ディゾンのビッグピーチ発言を
思い出してしまいました。


・海べりの慰霊碑に手を合わせたり名に桃の字の多き一族

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104heroさんです。

「金太郎」
・銃刀法違反動物虐待と下半身露出により逮捕!
(104hero)

おもしろい発想の歌ですが、「!」はいらないです。
歌の中に「金太郎」の文字を入れたら、さらによくなると思います。


「舌切り雀」
・かわいがる子雀の名「モモ」と「ハツ」何を語るや婆様(ばさま)の笑顔

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わだたかしさんです。

「浦島太郎」
・子供らに囲まれている亀助け その親たちに囲まれ泣いた
(わだたかし)

いま話題のモンスターペアレントを
暗喩した歌でしょう。


・会計が終わって急に老け込んだ 夏の想い出「スナック竜宮」

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山口ヤスヨさんです。

「浦島太郎」
・一度くらい大きな葛篭開けてみて後悔とかをするべきだった
(山口ヤスヨ)


「さるかに合戦」
・もし君が牛糞役でなかったらつきあってない臼の私と

意外なところに着地させていて、
よかったです。

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長田絵理子さんです。

「かぐや姫」
・運命(さだめ)さえ忘れる恋を望んだの誰にも告げず月へゆきます
(長田絵理子)


「鉢かづき姫」
・できるなら鉢をかぶって過ごしたしビン底眼鏡をとれない私

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たみさんです。

「金太郎」
・金太郎クマにまたがる絵の下に「よいこのみんなはまねしないでね」
(たみ)

「よいこはクマに出会えねえよ!」
と突っ込んでおきます。


「浦島太郎」
・竜宮の時計の砂は緩々と流れて怪し乙姫の笑み

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「未来短歌会の恥部」「岡井隆のアキレス腱」こと
小田何歩くんです。


・玉手箱という名前のデリヘルの指名アルバム全て白黒 
(小田何歩)

おもしろい!
だけど、「白黒」は「モノクロ」にしたほうがよいかも。
好みの問題だと思いますが。

私家版歌集『官源楽』とお手紙、どうもありがとう!
塚本邦雄先生の息子でもある作家・塚本青史さんに見せておきます。

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酒井景二郎さんです。

「浦島太郎」
・海龜を裏返しては涙ぐむあの爺さんもかき消えて凪
(酒井景二郎)

海亀を裏返すという行為に、
爺の無念が集約されています。

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天井桃さんです。

「夕鶴」
・だめんずな奴ほど可愛いものなのと今宵もおつうはせっせと機織る
(天井桃)

>それから私事では御座いますが、この度、「NHK短歌」に投稿した
>歌の内の一首が入賞したとの報せが届きました。
>放送日は9月21日ですが、其方は本名で投稿したので
>また放送日が近づきましたら改めてご報告させて頂きます…。

それはそれは、おめでとうございます!

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富田林薫さんです。

・きまぐれにたすけた亀の背に乗って手榴弾のピン抜けば白煙
(富田林薫)

穂村さんの歌のパロディ。

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☆小朝知らずの1首劇場☆


「浦島太郎」
・割られたる甲羅のなかを見つめつつわれは行かぬと亀に告げにき
(かわら)

「天女の羽衣」
・羽衣を隠したりせず好きだって君の目を見て言えばよかった
(イツキ)

「浦島太郎」
・9時過ぎて学校に来る乙姫の気怠きうなじにキスマアクあり
(憂太郎)

「かぐやひめ」
・美しく生まれたならば私でもあまたの難問男に投げる
(ダンデライオン)

「かぐや姫」
・雲に乗りたとえ吾等を忘れても姿ぞ見せよ秋の夜長は(岸本一眞)

「竹取物語、かぐや姫」
・月姫の奇問難問如何にする月の大奥覗いてみたい
(おはぎ)

・けしゴムの枕のせいで眠そうな一寸法師にマシュマロを買う
(水野加奈)

・桃をむき種をくり出し捨てる夜私の太郎はいつ生まれるの
(イマイ)

・捏造が囁かれてるアポロ計画真実を知るかぐや姫かな
(骸骨マン)

・白髪の一寸法師のお婆さん御伽草子によれば四十(奈楽)

「浦島太郎」
・じいちゃんの部屋の富山のくすり箱トンプクケロリンけむりのにおい
(やすたけまり)

「鶴の恩返し」
・絶対に覗かないでと我が妻が夜ごと機織りするコミケ前
(魚虎)

「一寸法師」
・異形の子なれば勝者となるために水の匂いをかぎつつ進む
(瑞紀)

・急募中仕事内容鬼退治特記事項は船酔い禁止
(あげはた)

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殿堂入り投稿者コーナー
まずは、
あきえもんさんです。

「浦島太郎」
・子育てを終えてひとりで歩く街 玉手箱の紐ゆるりとほどける
(あきえもん)

「かぐや姫」
・あの星を舐めてみたいと駄々こねる娘よ月に帰っておくれ

「舌切り雀」
・引き出物は大きいもんにしやーせと尾張名古屋の義母しゃしゃり出る

名古屋在住のあきえもんさんならではの作品です。

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もはや別格の存在感を漂わせる
鶴太屋さんです。

・金太郎のまさかり暗く冷えゐるに母恋ひのうたは繊(ほそ)く聞こえ来(く)

なぜか寺山修司の映画「田園に死す」の
家出のシーンを思い出しました。


・睡りの底の浦島 罌粟(けし)の咲くごとく竜宮城は四季薫りゐし

・熱き栗爆(は)ぜる刻(とき)いつさるかにの合戦閉ぢて北をし思ふ

・あらぬ世の花さか爺(ぢぢ)のさくらばなひかりに濡れて汝(な)が胸を流る

・夏陽(なつび)の少年頬紅潮したとふれば滾つ瀬い征く一寸法師


『かさこ地蔵』
・雪に雪地蔵の凛たる賜物(たまもの)を憶(おも)へば目深に帽かぶり去る

『かちかち山』
・仔兎の籠見つめをり隠(こも)り沼(ぬ)の狸をさらに殴(う)ちし春雪

『こぶとりぢいさん』
・こぶ取られ頬を裹(つつ)める春風の霊気に満つる嶽(やま)を呼吸す

『鶴の恩返し』
・しまし丹頂憩ふ水の上(へ)機(はた)を織る曾祖母の写真褪せて黄葉(もみぢば)

『おむすびころりん』
・おむすびを臼搗(づ)く白き鼠たち根の国の秋を饒(ゆた)かに踊る

『わらしべ長者』
・藁の代はりにギターを抱(かか)へ放浪のつまづけば気儘な愛欲(ほつ)し

『分福茶釜』
・茶釜に尾の生えしを思(も)えば苦き笑み新茶の馥(かを)りの綱渡り少女

『舌切り雀』
・日向ぼこ黄金(くがね)のごとき麦秋に雀と爺(ぢぢ)の侘びしきなからひ

〜『舌切り雀』へ捧ぐ〜
・こころ羞(やさ)しくスズメ焼きをり頭より齧れば涙の舌滂沱たれ


どの歌にも鶴太屋印があって素晴らしいと思います。
縦書きにして読み直したい歌の数々です。

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松本響さんです。

「一寸法師」
・ぼくたちは一寸法師 太陽も高層ビルも見上げるばかり
(松本響)

「日本むかし話」
・「ムカシムカシアルトコロニジンルイガスンデイマシタ」と語るAI

ちょっとありがちすぎるのでは。


「桃太郎」
・鬼ヶ島連続殺人事件から十五回目の桜が散って

何かの事件をモデルにしているのかもしれませんが、
「連続殺人事件」を「大量殺人事件」に、
「十五回目」を「二千回目」くらいにしたら、
おもしろくなったと思います。


「桃太郎」
・配役が発表されて芝として刈られるまでの三十五日

学芸会ネタもきました。

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異能兄弟さんです。

・玉手箱あけた太郎が目にしたる<後期高齢者医療被保険者証>

・両耳をもがれし芳一立つように落書だらけの郵便ポスト


「削がれし」にしたほうが良いと思います。


「かぐや姫」
・月姫に山口百恵を例えれば三浦友和は月の裏彦

「座敷わらし」
・虐待で死にし連れ子の現れて夜な夜な母の腹を蹴飛ばす

「安珍清姫伝説」
・釣鐘に身を潜めいる心地なりMRI検査にまなこ閉じれば

・鬼たちが悔しまぎれに喰うために赤茄子<桃太郎>は生まれき

なるほど。
赤茄子とはトマトのことです。

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かんなさんです。

「浦島太郎」
・乙姫が竜宮城の奥の間で今宵も食べるスッポンスープ
(かんな)

ほんとうは恐ろしい乙姫。


・砂浜に座り続ける老人の記憶は波にさらわれてゆく

「かぐや姫」
・かぐや姫ぐらいもてたい、真夜中にムーンストーンのピアスをはめる

「桃太郎」
・桃太郎神社でかった御守りを握って義母と一緒に暮らす

なにやら悲しいドラマを匂わせています。


「桃太郎」
・いつの日か主役になってみたいなとお供の猿が読む西遊記

上の句が説明的で惜しい。
猿が『西遊記』を何度も読んでいるというだけで、
孫悟空への憧れは伝わってきます。

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お疲れ様です!

ありがとう!
何か書こうと思ってたけど、忘れました。
では、小・中学生の歌の選歌をしに部屋へ戻ります。

よろしく哀愁☆
posted by www.sasatanka.com at 14:29| Comment(13) | TrackBack(1) | 総評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年09月01日

「水」総評

仄暗い水の底から浮上してまいりました笹師範です

ありましたねぇ。そういう映画。

5年前の8月、腕を骨折して1ヶ月間病院に入院してたんだけど、ある日の夜中、テレビでその映画をやってて、病室で見てたんだ。
僕のいる病室の前が浴室だったんだけど、ちょうどその時
ジャージャーお湯のあふれる音がしたんだよね。

夜中に?

そう。ふつうに夜勤の看護士さんが入ってるのかと思って、近くで人が起きてるっていうのが心強くて、ますます映画に見入っちゃってね。
それで翌朝、看護師さんに、
「あんな夜中にもお風呂に入るんですね」
と言ったら、
「夜中は浴室使えませんよ」
と言われて、
続けて
「またですか……」
って意味深な言葉を残されたんだ。

またですかってことは……?

どうやらその病室に入院した人はみんなあの音を聞くらしい。
噂によると、この病院で亡くなったおじいさんの霊が、
死んだことに気づかないでいて、ふつうにお風呂にも入ってるらしいんだよね。

怖いです……。

次の日からは怖かったよ。入院中も凄い夜型だったから。
でも、僕も同じ病室の人たちも退院する頃にはその音に慣れちゃったんだけどね。

慣れるなよ!

中にはおじいさんの背中を流しにいく猛者もいたけど……。

嘘つけ!

それにしても水と怪談は切っても切れない関係にあるよね。
でも、今回のお題「水」は怪談の歌がなかったので意外でした。

もう9月ですし、怪談はいいですよ。

ということで、「総評」にいきます!

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まずは、
中村成志さんです。

・台上に左腕(かいな)をりんと挙げ黒い水着の伍代夏子は
(中村成志)

熟女好きにはたまらない光景と見た。


・朝焼ける分水嶺に跨れば二つの海に尿(しし)は流るる

この意味不明な行動が魅力的。


・蝉しぐれ教え子の背が水玉を弾くを眇に見る女教師は

・生命は穴から水を奪われる都会の空よさあ薄雲れ


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ヤマダワタルさんです。

・一ヶ月限りの茶髪を叩く手が塩素まみれの水にはじけて
(ヤマダワタル)

夏休みのプール教室での出来事か。
背後にドラマを匂わせているところが良いです。


・啄木の本名「一」その字から青く浮かんでくる水平線

・水筒に西日とくとく注いでは武蔵野線沿線にばらまく


武蔵野線には西日が似合うね。

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酒井景二郎さんです。

・この水で傷を洗へばいいんですね 二度確かめてシャツを脱ぎ去る
(酒井景二郎)

・脅迫が堂に入つてゐる君はまた水鐵砲を斜に構へて

・君と僕のがさつく指を磨り合はせ水族館を暗くしてやる



どの歌もコメントが難しいのですが、
雰囲気が出ていて良いと思います。

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岡本雅哉さんです。

・そうとしか生きられないから苦いんだ少女の桃の天然水は
(岡本雅哉)

商品名を上手に料理していると思いました。


・渋谷には少女の涙だけで鳴る水琴窟が2か所あります

・人妻の乳房に歯を立てたくなって水風船につき立てる針


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やすたけまりさんです。

・網戸には水のレンズが残されて夕立がまたひとつ終わった
(やすたけまり)

小さな発見を詠みこんでいます。


・噴水がおおきくてちかづけなくてきゅきゅっと鳴いたきりのサンダル

サンダルを小動物のようなものに喩えています。
擬人化ならぬ擬動物化。
象に脅える仔猫のようで、よかったです。

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水野加奈さんです。

・一挺のナイフとなって飛び込めばプールの水面蒼天となる
(水野加奈)

・懸命に水飲む音の続きおり風も緑もぬるき真昼に

・鼻先に水滴ふたつ光らせて小屋の陰から犬駆け寄りぬ

・坂道に沿って流れる水路より今朝玄関に沢蟹が来る

・飛び散った体温計と水銀の球がつくりし異界にひとり



悪くはないけど、今回ちょっとおとなしかったですね。

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てこなさんです。

・水飴をはじめて舐めた幼らは夏空までもからめていたり
(てこな)

・悲しみの水車よ回れわたくしの中で挽かれてゆく未練の穂

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帯一 鐘信さんです。

・朽ち果てたガンダムがある貯水池に棲む伝説の赤いザリガニ
(帯一 鐘信)
                 
・炎天下、水に沈んだ熱帯魚みたいな青いライター 泳げ

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ダンデライオンさんです。

・岩清水飲めば新たな命湧く山のかいなに抱かれています
(ダンデライオン)

・いつだって蛇口ひねれば出てくれる君のやさしさ感謝している

蛇口の水に感謝している歌。

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佐々一竹さんです。

・餓島にて朽ちし兵士の肩章に柄杓一杯の水をかけたり
(佐々一竹)

・赤土の埃舞いたるその先に水島上等兵の敬礼

なぜか5首とも戦争詠でした。
本気度が高くてよかったです。

ごくたまに朝カルの講座で、先の大戦に出られた方が受講してくださるのですが、
こういう感じの歌を提出されます。

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魚虎さんです。

・戯れに水中メガネをかけたれば何処(いずこ)も水底に見えて、かの夏
(魚虎)

・夕暮れと夜との間(あわい) 秘められし想いのごとくともる水銀燈

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おはぎさんです。

・水玉の模様が好きと云っていたもう来ないよねバブルな時代
(おはぎ)

・海水を石油に変えてみせますと出来ない事を予算で決める

うまい。

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イマイさんです。

・バケツには終えた花火が入れられてコールタールの水面が揺れる
(イマイ)

・八月の泣きすぎた日を思い出す右の耳から出た熱い水

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はづき生さんです。

・水色で満ちた子供の絵日記は空と海との境目がない
(はづき生)

・成分は水がほとんど占めている僕も海月もあの夏の日も

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暮夜 宴さんです。

・水すましのつくる小さな波紋から噂はやがて津波となって
(暮夜 宴)

バタフライ効果。


・シャガールの青を愛でれば胸のおく滴る水の音が聞こえる

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天井桃さんです。

・酔い覚めの水が一番旨いから宿酔いするのとうそぶく彼女
(天井桃)

・恋終わり水浮く屍と成り果てて流れゆきたし黄泉の国へと

・シャワーさえ息止め浴びるインドではミネラルウォーター命の味して


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夏端月さんです。

・初夏の青空に水振りまいてかりそめの虹で慰めている
(夏端月)

・水を持つ生き物ならば身の内に虹が見られる時は来ますか?

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伊藤夏人さんです。

・わがままは言いませんからその前にフランス育ちの水を飲ませて
(伊藤夏人)

・人類はほとんど水から出来ていてすべての国と交流できる

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みうらしんじさんです。

・天然の打ち水として降る雨が手加減なしで道を川にす
(みうらしんじ)

・火星にて発見された水のごと地球に在るというだけのオレ

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たちはらそうさんです。

・もともとは何もなかった場所にいま 川は引かれてぼくは生きてく
(たちはらそう)

・お祭りで救ってやった赤い子が水の中からバカバカという

水槽のなかの金魚のことでしょう。

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そう蛸さんです。

・もし僕が河童であれば水着からしたたる水で生きていきたい
(そう蛸)

どこかで女子限定の水着であることを表現してほしかったです。
じゃないと「おっさんの海パンでもいいの?」と疑問が出ちゃうので。


・ピカピカにひかった君を僕の手で競泳水着に押し込んでやる

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はせがわゆづさんです。

・水しぶきの中で恋したフラミンゴこのまま蒸発してもいいくらい
(はせがわゆづ)

・ひとごみに紛れて君の袖を掴む水あめごしに花火がにじむ

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矢島かずのりさんです。

・浴室で曇りを取れば現れる水木しげるのメガネの男
(矢島かずのり)

・もう一人ジャージ姿がローソンの水銀灯に誘われてきた

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御厨しょうこさんです。

・五線譜に落ちた涙の水滴が創るいびつな不況音楽
(御厨しょうこ)

・水面(すいめん)はあの時堕ちた真っ黒な鴉の色だけ忘れずにいる

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ゆふさんです。

・じんじんと咽喉(のんど)をまさぐり降(くだ)る水わが体内の何処を旅する
(ゆふ)

・街をゆく金魚のようなお姉さん色水遊びは卒業したの 

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骸骨マンさんです。

・「ヒトラー」の文字で水の結晶歪むらしい嘘でもいいから歪んでほしい
(骸骨マン)

その気持ち、わかる。
そういえばこの間『水は答えを知っている』の著者の方に会ったなぁ。
水に「ありがとう」と言うときれいな結晶が出て、「バカヤロー」とかいう言葉やヘビメタを水に聴かせたら今度は汚い結晶が出るという話を書いた人。
夢のある話だけど、ちょっと無理があるよね。
「ヘビメタにのせてありがとーっ!!って叫んだら結晶はどうなるんだ?」と唐沢(俊一)さんが言ってたけど、あれは笑ったな。

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今治のエロ事師・小田何歩くんです。

・「水をくれ水をくれ」と言う爺さんが聖水プレイして若返る
(小田何歩)


「愛媛の風俗王子」なる異名を持つ小田くんらしさがあふれた一首。
「てうじいさん」を「と言う爺さん」に直しました。

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辻井竜一さんです。

・営業の中川曰くこの夏は水羊羹が俺のパスポート 
(辻井竜一)

下の句が良かったです。

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魚さんです。

・その色を水の色だとひとは言う。「でも水色の水は飲めない。」
(魚)

たしかに。

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外神田外堀さんです。

・八月になれば今年も思い出す はだしのゲンの『ミズヲクダサイ』
(外神田外堀)

僕は、8月になるとなぜか
「♪ジャンジャン ジャガイモ サツマイモ!」という
『はだしのゲン』の挿入歌を思い出します。
今年は広島に行っただけになおさら。

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ケータイ短歌でおなじみの
地球人さんです。

・水槽を逃げゆく紅い夏の尾が破った妄想 餌にでもして
(地球人)

リクエストにお答えしてアドバイスをしますと、
「水槽を逃げゆく紅い夏の尾が××を破った」
という風にまとめれば良くなると思います。
「餌にでもして」は完全に余計です。
金魚を金魚と言わずに表現したところは良かったです。

短歌は、幕の内弁当みたいにいろんなものを詰め込んではいけません。
一点豪華主義が良い短歌をつくるコツです。
一番言いたいことはぐっとこらえて言わずに、匂わせるにとどめる。
これが短歌の基本であります。

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☆崖の上の1首劇場☆


・貝殻を食ってた犬の喉からは荒ぶる水の音が聞こえる 
(蜂谷希一)

この歌は印象に残りました。


・いにしえに水没したる大陸を思えばふっと「好き」と云えそう
(天昵 聰)

・除湿器の水に粘りがあるというフランス書院文庫コーナー
(カー・イーブン)

・ラにアクセント置けばフランス語のごとし水原紫苑、ミズハラシオン
(松木 秀)

・もう誰も傷つけなくてすむ部屋で炭酸水にひたす舌先
(宮田ふゆこ)

・古書ひとつ夏の渚に忘られて水木しげるのフハッは暮れゆく
(やすぼう)

・公園の噴水四方(よも)から噴きあがり「我」という字を空に描きつ
(かわら)

・手弱女が打ち水している夕暮れに流星ワルツを指揮する如く
(西野明日香)

・サバンナの水のほとりに棲んでいた二足歩行者イヴの旅立ち
(奈楽)

・水色のシャツに糊かけアイロンす 口紅の跡はもうありません
(阿笠 香奈)

・いつかまた空に帰っていくのかな 水たまりには真昼の月が
(小野伊都子)

・「まだ泳げますか」ぬるりと包まれる ああ海の水ぜんぶがクラゲ
(イマカコ)

・水田に浮かぶアメンボ青空の雲の切れ間を縫ってお散歩
(ももや ままこ)

・水の字を名前にもった人だからめぐりあう日がまたあるだろう
(末松さくや)

・ケータイを水に沈めてあの夜の甘き言葉も波紋に送る
(穂ノ木芽央)

・水の音に母の胎内思い出す私の中にも大海がある
(ぐ〜♪)

・飲んでみる一息ついて三度飲むされど浮かばず南アルプス
(タイラー&トマソン)

・体育館そっと抜け出し飲む水の錆びの苦さを思い出す夏
(あげはた)

・清水しか見ていなかった同窓会変わってなくて泣きそうになる
(くまさん)

・遠足に麦茶凍らすカタカタといまだに溶けず落日の帰路
(104hero)

・もともとは何もなかった場所にいま 川は引かれてぼくは生きてく
(たちはらそう)

・クーラーの電源切って水浴びすそれでほんとに間違ってない?
(秋山真琴)

・バスタブに湯が満ちてゆく間だけ君の前より素直に泣ける
(長田絵理子)

・遠い夏海へと散った水兵の忘れ去られる旗とコンパス
(高瀬和雪)

・あきらめた水のようだねぼくたちはまっくろな深みへとながれて
(富田林薫)

・カルピスと水を1対1で割るいけない恋の味を知った日 
(ウクレレ)

・蛙鳴く田辺に座りて語らえば月照る夜に冴える水の音
(岸本一眞)


____________________________
____________________________

あきえもんさんです。

・シャンプーに加えた水に気付かないあなたは私の水を知らない
(あきえもん)

・七十パーセントの水を失って父は土へと還っていった

・ポジティブになれる 温水洋一が俳優目指した日々を思えば


あいかわらず芸能ネタは得意ですね。
おもしろかったです。


・哀しみが貯水タンクを満杯にして除湿機は静かに止まる

・水色のブラの出番は少なくて夕立ちが来たらずぶ濡れになる



また調子が戻ってきたんじゃないでしょうか。

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鶴太屋さんです。

・水無月の耀(かがよ)ふ墓標白きまで丘埋めつくせり疼(うづ)ける鎖骨
(鶴太屋)

・水色の墓標ばかりの昼下り蜥蜴(とかげ)を跨ぎて勁(つよ)き踝(くるぶし)

・水妖(ウンディーネ)の贄に首断つわが夢は涙でいつぱいの花籠に生(あ)る

・ディアーヌの水浴を見てし目を灼かるるロマのギターラ月と響(な)り交ふ

・あかときに覚めておもたき水の身か風吹く牡丹のもろきくれなゐ

・シーラカンスの暗き水彷徨(ゆ)く生と死のいづへの方を孕(は)らめる地球

この歌が一番好きでした。
ただ、「彷徨」に(ゆ)とルビを振るのはちょっと強引すぎるかもと思いました。


・水の夏受胎の季(とき)と思へども西瓜を齧りては種子飛ばしゐる

・水郷の墓域ははつかに水明かり幽体離脱しつつ猫もゐたりき

・壜に充つる乾海鼠(ほしなまこ)睡れ水曜の玻璃戸破れば群羊の日本



なぜかベネチアの景色が浮かんできました。
独特の美学があって魅力的です。
洋風と和風を使い分けるあたりも心憎いです。

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松本響さんです。

・夏の夜は防水加工されていてきみの心もはじいてしまう
(松本響)


殿堂入り投稿者は何首投稿しても良いので、
次回はぜひもっとたくさん投稿してほしいです。
1首しかないなので、今回のコーナー「水」は見送りとさせて頂きます。
次回作を楽しみにしてます。

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異能兄弟さんです。

・真夏日に「水の江瀧子」と唱えれば冷気充ちきて鳥肌立てり
(異能兄弟)

ロス疑惑の三浦和義との関係を思えばさらに鳥肌が……。


・なまぬるいプールの水に<渡辺のジュースの素>をぶちまけた夜

そういえば、小学生の頃、プールにジュースの素を何千袋分もぶちまけて泳ぎたいと思ったなぁ。
 
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かんなさんです。

・はじけなくなってしまったソーダ水 夏の終わりが近づいている
(かんな)

うまいなぁ。


・西陽さす卓袱台の上に置いてある水蜜桃は明子の香り

・夏の日に水平線を見に行ったオレンジ色の電車をさがす

・かき氷溶けてしまって紅色の水だけ残る祭りの終わり


「溶けてしまって」が説明的で惜しかった。
「かき氷の器に残る赤い水」
くらいにしたほうが良いです。


・真夜中に姉が見つめる水鏡 楳図の描く少女をうつす

おもしろい。
初期の楳図作品の絵柄のイメージです。


・オール漕ぐ音しかしない初デート暗い水面を見つめるばかり

期待と不安が入り混じる感覚が伝わってきました。


・上向きに蛇口をひねり水を飲むあの日の君の残像を追う

・水上の花火を見つつ繋いでた右手の熱さを忘れられない

・溶けだした水性ペンの青い文字君の気持ちは見えなくなって

・夕立の初めの一粒落ちてくる麦藁帽のほつれたつばに

・鏡台の香水瓶を開けるとき祖母の秘密は風の中へと



どの歌もお上手です。
ほどほどの大衆性も心地良かったです。
もうちょっとオリジナリティーを出せれば、さらに良くなります。

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お疲れ様でした!

けっこう良い歌があったね。
いよいよ9月。もう秋です。
秋は人を歌人にします。
いっぱい短歌をつくってください。

9月24日(水) 19:00〜20:30
朝日カルチャーセンター新宿教室
「念力短歌トレーニング」
の最終回があります。
この日だけの受講も可能なので(もちろん1回分の受講料です)、
受講したいという方は、直接僕にメールをください。

104heroさん(ロマンのチャンピオン?!)
をはじめ、ゆかいな仲間たちとの懇親会もあります。

ということで、よろしく哀愁☆
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2008年07月16日

「日本史上の人名」総評

どうも、笹師範です。

前回、今回のお題の投稿作品が小六の歴史上の人物の認知度と不思議な一致を見せたと書いたけど、
やっぱり歌人なら、教科書には載ってない過小評価されている英雄こそ詠むべきなんじゃないかという気がしてきたね。

なるほど。
たとえばどんな人ですか?

たとえば、日露戦争でバルチック艦隊を殲滅させた
東郷平八郎と秋山真之とか。
あの人たちがいなければ、日本はロシアの植民地になってたんだから・・・。

はぁ。
そういう師範はもちろん秋山真之の歌を詠んでますよね?

いや・・・。秋山眞人さんなら詠んだことあるけど。

それ、えらい違いですよ!!

まぁ、教科書にも載ってないから、仕方がない部分もあるけどね。
司馬遼太郎先生の『坂の上の雲』なんか読むと、
あの人たちの偉大さがよくわかるよ。

そうですよねぇ。
東郷さんなんかは世界的には有名なのに、
日本の子供たちだけが知らなかったりするらしいですからね。

そうなんだよね。
それで、そんな状況を見るに見かねた宮崎駿監督が立ち上がって、
今度映画をつくるらしい。

えっ! どんな映画ですか?

「坂の上のポニョ」っていう。



まぁでも、人名の歌っていうのは、いま現存する有名人より歴史上の人物を詠んだほうが、ずっと良い歌をつくれる可能性はあるだろうね。

ほぅ。なぜ?

やっぱりみんなが知ってるし、人物のイメージも動かないからね。
芸能人なんかだと事件を起こしたりしたら、イメージが変わっちゃうでしょ。そうすると歌の意味が伝わらなくなっちゃうことが多々あるんだね。
人名でも一番気をつけなければならないのは子役俳優とかの名前だね。
僕にもこんな歌があって、

えなりかずきが百人斬りを成就せし平行世界(パラレルワールド)は襖の向こう  笹 公人

歌集に収録しようかどうか迷ったけどやめたんだ。

なぜですか?

えなりかずき君といえば、そのマルコメ頭とテレビドラマ「渡る世間は鬼ばかり」の役柄の影響で、真面目で童貞色の強い親孝行青年というイメージがあるよね。
これは日本国民が持つ共通前提だと思う。
その共通前提が守られているからこそ、パラレルワールドで女遊びに耽っているえなり君とのギャップが生まれて、笑いが生まれるんだな。
つまり、この共通前提が守られている間が、この歌の賞味期限ということになる。

なるほど。

しかし、えなり君も年をとるし、変わる。
いつかは長髪の茶髪にするかもしれないし、結婚したあとに不倫をしてマスコミを騒がす可能性もゼロとは言い切れない。
そうなった時に、この一首はたちまち力を失ってしまうんだ。
歌集を編んでいる時、「ボクは変わりませんよ〜」という、
えなり君の声が聞こえたような気もしたけど、
迷った挙句に、この歌は歌集に収録しなかった。

それは正解かも。

子役といえば、おそらく昭和三十年代の短歌誌には、当時、天才子役として一世を風靡していた松島トモ子を詠んだ歌とかたくさんあったと思うんだよね。
そういった歌を平成の若者が読んだとしたら、間違いなく意味不明な歌となるでしょう。

たしかに。

いまの30代、20代にとっては、松島トモ子といえばライオンに首を噛まれたミネラル麦茶のおばさんというイメージしかないからね。
だから、まず、松島トモ子は子役として一世を風靡していたという情報を与えなければ正しい鑑賞はできない。
仮に昭和三十年代に詠まれた松島トモ子の歌に「ライオンのおもちゃ」とかいう単語が出てきたとしたら、間違いなくあの痛ましい事件の暗喩として読み取るだろうからね。

まぁそうですね・・・・。

だから子役俳優には気をつけなければいけないんだ。

わかりました。気をつけます。

そういった点で、評価が定まっている歴史上の人物や故人を詠むのは、無難でリスクも少ないというわけです。
では、総評にいきます!

おっと、その前にお知らせを。

発売中の「図書新聞」7月19日号
の8面にて、「笹公人ロングインタビュー第二弾」が掲載されています。 笹井宏之君、鶴太屋さん、松本響さんについて軽くコメントしています。もちろん褒めてます。
よかったらチェックしてみてください。


朝日カルチャーセンター新宿教室にて
講座を行います!!
「念力短歌トレーニング」
曜日:水  時間:19:00-20:30
回数:全3回
日程:7月23日(水), 8月27日(水), 9月24日(水)

1回か2回だけなら参加できるのですが・・・という方は僕にメールをください。回数分の受講料で参加できるように交渉してみます。
懇親会が目当ての受講者も歓迎です!
夏の思い出にどうぞ。


みんなでSTOP STD!
第3回「好きな人に贈る百人一首」短歌コンテスト2008
も作品募集中! 
1万円分の図書券をゲットしよう!


「平成20年度NHK全国短歌」ジュニアの部作品募集!!
今年も選者を務めます!

締 切  平成20年9月22日(月)消印有効

NHKホールでボクと握手!

では、「総評」にいきます!

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まずは、
ヤマダワタルさんです。

・泡沫(うたかた)の思春期いまもああ君はしやかりきコロンブスでゐますか
(ヤマダワタル)

「パラダイス銀河」の歌詞を絡めています。


・キシノマゴタオ…れた後に来るものよ暁ばかりの公団住宅

岡井隆先生の初期の代表作

キシヲタオ……しその後(のち)に来んもの思(も)えば夏曙の erectio penis 

のパロディー。
こんなの歌人にしかわかりません。
でも、うまいです。


・銀やんましづかに旋回して去れり信長書店の駐輪場を

・その刹那御船千鶴子が念写せし月の裏側ゴルゴの背中


月の裏側を念写したのは、
御船千鶴子ではなく三田光一です。
ここ、ひっかけ問題に出やすいので注意。

どこの学校の試験だよ!


・貫之は下手な歌詠みにてさらに女装癖までありし候

・シーボルトの愛した花が雨を受けあした異国へ嫁ぐいもうと

・誰よりもわがままが似合ふ頬 ぼくの小さなマリー・アントワネット

・革命の夢は果てどもTシャツになほ生き続くど根性ゲバラ



全体的に玄人っぽい詠みぶりです。
もしかしたら、結社歌人かもしれません。

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てこなさんです。

・裏庭のムラサキシキブの実を弾く高学歴な女は損か (てこな)
        ※「ムラサキシキブ」=植物の名前

・和泉式部の卒論をひらく二十二の我からあくがれ出た百余枚

・おねしょした子にひたひたと起こされる定家の袖を濡らす夢から

・藤原道綱の母の髪のごとのしかかる午前2時半の雨

・業平を惑わす歌を考える烏賊のくちばし抜き取りながら



端正な詠いぶりですね。
現代を絡めているところがよかったです。

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魚虎さんです。

・この国を平定するの壱与(いよ)はまだ13になったばかりだけれど (魚虎)

卑弥呼の娘と松本伊代をかけた
センチメンタル・ベタンカ。


・北条の家系図見ては呟きぬ どいつもこいつも時、時、時、時

みんなが思うことを、うまく歌にしてくれました。


・もはや皆忘れているか松平アナのかつてのご乱心など

「忘れてたまるか」という気持ちが伝わってきました。


・暗殺はあのときだけであったのに半次郎は人斬りと呼ばれて

・東条をTJと呼ぶ若者が戦地に赴く日がやがて来る


これはいいね。うまい。

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暮夜 宴さんです。

・見上げれば人の上にも人は在り不敵に笑う福沢諭吉 (暮夜 宴)

・逃げないで対峙するべし信長の首を晒せば何かが変わる

・王子様ブームに乗って浮上する中大兄皇子がんばれ

・じゅげむより短いけれど名簿からはみ出す近松門左衛門よ


最後の「よ」はいらないと思います。
取ってつけたような「よ」とか「や」(詠嘆)なら、
ないほうがマシなのです。

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そう蛸さんです。

・フマキラー網戸の前にかまえつつ信長のみた悪夢を思う (そう蛸)

・無人島に歴史の教科書しかなかったらトライするのは樋口一葉

世界史の教科書だったら、
ミロのヴィーナスあたりでしょうか。


・玄白のまなざしを持ち裏本で世界の秘密にせまるぼくたち 

・美少女に猫耳はえるはなしなど柳田國男に教えてあげたい


このテの発想の歌は、
文語で詠んだほうがおもしろくなりますよ。

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松木 秀さんです。

・中世の北条政子日野富子かつての武家は夫婦別姓 (松木 秀)

・衆道は本能なれば信長と蘭丸燃えしこの本能寺

・ワイロとはどんな色かな痩せこけし田沼意次なら知っている

・競馬場とは反対の方向へ歩けば今川義元の首


なるほど。

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やましろひでゆきさんです。

・母親の遺品の中に見つけたる墨痕涼しき雷電の手形
(やましろひでゆき)

「雷電」がよかった。


・高野山(おやま)から疲れたカラダを引きずって暖簾をくぐるラーメン屋「空海」

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104heroさんです。

・ローマ字で中大兄皇子(nakanoooenoouzi)と書く「O」の多さが既に大物(104hero)

O(オー)で韻を踏んでいます。


・近松が車社会をぶった斬る!「油地獄は古今問わぬよ」

・妹子って男なんだぜと言う妹尾(せのお)キミだってホントは兄だろう?


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酒井景二郎さんです。

・身をよぢるマリオネットの修繕を近松門左衞門にたのまう
(酒井景二郎)

・番長の學ランの裏の歌麿が融けだす程の激鬪だつた

ようするに刺繍の糸が切れたというわけですよね。
だとしたら、「融ける」よりも「崩れる」くらいにしたほうがイメージが湧くかな。
あと「番長」は、書く必要ありません。
ワルであることはわかるのですから、そのへんは読者に想像させましょう。

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はせがわゆづさんです。

・決戦の時は来たりと行く巴御前の後ろ手にいびつなチョコ (はせがわゆづ)

ゆづさんカラーが出ていてよかったです。


・枯れないでいてね私の弁慶草 いつかちゃんと上を向くから

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小野伊都子さんです。

・我が儘な上司を持った部下たちでバー光秀は今日も満員 (小野伊都子)

・一斉にバルサンを焚く団地には武田の幟はためいている

なるほど。


・散るときを知ってガラシャは主に祈る 胸に真紅の花を咲かせて

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宮田ふゆこさんです。

・アロハシャツ着くずしている少年の二の腕あたりに信長が棲む
(宮田ふゆこ)

うまい。


・淀君にはなりきれなくてライターをつけて見つめてやがて吹き消す

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天昵 聰さんです。

・NHK短歌の内藤啓史アナ与謝野晶子の顔でほほえむ
(天昵 聰)

似てると思って見れば似てなくもないかも・・・。


・ザビエルと呼ばれし理科の先生の若かりし日の酸性雨など

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外神田外堀さんです。

・信長のようになれない現代の魔王ニートが自宅焼き討ち(外神田外堀)

おもしろい。


・家康と同じ形の手相持つニートの俺は今は人質

マスカケ線のことかな。

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辻井竜一さんです。

・ものまねで食っていくのは無理かもな持ちネタ「子規の横顔」だけじゃ (辻井竜一)

知り合いのCMディレクター・中島信也さんがこのネタ持ってます。


・「玄白」と言っただけでもセクハラになる時代でも逃げたりしない

玄白だけで!? 厳しすぎるね。

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☆魅惑の1首ルーム☆


・警備員 二本の棒を振り回し車をさばく武蔵の如し 
(蜂谷希一)

この歌はおもしろかったです。


・目を開けたまま夢を見る5時間目 小野小町をハートで囲む 
(ゆず)

青春短歌。いい感じです。


・〈牧水〉という焼酎を追いやって棚にあふれる〈東国原〉 
(みうらしんじ)

お得意の宮崎ネタで書いてくれました。


・ケータイでナツミの今日を左右する安倍晴明(有料サイト) 
(ももや ままこ)

ご先祖様にお伺いを立てるなっち。


・戦さ世の終わりの原には一面の信長の首信長の首
(花関索)

シュールな映像が浮かぶ1首。


・さみどりの皐月のカフェにさやさやと揺れるわたしと利休の頭巾 
(宮川邦恵)

・日本史は終わる。神武天皇が目覚ましベルを止めた二秒後 
(カー・イーブン)

・本棚を整理し『檸檬』はみ出しぬ梶井基次郎よ悪く思ふな 
(高取雅史)

・源内の舌がしびれる蒲焼の山椒ピリリとエレキテル味 
(岡本雅哉)

・この歳になれば小町の心情もリアルに判る美女じゃないけど 
(甘井桃)

・国じゅうの鉄道に乗ると去りし兄伊能忠敬に似たる目をして 
(砺波湊)

砺波さん、高瀬賞おめでとう!


・暴れん坊将軍そろえたパチンコ店に吉宗の「倹約せよ」との天の声響く 
(骸骨マン)

・谷崎の生まれ変わりと言い放つあいつを椅子に今日もワインを 
(そうがわさやこ)

・信成のスケートこそが信長の敦盛であることぐらい知れ 
(小田何歩)

・銀色の塗装夢見てTOTOBIG足利義政ローソンへゆく 
(いしだりえ)

・狩野派はイケメンホスト集団と理解してゐるキャバ嬢えひ子 
(富田林薫)

・三組の廊下の髪のつかみあい清少納言がブログに記す 
(あげはた)

・KYな時代遅れの恋なのか二千円には紫式部 
(帯一 鐘信)

・見るたびにちょっと不愉快その眉毛私のアダナ西郷ドンよ 
(ダンデライオン)

「修行するぞ、修行するぞ……」で尊氏(たかうじ)をおぼえそこねた中学時代 
(加々美司)

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では、殿堂入り投稿者コーナーにいきます。


あきえもんさんです。

・大胸筋をひくひくさせる男には三島由紀夫の滅びは見えず (あきえもん)

・信長が好きなタイプです冷酷をあらわす薄い口唇が特に

薄い口唇に注目したところはよかったです。

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鶴太屋さんです。

・駿馬いななく荒野(あらの)のひかり厩戸皇子は蹄の足掻きに生(あ)れぬ(鶴太屋)

・熱き血の小野妹子の眸(め)に咲(ひら)く紅梅一輪海に散りたる

・蘇我馬子の墓陵に佇ちて懐かしむ冥(くら)き祭事と恋と酒かな

・新緑あふれ坐して歌詠む人麻呂の想ひに浄きうぐひす孵(かへ)る

・稗田阿礼の誦する神話のいまさらに病む民と馬の聖家族なせり

・『古事記』成る 太安万侶筆投げて五勺の酒汲む古き酒甕

・「憶良らはいまは罷らむ」酒場(バー)出でてさや鳴る星夜そびらに享ける

・髻華(うず)に桃挿す少女まぶしも雑草(あらくさ)に寝転び春を家持惜しむ

・定家歌集ポケットに詰め奔りをり蒼き陽の差す裂創の若木

・葉桜の仁王像立ち闇照らす瞋恚(しんに)の眼(まなこ)運慶偲ばゆ

・一遍の踊り念仏街にあふれ今日も明日も生きの同胞(はらから)

・読みさしの花伝書風に捲(めく)れたりそこより三歩たましひの世阿弥

・連歌師の宗祇旅する言葉のみ武器として持つあらくれの裔(すゑ)

・金堂のうちに雪舟筆ふくむ野分到(いた)れる枯山水見て

・風と光に聖書はためきザビエルのともがら想ふ裸身の耶蘇

・島原の燈(ひ)は揺るれども血潮噴く天草四郎に耶蘇の血循(めぐ)れ

・みちのくの羇旅青年を連れ歩く芭蕉の明眸「侘び」にやすらぐ

・赤富士は孤(ひと)つ雲呼び南蛮の酒を嘗めつつ北斎はゑがく

・スカラベ乾(から)びて大杉栄のペン尖に「惨殺」の一語雨に濡れゐる

・はつなつの冤罪にして死を賜はる秋水の獄より群るる十薬(どくだみ)



なかなか迫力があってよかったです。
鶴太屋さんの美学を感じました。
欲を言えば、現代を絡めた歌をもっと読みたいです。

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松本響さんです。

・信長と呼ばれる男 美人秘書今川さんを奇襲で落とす (松本響)

・見返りを求める美人ばかりなり バブルの夜を描く師宣

・ベンチャーの斎藤社長が成功の秘訣と語るマムシドリンク


作為が見えちゃってるところがひっかかります。
こういうのは匂わすくらいにすると良いです。


・ひとつでも折れない太い矢になれと少子化の世の毛利家家訓

・会社では淀殿と呼び午後九時に茶々と呼び捨てにしたい晩夏


あいかわらずうまいけど、
もうちょっと狂ってもいいかなと思います。

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異能兄弟さんです。

・じゃんけんで負けた拳固をほお張ってくやしさ近藤勇級なり (異能兄弟)

・京駆ける宅配ピザの青年に龍馬殺しの末裔もいて

・晩年のヒロヒトが手を振るように菜の花の黄を蝶々は舞えり
 
・仏蘭西で「グワシ!」と叫んだ日があったおかっぱ頭の藤田嗣治



才気を感じるし、うまいのですが、
異能さんの中にある変態性(これ大事です)をもっと前面に出してほしいです。

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かんなさんです。

・信長の決断力が欲しい夜はロデオボーイに一人跨がる (かんな)

・春の日のモンゴル相撲 義経に似た少年が身をひるがえし

・もうここに山下清はいませんと車道を転がりゆく赤い傘


ダ・カーポが歌う主題歌
「野に咲く花のように」が聞こえてきそうな歌です。


・海のない奈良の都に雨は降り蘇我入鹿を濡らしはじめる

・こっそりと紫式部が履いてみるもう滑れないローラースケート

・六ヶ月連続一位をキープする『紀貫之のおねえなブログ』

・真夏日の物干し竿に残されて干からびてゆく小次郎のシャツ


これもいい。


・もう二度と振り返らない わたくしの背を師宣は見送っている

ちょっとおとなしいけど、
なかなかいいんじゃないでしょうか。

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お疲れ様です!

今回はマジで疲れた。
知らない名前やエピソードを見る度に検索したので、えらい時間がかかりました。
思わず浪人時代を思い出してしまいました。
こういう「お題」は出すもんじゃないね・・・。

いい勉強になったじゃないですか。

まあそうだけどね。
たくさん投稿したのに1首も採られなかった、
もしくは1首しか採られなかったという人は、
斉藤真伸さんがフォローしてくれると思うので、楽しみにしていてください。

以上、精六でした。
みなさん夏バテに注意してください。

よろしく哀愁☆
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2008年05月11日

「湯・風呂・温泉」 総評

お待たせしました!
5ヵ月ぶりの「総評」です。

首を長くして待ってましたよ。
ペリカンだけに・・・・・・。

ぴったりのアイコンがあってよかったね。
さて、ひさびさに投稿作品を読んだのですが、なんだかレベルが上がっていて、「序文」で何を書けばいいんだろう?
と途方に暮れてしまいました。

基本的なことは『念力短歌トレーニング』に書かれてますからねぇ。

あれ以上難しいことを書いてしまうと、初心者はついてこられなくなっちゃうし、かといって『念力短歌トレーニング』に書いたことをもう一度書くことは避けたい。
なので、これから投稿しようとしている方がいたら、
ぜひ『念力短歌トレーニング』を買って読んでみてください。
僕も読んでいるものと思って批評に臨みます。

このBlogも新たなスタート地点に立ちましたね。

常連だけの投稿Blogになってしまったらおもしろくないので、新しい投稿者も大歓迎です!
遠慮なく投稿してください。

「書評掲載情報」に情報を追加しました。
発売中の
『文藝春秋』6月号(文藝春秋社)
「今月買った本」で、精神科医の斎藤環先生が『抒情の奇妙な冒険』を紹介してくださっています。
デビュー作『念力家族』から気になっていた。と書かれていて、大変光栄です。
他にもこの雑誌に載ってたなどという情報がありましたら、ぜひお知らせください。
後で知って読めない事が多々あるので。

11日(日)の「夜はぷちぷちケータイ短歌」もよろしく☆
ちなみに、だいたひかるさんとは同い年です。
どーでもいー情報ですが。

では、講評にいきます。

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まずは、
ゆずさんです。

・同級生の裸の背が列ぶ修学旅行 シャワーが足りない (ゆず)

・普段喋ることなきクラスメイトと露天風呂に出る 星を見ている

・「先生を誘惑しよう!」洗い髪そのままにして点呼待つ部屋

・シャンプーは別々になりしそれぞれの香り漂わせている家族


等身大の青春短歌です。
いましか書けない歌をたくさん書いてほしい作者です。

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かんなさんです。

・銭湯へ行くたび父が持っていた古びてあせた手ぬぐいの赤 (かんな)

・今朝ぼくを濡らした雨が薄暗い風呂の中まで追いかけてくる

・もう同じ湯船に浸かることのない人へと返す錆びた合鍵

・本棚の温泉雑誌の背表紙は色あせ君は戻ってこない


すでに別れた彼との温泉旅行を回想した、
しみじみとした余情の漂う歌です。


・冷えきったユニットバスの床を踏む、夜の長さを確かめている

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ヤマダワタルさんです。

・「これくらゐしかやるものねえ」と従兄弟が指す温泉宿の初代ボンバーマン
(ヤマダワタル)

・栓抜けばぐるぐると湯は吸ひ込まれ吸ひ込まれやがて空つぽになる

・銃弾で穴ぼこだらけの屍を蜂の巣といふがシャワーとはいはず

・ラブホテル「緑魔」の浴槽掃除夫は異様に長き舌を持つらし


おもしろい。「緑魔」が効いてる。
「緑魔」といえば、筒井康隆先生の『緑魔の町』を思い出します。

今後の活躍を期待させるヤマダさんです。

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川鉄ネオンさんです。

・何事も試してみるべし湯上がりにオロナミンCを生卵割り(川鉄ネオン)

・沸かし湯を忽ち効能あらたかに変えるケロリンたらいの魔法

おもしろい。


・何時の間に伸びたか百粍ほどの毛が乳首にあり湯にそよそよと

・泡立てた髪撫でつけてリーゼント湯殿に銀蠅こだまさせつつ


_______________________

水野加奈さんです。

・レシートとスタンプカードと温泉の回数券でふくらむ財布 (水野加奈)

着眼点が良いです。


・藍染めの男湯女湯のれんまでふたりはずっと手をつないでる

・銭湯の駐車場にはポケットのキィより冷えた自動車が待つ

・首に巻く豹柄タオル 湯あがりのピノを分けあうをんなとおとこ


どの歌にも水野さんの観察力が生きていて、
よかったです。

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酒井景二郎さんです。

・湯面は眞つ平らなりそに寒き爪先入るる朝こそ良けれ
(酒井景二郎)

上の句の描写がよかった。


・鐵湯を啖ふ天狗の苦しみか戀の焔のあらあらしさは

・恥ぢらひを全て振り捨て君はまた直方體の光の中へ

・かうなれば荒療治だと言ひ乍ら煮詰め草津の湯を飮み下す

・夏はもう夢でしかない大船の重曹泉にどつぷりつかれ

・毆られて氣がつくこともあるだらう 華嚴の瀧よ打たせ湯になれ



酒井さんには、やぶれかぶれな歌に魅力を感じます。

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佐々一竹さんです。

・唯一人霧積の湯に浸り居り麦藁帽の翔ぶさま想う (佐々一竹)

出た!「人間の証明」
ジョー山中の主題歌を聴きながら読みたい一首です。


・大丸(おおまる)の流るる湯かな嘗て斯く乃木希典の潔き微笑み

渋い。

二首ともお上手でした。

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帯一 鐘信さんです。

・琺瑯をぼこっと鳴らす真夜中のぺヤングの湯に力石想う (帯一 鐘信)

類想歌がたくさんありそうですが、ま、いいでしょう。
「ペヤング」という商品名を入れる必然性があるのかどうかを考えてほしいです。

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宮田ふゆこさんです。

・露天風呂の上を流れた星にまでかけたい願いは思い出せない (宮田ふゆこ)

・浴室にアロマキャンドルゆらめいて会わない夜をまた好きになる

・女湯で伝授しているシャンプーのコツと男子のあしらい方と


ドラマのワンシーンのようです。

_______________________

魚虎さんです。

・やや縁の欠けた茶碗をとっておく目玉おやじの浴槽として 
(魚虎)

・頭(ず)の上にたわむ光の思い出は風呂で溺れたときの風景

・バスクリンの波をチャプチャプかき分けてゼンマイ仕掛けの船は漕ぎ出す

・移動手段なくした僕らの眼前で「湯〜とぴあ」の文字踊っていたり 


今回ちょっとおとなしかったですね。

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外神田外堀さんです。

・熱湯を薄めんとするその指に江戸っ子達の寒い眼差し
(外神田外堀)

粋じゃないってことです。


・独り住む学生街の楽しみは銭湯で飲むビンの牛乳

・温泉でとろとろ眠るそのままに海に還ってしまえたらよい


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砺波湊さんです。

・浮き沈みするものはみな愛しくて柚子の黄色を指で弾いた(砺波湊)

・呼び鈴をシャワーカーテンごし聞けばホラー映画の響き帯びたり

結社に入ってから、さらに上手になってますね。

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新井蜜さんです。

・ゆっくりと冷めていく風呂出られずに冷え切るまでの時間を計る
(新井蜜)

・塩辛い涙の風呂に身を沈め私のいない世界を思う

・打ち寄せる波に向かって立ち上がる露天の風呂に降る雪の中

・紅き燈のアムステルダム風呂のない窓辺に立って身体誇示する


おもしろい。

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瑞紀さんです。

・バスタブに身をほどきゆく 雨の中より簡単に泣いてしまえる (瑞紀)

・どれほどに湯につかろうとさびしめば温まらないわたしの真中

・ゆるさぬと言いたるわれの醜さを曇りながらも鏡は映す

・浴槽に膝を抱えて沈みたり生まれなおせるかもしれぬ今日


あいかわらずお上手です。

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てこなさんです。

・うどん玉の湯を切るように赤ちゃんの模型を振った沐浴指導 
(てこな)

・胴体の中の空洞部分からああカビてゆくお風呂のメルちゃん

今回はこの歌が一番よかったです。
「ああ」は再考の余地アリ。


・一年に二度しか逢えない二人だから流血の日はお風呂でしよう

林あまりさんの歌みたい。

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小野伊都子さんです。

・会わせたい人がいるのとつぶやいて母と紅葉を眺める露天 
(小野伊都子)

ドラマのワンシーンのような歌。


・湯気の中ふわりと今日を脱ぎ捨てて私をゼロに戻す儀式を

・100までは数えなかった のぼせてはいけない恋と知っていたから

・海のいろ独り占めして深呼吸 オフィスのグレイ洗い流そう

・こわれても何度でもやり直せるとタオルのあぶくたちに教わる


歌謡曲調なのはかまわないのですが、
もうちょっとリアルな手触りがほしいです。

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阿笠 香奈さんです。

・排水溝にこびりついてる長き髪ショートショートな恋ねとポイ捨て 
(阿笠 香奈)

男の髪なのか、あるいは旦那の浮気相手の髪なのか、
どちらにも解釈できるところがよかったです。

_______________________

どぼんさんです。

・薪の燃える匂いがしてる風呂場だったブリキの金魚の如雨露(じょろ)などがあり

・湯に浸かりあがるまで父と姉と我いっしょに数えた遠い日の十(とお)


ノスタルジー短歌。

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いちずさんです。

・温泉地には地獄が多い あれだけ天国気分になれるのに (いちず)

・富士山の麓(ふもと)でつかる湯の熱さに 思わず叫ぶ「番頭さん!」


銭湯の壁に描かれた富士山と
ごっちゃになったという歌意でしょう。

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愛媛が生んだ真性変態(5年に1人の逸材)
小田何歩さんです。

・若い子のおしっこ集め風呂に入れ糖尿病を絶対治す (小田何歩)

これもある種の尿療法か。

長いお手紙とレアなファミカセをありがとうございました!
感激してます。

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<魂の一首劇場>


・男湯と女湯の壁とびこえてリンダリンダを熱唱した日 (暮夜 宴)

・湯をはじくギャルの肌を眺めつつ しみてふやけて皺ばむ私 (ちづりん)

・童貞を捨てて来し日の思い出はソープランドのイソジンの味 (松木 秀)

ベタンカ出ました。


・早風呂のボクが急いで出たときは別れの手紙書き終えていた
(やましろひでゆき )

「早風呂」という説明は余計です。


・湯田中(ゆだなか)に田中のゆたかな乳があり田中の父は女湯にいる (かわら)

回文ぽいつくりの歌です。


・消える魔球の理論考察する湯船 吾も確かに無色透明 (ウクレレ)

・裸にはならないように生きてきて湯船に息をひそめて浸かる (みうらしんじ)

・こころにもないことを言う泡風呂にぶくぶくわいた気泡が爆ぜる (富田林薫)

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☆殿堂入り投稿者コーナー☆


あきえもんさんです。

・職人の顔に変わりて二杯目の六一〇ハップを入れる父あり (あきえもん)

今回はこの歌が一番よかったです。


・温泉にて全裸になりて殺されるためだけに居るAV女優

もうちょっと上手く、おもしろくまとめられるはず。

次回作に期待します。

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鶴太屋さんです。

・深秋の熱き身沁むる空つ風 夢幻のむかうに虎ノ湯炎ゆる 
(鶴太屋)

・路地奥の松ノ湯の光(かげ)燦燦と若き阿修羅がずんと湯浴みす

・電気湯に浸かれるウナギ犬もゐて青き憤怒の今凪ぎはじむ


おもしろい。


・泉にて沐浴しゐる水精(ニンフ)らの淡き壁画の白樺の湯

・鉱泉宿に泊まれば流離の断ちがたく 小庭に灯る侘助椿

・白骨の出湯に浸かれば匕首(ひしゆ)のごとき山稜視えて零(ふ)りくる雪

・浅間温泉街をもとほる乞食(こつじき)の白きはだへの基督羞(やさ)し


イメージが浮かんできます。お見事。


・柚子の湯の浴槽(ゆぶね)に泛かぶわが身体 股間に黒き夜漂はせ

・菖蒲湯に芯まで熱く沈みをり 五月の燕の描(か)く自由(フリーダム)

・三軒隣ロココ調なる銭湯の煙突のぼれど杳(とほ)きアトランティス

・明治生れの祖父と通ひし湯屋も無くかぽーんかぽーんと響(な)る音残る

・巨いなる欅の裸身の父の背を湯に矚(み)し記憶も模糊たる冬

・青きカランの噴く寒のみづ 隣家(となりや)の老ひの謡ひもいつしか絶えにし

・湯煙りに曇る祖父(おほぢ)の眼鏡置く夜光に耀(て)りてそのままにあれ

・髪洗ふ妻の哀しみ 一瞬の風の奔流に黒蝶乱(みだ)る

・湯屋を出て十字路の夜 洗ひ髪冷えゆくままに蛮歌に泣かゆ

・家風呂に浸かりてこぢんまりとゐし弟(おと)を憶へば西瓜のかをり



温泉をテーマにしたら、この人の独壇場です。
明治時代の歌人の歌みたいですが、レベルは高いです。

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松本響さんです。

・目をあけてぼくと向き合いなさいって二十四時間シャンプーハット (松本響)

・銭湯の煙突としてこの町を守り続ける古代の兵器

おもしろい。
今回はこの歌が一番良かったです。


・音のない大浴場で白鳥に生まれ変わったアヒルのおもちゃ

・ライオンの口から熱い湯が落ちて風呂の底には砕かれた骨



松本さんはアイディアの説明で終わってしまう傾向があるので、
そのへんを注意してください。

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異能兄弟さんです。

・銭湯に石鹸箱を落とす音ひびけば昭和めいてゆく町 (異能兄弟)

・銭湯の暖簾の文字の「ゆ」をほどきマフラーにして君を待つ夜


うまい。


・GEORGIAの横にNOSTALGIAという缶コーヒーが並ぶ「昭和湯」

ちょっと狙いすぎか。


・鈍き音たてて震える「昭和湯」のマッサージ機は時間旅行機

この思いきりの良さは買いたい。


・馬鹿でかい木札の下足錠失せて途方に暮れる夢ばかり見る

なんかわかる、という歌。


・足の無い幽霊たちに囲まれて足湯にひたすかじかんだ足
  
・頑なにボディーソープを使わない老女の禿びて薄き胸板



どの歌もうまいのですが、異能さんならではの個性が出たら、
もっとよくなると思います。

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お疲れ様です。

ひさしぶりだったから、書き方とか忘れてたよ。

だんだん勘を取り戻していってください。


最後におめでたいニュースを。

穂村弘さんが『短歌の友人』(河出書房新社)で、
第19回伊藤整文学賞を受賞されました!

穂村さんに心からお祝い申し上げます。

この本は玄人向けだけど、本当に凄い本です。
特に第3章「リアルの構造」と、第6章「短歌と<私>」は歌人必読です。

5月15日発売の『短歌往来』6月号(ながらみ書房)で、
『短歌の友人』の書評を書かせて頂いたので、
興味のある方はぜひご覧ください。

賞といえば、
『念トレ』にも参加している岩崎書店の堀内日出登巳さんが編集された、

『納豆の大ドンブリ』(穂村 弘・編 寺門孝之・絵)

が「絵本大賞」の候補になっていたそうです。
穂村さん大活躍ですね。

ちなみにこの本のタイトルは、

・十二人家族のつくる納豆の大ドンブリのねばりを思え (笹 公人)

『念力図鑑』(幻冬舎)より

からとって頂いたので、よけいにうれしかったです。
ちなみに堀内さんは他に担当した絵本で見事「絵本大賞」をゲットされました。

ということで、「優秀作品」の発表を楽しみにしていてください!

よろしく哀愁☆
posted by www.sasatanka.com at 01:23| Comment(10) | TrackBack(1) | 総評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年11月29日

「SF」総評

How manyいい顔シテル?

川島なお美さんの結婚報道をしていたワイドショーで、ボードに書かれた川島さんの経歴に「お笑いマンガ道場」のことが抹消されているのを見て、
高橋名人主演の映画「はっちゃき先生の東京ゲーム」で
ヒロイン役を務めた鈴木保奈美さんがその経歴を完全に抹消していることをふと思い出した笹師範です。

長いよっ!
しかもまたどうでもいい時事ネタを・・・。
こんなに遅れて、いままで何やってたんですか!

実はその「時事ネタ」のせいで遅れたんだけどね。
いま単行本化にあたっての加筆修正に追われているんだけど、
そのほとんどが、各序文の「時事ネタ」をカットしたために生じた空白を埋め合わせる作業。

いつも時事ネタから入ってましたからねぇ・・・凄い量でしょうね。
でも、たしかに単行本に時事ネタはきついですからね。
カットするのが正解かもしれません。

半年前のニュースなんて、みんなすっかり忘れちゃってるからね。書いた本人でも何のことだかさっぱりわからない時があるもん。
「えっ! 三田佳子の二男が何かしたの!?」とか。

それ最新のニュースだから!
それに今回で3度目だし、別に意外性もないだろ!
しらじらしいんだよ!
更新をまだかまだかと待ってる人もたくさんいるんですから、もっとがんばってください。

そうだね。何も更新しない日でも軽く千を超えるアクセスがあるからね。
千のナイフが・・・俺ノ胸ヲ刺ス!

何で急に詩的になってるんですか!
意味わかんねえよ!

今日あたり更新してるんじゃないかなー?とか言いながら勤務中にこっそりBLOGに訪れて落胆している富田林さんの表情が浮かびます。

勝手に決めつけるなよ!
富田林さんに失礼だろ!

まぁそんな感じでプレッシャーと戦いながらやっているわけですけど、本題に入りましょう。

今回のお題「SF」ですが、
採れなかった歌にはある傾向がありました。


・一匹の蝶を殺しただけなのに未来は狂うタイムトラベル (小野伊都子)

・光速で飛び立つあなた もし無事に戻ってきてもわたしはおばあさん (西原まこと)

・異次元に隠れるのは反則だぞぉ!・・・後に地球を救う子である (104hero)

・クローンがやったことだとセクハラの厚生大臣言い逃れする (魚虎)

・日替わりでこの時間割にぴったりの僕のクローンが向かう学校 (ももや ままこ)


これらの歌に共通しているものがあります。
わかるかな?

発想が陳腐なところですか。

それもあるけど、どれもSF的な発想やお話を説明しただけで終わっちゃっているところだね。

「ウルトラマン」の焼き直しもありました。

・怪獣の両腕斬りて胸元のカラータイマー見つめておりぬ (かわら)

「ドラえもん」の焼き直しもありました。

・「かあさんを迎えに行く」とじいちゃんはぼくの机の引き出しあける (カー・イーブン)


良い歌も書ける人たちだからあえて厳しく書いてますけど、SF的な発想やお話のあらすじを説明しただけに終わっているものは、作品以前の歌だと思ったほうが良いです。
そして、いくら斬新なアイディアであってもSF的な発想を短歌にしたところで、本家の小説や漫画、アニメなどにはまず勝てません。
短歌は31文字しかないわけですから、
盛り込めるアイディアも限られてしまうのです。

ではどうすればいいのですか?

たとえば、SF作品のオマージュであれば、その作品に出てくる象徴的な単語やアイテムに自分の想いを託すという手法が有効かと思います。
たとえば『時をかける少女』だったら、「タイムリープ」という言葉とか。

なるほど。

僕は『SFマガジン』(早川書房)の巻頭ページで2年間、短歌を連載させて頂いてましたけど、SF小説へのオマージュ短歌はとても難しかったです。
特に、故・星新一先生ワールドが「お題」になった時は本当に苦労しました。
星先生のショートショートは、アイディアが凄い上に文章も余分なものが何もない優れた俳句のような世界ですから、そこに何かを付け加えようなんてことはまずできないわけです。
万が一星先生のショートショート的なアイディアが浮かんだとしてもたった31文字でそれを消化することなんてできません。
だから「エヌ氏」とかよく出てくる単語を拝借して、そこに自分の感覚(ちょっぴりSF的な)を詠み込むという方法が正解に近いと思います。
いまならそれなりの作品を書けるでしょうが、当時は力量不足で、できたものは失敗作でした。

うまくいったものはありますか?

眉村卓先生ワールドへのオマージュ作品ですね。
眉村作品は根底に抒情的な部分がありますから、星先生ワールドと比べると、まだ短歌と親和性があります。
で、眉村先生の代表作である「なぞの転校生」をオマージュしてみようと考えたわけですが、作品を意識しすぎると作品のあらすじを説明しただけの焼き直し短歌になってしまいますから、作品に出てくる「次元ジプシー」という象徴的な言葉をお借りして、その言葉に自分の想いを託して詠みました。
それがこの歌です。


流星は次元ジプシー ぬばたまの深夜ラジオを消してまどろむ  (笹 公人)


「次元ジプシー」についての説明は書かずに、流れ星を次元ジプシーに喩えたわけです。
ぬばたまの深夜ラジオと言っただけで昔の黒いラジカセが浮かんでくるところもポイントです。
70年後半〜80年代初期の眉村ブーム当時のムードも出てると思うし、わりと気にいってます。

そのへんのことをクリアしてるかなと思ったのがこのあたりの歌。


・公園に電話ボックス舞い降りてひそひそ声の母のはつ恋 (異能兄弟)

・だからつてそこでワープはないだらう カフェに獨人の秋の淋しさ (酒井景二郎)

・キスマーク代わりにおとすミステリーサークル青い瞳に恋した (はせがわゆづ)

・転居先不明で戻りし郵便のさみしさ纏うスペースデブリ (瑞紀)

・朝起きてアンドロイドのプログラムのようにいつもと同じ動きで (西原まこと)


どれもSF的な単語やアイテムを利用して
自分の想いや感覚を述べています。

短歌に詠めないテーマはありません。
大事なのは、短歌の長所を生かした料理法だと思います。
がんばりましょう!

では、「総評」にいきます。

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まずは酒井景二郎さん。

・有明の冷凍倉庫借り切つてさあ語らうぢやないか未來を (酒井景二郎)

冷凍倉庫にSF的なものを感じた作者。


・幾何學を間違へたやうな街角で萬華鏡屋が開く黄昏

・だからつてそこでワープはないだらう カフェに獨人の秋の淋しさ

「エスパー魔美」の高畑さんに
言わせたいセリフです。


・知らないよ 胸のほてりを飽く迄も量子效果と言ひ張るのなら

・足首にプラチナのタグちらつかせ君は集積囘路の子供

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ひさびさの登場!
異能兄弟さんです。

・公園に電話ボックス舞い降りてひそひそ声の母のはつ恋 (異能兄弟)

電話ボックスが宇宙船のように降りてくるイメージが鮮やかです。
ノスタルジックなムードに魅かれました。


・五七五七七でしか喋れない星でささやく破調の愛語

・失踪した叔父の部屋から編隊を組んで飛び立つレーザーディスク

・「おっぱっぴー!」とムー帝国の国王と民は叫んで沈んでいった


おもしろい。


・時計屋の電波時計がいっせいに狂いはじめるC・ホイヘンス忌
 
・ハイウェイバスで時空を遡上するガキ大将の父がいる地へ

・スリッパで叩き潰したごきぶりが織田信長(のぶなが)である事は告げざり



コーナー獲得寸前にいなくなってしまって寂しく思っていたのですが、また投稿してくれてうれしいです。
ぜひコーナーを狙ってください。
シモネタンカ界のスーパールーキー「下ネタ王子」こと柳原栄三君もぜひ復活してほしいです。

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はせがわゆづさんです。

・キスマーク代わりにおとすミステリーサークル青い瞳に恋した (はせがわゆづ)

宇宙人の視点で詠んだ歌。
さわやかでいいと思います。


・嘘ばかり並べて箱庭の世界 夜の帳に隠したひかり

天の岩戸神話を
モチーフにしているのでしょうか。


・重なった部分はまだ肌 金属になっても忘れたくない温度

未来人のボディーをイメージしたのでしょう。


・地下鉄をスカイフィッシュが通過する粒子の中で私は生きる

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瑞紀さんです。

・それぞれのかたちで驟雨を楽しみぬスペースコロニー育ちの子らは (瑞紀)

うまい。


・天の川に今日も釣り糸垂らしいるわたしにできる待つということ

・しし座よりふる流星に貫かれわれの真中に闇はひらかる

・転居先不明で戻りし郵便のさみしさ纏うスペースデブリ


いい感じです。

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宮田ふゆこさんです。

・UFOだよ 飛行機だよと言い合って自転車並べて追いかけたよね (宮田ふゆこ)

・変えられない過去ならせめて見たくない 時間旅行の切符を破る

・時間旅行そっと抜け出しあの夜の私の膝に毛布をかける



SFというお題に迷わされずに
いつものカラーが出ていてよかったと思います。

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かわらさんです。

・おかえりと我を迎えるワレがおり我とワレとが煙となりぬ (かわら)

・満月の夜空を走る人力車 舞妓の涙を京都にまきぬ

・宵闇の校庭にうかぶ牛車(ぎっしゃ)から薄桃色の笛の音(ね)きこゆ

・人々はまだ気付かないこの惑星(ほし)がコスモ・バードの眼球なのを


そんな神話もありそうです。

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水野加奈さんです。

・ゆうべみたせいざみたいなたんぽぽがアルジャーノンのおはかのまえに (水野加奈)

・さよならも言わずに消えた 髷ゆらしペダル漕いでた時の旅びと

おもしろい。


・火星人と一緒になるのは許さんと親父は念を送りつづける

・遅刻したアイツがなんで受かるんだタイムトラベル検定試験

・押入れはタイムトンネルもういちど母よ起こしに来てはくれぬか

・好きだったフィギュアも入れてあげましょう宇宙の海へおくる棺に

・ドア横のオバサンこっちを見てるから(スペース)デブリの話はやめよう


どんどん上手くなってきています。

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松木 秀さんです。

・華氏451度で燃やしたらダイオキシンが出て危険だよ (松木 秀)

・日本語は解読不能 にっぽんが古代文明になりし時には

・鉄筋にリサイクルされるUFOという身も蓋もなさもSFとして


おもしろい。
このアイディアは小説でも使えそうですね。


・『にぎやかな未来』の世界で一番に売れる「4分33秒」

わからない人にはさっぱりわからない歌だと思いますが、
『にぎやかな未来』は、筒井康隆先生の名作。
「4分33秒」は、ジョン・ケージの無音の演奏曲。
わかる人には「なるほど」と思わせる歌です。

______________________

てこなさんです。

・ストレスにちぢむオトコよ先端から呑み込みおなかにもどしてあげる (てこな)

女性にしか詠めない恐ろしい歌ですよ。


・赤ちゃんは天の川にて座浴して青いおしりで生まれてくるの

・無重力気分になるのキッチンを散らかしながらつくるチャーハン


たしかに。

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西原まことさんです。
 
・あの頃のあなたの笑顔がみたくって夏への扉の鍵を手にする (西原まこと)

松田聖子が出てきそうな雰囲気。

それは「夏の扉」だろ!


・朝起きてアンドロイドのプログラムのようにいつもと同じ動きで

ありがちですが、
短歌的な処理の仕方はGood(グー)。
ハッとして! Good

今度はトシちゃんかよ!


・深入りはしたくないからこれからもN氏と名のるあなたでもいい

星新一ワールドからやってきたのでしょうか。


・髪の毛が一本あればいくらでも貴方のかわりは創り出せるの

発想の説明に終わっちゃってます。
もうひとつ何かがほしいです。


・なつかしくルナ図書館で手に取った新井素子の星へ行く船 


今後の活躍が楽しみな作者です。

_____________________

魚虎さんです。

・果てしなく増え続けたるブラクラのひとつひとつが夏への扉 (魚虎)

・王子様いないことなど知っていたコールドスリープから目覚めても

・新妻が超高速でネギ刻むまな板の上(え)に火花散りたり


アンドロイド妻でしょうか。


(世界の終末を佐藤佐太郎風に)
・レーザーの雨ふり注ぐひとときやシェルターの吾あらわになりぬ

(時間旅行者を夢野久作風に)
・三葉虫踏み潰したる靴跡はおれのものだと叫んでみたい


____________________

川鉄ネオンさんです。

・第一回宇宙陸上土星から織田の叫びが銀河ネットで

・瞳から放つビームで餅を焼く老サイボーグの冬の愉しみ


「冬の愉しみ」はいらないです。


・俺たちはメタルの身体きしきしと震わせ歌う平和の歌を

・俺たちが飛ばすちちんぷいぷいの痛みで光る星がどこかに


今回の中ではこれが一番好きです。


・誰ひとり信じぬことはフィクションにしておく大人のノンフィクション

なるほど。

_____________________

久米島洋平さんです。

・ギャル曽根の胃は異次元につながって わけもわからず太る人あり (久米島洋平)

おもしろいのですが、
発想を伝えるだけではなくて、もうひとつ何かがほしいです。
下の句は具体的な描写にしたほうが良かったです。
たとえば、最近急に激太りした芸能人の名前を出すとか。


・歩行メカ最新型に更新しロボ爺ちゃんがポチを追い越す

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佐々一竹さんです。

・鍵穴の奥を覗けばこんこんとシュレーディンガーの猫が眠りぬ (佐々一竹)

・E=mc^2 不条理な假面の向こう ファインマン笑う

・タキオンの観測ついに成功し……検証されぬ未刊論文


科学用語を盛り込んだ意欲作です。

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ドールさんです。

・あこがれの海の色だと我の目を見つむ地球を知らぬ少年 (ドール)

・あの人のクローンがつくられたらなお悲しくなるとわかっているのに

・なにもかも消えてなくなり我が胸に残っているのは原始の記憶

・いつまでも人工冬眠装置にて眠り続ける小さな少女

・水晶の密生しているその石はいつかの惑星(ほし)の風景に似て

・二万年前吾がまだ原子であった日の宇宙空間をただよう記憶

・わがもてる触角(フィラー)であちこちふれてみてたしかめてみる君という人


未来人の恋模様?

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カー・イーブン

・おとといの記憶もたないじいちゃんをタイムパトロールなのだと思う (カー・イーブン)

なるほど。


・少子化をくいとめるためAKIBAにて開発される2Dメガネ

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帯一 鐘信さんです。

・モノリスがふりそそぐ日をゲーセンで待ちわびている鼻たれ小僧 (帯一 鐘信)

モノリスでテトリスをやるという妄想を詠んだ歌でしょう。たぶん。


・夜露死苦を背負って走る族たちをマザーシップが富士で迎える

・砥ぎ終えた刃物に浮かぶSFの未来の街はゴーストタウン


これはうまい。


・生体の反応示す隕石に乗っていたのはゴキブリだった

_______________________
 
富田林薫さんです。

・ジュピターはあかいひとみになみだしてあおくかがやくほしの最期を (富田林薫)

・さいこうの君のえがおをとじこめた記憶キューブをなくしてしまった

・えいえんにくるくる回るコロニーのほんとうの風をしらない少年

・おとなりのレプリカントも平凡な日々の暮らしになれただろうか

・屈強な妻アンドロイドはいにしえのロボット三原則をしらない

・深遠のワープゾーンを行き来して何にいのりをささげる まりあ

・みてごらんみなみのそらの超新星 ほら、いのちってうつくしいもの


まとまってはいますが、
もうちょっとパンチが欲しかったです。

_________________________

新井蜜さんです。

・肛門から口に向かって裏返えり巨大ナマコとなりし信長 (新井蜜)

絵的に凄いものがあります。
信長という名前を出せば、どんな情景でも許されそうな雰囲気があるのはなぜなんでしょう。


・古墳から念力姫が掘り出され書き換えられた歴史教科書

・十七のきみの瞳に吸い取られ離脱したまま戻らない我


____________________

暮夜 宴さんです。

・密室に閉じ込められたそのおとこ春に巨大な繭玉と化す (暮夜宴)

・ゆうぐれの空き地の土管くぐり抜け迷い込みたるマリオの世界

・恋文をポストに入れる瞬間に我が身も飛ばすSF少女

・はしゃぎいる子を飲み込んで水たまりその深淵は宇宙(そら)へと続く

・我らみな家畜となりて食肉のために飼われぬ宇宙の果てで



何度も改作を送ってくれましたが、良いと思ったものを残しました。
文語と口語が混じってもかまわないです。
同じ文字が続いて読みずらい時などは、重ならないほうを選択すると良いです。
たとえば、「閉じ込められし真珠貝」だったら、
「閉じ込められた真珠貝」にしたほうが良いと思うのです。

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コーナー獲得に王手の
かんなさんです。

・給食のグリンピースがわらわらと僕の器にテレポートする (かんな)

「わらわら」でいいのかな?


・父さんの帰宅回路はぶっ壊れ今日も酒場に転がっている

・冥王星十番街の裏通り 光を知らぬ人が棲みつく


「銀河鉄道999」に出てきそうな星。


・真夜中の駄菓子屋で買う金平糖 地底の町の空にこぼれる

・新しい地球がみつかるその日まで凍らせておくノアの方舟 


これはちょっと発想が陳腐ですね。

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岡本雅哉さんです。

・飛びこんで、右から5こめの水たまり!小学校への近道だから (岡本雅哉)

小学生っぽい妄想を詠んでくれました。


・床の間のモノリス突然起動してほほ笑む元カノのホログラフ

・いつだってこの日に帰ってこれるよう結婚指輪をメビウスの輪に

なるほど。

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ヤマダワタルさんです。

・電脳政府樹立宣言されし日の正午かすかな電波混濁 (ヤマダワタル)

・錆びつきし義肢を垂らしつきみはまだヘッセなんかにかぶれてるのか

「垂らして」にしたほうが良いのでは?


・惑星間バスの窓から見ていたね流星になれぬ蛍の群れを

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小野伊都子さんです。

・屋根裏のブラッドベリと星空で11歳のぼくはできてる (小野伊都子)

・本を燃す炎はいつも美しい 華氏451保ちつつゆけ

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ももやままこさんです。

・熱視線放てばレーザー光線となって彼をここから切り取る (ももやままこ)
  
♪見つめ合う視線のレーザービームで〜
「2億4千万の瞳」(郷ひろみ)の歌詞を思い出しました。

思い出さなくていいから!

ジャパァ〜ン!


・パスワード「2-10」と打たれしパソコンに意志が宿れば起動を止める
※2-10=ニート
 
なるほど。

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そう蛸さんです。

・双子座の人の運勢気にしてるポルックス宇宙港での朝も (そう蛸)

・給食を少し残して筆箱の中でしっぽをふってるチワワに

・口笛がふけないせいでまた僕は第二異星語単位をおとす


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こたまさんです。

・メル友は星の彼方に居る時代 だから隣りの君が愛しい (こたま)  

・朽ち果てぬ機械の躯を手に入れて 死ぬるを忘れ生くるも忘れ

素直な感じが良いと思いました。

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やましろひでゆきさんです。

・ロボットの三原則がいつの間にかウチの幼稚園の壁に貼ってある

・実は君は平行世界でボクのこと追っかけ回しているかもいないかも 

・このヘッドギアをかぶればこれ以上ヒトのココロは聞こえてこないのだ 

オウム事件を詠んだ歌としても通用します。

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104heroさんです。

・SFの「S」はぜってぇ「アレ」だろう?十四の空に春萌しけり (104hero)

SFというアルファベットに注目した歌です。

・あの時はソウオモッタノ。そうじ機に乗れば宇宙に行けるんだって

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★ぼくらの1首劇場★


・ああやはりスイッチに似た大ぶりなホクロが小松左京の喉に (砺波湊)

・地球儀に手と手と触手 この星と五年二組を忘れないでね (宮川邦恵)

・いつまでも幽霊だって思うなよ棺桶102号室にいる (木下奏)

SFなのかどうかは疑問ですが、
おもしろかったので採りました。


・突然なキスでおどかすときいつもラベンダーの香りがしてる (天国ななお)

・殺すぞと云えど宇宙の人だから聞き分けも無しミサイル発射 (やすぼう)

・ソラと言う少女に君は操られ地上で今日も失敗をする (外神田外堀(江戸秋葉原狂歌人))

・君が乗る夢いっぱいの宇宙船不時着させる私の引力 (こまどり)

・鳥居、鳥居、鳥居のつづく坂道の奥から逃げ出してきたET (河村壽仁)

・女生徒のスカートばかりめくってたあいつが今じゃ“光の念力士(エスパー)”
(バッコス☆あきら)

「光の戦士」くらいにしたほうが良いと思います。


・この時間コンビニにたむろしてるのは変身をしたコオロギたちだよ (どぼん)

・昨日より背中の鱗が増えてるし月曜日から海で暮らすよ (倖村智美)

・群雲にまぎれて浮かぶUFOに手を振る吾子の瞳ははるか (団塊)

・書店にて『短歌ヴァーサス』百号を手に取る瞬間霧たちこめる (みうらしんじ)

・さよならと出てく彼女を追ってった月の裏には宇宙艦隊 (たちはらそう)

・睡眠はサプリメントで摂取して夢を見るには許可が必要 (岩崎はる)

・月行きの定期船便運び去る朱塗りの棺につがひの揚羽 (穂ノ木芽央)

・甲子園の土を包んだリトルグレイ故郷に向けて舌打ち一つ (笑いヤマ)

・朝礼のチャイム響いて保健医はテレポート失敗の子の元へ (そうがわさやこ)


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殿堂入り投稿者コーナー
まずは、
あきえもんさんです。

・クローンの生年月日はいつなのか同じ顔して悩む政治家 (あきえもん)

・黒塗りのロケットが飛ぶ 流星となる君のため祈る群集

・人類の滅びた後に残されたエチゼンクラゲと光る魂

・「安倍政権そんなの関係ねえ解散」と未来の少年諳んじており

・地軸には「あたり」の文字が浮かぶのだ回転しつつ溶けていく地球

・妊娠をしたとはじらうロボットの修理の前にそっと肩抱く

・異星人枠のトリオにただひとり松本人志は笑いこらえる

・過去だけに飛べる香りをただよわせ金木犀は寄り添って咲く



なかなかいいんじゃないでしょうか。

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創作のマグマが噴き出ている
鶴太屋さんです。

・目醒めれば未開社会の宴なるマンモス炙りて歌ひ啖(くら)へり (鶴太屋)

・電話機のむかうに聴きゐる虹色の石油の時雨過ぎゆく火星

・寒月に震へる外郎(ういらう)食ひゐれば月の十字架放つプラズマ

・投函せし手紙が届く百年後の築地市場にくれなゐの鮪(まぐろ)

・昼餐の胃袋を匍匐前進する隊員想ひ啖(くら)ふレバニラ

・巨大ダコに搦めとられし折りも折り司法試験合格通知

・ロプロプの棲む森に住むエルンスト訪(おとな)へば銀色の宇宙服

・豆タヌキの根付彫りゐる晩冬の小人国(リリパット)への求人打診

・テレビ百台燈りてゐたる駅頭の電器店に潜(ひそ)む宇宙難民


「ウルトラセブン」にありそうなシーンで、
魅かれました。


・空港の扉のひとつ過(あやま)ちて開ければ驟雨に濡れゐたるモア

・群青の風につつまれピエロ哭(な)く春の鬱屈のテレパス少女


テレパス少女というSF用語が
抒情に溶け込んでいて良いと思いました。


・白魚啜(すす)る青年の夏パンドラの箱の透視を試みむかな

・タンギーの黄昏の地を増殖するみだらなオブジェどれも翳もつ

・ジョアン・ミロ画集を開けば一滴の涙を蔵し宇宙(そら)ゆく破船

・ニュートンを喚び出してゐる交霊の寝室に浮くくれなゐの林檎


この構図いいです。
情景が決まっています。


・かりがねの空を渡れる永遠の銀いろの糞零れこぼれゐき

・初夏の巷に転(まろ)べば百匹のピンクの豚が飛びゆきに候(そろ)

・砂嵐の真夜の戸外を沈思せりひたひたと湧く火星への郷愁

・木星のドリアン熟れれどテレポートする気も湧かず洟をかみをり

・メタセコイアの幹を透かして視る太古 人類の記憶が露に濡れゐる

・輝ける純正律響(な)る黄金(きん)の宇宙 ステップ軽くフーガを踊る

・卵より孵(かへ)りしダリの口髭のアンテナがさす夢なる鮟鱇

・石榴をめぐる蜂にも飽きて四次元の樹間に透けるわが身体かな

・扉(ドア)より雲がしのびこむ夏 木苺のジャム煮詰めゐる勝利は苦し

・星間を渉れる宇宙キャラヴァンの商ふ悲哀の女(ひと)のイマージュ

・記憶より青き血滲む月曜日 冥王星に凛(さむ)き玻璃降る

・地底の檻の青きランプに照らされてときには燃えあがる猛き麒麟

・薄明の冬に手紙(ふみ)焚く 宇宙空間さまよふ薔薇は想ひ出の影

・月光の炎えゐる黒き森に彳(た)ち彗星の女(ひと)への繁(しじ)なる恋慕



あいかわらず才気走っています。
いつか鶴太屋さんの歌集が読みたいです。

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松本響さんです。

・出生地「動く歩道の上」という君の背中にオイルをたらす (松本響)

・美少女が後夜祭にて披露したナチュラルすぎるロボットダンス

・東京と火星を繋ぐマンホールが渋谷区内に隠されている

・先生の綺麗なうなじのその先にアンドロメダの紋章がある


こういうの好きです。


・おまけ付きキャラメル箱が呻きだす 小指サイズのトリケラトプス

「ドラえもん」っぽいワンシーン。


・花束に宇宙植物 恋をした金曜日には悲鳴を添えて 

・紅白の強化スーツを着せられた運動会は楽しいですか

・思春期の発火少女が放課後のスプリンクラーで涙をかくす

・銀河系ファッショショーで天の川歩く彼女の美脚八本

・春の日の人事異動の辞令後の転送装置の前の父さん

・ニューヨーク東京間を十五分 車掌目を閉じ念車は走る


おもしろい。


・古文書の「TAKOYAKI」の意味解き違え火星の民は地球を憎む

・サスペンスドラマが流行る木星でリメイクされる「火星婦は見た」


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お疲れ様です!

いろいろ締切を過ぎた原稿が溜まっているので、
ちょっと乱暴な評になってしまったあもしれませんけど、
丁寧にやろうと思ったら来年になってしまうので、
このくらいで勘弁してやってください。

丁寧な歌評は斉藤真伸さんにやっていただきましょう。

それではみなさん風邪に気をつけてお過ごしください。
今年の風邪は長引きますよ(実は風邪ひいてます)。
せき・こえ・のどに浅田飴!(永六輔のモノマネで)

永さんのモノマネのやりすぎで喉を痛めたんじゃないですか?

まぁそれもあるけど・・・。
永さんのモノマネといえば、

12月16日(日)10:30〜11:00
※ 以前お知らせした放送日に変更がありました。

文化放送
「浜美枝のいつかあなたと」
ぜひ聴いてください!

よろしく哀愁☆
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2007年10月21日

「漫画家」総評


大変遅れてしまってすみません! 笹師範です。

えー、今回の「漫画家」というお題、難しかったようですね。
正直、選ぶこっちも難しかったです。
知らない漫画家や漫画が多くて、グーグルの画像検索をフル稼働させて選歌に励みました。そのため、いつも以上に時間がかかってしまいました。
途中でえらい「お題」を出しちゃったなぁ・・・と後悔しましたよ。
後悔先に立たず。

覆水盆に返らず。

EE JUMPなのに飛べず。

最後のはなんですか!
どさくさにまぎれて時事ネタやめてください!

まぁそんな感じで低調だったわけですけど、今日は漫画家をはじめとする人名の短歌を詠む時のポイントについて話をしたいと思います。

先日、放送されたテレビ「NHK短歌」で、
栗木京子先生が僕のこの歌について解説してくださいました。
奇しくもこの日のゲストは、漫画家の池田理代子先生でした。

浜辺には力道山の脱ぎ捨てしタイツのようなわかめ盛られて 
(笹 公人)

以下、栗木先生の解説です。

この歌では力道山の颯爽とした姿を描くのではなく、脱ぎ捨てた黒いタイツを浜辺に打ち上げられたわかめの比喩として思い出しています。その視点がまことに稀有な面白さを感じさせます。
脱ぎ捨てられたタイツにはどこか王者の哀れさが漂っています。
喧嘩の刺し傷がもとで三十九歳の絶頂期に急死した力道山の生涯を考え合わせるとき、今は亡きヒーローへの心寄せがつたわってきます。


わが意を得たりの解説でした。さすがは栗キョンです。
力道山が絶頂期に刺殺されたという背景があるから、浜辺のわかめに無常感が漂うわけです。海へ来た理由も、失恋したからなのかなとかいろいろと想像させてくれます。
これをもし、力道山ではなく江頭2:50のタイツとしていたら、こういった無常感は出ないでしょう。
ある種の哀愁は漂いますが、力道山ほどではない。

なるほど。

ようするに、人名の背後にある情報を暗示させて効果を出すということが大切になってくるわけです。
漫画家の場合、一部の人をのぞいて背後にある情報が見えにくいわけですから、その作品から想像してつくるのが一番てっとり早い方法と思われます。

そこで陥りやすいのは、
誰でも思いつくようなベタな発想になったり、
作品にまつわるエピソードの説明に終わってしまうということです。今回もそういう歌が非常に多かったです。
やなせたかし先生がアンパンを食べられないとか、
水木しげる先生が墓場にいたとか、
美内すずえ先生が仮面をはずすとか、
ちょっとベタすぎるなぁと思うわけです。
もしも自分がそういった歌を雑誌に発表したとしたら、
読者に見放されて連載は打ち切られてしまうでしょう。

厳しい世界ですねぇ・・・。
ではどうすれば良いのですか?

たとえば、今回僕はつのだじろう先生で歌を二首つくりましたが、それにあたってまず、つのだ先生にまつわる情報をピックアップしました。
つのだじろう先生といえば、心霊モノ。なかでもメジャーなのは、

「恐怖新聞」
「うしろの百太郎」


ですね。
そこで、

恐怖新聞を配っている男を見たら、つのだじろう先生だった。

とか

ダジャレっぽく、「うしろのつのだじろう」

とか一瞬にしていくつかの発想が生まれました。
でも、この程度の発想で歌をつくるのはプロとして恥ずかしい。
そこで、もうちょっと掘り下げてみる。

つのだじろう先生が書く直筆の文字って、撥ねが強いよなぁ・・・・。
ドキュメント番組で映された自宅の表札の文字もあのまんまだったよなぁ。

という情報を思い出しました。
この光景なら歌にしてもなんとか様になるでしょう。
ということで、歌にしてみました。


撥ね強きつのだじろうの表札の字に立ちどまる霊魂もいて 
(笹 公人)


お見事!

ところで、最初の発想と後の発想の違いは何だと思う?

マニアックなところでしょうか?

マニアックという言い方は正しくないね。
なるべく人が意識をしないようなところに目を向けている、というところが違うんだね。
人が意識しないようなところ、人が見落としがちな部分を見つけて歌にすると、不思議とリアリティが生まれます。
それに、つのだ先生の人となりもより伝わるかと思います。

人が意識しないようなところを詠むというのは、人名にかぎらず、短歌の奥義かもしれません。
そのへんのテクがうまいなぁと思う歌人に、吉川宏志さんがいます。

カレンダーの隅24/31 分母の日に逢う約束がある  
(吉川宏志)

涙溜め飲み干してゆく大壜に<亀甲萬>の文字はありしか 
(吉川宏志)

1首目、カレンダーの中に分数があるという発見を詠んでいます。月の30日か31日が第6週にあたる場合、カレンダーの左下に分数みたいに見える部分がありますよね。あれを詠んでいます。ふつうはスルーしちゃいますよね。ただ「週末に逢う」とか書くよりも、ぐっと個性的で印象に残る歌となりました。

2首目は、第二次世界大戦中の話を詠んだもの。
赤紙が届いた若者が、徴兵を避けるために醤油を一気飲みしてわざと体を壊して徴兵検査で落第になろうとしたという話をよく聞きますが、そんな醤油の銘柄に注目したことで、ただのお話では済まされないリアリティが生まれました。

ぜひ参考にしてみてください。

お知らせです。

朱川湊人×笹公人
「遊星ハグルマ装置」
更新しました!
「U市にはもう帰らないから」


『短歌ヴァーサス』11号(風媒社)発売されました。
「おそうじ風水術」というタイトルの連作15首を発表しています。
『短歌ヴァーサス』はこれで終刊だそうです。良い雑誌だっただけに残念。

『わしズム』秋号(小学館)
近日中に発売予定です。
連載「タイムスリップ31」
今回は、80年代の流行語を短歌にしてみました。

ぜひチェックしてみてください!

長々と失礼しました。
では、「総評」に移ります!
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まずは、

ランダムハウスさんです。

・フェイクとて山止たつひこと名乗りしが百巻超える不倒こそ戯画 (ランダムハウス)

・原稿料拒否したるとの伝説の漫☆画太郎のばばあの乳房

・文学に昇華するまで繊細に描く、描きし、岡田史子は

・凡庸の中の凡庸武器としてサトウサンペイあり な忘れそ

・鮮烈に乱の時代を駆け抜けて天動説の星となりしか

・コンタロウかつてジャンプを飾りたるエスプリ嬉しエスプリ淋し

・ガロ系のさきがけとして人間を描きたり夭死の楠勝平

・パースペクティブ・キッドなつかし餡子屋の息子なれどもひさうちみちお

・猟奇王権神授説信仰し川崎ゆきお走り続けよ!

・賭けるゆえカイジ在りけり 福本の快楽としてじゃんけん地獄



漫画家にまつわるトリビアルなエピソードを巧みに絡ませています。
スピード感も迫力もあり、圧倒されます。
ただ、ちょっと藤原龍一郎さんの影響を受けすぎですね。
もしかしたら藤原さん御本人かもしれませんが。

このBLOGには有名歌人がペンネームで参戦することもあるので、油断も隙もありゃしません。

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かんなさんです。

・もう一度少女にかえる陽だまりで「いがらしゆみこ」と唱えて眠る (かんな)

・マウンドの君の背中を見つめてるあだち漫画のヒロインとなり

・色褪せた水木しげるの全集がもう来ぬ客を待ちわびる宿

・まだ赤い薔薇が散りゆく庭園に池田理代子のアリアは響く

・「銀河系松本零士の星巡り」2100年のはとバスはゆく

・路地裏に縁台置いて酒瓶をかかえた滝田ゆうを待つ夏

・目覚めれば柴文ふみと脱ぎ捨てたストッキングがあるだけの部屋


この歌が一番いいです。
ストッキングがよかった。

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砺波湊さんです。

「竹宮恵子」
・少年がリボンタイほどく指先を真似てつくった影絵のキツネ (砺波湊)


「高橋留美子」
・天高く「ちゅどーん」と大きな爆風が吹き出しそうな秋晴れだった

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暮夜 宴さんです。

・夏の夜に煌くベガとアルカイダその頂点に松本零士 (暮夜 宴)

・どこからか廃油の匂い流れ来て夕ぐれはつげ義春の色

・野の花で作る小さな花束をくらもちふさこに届けたい朝

・気まぐれな風の尻尾を捕まえて弓月光と命名をする


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久米島洋平さんです。

・髪の毛や撒かれた砂を掃除する 水木しげるの朝の1コマ (久米島洋平)

・耐え切れず ねずみ男にファブリーズ 水木しげるの朝の1コマ

「1コマ」よりも、もっと適切な言葉があるはず。


・だれかからなにかが届く 包まれた新聞で知る つのだじろうと

・不条理なことを平気で言ってくるヤツに見せない吉田戦車を

・試みに野中英次を読んでから課長になっても遅くはない

・ダイヤモンド取引価格の舞台裏 さいとう・たかをに教えてもらえ

・最終回描き終えたとき弾丸がさいとう・たかをの頭部貫通


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魚虎さんです。

・自らのツヤベタのようでありました里中満智子の漆黒の髪 (魚虎)

「吾妻ひでお」
・足首太き制服少女が溢れ出す吾妻ひでおに統べられた街

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酒井景二郎さんです。

「千之ナイフ」
・永遠ニ老イヌ少女ハイカガデスカとカタコンベから我を呼ぶ聲 (酒井景二郎)

「高橋葉介」
・安酒場の隅から聞こえてきた會話「檻を買つたら少女も要るな」

「勝川克志」
・ビー玉を二三個ポケットに入れて昭和を驅け拔ける 下駄履きで

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佐々一竹さんです。

・本日の牌勢如何に、ドーモ君。福地泡介去りたる十年(ととせ) (佐々一竹)

・平凡の毎日こそが難しくフジ三太郎年金暮らし

・夕刊を開けばそこはまっぴら君。きょうは水曜<連想ゲーム>

・夕食の侘しき日々ぞタンマ君。東海林さだおは食い続けるも

・往年のバトルもいまはなつかしく鈴木義司と富永一朗


サラリーマン漫画で統一したところがよかったです。

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みうらしんじさんです。

・サルマタケ生える部屋にてマッキーでメーテルを描きマッキーを折る (みうらしんじ)
 
・火の鳥のごとくわたしのこの胸に手塚治虫が棲みついている

・大いなる二発のタマを打ち上げて鳥山明が空高く舞う 

・こんな日はあすなひろしを読みながら午前零時の青空を見る

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岡本雅哉さんです。

・忘れてた大事なことをささやいたこうの史代が朧月夜に (岡本雅哉 )

・雪玉をぶつける少年沈黙で責む冬野さほの赤い頬っぺた

・涙目で冨樫義博改心す月にかわってお仕置きされて


「あしべゆうほ」
・描きかけの原稿用紙の傍らでマスカラブラシが干からびてゆく

「柴田ヨクサル」
・天空の支配者だった美少女と将棋の盤の下かくれんぼ

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ウクレレ法師さんです。

・漫画描く時は今でも隙だらけさいとう・たかをの背中は丸い (ウクレレ法師)

・思春期の巻頭カラーを飾ってたえびはら武司のマチコ先生

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かわらさんです。

「さいとうたかを」
・まはだかの女のせなを背もたれにさいとうプロの一日(ひとひ)はじまる (かわら)

・早朝のさいとうたかをの両腕にむらさきいろの縛られしあと 

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水野加奈さんです。

・うちの猫留守番だけは得意です ほしさん宅で使ってください (水野加奈)

・Tシャツの片袖だけが濡れている吉田秋生の少年がゆく

・アンなんかキライと言う子はいねえかとやなせたかしのナマハゲが来る


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富田林薫さんです。

・よあけまえしんじゅく二丁目ろじうらの江川達也似のおかまのなみだ (富田林薫)

・アンドレとオスカルという名のマルチーズ池田邸にて十代目となる

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音無さんです。

・栗貫は山田康雄に及ばぬとモンキー・パンチの嘆きは深く (音無)

・サッカーがマイナーだった時代から翼とともに高橋陽一

・藤子・F・不二雄の絶筆原稿は見慣れた青い丸顔でした


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こまどりさんです。

・起き抜けに渦巻く雲を見上げれば伊藤潤二の美少女浮かぶ (こまどり)

・旅立ちにさしあげませう赤い絲丸尾地獄に少女はゐたり

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ヤマダワタルさんです。

・わけもなくかなしい夜だ街中にやまだないとが描いたひとたち (ヤマダワタル)

・ゲームセットに到らず倒れた者たちへスマイルひとつちばあきお忌

・寂しくてもいいよ硝子の薄墨のぼかしの中で読む羽海野チカ

・なぜだらうさいとうたかをの描く麻生太郎を容易に想像できる


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外神田外堀さんです。

「吾妻ひでお」
・死ぬるまで三月兎飛び跳ねる 狂ってるのは見ているお前 (外神田外堀)


「クレヨンしんちゃん(臼井儀人)」
・かすかべの名誉市民の野原家にPTAの街宣車来る

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帯一 鐘信さんです。

・満員の電車が匂いしりあがり寿の描く顔があふれる (帯一 鐘信)

・峠へと屋根打つ音はぐるぐるとつげ義春の眠りは深い

・鉄パイプ握った指でアルバムをめくれば紡木たくのふきだし


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中村成志さんです。

・図書館に静かなる時流れゆく柊あおいの目も大きいか (中村成志)

・「おしおきをされたい服の第一位」みんな竹内直子のせいだ

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★ 一首劇場 ★


・校庭の桜の下のシーソーに浮いたまま読む竹宮惠子 (そう蛸)

・その週の最後の稿は臨終の手塚治虫のまぶたのうらに (徳毛圭太)


「湊谷夢吉」
・闇に呼わば闇より出ずるまぼろしを語れはるかな湊谷夢吉 (水野彗星)


「松本零士」
・おいどんが襖を開けて這い出れば宇宙の海に海賊旗揺れ (蝶ちゃん)


・ゆでたまごだからキン肉バスターで壊れない友情をえがけた (カー・イーブン)

おもしろい。


「鳥山明」
・吸殻の山から朝日が顔出せば鳥山明の原稿あがる (ももや ままこ)


・子供らのお尻のようにプリプリのあの田村信の線が欲しかった
(やましろひでゆき)


「ちばあきお先生」
・そんなにもうがんばらなくていいんだよ秋が過ぎても白球を追いつ(嶋田電気)


「杉浦日向子」
・一寸其処まで」と団扇すあさがほの波跡とほく江戸湾のはて (穂ノ木芽央)


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あきえもんさんです。

・幸せになりませんよう しりあがり寿と書くご祝儀袋 (あきえもん)

・合コンに集結をした君たちを古谷実さんに返したい

今回はこの歌が一番良かったです。


・よく焼いたスルメに浮かぶ紋様をつのだじろうが読み解いている

「バジリスク(原作・山田風太郎)」
・五百対五百で戦っているようだ千に分かれた風になっても

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鶴太屋さんです。

 〜『寺島町奇譚』を読みて〜
・寺島町の路地を雪駄で歩みをり少年時代の滝田ゆうに会つた (鶴太屋)

・駅前であんパンを買ふ松本零士に銀河鉄道の駅尋ねをり

・たらこくちびるの東海林さだおが食(た)うべゐる海鮮丼に鱈子はあらず

・秘湯にてつげ義春の跡を追ふ「湯の町エレジー」低く歌ひて

・田河水泡のらくろ描(か)きゐしかりかりとペン先駆つて敗戦に呆

・吾妻ひでおと同じ道歩みゐる兄の肝臓その他、やけくそ天使


 〜『無能の人』を読みて〜
・つげ義春粥一杯におとろへて石売る河原はかげろふのなか

 〜『東京物語』を読みて、またはバブル東京〜
・吸ひさしの莨も風に尽きたりといしかわじゆんは斜陽に佇ちて


 〜『GTroman』を読みて〜
・喫茶ロマンに憩ふ西風ペン先にエキゾーストの鋭(と)き音蔵し

 〜『アイデン&ティティ24歳/27歳』を読みて〜
・ディラン聴く酔ひ醒めの身が恋ほしくてみうらじゆんはヴォリュームあげる

 〜『まんだら屋の良太』を読みて〜
・温泉(いでゆ)に泛かぶ畑中純の股間にはあはき夕月うつろふエロス

バラエティに富んだラインナップでよかったです。

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松本響さんです。

・キャラメルマン壱号なんて呼ばれてた日々のうしろに鳥山明 (松本響)   

・魔方陣畑でとれた2メートル大根を売る麻宮騎亜

・チョコレート食べすぎて出た鼻血さえ奥義に変える宮下あきら

・きみに向け光を放つサイコガン 寺沢武一が恋を語れば

・ベルサイユ宮殿よりも華やかに池田理代子の表札がある

・虎柄の下着が干してある寮で庭掃除する高橋留美子


「うる星やつら」と「めぞん一刻」を
足したような世界。


「森田まさのり」
・森田氏はペンは拳より強いって赤いインクであなたを染める

好調ですね。

_______________________


今回は採れる歌が少なかったです。
次回はたぶんもっと簡単な「お題」なので、がんばりましょう!

お知らせです。

「笹短歌ドットコム」の常連投稿者でもある、てこなさんが、
現代歌人協会「第36回全国短歌大会」で、

《大会賞》
《選者賞》栗木京子先生選・米川千嘉子先生選
《佳作第一席》花山多佳子先生選
《佳作第二席》加藤治郎先生選


を受賞されたそうです。
おめでとうございます!

てこなさんのひとり勝ちですね。

素晴らしいですね。
でも、結局、てこなさんみたいに出せばいつも賞をとるというような人たちが結社に集まって、それからまたもっともっとレベルの高い競争がはじまるので、油断せずに努力していってほしいです。
てこなさんが今後、結社に入るかどうかはわかりませんが、
上に行けば行くほどサバイバルは大変だと思うので、がんばっていただきたいと思います。

受賞作品などは、こちらでチェックしてください。

♪「てこなのホイップ短歌」

大賞の歌はさすがに良かったです。感動しました。

以前も書きましたが、
当BLOGの投稿者で
「NHK全国短歌大会」の大会大賞を受賞された方には、コーナーを差し上げます。
てこなさんは、どうなるかな。

近いうちに、みなさんにビッグニュースをお届けできそうです。
お楽しみに!!

ということで、
よろしく哀愁☆
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2007年09月21日

「地名」総評

ハイパー短歌クリエイターの笹公人です。

また胡散臭い肩書きを・・・。
いったいなぜ?

そういう肩書きにしたら、
トップアイドルと熱愛できるかなと思って・・・。

高城剛さんじゃないんだから、
そんなの絶対無理!!

高城さんといえば、
以前お会いした時、
何も知らずに「長澤まさみはイイ!!」
と力説していたら、
なぜか強く反発されて不思議に思ったんだけど、
いまとなっては、

ハハーン、そういうことでしたか・・・。

と納得したのであります。
どうぞお幸せに。

さて、斉藤真伸さんが助っ人として登場してくれてから、
精神的に少し楽になりました。

そのようですね。

とはいえ、主宰者の俺より顔のイラストの種類が多く、倍以上もあるというのはいかがなものか。
俺の顔は5パターンしかないんだぜ・・・。

まぁまぁ。

おまえもアシスタントのくせに俺より多いし!

すみませんね〜。ボクなんか
こんなポーズも



こ〜んなポーズ



だってできちゃいますもんね☆

ペリカン便に詰めて田舎に帰すぞ!!


ということで、
いつもは「序文」で何か作歌のヒントになるような話を・・・
と考えているうちに更新がどんどん遅れてしまうのですが、
これからは斉藤さんにそのへんをおまかせして、
「序文」では適当に近況でも話そうかなと思っています。
もちろん短歌に関する話ですけど。

更新が早いにこしたことはありませんからね。

で、今日は最近ご恵贈いただいた歌集の中から特におもしろいと思った歌をご紹介いたします。


まずは、「未来」の大先輩でもある大辻隆弘さんの
『夏空彦』(砂子屋書房)から。


高校の卒業写真の友に似て拉致されし死者みんな長髪 
(大辻隆弘)

たくさんの拉致事件があった70年代という時代背景にスポットをあてた歌です。当時の若者はみな長髪でした。
拉致された瞬間に時間は止まったのだという印象を与えます。
モノクロームの卒業写真が浮かんできて、悲しみの中にも哀愁が漂っている作品です。


としうへといふ甘美さの耐へがたくあゝ豊胸の音無響子

高橋留美子先生の傑作漫画『めぞん一刻』のマドンナ・響子さんを詠っています。
「豊胸」という言葉が活きていますね。
これをもし「巨乳」としていたら、ダイナマイトなイメージが先行してしまって、響子さんのたおやかさとか控え目な感じは表現できないわけです。
こういう微妙な感覚を大切にしたいものですね。

しかしダイナマイトって・・・。

ダイナマイトなハニーでもいいんじゃない?

むかしのSMAPか!
微妙に懐かしいこと言うのやめてください。


お次は、
現役女子大生の小島なおさんの第一歌集
『乱反射』(角川書店)


バス停やポストや電柱ひびき合い痛いくらいに夜は澄みゆく 
(小島なお)

もう二度とこんなに多くのダンボールを切ることはない最後の文化祭

教室の机に書かれた落書きのピノキオひどく急いでいたり

書きかけてやめた手紙を想うとき切手の中の砂丘をあるく

右足で左足を砂に埋めている。まだ少しさむい海にきている。



上質の青春短歌です。歌意は説明不要でしょう。
良い意味で普遍性があって、とても良いと思いました。
文化祭のダンボールとか机の落書きとか、自分も十代の頃に歌にしてきたけど、こうも処理の仕方が違うものかと感心しながら拝読したのであります。

同じ学校ものといっても師範となおさんでは、
『漂流教室』(楳図かずお)と『タッチ』(あだち充)くらいの違いがありますから・・・。

たしかに!。

ということで、最近特におもしろかった歌集をご紹介しました。
毎月たくさんの歌集をご恵贈いただいています。
なかなか御礼の手紙を書けずにいますが、ちゃんと拝読しております。この場を借りて御礼申し上げます。

この2冊に共通しているのは、学校の歌が多いところ(大辻さんは高校の先生です)。
俺もひさしぶりに学校の歌を詠みたくなったぞー!

いや、全然ひさしぶりじゃないと思いますが・・・。

いよいよ秋だし、
妄想学園の学園祭の歌でもつくろうかな。

ところで妄想学園のマドンナは?

マドンナは・・・・・・
キミだ!


お知らせです。

朱川湊人×笹公人
「遊星ハグルマ装置」更新しました!
「マサオの夢見術」
ぜひご覧ください!

9月22日(土)に
NHKラジオ第一
「土曜の夜はケータイ短歌」
に出演します!

よろしく哀愁☆

ということで、「地名」の総評にいきたいと思います!

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まずは、
てこなさんです。

・まだ好きと言ってないころ業平を君と論じた明大前駅 (てこな)

・西荻の駅階段で攻め合ったカツオとトンコツ風味の舌で

・わたくしも夕日も楕円 キャプテンに押し倒された菅平にて


いけないキャプテンです。


・NICUから見ようパパとママが出逢った駿河台のあおぞら

・本当のことを話すわ浜名湖でうそはうなぎになってゆくから


これはおもしろい。
穂村さんのドラえもんの歌を彷彿とさせます。


・テキサスの味レモネードを飲みましょう離婚届をコースターにして

・葛飾の真間の入り江に飛び込まずあたしは生きる二股をして


※万葉集に詠まれた「手児奈」の伝説と、山部赤人の歌をベースにしています。

好調ですね。
この調子でがんばってください!

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みうらしんじさんです。

・はたらけぬあなたはじっと手をみつめ朽ちてゆくのだ北九州で(みうらしんじ)

参考ブログ
http://kikko.cocolog-nifty.com/kikko/2007/08/post_66d2.html


・光市の元少年の名と顔を知らないぼくが持つデスノート
 
・ぼくのこと思い出したら逢いましょうムーミン谷で待っているから

・あかねさすペンギン村で放射能浴びてたたずむ則巻アラレ
 
・南国の太陽として歴代の宮崎県知事みな禿げている

 
小さな発見を歌にしてくれました。


・東京という名の駅前床屋からテクノカットで出ていくわたし 

「東京」ではなく
「TOKIO」にしたほうが、テクノ感が出ます。


「全国のファミリーマートで「そのまんま宮崎フェア」を9月10日(〆切の翌日)まで行なっています。
みなさま、ぜひ立ち寄ってくださいね。」by・みうらしんじ

とのことです。
よろしく哀愁☆

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宮川邦恵さんです。

・新橋の朝やあお向け油蝉 男の枕の香を濃く立てて 
(宮川邦恵)

上の句のリズムがいいです。


・エロマンガ島を飛び立ちレマン湖へ 弟ったらまた夜間飛行

出た!シモネタンカ
これは完成度高いですよ。


・クーラー座天頂に来て東京が冷凍ごはんの眠りに沈む

・北向きの窓辺で母は種子になる クッションに咲くスウェーデン刺繍


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酒井景二郎さんです。

・天界を侵略しつつあるのだから虹も切り刻まれる東京 (酒井景二郎)

・黄昏の犬吠埼の突端にひとりエンリケ航海王子

・お互ひをむさぼり盡くす覺悟として胸に「札幌」の字を書き付ける


よくわからないところがいい。


・高圓寺ビルを躱した夕燒けに二階の窗がゆつくり染まる

・悲しみに沈むおまへの脊柱にカリフォルニアをなすりつけたい

・野邊山にエレクトロンが降る夜にあなたの細い指を握つた

・台風にブラジルビキニ飛ばされて夏はかけらも殘さず消えた


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富田林薫さんです。

・ゆっくりと空の歪みをたしかめて永田町界隈にかくすばくだん 
(富田林薫)

・ああ、オレンジのそらがネオンとまざりあう扇情的な新宿にいる

・ともすればかたむきかげんになる僕をささえるあかい東京タワー

・コパカバーナ顔したおんなのしゅうだんが欲望などを煽るまちかど

・さかみちをのぼるベクトルまよなかの道玄坂は僕のうつむき

・おいかけて横浜たそがれ中華街 きみのあいしたシュウマイをかう
 

富田林さんの作風には、ひらがな多用が合っているかも。
この調子でがんばってください。

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砺波湊さんです。

・半透明の傘の死体とばかり遭う朝に新宿のぬるいビル風 (砺波湊)

朝の新宿感が出ています。


・パタリロによく似た老婆を見た記憶 鶯谷の煙草屋の脇

パタリロに似たおばあちゃんよくいるよね。


・すれ違うどのネクタイにも鼓笛隊首振りてゆく御徒町の朝

・田町には何本くらいあるだろう傘立てに眠る金属バット


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かわらさんです。

・広島焼きの欠片を取り合う白鳩に取り囲まれたる笑顔のオヤジ (かわら)

・夕づきて大阪城のお堀から蛸のようなる生物を見つ

・夕暮れの嵐山にて見つめれば吾(あ)の部屋で死にし女を想う


明治時代の歌人の歌みたい。


・口中を酒の香りに満たしおる女は能登へ鈍行でゆく

・鏡には不機嫌そうな美容師と奈良の大仏となりたるわれ


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松木 秀さんです。

・北海道伊達市弄月町(ろうげつちょう)秋野肺気腫を病む叔父が住む街
(松木 秀)

・金正日にやにやとして語りけり「神保町はよく燃えそうだ」

おもしろいです。流石。

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かおるさんです。

・独り身の宮本くんが潜んでる武蔵小金井 西日がキツい (かおる)

宮本武蔵をかけてるんですね。
気づくまでに時間がかかった・・・。


・もったいない 越後魚沼コシヒカリ 大食い選手権の炊き出し

「もったいない」と言わなくても意味は通じるので、
「もったいない」は省略しましょう。


・日常のくびきを絶ちて登り行く熊野古道に降る蝉時雨

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帯一 鐘信さんです。

・前掛けの汚れ模様がアメリカにみえるまで焼き肉を喰う夢
(帯一 鐘信)

「夢」は入れなくて良いです。


・春日部で999を待っている少女の目にはアンドロメダが

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作山さちさんです。

・ゆらゆらと揺れるピアスに銀色の月を映して歩く新宿 (作山さち)

・ペニーレイン降る原宿に空耳のリンゴ・スターの歌声を聞く

・沼津産鯵の開きを焼く朝に海の見えない窓を放てり


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下北佐古さんです。

・東京に確かに空はなかったが僕らはほんとの空も知らない (下北佐古)

・二人にはお似合いだった船橋のマクドナルドももう広すぎる

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魚虎さんです。

・何処までも歩いてゆくよ錆付いたヨコハマタイヤに笑われながら (魚虎)

・素弘がボール蹴り込む三ツ沢に〈とびまる〉らしき幻の見ゆ。

・擦切れたリュックの底に弾痕付き『サラエボ旅行案内』はある 

すごく危険な冒険を想像させてくれます。


・コソボという小さき点に熱でなく光あつめるルーペはないか

・その国を二駅のみで過ぎてゆくリエカへ向う途中の列車

・クロアチア・ザグレブと呼ばれしひとときを越えて今ありディナモ・ザグレブ


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十六夜さんです。

・夢覚めて一人寝のさみしさに鴨川の月我かきたてる (十六夜)

・炎(ほむら)立つ合戦の地に想いはせ関が原を新幹線で行く

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タイラー&トマソンさんです。

・ほの甘いあげまんじゅうの香に酔って門前仲町鳥居にもたれ
(タイラー&トマソン)

・ひざ小僧塗られた赤チン陽に溶けて赤羽橋に出来立てのタワー

改作前のこちらのほうが良いと思います。

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かんなさんです。

・露天湯の女一斉に立ち上がる 川根路をいくSLの音 (かんな)

・夏の日が暮れてしまうね浅草で君と選んだ鬼灯色に

・尾道の夕暮れていく階段を転がり落ちて君になりたい


原作通り「石段」にしたほうが良いです。
むかし、「転校生」(大林宣彦・監督)のロケが行われた石段で
試しに転げ落ちたんだけど、もの凄く痛かったですよ。


・雨が降る野尻湖岸に佇んでナウマンゾウの足音を聞く

野尻湖といえば、やはりナウマン象。
こういう視点は大事ですよ。


・8月の穂高の山を見上げれば輪かんじき履くおじが手を振る

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カー・イーブンさんです。

・ユニバーサル・スタジオ・アメリカと読まばアトラクションに見ゆる戦争
(カー・イーブン)

なるほど。


・見る人を二色に分かつ家建てて吉祥寺から漂流したい

楳図ハウスを詠んだ歌。
そういえば僕も同じテーマでこんな歌をつくりました。


・楳図ハウスたちまち消えて顔のない猫がほのぼの歩いていたり (笹公人)

楳図先生にはぜひがんばっていただきたいです。


・殿、御乱心ください今や彦根城城主はひこにゃんでございます

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久米島洋平さんです。

・もしやあの警察官がいたりして亀有公園前派出所 (久米島洋平)

「亀有公園前の派出所」と「の」を入れて、
字数を合わせたほうが良いと思います。


・ブレードランナーをみて「わかもと」の文字をネオンにさがす歌舞伎町

・焼きたてのパンの香りを乗せてから自由が丘の扉は閉まる


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ももやままこ様

・灰色の空を映した薄暗いスープをすするロシアのどこかで 
(ももやままこ)

・東京に帰らなくちゃと君はもうここの人ではない顔をする

素朴で良いと思います。


・花巻で今も静かに息をするイーハトーブの欠片を探して

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新井蜜さんです。

・渋谷からメトロに乗って浅草のあなたの許へ花を届けに (新井蜜)

・夏空に浮かぶ四つのきのこ雲NewYorkParisLondonTokyo

近未来予言短歌でしょうか。


・冬の日の晴れたみ空の飛行船無人となった首都を見下ろす

・モアイ像の視線の先はふるさとの銀河を包む暗黒星雲


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作山さちさんです。

・アブサンをあおる女が抱くだろう モンマルトルの路地裏の猫 (作山さち)

・ユトリロの描くパリにもどこか似た君の街から雲が流れる

・切りすぎた爪で天津甘栗を剥いて五度目の秋を手渡す

・連隊を組んだヘリコプターのごとシオカラトンボ飛ぶ夢の島


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暮夜 宴さんです。

・手を繋ぎ海へと続く坂道を下ればサンタモニカの風が (暮夜 宴)

・身投げするわけじゃないのよほっといて能登半島に佇む女

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音無さんです。

・アステカの忘れ形見か君がいま古代のことばで語りはじめる (音無)

・アステカの旅人たちが語り合う砂漠に花の咲かない理由

・アステカに生きる少女はたおやかな黒髪を売り暮らしています

・アステカの錬金術師は求めてた不老不死という名の孤独

・アステカの奴隷市場でまばたきをしない少女の在庫が切れる

・アステカの夜空を雨が降るごとく泣きながら飛ぶ百の精霊


アステカを題材にした意欲作です。

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こたまさんです。

・富士急のお化け屋敷にゆきました 本物がいたのは誰にもないしょ  (こたま)

僕の知り合いの霊感ある人もそう言ってました。


・ナルニアへ行くと真顔で応えし君は今頃何処にどうしているか

・今の子はゲームで県庁所在地を覚えるらしとひとの言ふらむ


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そうがわさやこさんです。

・合併のために愛しき我が故郷地名は川の名に流された (そうがわさやこ)

・丹生の地にたいてい神社がある理由君は知らない僕は言わない

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ヤマダワタルさんです。

・黒人と混血の自衛隊員の肌打ちつけるオキナワの雨 (ヤマダワタル)

ちょっと作意が見えすぎなので、
もうちょっとぼやかしたほうが良いです。


・告白もなき失恋よ江ノ島に無意味にでかい夕焼けがある

・白きシーツはためく赤羽団地には何も言はざる母の幻


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しらぬひまちこさんです。

・前世に卑弥呼もいたのと言い切った九州娘のあつき唇 (しらぬひまちこ)

・ひと夏の出来事すべて思い出し阿蘇の火口を覗き込んでる

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水野加奈さんです。

・新宿で並んで買ったドーナツも乗せて電車はまあるく走る (水野加奈)

・水戸黄門好きだからってケータイに金の家紋はやめてください

・外人に鼻つままれしあの日より鬼門となりぬ四条烏丸


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★炎の一首劇場★

・この街に名物たくさんあるくせに土産でかぶった東京ばな奈
(芳賀はがろう)

・通過する特急の窓うめつくす[祝][合][併][南][セ]「ン」[ト][レ][ア][市]
(中村成志)

・胡蝶蘭 曽根崎新地一丁目賽が振られる夜の入口
(こまどり)

・老天狗住むといわれる口直海の木陰に市バスも昼寝しており
(游 ききあ)

・ゲームボーイアドバンスひとつ握りしめストーンヘンジに尻向けて小二
(かぶともし)

・「来福」の文字で歓迎されたくて福島福井福岡に行く
(イマカコ)

・あまた来し羽黒とんぼの一匹となる暑さかな呼返町(よびかえしちょう)
(秋野道子)

・東京の路線図を見てすごろくと勘違いする幼稚園児
(フィジー)

・消えかけのひこうき雲に乗り南セントレア市へ行きたい 君と
(嶋田電気)

・理不尽な弁護士たちに突きつける正義の剣あれば光市
(岡本雅哉)


今回たくさん投稿してくれたのに採ることができなかった
・釼持さん
・やましろひでゆきさん
・ランダムハウスさん
の作品は、斉藤さんに取り上げていただき、アドバイスを頂きましょう。
斉藤さん、お願いします。

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だんだん調子を取り戻してきた
あきえもんさんです。

・蒲郡ファンタジー館にファンタジーを求めるように我の中に恋を 
(あきえもん)

・カラカラと胸の鳴るとき読み返す津山殺しは薔薇色のカバー

・愛知県の形で眠る愛犬の豊橋あたりに傷痕がある


こういう体を地形に例える歌はたくさんあって、
どうしても既視感が出ちゃうので気をつけたいところ。


・我が胸のナスカの地上絵見るためか男は距離を置きたいと云う

・駅裏に「もしもBOX」が落ちていてモスクワ五輪が入ってました

・死ぬ前に伊勢に行きたいと云っていた父よそちらは伊勢に近いか

・飛騨高山殺人事件 棒読みの女将の笑みは引きつっている


今回はこの歌がおもしろかったです。

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ますますパワーアップしている
鶴太屋さんです。

・くるぶしを押へて泣いていたつけか武蔵野の薔薇めぐれる墓地で 
(鶴太屋)

・擦りむいた右膝抱いてきみの目に秋の電車は四谷を過ぎる

・放課後の哈爾濱食堂ラーメンのどんぶり捧げて少女匂へり

・臭豆腐(ちょーどうふ)齧りつつゆく台北の夜は昔のちりめんの月

・新潟土産の越乃寒梅少しづつ減りゆく祖父(おほぢ)の仏壇磨く

・浅草でおでんを突つく深秋の淋しきにぎはひチクワを覗く

・白骨(しらほね)の湯に浸かりつつスケルトンの人体模型と肩を並べつ

・遠野の宿に柳田憶ひて円錐の夜闇の郷(さと)をさまよひ畏る

・停電の夜にさみしさ伝はれと受話器に聴いてる風の留萌よ

・鮎の香のくちびるそつと夜に捺すきみの想ひに泛かぶ択捉(えとろふ)

・東京の海の潮騒さやさやと胸に求(と)むるは青き楽譜ぞ

・愛別離の一生(ひとよ)燦たり金沢の汀に崩るる波を見てゐる

・柴又に団子頬ばり懐かしむ香具師の口上その背なの風

・フーテンと淋しさわかつ上野駅苦き秋刀魚のはらわた想へ

・木枯しの抜ける塩尻駅ホーム鯛焼き食(は)めば餡のはみ出づ

・祖母(ばば)の舎(や)に弾む風船「トンプク」と昔富山の薬売り在り



とてもよかったです。
今回は昭和の渋い部分が出ていると思いました。
一読者として楽しませて頂きました。

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松本響さんです。

・泣き虫の生息率は日本一 池袋には虹がいっぱい (松本響)

背後に様々なドラマを匂わせていて、
とても良いです。


・東京の重力加速に耐えられずサイド3へ移住を決める

・フカヒレのような食感楽しめば気仙沼市に使徒の襲来

・上越をオープンカーで駆け抜ける毘沙門天の肩に綿雪

・リアに似たアンドロイドが踊りだす九龍ナイトクラブの夜明け

・原宿でサクマドロップ落としたらC−C−Bの復活一夜


ポップでカラフルな感じが出てますね。
C−C−Bの復活ライブには、何度か立ち会いましたよ。
その時の写真(2004年12月30日)。
まだ痩せてたなぁ、自分・・・。

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ハッピータンカクリエイターの笹師範です。

まだ言ってんのかよ!

気に入ったかも。

どうでしたか?地名短歌は。

可もなく不可もなくという感じかな。
もっと地名に含まれている物語を追及するような
歌があってもよかったと思うんだよね。
地名にまつわる伝説は、おもしろいものがたくさんありますよ。
またいつかこのお題でやろうと思うので、
その時はぜひリベンジしてください。


10月31日まで募集してます。

ロシュ・ダイアグノスティックス主催
「好きな人に贈る 百人一首」短歌コンテスト

応募資格:高校生、専門学校生、短大生、大学生(但し30歳以下)
応募作品:未発表の自作短歌に限ります。
応募方法:1人3首まで応募可

作品はペンネームでも受け付けます。

選者 ■梅内美華子(歌人)、笹公人(歌人)、海原純子(医師)、やくみつる(漫画家)

さぁ、ハッピー短歌をクリエイトしよう!

うるさいよ!

ということで、
よろしく哀愁☆
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2007年08月19日

「田舎・ふるさと」総評

短歌BLOGをはじめてから2年半近く経ちます。
初期の頃から参加している方は、ようやく散文と短歌の違いがわかりはじめてきているようですが、初心者の方はまだそのへんがわかっていらっしゃらないようです。
そこで今回は、朝カルの講座などで効果を上げている秘密の訓練法を公開しようと思います。

題して、シャディーズサラダキャンプ!
BGMスタート!

なんだよシャディって。サラダ館かよ!
師範・・・さすがにこのネーミングには無理がありすぎます。
なんでも流行りものに結びつける果敢さには頭が下がりますが。

うむ。われながら強引じゃった・・・。反省。

で、その訓練のテキストなんですが、サラダというだけあって俵万智さんの『サラダ記念日』に関するものを使っています。
『サラダ記念日』がベストセラーを続けている最中、
1988年に出た『男たちのサラダ記念日』サラダ倶楽部作品(泰琉社)というトンデモ本があるのですが、それを活用しています。
『男たちのサラダ記念日』は、おそらく編集プロダクションの人間が『サラダ記念日』の見よう見まねで短歌らしきものをつくってみたのだと思いますが、このトンデモ歌集、原作への返歌という形式で歌が書かれています。
たとえば、こんな感じ。


「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日 (俵万智)

六月の花嫁は皆幸せになれると知った七月六日  (男たちのサラダ記念日)


うっ、これは!

カンタくんにもわかるよな、この2つの歌の根本的なレベルの違いが。

俵さんの歌は、なぜ七月六日?なぜサラダ?という風に謎があって引き込まれますけど、
「男たち〜」のほうは、単なる報告でしかないですね。

うん、いい答えだね。ペリカンにしては出来過ぎなくらいに。

『短歌研究』2007年7月号の俵万智さんの「七夕前日のサラダ記念日」によると、俵さんは、七月六日という日付けに関しては、当然「七夕」を意識していると書いています。
なんでもない日を記念日にしてくれるのが恋であり、歌である。
だからなんでもない料理としてサラダを選び、そして、サラダのおいしい季節として夏を選んだそうです。

♪なんでもないようなことが〜

黙れ!リーゼント

リーゼントって・・・!
ボクはただ条件反射で「ロード」(虎舞竜)を歌っただけですよ!

時間がないのでスルーしたいと思います。

そして、「シチガツ」の「シ」という音が「サラダ」の「サ」と響きあうところも気に入っていると。「七月六日はサラダ記念日」だけで、ここまでいろいろなことが考えられているわけです。

さすが!

さらには、丸谷才一氏に「あれは、芭蕉ですね」と言われて、ぽかんとして、『おくのほそ道』にある

  文月や六日も常の夜には似ず

という句をふまえてのサラダ記念日ですよねという意味の言葉を言われて恥ずかしくなったというエピソードも披露されています。
小田島雄志氏には「あれは、シェークスピアですね」と言われ、シェークスピアに「わが青春の日々」というような意味で「salad days」という表現があり、慣用句としても使われることがあるのだということを教えられて恥ずかしかったとも書かれています。
そんな風に恥ずかしいと言いながらも秘蔵のエピソードを披露してしまう俵さんのサービス精神と飾り気のなさに好感を持ちますが、しかし、こういった思いもよらぬ読者の解釈に恥ずかしがる必要はないと思います。
深読みを誘うのは名歌の条件の一つだからです。
信じるか信じないかはあなた次第です・・・!

ハローバイバイか!

それに引きかえ、『男たちのサラダ記念日』バージョンは、「六月の花嫁は幸せになれるという西洋の言い伝えを七月六日に知りましたよ」という、「だから何なの?」と言い返したくなるようなつまらない報告でしかない。
そこには何の謎も陰影もありません。               
なるほど。

続けていきます。
 

 砂浜に二人で埋めた飛行機の折れた翼を忘れないでね (俵万智)

 夕ぐれの海でお前と二人きり星がでるまで黙っていてくれ (男たち)


俵さんの歌は、空を飛ぶものが砂に埋められるという意外性もあり、そして、「飛行機の折れた翼」は二人の関係を暗示しています。
それがいわゆる詩の核の部分となっているのです。
かなりわかりやすい技巧ですが、
その返歌であるハワイの若大将チックな歌を読むかぎり、
『男たち〜』の作者はそのことにさえ気付いていないようであります。

ハワイの若大将って・・・。たしかに。

「夕ぐれの海・・・」の歌なんかはまだマシなほうで、次に紹介する歌などはコメントのしようがありません。


 砂浜のランチついに手つかずの卵サンドが気になっている  (俵万智)

 難しい料理は一つも作れないだけどお前の煮ものはウマイ!  (男たち)


 思い出の一つのようでそのままにしておく麦わら帽子のへこみ  (俵万智)

 夏休み二人で話し合ったけど未熟なばかりに「延期おねがい」  (男たち)


 君を待つ土曜日なりき待つという時間を食べて女は生きる  (俵万智)

 そう言えば年も名前も聞かないでSEXしちゃったこの娘(こ)は誰だ? (男たち)


 「また電話しろよ」「待ってろ」いつもいつも命令形で愛を言う君  (俵万智)

 留守電を入れたから大丈夫だよね かけるたんびに聞こえるはピー  (男たち)


「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ  (俵万智)

「愛してる」っていう僕に「そんなコト分かってる」って言う君が好き  (男たち)


書き写しているうちにだんだん腹が立ってきましたが・・・。

これはひどいですな。

「短歌なんてこんなもんだろ、一丁上がり!」という作者(男たち)の声が聞こえてきます。
しかもこれが二十万部も売れたというのだから、日本人って・・・と悲しくなってしまいます。
話は脱線してしまいましたが、
おそらく、この本を買った多くの読者には、
『サラダ記念日』の短歌と、勘違いオヤジのピロートーク的なつぶやきとの区別がつかなかったのでしょう。

これはみなさんに声を大にして言いたいことですが、『サラダ記念日』は、短歌の伝統的なルールに則っているのです。
『男たちのサラダ記念日』のような作品以前の歌とは根本的に違っているのです。
そんな風にルールに則ってつくっていることさえ感じさせないような俵さんの天性のテクニックがこういった誤解を生むことになるのだから世の中とは皮肉なものですが。
そして、その誤解により、『サラダ記念日』以降、男たち〜のような抒情も技巧もない、ただの歌謡曲のできそこないのワンフレーズを三十一文字にしてみましたYOという歌が圧倒的に増えました。
初心者ならば仕方のないことでありますし、本人がそれでよければ別にいいじゃないかとも思います。そしてそういう歌を気軽に楽しめる自分もいます。
しかし、プロのハシクレとして、立場上そのテの歌はこの「笹短歌ドットコム」では採れないのであります。
そんな無責任なことはできない。

歌会などに参加しないで、この暗黙のルールを身につけるのはとても難しいことですが、これを身につけなくてはまともな短歌は書けません。
1日も早くそのルールが身につくように、
今回から、一部の採れなかった歌を色無しで載せて、
どこがダメだったかを説明しようと思います。斉藤真伸さんといっしょに。

ついに! 待ってました!

ということで、がんばってださい!
ヴィクトリーッ!!!

朱川湊人×笹公人
「遊星ハグルマ装置」
更新されました!
今回のタイトルは、「夏の包帯」です。
ぜひご覧ください。

では、今回大変遅れてしまって本当に申し訳ありませんが、
「総評」にいきたいと思います!

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まずは、
初登場のhitomaroさんです。

・ふるさとの壁のセピアの御真影大礼服の虫干しの午後 (hitomaro)

・氏神の境内に積む米俵今日は年貢の納め日なれば

・母の母その母さえも使いたる黒きダイヤル電話に守宮(ヤモリ)

・青年団宿舎の娯楽室の隅もう動かないPCエンジン

・拝み屋の女房お狸様の後家公民館のバザーへ急ぐ



相当力量のある人が余裕の片手間でつくったという感じで、良いと思いました。
ライトでもツボを押さえた歌は良いですよね。
みなさんにもこういう歌を目指してほしいです。

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かんなさんです。

・あぜ道で摘みとり食べたヘビ苺 あの子の名前を思い出せない (かんな)

・軽トラの荷台に乗って寝転べば夏雲僕を追いかけてくる

・家出した少年納屋で水田の田螺のように息をひそめる


うまい。


・東京行きの切符を買いに来た駅舎だるまストーブ赤々燃える

・泣くような板張り廊下の軋む音 分校の取り壊しが決まる 

・無人駅 錆びた電車の扉開き夕焼けだけが乗り込んでい


情景が浮かんできます。


・西瓜泥棒捜査本部が設置され派出所が活気づく夏の夜

・半鐘をなくした火見櫓から眺めるあかい赤い夕焼け


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新井蜜さんです。

・雨降ったあとの空気が澄みわたりおおひら山が近付いてくる (新井蜜)

・県道に初めてついた信号の渡り初めする我が老人会

・電線の終端に俺の家があるという小川のいつもの自慢

・法事だと電話してきた教頭がなぜか御輿を先導している

・少年は泳ぎ疲れて赤津川沿いの畑の胡瓜もぎ食う

・かぶりつくトマトの汁が十三のあなたの口の端からしたたる

・海を知らぬ少女と二人松風の中で着衣を全て脱ぎ捨つ


寺山修司本歌取り。


・出車に立つ弟橘の像に似て悲しみ湛え俺をみつめる

・満月をてのひらに受け山門の仁王が俺の迷い断ち切る



新井さんは得意のお題になると、力を発揮されますね。
とても良かったです。

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砺波湊さんです。

・七歳の母が怯えたお蚕の鋭き咀嚼の満ちていた部屋 (砺波湊)

・畦道の夜に光をこぼすためローソン上細谷店はあり

・どんな夢を見たらいいのか枕には「おはよう!スパンク」柄のカバーが


・屋根裏の細い窓から確かめる公民館がまだ一番高い

下の句が説明的すぎます。

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はせがわゆづさんです。

・あぜ道の夕焼け今も覚えてる ずっと一緒とゆびきりをした  (はせがわゆづ)

・雨の日の土の匂いが好きだった ふたつ並んだ足跡に虹

・日が暮れるまでかくれんぼ 君だけが見つけてくれる場所で待ってた

・一番星見つけて名前をつける遊び 星の見えない町で思い出す

・私じゃない人と結婚する君よ夕日の色を覚えてますか

・削られていく土忘れられていく思い出いつか結婚する君

・虫取り網するりと抜けて別々の朝を描いていく二人です



ちょっぴり「木綿のハンカチーフ」(太田裕美)的な世界があってよかったです。
こういうテーマの歌、もっとくるかと思ったんだけど、
ゆづさんだけでしたね。意外。

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下北佐古さんです。

・ザリガニを釣ったことすらない人に恋するなんて思ってなかった (下北佐古)

いい感じです。


・みっちゃんのばあちゃん作の弁当に月一はあるイナゴの佃煮

改良の余地アリ。
真伸さん、お願いします。


・あの角を曲がればあった駄菓子屋のばあちゃんいつも怒ってみえた

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作山さちさんです。

・うたた寝の書店の主の頭上には機械仕掛けのオニヤンマ飛ぶ (作山さち)

・旅立ちの朝にベンチの背もたれにGood-Byeと書く鉛筆で書く

・地図にない小さな橋を渡るとき欄干に置く私の時間

・中庭の百葉箱の陰に住むトカゲの花子よ元気でいるか

・土砂降りの雨が透かした制服のブラウスの奥にふるさとがある 


いい感じです。


・新盆の提灯回る夕暮れに麦藁帽子の祖父を見かけた

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かわらさんです。

・真夜中の鎮守の森の深奥(しんおう)で月光仮面に縛られている (かわら)

なんだかよくわからないけど、おもしろい。


・この村に嫁ぐ女はみな馬鹿と謡うおうなと飯を炊きいつ

・実りいるこがねの稲穂のまんなかに黄金バットのごとき百姓


おもしろい。
でも、「実りいる」が余計。

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みうらしんじさんです。

「宮崎県に東国原知事が誕生して」

・街じゅうに広い額があふれだす 知事の似顔がひかる宮崎 (みうらしんじ)

・マンゴーと地鶏が県の特産であることを知る新知事になり

・県庁が観光地へと変化して生まれてはじめて県庁へ行く



なかなか良い連作だと思います。

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山田ロンドンさんです。

・あの部屋の桐の箪笥の二段目にわたしの下着は眠り続ける (山田ロンドン)

・二十年、開かなかった辞典には実家の匂いを閉じ込めている

・田舎には足りないものが多すぎて要らないものが何もない夏


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そう蛸さんです。

・二時間で家出をやめて押し帰るチャリのライトがオレにぶつくさ (そう蛸)

・少年が投げた水きり石疾り黄金の波紋ひく赤城山

・リングプル、はりがね、カブトムシ(頭部)、洗濯前の夏のポケット


好調ですね。

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宮川邦恵さんです。

・わが前にトラクターが来て「結局は家継いだんよ」と本田くん降り来 (宮川邦恵)

・ちちははも耳かきをタッチペンにして にっぽんの夏 DSの夏

コピー短歌としてはうまいかも。


・ざぶとんの枕ごろりと夏座敷 子がホースもて虹見せにくる

・帰還兵を迎うるようにちちははは立ちおリ 錆びしバス停前に

・ダムなんかじゃんじゃんつくれふるさとは滅ぼしてからおもうものだよ
 

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ヤマダワタルさんです。

・春遅き町にひたひた降る雪が銅の洗面器にほどけゆく (ヤマダワタル)

・北風は忍術のごとざわめきて演習林にむささびの飛ぶ

・「この村も闇が減つた」と縁側で足の爪など切るぬらりひよん

・ほんたうのぼくは今でも境内でまあだだよつて叫んでゐるよ


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初登場のこたまさんです。

・暗闇の光の乱舞追いかけてあくがれいずる我が魂(たま)いずこ  (こたま)

・ふるさとに久方ぶりに還り来て華奢なミュールは泥にまみれつ

・望月に満願成就の刻がくる古き社に響く槌の音

・通りゃんせ遠く近くのあの声は逢魔刻に消えた妹

・乗り遅れ次の列車は半刻後ベンチの隅に話の花咲く

・空蝉の数を競いたあの夏を猫の土産にふと思い出す



お上手です。
後半の3首が特に良いと思いました。

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小野伊都子さんです。

・どこまでも行ける気がした丘の上 入道雲は夏の入り口 (小野伊都子)

・夕飯後みんなで星を見て散歩 犬よりはしゃいでいたあたしたち

・ばあちゃんに禁止されてたスライムの緑に夏を閉じこめてゆく

・じいちゃんに教えてもらった花の名をこどもたちへと教える番だ

・いつの日もどこかでカレーの匂いする団地育ちと胸を張ってく

・住んでいた団地が近く無くなると聞いた 夕陽が遠くにじんだ


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初登場の久米島洋平さんです。

・言い伝え守らず 神の山に入り8年ぶりに下山した兄 (久米島洋平)

説明的すぎます。


・秘宝館 自前のコレクションで飾る祖父は館長88歳

・封印を剥がして開けた石の蓋 河童のミイラ鬼の骸骨

・観光の目玉にミステリーサークルを作るか否かを決める寄り合い

・擦り切れたオバQ音頭が繰り返し聞こえ眠れぬ蒸し暑い夜


「オバQ音頭」はほんとにくどいですよね。

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秋野道子さんです。

・新聞の活字まみれの蕨餅食みつつ楽し紙芝居なり (秋野道子)

・土壷へと怒りの石を投げこめば一呼吸おき黄なる洗礼

・浜辺には生魚干す匂い満ち口で息せしころ懐かしき


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富田林薫さんです。

・ばあちゃんの生まれた星は真っ青で、本物の海があったって言うんだ (富田林薫)

SF。

・おごそかに秘密基地宣言をする 僕たちのセイタカアワダチソウ
おもしろい。


・でも、この街を抜け出せないでいるのです GoogleEarthにさがす故郷 

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釼持さんです。

・お兄ちゃん!あたしのコロッケ食べたでしょ! ダムの底から懐かしき声 (釼持)

・あのひとの燈籠だけが流れない いいから早くお逝きなさいよ

・「白菜を盗んだ者は退学」の布令が出ました 鍋がしたいです

・「起きてるかい」クール便にて届きたるおふくろの味温かい手紙


俵万智さんの

「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ

と同じひねり(構造)をもった歌です。

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てこなさんです。

・葬式も後回しですゴールデンウイーク中の茶摘みの時期は  (てこな)

・赤ちゃんの泣き声よりもウシガエルおまえがうるさい里帰り出産

作晩、「ケータイ短歌」のテレビ版で、てこな家を拝見しました。
素敵なご家族ですね。

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イマカコさんです。

・裏山がだんだん小さくなりました 私は大きくなったのですか? (イマカコ)

・部屋中に並べたままのぬいぐるみ たぶんここにはもう戻らない

・おまじないシールを貼ったままだった 今さら効いても困るんだけど


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暮宴 宴さんです。

・石段を駆け上り来て手を合わす少女の中に匂うふるさと (暮宴 宴)

良いです。


・錦など飾れぬ僕がせめて飼う金魚バケツの中でひと跳ね

錦鯉にかけているのでしょう。


・アスファルト濡らす真夏のスコールの埃臭さに浮かぶふるさと

・父さんの肩車から見た空の触れられそうな積乱雲よ

・くちづけは氷イチゴの味でした祭囃子がふいに途切れて


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嶋田電気さんです。

・何もないところだけれど信号はひとつあるんだ嫁にこないか (嶋田電気)

・大漁旗強くはためき女らはひねもすのたり海を見ており

・老女らは初めてできたコンビニに行列をなしただ笑うだけ

・あの日君が背中を向けたその街はまだ磯笛が響いています

・名も知らぬ草に埋もれた嶋田家の墓に報告すべきことあり


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松木 秀さんです。

・わが村にやっとTSUTAYAができました これからは荒廃しそうです (松木 秀)

・東京がふるさとの人もいるのにねふるさとの歌は田舎ばっかり

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酒井景二郎さんです。

・對岸の測量技師をにらみつつ祖父は危險な漁法を試す (酒井景二郎)

・スク水の君が手を振るその昔河童が立つた岩の上から

・泥の濃い田んぼは顏がよく映るなんて不樣な俺なんだらう 

・新しい僕になりたい田舍家の樋の詰りを掻き出すやうに


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水野加奈さんです。

・立ち読みを咎めたひとはもういない8時に閉まるふるさとの店 (水野加奈)

・森のくまさん歌いつつ待っているこの山道にJAFが来るまで

・おしりまで濡れたと泣く子が泣きやんで我がくるぶしの蛭を指さす


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辻一郎さんです。

・自転車で海まで走る 県道を潮の匂いがする方へ行く (辻一郎)

・僕がからませた釣り糸をじいちゃんは一晩かけて元に戻した

ちょっと説明的で散文調すぎるかも。


・獲れたての蛸を土産に漁師たち 茹で上がったら鮮烈な赤

・棹を折りそのまま消えた川の主 まだ誰も見たことのない岩魚

全部を説明しちゃってるところが惜しいです。
川の主が何なのかという謎を持たせないと。

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游 ききあさんです。

・醜さにまみれて育ったあの町に帰るたび減る人口密度 (游 ききあ)

・郷愁を「田舎」に感じる人はまぁそこそこ幸せに育ったのだろう

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やましろひでゆきさんです。

・秘密基地第7号ついに崩壊す 故郷のソガ隊員からメール (やましろひでゆき)

・駅前の再開発で出てくるは牛替え神事の牛の骨かな

・田舎者だからこそだまされたいの 池袋北口ホテル街うろうろ

・ジモティと粘る語感が許せずに席立つ田舎風居酒屋 

・故郷に初めてできたマックにて間違い探ししている我なり


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魚虎さんです。

・戦死者の墓は迷路の中にあり祖父の戒名探す八月  (魚虎)

・干き潮の岩場にありて束の間のアクアリウムとなる潮溜まり

・山田奉行跡に建ちたるスーパーのセールチラシは捨ててしまった


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104heroさんです。

・川沿いの小さなトンネルドシャブリの次の日の朝通れなくなる (104hero)

・ぱそこんがほしくてほしくてたまらねぇ・・・なににつがえばいいが知らんが・・・ 

・坂道を登りきらなきゃ見えてこないあの駄菓子屋も今は廃屋


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末松さくやさんです。

・まんなかで二十四時間ぴかぴかと畑を照らし続けるジャスコ (末松さくや)

・窓際で半紙がひらひら揺れていて「夏の思い出」裏から読んだ

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長田絵理子さんです。

・雨音のごとき葉擦れがゆるやかに午睡の岸に押し寄せて来ぬ (長田絵理子)

・サツキんちみたいな暮らしをしていたよ 私にトトロは見えなかったけど

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宮田ふゆこさんです。

・「乳母車を押すばあさん」と2世代に呼ばれて今日もあぜ道を行く (宮田ふゆこ)

・となり町の「えびす屋」に売ってなかったらこの世のどこにもないのと同じ

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岡本雅哉さんです。

・「むこう岸ついたら田舎へ帰ろうか」強く投げれぬ水切りの石 (岡本雅哉)

・いらないねスタバやオープンカフェなんておばあちゃんちの縁側が好き 

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穂ノ木芽央さんです。

・だるまさんころんだまんま帰れずに地蔵小僧の白き前掛け (穂ノ木芽央)

・知る人も識る家もなし山の上(へ)の墓地に百合の香おきざりにし

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★一首劇場★


・壁文を信ずるならば湯ヶ島は2007年 夏 浮上する (中村成志)

・宇宙より大きい夢はあるのかと浪人生は稲穂を撫でて (かぶともし)

・こんなにも食べれる雑草知っている彼の故郷は詮索しない (そうがわさやこ)

・幽霊が出ると噂のトンネルを抜ければ月夜 ふるさとの山 (団塊の弟)

・たばこ屋の窓でたたずむばぁさんに皺増えただけの三十年 (はこべ)

・茅葺の梁より降りた一筋の縄片付ける気配なき家 (やすぼう)

・畦道を転ばぬ様に手をつなぐうつむく君と稲穂と僕と (水面走)

・裏山の蜩シャワーを浴びに行くこんな失恋どってことない (しらぬいまちこ)

・庭先を掘ったら縄文式土器が出たけど誰も驚きゃしない (音無)

・お自動さん操作するときふるさとの野菜販売所を思い出す (カー・イーブン)

・東京に遊びに行った翌日は案山子がやけにたのしくみえる (帯一 鐘信)

・朝露に濡れた葉っぱに隠れてる真っ赤なトマトもいでほおばれ (芳賀はがろう)


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あきえもんさんです。

・鈴生りの柿の枝切り「持ってけ」と云うその顔は脅迫に似て (あきえもん)

「脅迫」という言葉を使わずに脅迫感を出してほしいです。


・ふるさとの厠も今は部屋のなか 離れには一人祖父が住むのみ

・T&Cボンバーがまだ置いてあるレコード店に出口など無い

・おんぶして家へと急ぐあぜ道に小さな頭の巨人が映る

・内孫が般若心経諳んじる故郷はすでに他人の住処


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松本響さんです。

・金色に輝く腕を上下させ稲穂を守るC−3PO  (松本響)

・三日月が揺らいでいます 百人のカールおじさん消える湖 

・短ランとボンタン纏い古井戸にキャベツ太郎を投げる八月


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お疲れ様でした!

ということで、
「優秀作品」の発表を楽しみにしていてください!
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2007年06月29日

「都市伝説」総評

ひとことネタをやる元気もないほど疲れている笹師範です。
連日異常な忙しさで、遅れてしまい申し訳ありませんでした。

いいんです。続けることが大事なんですから。

だよナ。

アレ? 急に偉そうになった!

クケケケ!

なんですか、そのとり憑かれたような笑いは!

だってお題が「都市伝説」だもんね〜。

で、それっぽくしたと・・・。

そうじゃき!

そうじゃきって言われても・・・。
ところで今回のお題はどうでしたか?


今回難しいお題にも関わらず、よくがんばったなというのが感想です。
難しい、わけのわからんお題に挑戦して、はじめて短歌は上達するものです。

僕ほどわけのわからんお題で歌を詠ませられる歌人はいないと思います。
たとえば、「マコガレイ」というお題で来週までに10首とか、
謎のオヤジ(一般人)の横顔の写真を渡されて、「明日までに5首よろしく!」とか、
よくわからんデビュー前のアイドルのPVを見せられて
「来週までに20首頼んだよ」とか、
もはや「お題」さえない状況でオファーを受ける世界で生きてきました。
一般読者を楽しませなければいけない上に、僕の場合はプロの歌人も納得させるものをつくらなくてはならないというプレッシャーの中でやっています。
これを両立させるのは、はっきり言って至難の技です。
それをどうにかクリアしてきて、
そのおかげで、いまやどんな「お題」でもそれなりの歌を詠めるようになりました。

つまり、こういうわけのわからんお題と格闘する時ほど、成長できるというわけです。
それは、苦し紛れに他人の歌を読んだり(こういう時ほど真剣に読める)、あらゆる角度から歌を詠むことを考えるからです。
格闘している時は苦しいですが、いい歌ができた時の感動は忘れられないものとなります。
僕なんかはこれを味わいたくて歌人をやっているようなもんです。
おそらく他のジャンルのアーティストも同じでしょう。

だから、これからも変な「お題」をたくさん出していくつもりです。
笹公人の後に続ける歌人が出てくることを祈っています。

よろしく哀愁☆


お知らせがあります。

新・道後寄席〜歌のちから〜

第2夜で枡野浩一さんとトークショウをします。 音楽ライブもあります。

第2夜 8月4日(土)
「トークショウ」
笹公人(歌人)×枡野浩一(歌人)

「スペシャルライブ」
笹公人&三上敏視(MICABOX)

【会場】松山市立子規記念博物館 4階講堂
【時間】午後6時開場 6時30分開演

お申し込みは、6月29日までとなっております。

枡野さんとの対談はなぜかいつも四国。
不思議です・・・。

第一夜の永田家の家族歌合戦も楽しそうですね。

何を歌うのかな? 永田先生はやっぱり演歌かな?

そっちの歌じゃないだろ!
カラオケ大会じゃないんだから。

しかしこの写真
師範までの4人、眉毛が立派な人がずらりと並びましたね。

いつ石原真理子が出てくるかって感じのスクロールだよな。

もっと歌人らしい発言はできないんですか・・・?

先日、長男の淳さんにお会いしたけど、やはりとても立派な眉毛をされていて、親近感を覚えましたよ。

第三夜は新井満さん。満さんのお嬢さんには「念力ポッド倶楽部」でお世話になっていました。
第一夜も第三夜もよろしく!


今回音楽で共演させて頂くMICABOXは、
7月28日(土)、日比谷野音で行われる
「細野晴臣と地球の仲間たち」
にも出演されます! こちらもよろしく☆

8月4日は、細野さんの曲もカヴァーしちゃうかもしれないので、楽しみにしていてください!
会場でお会いしましょう! そのあとみんなで飲みに行きましょう!


・幻のCD「海や山の神様たち 〜ここでも今でもない話〜」が発売されました!

A・A・J及川恒平さんインタビュー

及川さんの日記

朝カルでの穂村さんとの対談講座が生んだ不思議な、幸運な展開でした。
なんと!歌詞カードの「スペシャルサンクス」に、坂本龍一さんはじめ錚々たるみなさんと並んで名前を載せて頂いちゃってます。恐縮です。
ボランティアも多い短歌活動に対する神様からのご褒美だと思って感謝しています。


『短歌』7月号(角川書店)
「メタボリックナイト」8首が掲載されてます。
ある種の青春短歌です。

『幽』最新号(メディアファクトリー)で、
歌人・佐藤弓生さんの連載「短歌百物語」に僕の歌が取り上げられています。


・『バカドリル』や「味写入門」でおなじみの
鬼才漫画家・天久聖一さんと対談講座をやります!

朝日カルチャーセンター新宿教室
笹公人の対談シリーズ?
「短歌実験室」

期間・曜日・時間: 7/21 土 18:30〜20:00
受講料(税込み): 1回 会員 3,360円
一般 3,990円  ACC学生会員 1,500円 

おもしろくなりそうです。
ぜひご参加ください!


長くなってしまって恐縮ですが、「総評」にいきます!

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水を得た魚のような
深森未青さんです。
 
・妖精とならむ三十路の純潔にこのうへもなく雪降りつもれ (深森未青)
 
・わが髪はかつて蜂の巣 永遠の奴隷女王が蝋化してゐる
 
・車椅子手足なき女(ひと)あやつりて生還をせし人豚ならむ


東南アジア系の都市伝説。

 
・タクシーがすつと止まりてつまらなし洗い髪にて立つ墓地前は

これは名作です。

 
・死体展示に従じたる友人は「死者の奢り」をふと諳(そら)んじぬ

死体洗いのアルバイト伝説の起源は大江さんの小説。
高校時代に読んだけど内容は覚えてません。

 
・猫よ猫おまえの毛皮を洗はうか電子レンヂの銀のいろだよ

アメリカ系の都市伝説。

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砺波湊さんです。

・学年一の美少女だった百合江からの不幸の手紙を捨てられずいる(砺波湊)

わかるなぁ。


・岩村が三社祭で見たらしい法被姿をしたプレスリー

上の句、改良の余地あり。
発想は良いです。


・だからさぁ《鮫島事件》はヤバイって 何だおまえらくぁwせdrftgyふじこlp

・「アタシいつもアナタのそばにいるからね」リカちゃんからの未明の電話

・「都庁ロボ、発進!」と叫びそそくさとヘリに乗り込む石原都知事

・デビューしたアイドル歌手の本籍地、東京ディズニーランドと同じ


どの歌もなかなかよろしいと思います。

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かんなさんです。

・リカちゃんのふりして貴方に繰り返し電話を掛ける すぐ後ろから (かんな)

・週末に香水買い込む男から漂ってくるホルマリン臭

ゾンビな彼を詠んでくれました。


・サザエさんの最終回を語りだす老女の部屋に満ちる潮の香

・夕方の校舎に『家路』流れだす今春湖底に沈んだ村で

・夕暮れがべっこう飴の色をして口裂け女を待つ曲がり角

・一人寝の夜が長くて繰り返しベッドの下の男をさがす


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酒井景二郎さんです。

・巧妙にデザインされた暴動に加はる爲にチケットぴあへ (酒井景二郎)

・ヒチコック劇場といふ店の前の巨大な誘蛾燈が火を噴く

・お臺場の球體あれはラフレシア栽培用の集光裝置

・呪ひつつコスメティックのポスターをはがす老婆の指が泡立つ

・息を止めコンビナートを驅け拔けるこの胸にまだ蒸氣の世紀


どれも酒井さんらしくて良いと思います。

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魚虎さんです。

・ジャンピングばばあが嘗て鮮やかにK点越えを記録した日々 
(魚虎)

・ドンパッチにコーラ注いで悦に入る少年爆弾魔の秘密基地

おもしろい。


・限りなく味よ狂えとラーメンのスープに手首投げ込んだ夜

・気がつけば「明日の犠牲者一覧」に加わっており深夜のニュース


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水野加奈さんです。

・まま母がうたってくれた子守唄サビのところでプーさんが死ぬ (水野加奈)

・くびれとかダイエットとかスリムとかみんなの呪文で消えたツチノコ
なるほど。


・埋蔵金掘り出すまでは黙ってろ!さっき見つけた「あの蛇」の事は
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ヤマダワタルさんです。

・恐怖新聞記者募集中履歴書に死亡理由を添付されたし (ヤマダワタル)

二代目鬼形礼の誕生か。


・水木翁は決して語らず真夜中にペン持ちて浮く左腕のことを

ノーコメントとさせて頂きます・・・。


・「穴の数と重さが何かを思い出す」少年呟くボウリング場

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嶋田電気さんです。

・ああ早く君に会いたい ぼくだけの鳥山ロード開通させて 
(嶋田電気)

「鳥山ロード」を詠んだのはこの歌だけ。


・いま俺の目の前にあるツチノコをツチノコとする俺を疑え

・(かごめかごめ)母親が子を手に掛ける時代ですもの(夜明けの晩に)


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暮夜 宴さんです。

・どことなく笑った顔がタカシ似の人面犬を愛して止まぬ 
(暮夜 宴)

・ムラサキノカガミの記憶ふうじ込め少女が羽化を始める5月

・いわく付きだから捨て値で並んでる金のひかりを放つソアラよ


不気味です。


・六甲のお地蔵さまに手招きをされて黄泉へと夢のドライブ

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富田林薫さんです。

・いつまでもあの公園の水しぶき うじきんときもわすれられない (富田林薫)

・「だって、三本めの足ったら」って、じゃれあってフライドチキンをかじる僕たち

・真夜中の電話に出ると「もうミーはあなたのうしろ」とジャニーさんの声
 

「ミー」を「ユー」にしたらよかったんですけど。
惜しいなぁ。

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カー・イーブンさんです。

・ガチャピンのように何でもできる君 脱いだらもっとすごいらしいね (カー・イーブン)

・未発表曲と冠した新曲が出る 中の人は生きているから

・三崎亜記を女性作家の棚に置き失われたとなり町の本屋


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そうがわさやこさんです。

・You got a Aidsだなんて着ボイス設定してないはずなんだけど (そうがわさやこ)

・手鏡とファンデの鏡だけで見る未来はあまりに小さすぎない?

・ツチノコはミミズじゃないよ おしっこはかけないでほら 変わんないから

・だんだんと年老いていき口の端がしわと同化する老女がひとり

・ディオールのルージュを買いに香港へ現地で話題のマスク・レディ


____________________

宮川邦恵さんです。

・自己ベスト更新できた夏の宵 口裂け女を無視してやった (宮川邦恵)

・さびしさよ ストッキングをがっと脱ぎベッドの下のオノ男へと

・国道をあのときも今日もうつむいて ふるさとの夏はツチノコ日和 


「ツチノコ日和」っていいね。
これは素晴らしい。


・この街のポストのどれかひとつだけ出せない手紙も受け付けている

___________________

小野伊都子さんです。

・カップルで乗ると別れる伝説も無視して漕ぎだすボートと恋と (小野伊都子)

井の頭公園でしょうか。


・霊柩車通り過ぎても親指を隠さず父の最期を想う

・2番目のトイレは誰も入らない ただ鼻歌がいつも聞こえる

・冷蔵庫閉めると電気消しにくる小人にいつか会えますように

・魚降る夜には猫の舞踏会開かれてます タマも来てます

・世の中に三人はいるそっくりな人と目が合い動けなくなる

・口笛を吹いたら蛇がやってくる 夜はとぐろを巻いて待ってる


どれもベタなので、
もうちょっと意外性がほしいかな。

____________________

スズキロクさんです。

・紫の鏡をそっと抱き締める あなたより年下になりたい (スズキロク)

・もう誰も来ることのない部屋だから出てきていいよ ベッド下から

・この町の噂になりたいんだ君と 誰に見られたら広まるのかな


EPOの曲(「うわさになりたい」)
を思い出しました。

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瑞紀さんです。

・四つ辻のウェブカメラに映されし百鬼夜行が世界に流る (瑞紀)

・人生の道まで迷う我を見るいたずら好きの妖精がおり

・この惑星(ほし)のいずこにもいぬ人宛の手紙を運ぶ銀河郵便

・路地裏に黄昏ランプ掲げいる星野商舗は異界を隠す


__________________

岡本雅哉さんです。

・それを見た人はみな死ぬイマドキの口裂け女はラメ入りルージュ 
(岡本雅哉)

・宇宙人いつもうちの子さらっては記憶消してくテスト前日

おもしろい。

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帯一 鐘信さんです。

・にょきにょきと髪が伸びるといわれてる人形をもつカリスマ美容師
(帯一 鐘信)

・真夜中の永田町では星たちが一票二票と囁き堕ちる

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野田修平さんです。

・この町にマッハばばあがいるとして回覧板は回り続ける (野田修平)

・寿限無寿限無 命名人気番付の1位はデスノート対策として

おもしろい。

____________________

やましろひでゆきさんです。

・八王子ナンバーの白いカローラが静かに集う談合坂SA
(やましろひでゆき)

・やっとここに帰ってきたよ花子さん早く出て来い僕の名は太郎

こういう話があってもいいよね。

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望月門さんです。

・電車のなかに繩文人が座ってる遠まきにしてみんなは耐える (望月門)

おもしろい。


・サーカス団の美少女目尻のホクロまでそっくり街で消えた少年 

最後に「に」をつけたらどうでしょう?

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作山 さちさんです。

・サイレンが響く二丁目猫たちが会議を始める三日月の真夜 (作山 さち)

・朝靄にけむるラムネの空瓶にティンカーベルは眠っています

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釼持さんです。

・あの頃のあたしの支えのひと言はコックリさんが残した「い け て る」 (釼持)

いい話だ。


・傘ひとつキミを招いて肩触れて雨男でも悪くないかな

下の句のモノローグが魅力的。

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宮田ふゆこさんです。

・この指を煮込めば濃いスープになるよ メールできない想いの分も (宮田ふゆこ)

・きみの過去ほんとはどうでもいいからさ ただの都市伝説と笑って

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長田絵理子さんです。

・教室にもグラウンドにも居場所なくトイレの花子さんは私の友達 
(長田絵理子)

・煉獄の見世物小屋を追い出され彼らは都市の伝説となりぬ

・屋根裏に誰かがいるから初めての一人暮らしも淋しくないよ 

___________________

酒井あんなさんです。

・毎朝の女性専用車両から回収してる2トンのためいき (酒井あんな)

・浩一とおやつに食べたマシュマロで身籠ったこと内緒にしてて 

___________________

イマカコさんです。

・山手線99周したのちに旧江戸城に到着します (イマカコ)

・目の前を大きな桃がどんぶらこ流れていった 届かなかった

__________________

新井蜜さんです。

・終電に獏の車掌が乗ってくる御堂筋線動物園前 (新井蜜)

・西口でお前に投げた敷石の破片が今朝は背後より降る

___________________

さよさんです。

・前髪をパッツン切ったその日からワタシのまたの名座敷童子に (さよ)

・学年一速いその足よく見れば少し浮いてるキミは韋駄天

__________________

岡本雅哉さんです。

・凶刃の襲来恐れかまいたちさえ姿消す都市の暗闇 (岡本雅哉)

・赤外線センサーで点く明かり避け花子は潜む用具置き場に

_______________________________________

そう蛸さんです。

・「ポマード!」と見知らぬ子供が逃げていく 明日には切ろう伸びすぎた髪 (そう蛸)

・ポマードと叫び駆け出したくなった最初で最後の合コンの夜 

__________________
__________________


<1首劇場>

・ウインクをしてるコアラのマーチ持ち今日のコンパを確信してる (游 ききあ)

「持ち」は、「手に」に変えたほうが良いかも。


・抜けた歯にコーラをかけた夏休み熱く発表自由研究 (水面走)

これ、やった奴いた。


・右腕を挿し木にすれば母親の樹でも育つと思っていたか (松木 秀)

横溝正史風の光景。


・先天性小腸閉鎖の我が子には決してさせぬフラフープなど (てこな)

戦後の都市伝説。


・三叉路で地蔵を見ると四つ目の道に迷って帰れなくなる (音無)

・いびきかく鳥人間の大きなるまらにざわめく狙撃隊なり (かわら)

・あくびして五十六億七千万冊目の日めくり表紙を千切る (中村成志)

・19歳最後の朝にサチコから届く紫色の手鏡 (ももや ままこ)

・かりそめの自殺志願者に届く四○四号室の合鍵 (穂ノ木芽央)

・東大病理刺青研究室の棚にある高橋お伝の皮をチョッキに (恋奴)


_________________
_________________

あきえもんさんです。

・玄関で一礼をして「わたくしが穿いています」と宅配の人  (あきえもん)

・戯れにマクドナルドでバイトするリアディゾン様のスマイルはいくら


あきえもんさんは、自分と資質が違う歌人(なるべく一流の)の歌をたくさん読んだほうが良いと思います。
図書館にある歌集でいいです。
興味のない歌人の歌集を読むのは苦痛かもしれませんが、
それがスランプ脱出、そして成長の鍵だと思います。
応援しているので、がんばってください☆

__________________

鶴太屋さんです。

・屈葬のされかうべ持ち講義する白骨(しらほね)教授の聡き眼差し (鶴太屋)

・警視庁裏に埋もれる不発弾錆びて真桑瓜(まくはうり)太く実れり

・埋蔵金探知犬の育成に一生(ひとよ)励みて華やげり父

・ごきかぶりに狙ひをさだめて笑む老婆 夢占ひのガラス玉も曇る

・電源の切れたるドラえもん抱きしめて野比家のうへの青に澄む空


物議をかもした最終回を詠んでいます。


 〜江戸川乱歩に捧ぐ〜
・少年探偵こころに養(か)ひて中年のサラリーマン風情泥酔すらし

団塊世代に喜ばれそうな歌です。


 〜寺山修司に捧ぐ〜
・霧の街 力石徹の葬儀終えハンチング深くかぶれり、燕よ

どこかヤスキ・フクシマっぽい。

__________________

松本響さんです。

・シークワーサーサワー七杯飲み干した美女の笑顔に宿るシーサー  (松本響)

・圏外は宇宙だけです 携帯の次世代モデル「念波」発売

これは欲しい。ネーミングもいいです。
未来にはこういうのあると思います。


・ルービックキューブ六面六秒で完成すれば次は七面

・終末の起爆スイッチ 黒ひげを飛ばさぬようにマンホール踏む

・ブロックの街にからだを奪われてレゴ人形と化した級友


怖いな。


・出身地ラピュタと書いた履歴書を提出すれば空がざわめく

・土星では高値取引されていて伐採される電信柱

・異星人二百円にて捕獲する深夜三時のUFOキャッチャー



なかなかよかったです。
コーナーを上げた自分の目に狂いはなかったと安心してます。

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お疲れ様です!
なかなかおもしろい歌が多かったんじゃないでしょうか。

説明不要のおもしろさを狙った歌がほとんどだから、
解説があまり必要ないんだよね。
そろそろ説明しがたいおもしろさのある歌も詠んでほしいです。

重要なお知らせがあります!

仕事が忙しく、更新がどんどん減ってきています。
このままではひとつの「お題」を完了するまでに2か月くらいかかってしまいそうです。
毎日1000前後のアクセスがあるのにこれは申し訳ない、まずいということで、
「笹短歌ドットコム」に強力な助っ人歌人をお招きすることにしました!

誰ですかその強力な助っ人外人って?
クロマティ? ホーナー?

ボケるのはいいけど、昭和の香りは控えようよ・・・。

ギャフン!

ということで、

「未来短歌会」「みぎわ」で活躍している若手歌人のホープ
斉藤真伸さんです!

斉藤:どうも。斉藤です。どうぞよろしく☆

こちらこそよろしくお願いします☆
まだイラストができていないので、「斉藤:」表記で会話させて頂きます。
斉藤さんには「月評」と「短歌時評」を連載していただきます。
みなさんの作品への批評や細かいフォローをお願いする予定です。
斉藤さんの「時評」は、短歌界の大御所たちからも評判が良く、
僕も毎回勉強させていただいてます。

斉藤:いえいえ。恐縮です。

斉藤さんは、僕と短歌観も近く、バランス感覚も良い
若手で最も信頼できる歌人です。
ただの短歌オタクではなく、
サブカルチャーはじめ幅広いジャンルに造詣が深いところも頼もしいです。
どうかよろしくお願いいたします!

斉藤:よろしくお願いいたします!
次回、自己紹介をかねた御挨拶をさせて頂きます。

ということで、「笹短歌ドットコム」に新たな勇者が加わりました。
これからは少なくとも月に6回は更新できそうなので、
楽しみにしていてください!

サプライズとはこのことでしたか!

イエス!高須クリニック
あともうひとつあります。
今回のお題「都市伝説」の最優秀作品の賞品は・・・

なんと!!

朱川湊人さんの直筆サイン入り
『都市伝説セピア』
です!!
先日一緒に飲みに行った時にもらってきました。

これは凄いですね〜!

ということで、優秀作品発表を楽しみにお待ちください!

よろしく哀愁☆
posted by www.sasatanka.com at 03:00| Comment(7) | TrackBack(0) | 総評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年05月20日

「春」総評

sasa-5.gif遅れちゃってゴメンナサ〜イ!!

kanta_06.gif遅いっ!! 何してたんですか!

sasa-5.gifアンドロメダ行きのパスを落としちゃって・・・。

kanta_08.gif鉄郎か!

sasa-3.gifなんとか「短歌鉄道999」には間に合ったようだけど・・・。

kanta_09.gifあのぅ、別にウマくもなんともなんともないんですけど……。

sasa-5.gifそれは言わないって約束でしょ、車掌。

kanta_12.gif車掌って・・・ボクが?!
じゃ、メーテルは誰・・・?


sasa-6.gifメーテルは・・・・・・

sasa-4.gifキミだ!


sasa-7.gif寸劇を終えたところで、
2周年に向けての奇妙な冒険がはじまりました。

前回、「総評」で載った歌よりも、
むしろ落とされた歌に注目してほしいと書きましたが、
それは載った歌と載らなかった歌の違いをよく考えて頂きたいからです。
そこには「無言の批評」がこめられているのです。

kanta_07.gif自力でもダメな部分ってわかるものでしょうか?

sasa-6.gifそんな意見もあろうかと、
どのへんをチェックすべきか、
チェックポイントを思いつくままに書いてみました。

kanta_04.gifさすがは師範! 用意周到!

sasa-7.gifでは、まいります。


・文法を間違えていないか。

・リズムは整っているか。

・旧カナと現代カナが混ざっていないか(文語と口語が混じるのはOKです)。

・旧カナ使いが間違っていないか
(「なんちゃって旧カナ」の人が多いけど、旧カナで書こうと思う人はそれなりの勉強が必要です)。

・「うれしい」とか「悲しい」とかいう感情を表す形容詞に頼っていないか。
(一言で済んでしまう形容詞を使ってしまっては、かえってその思いは伝わらないものです。)

・安易な比喩を使っていないか(「海のように広い」、「風のようにさわやか」etc・・・)

・あまりにもひとりよがりな比喩を使っていないか。

・同じ意味の言葉を重複させていないか(省略できるところは省略する)。

・単なる状況説明や報告に終わっていないか。

・発想があまりにも陳腐ではないか。

・歌謡曲的なわかりやすさにおさまっていないか(これ、非常に多いです)。

・「ナウい」「C調」などという死語を現代の若者用語と勘違いして堂々と使っていないか(お年寄りがやってしまいがち)。

・内容があまりにも不道徳ではないか。

・盗作していないか。

・俳句になっていないか。

・過激すぎる下ネタはないか。

・男なのに女性のペンネームを使って、乙女チックまたはエロチックな歌を書いてひとりで興奮していないか。

・亡くなった身内の辞世の歌を自分のオリジナル作品として投稿していないか。

・2・26事件で無念の死を遂げた青年将校の霊に自動書記で歌を書かされていないか。



kanta_08.gifコラっ! 
最後のチェックポイント、晩年のMISHIMAか!
短歌ブログに投稿してる暇があったら除霊しに行け!!

sasa-5.gifじゃあ、僕の美輪明宏さんのモノマネで・・・。

kanta_12.gifあのー、いちおう短歌BLOGなんですから、そういうオーラの泉みたいなこと書くのはやめてください。

sasa-6.gifまぁでも自分の作品を客観的に見るということは非常に難しいことなので、
なるべく講座に参加して頂きたいと思っています。
どうしても自分の歌は贔屓目に見てしまう傾向があるからです。

sasa-7.gifということで、

−僕らのメルヘンをとりもどせ!−
朝日カルチャーセンター講座
「念力短歌のつくり方 〜入門編〜」
鑑賞と実作(歌会もやります) 笹  公人 
5/26、 6/9
土 18:30〜20:00

受講者募集中です!
これが終わると、しばらく短歌講座はやらない予定なので
(対談講座は定期的にやらせて頂きます)、
ぜひご参加ください!!

sasa-6.gif前回の穂村さんとの公開講座に出て、
「俺はもうダメだ・・・」
と落ち込んでいる人が何人かいるという噂を聞きましたが、
穂村さんの「イン・アウト論」は、本格的な歌人を目指す人に向けての話なので、
そんなに気にする必要はありません。

本格派歌人になりたいならば、伝統とつながる覚悟も必要ですし、
短歌史も必須科目でありますが、
そうではなく趣味で短歌を詠む場合には、特に必要ないと思います。
それはなぜかというと、
なまじ勉強をしたがために、何も書けなくなってしまった人や、
ある種の自由さ、無謀さがなくなって、
急に歌がおとなしく、つまらなくなってしまった人を
いままでに(この15年間で)何人も見てきているからです。

kanta_05.gifなるほど。

sasa-5.gifただ、短歌というジャンルは作歌力と読解力はほぼイコールと考えてよいので、
他人の作品(伝統短歌を含む)をたくさん読まないと上手にはならないのです。
だから「勉強するな」とも言えず、そこにジレンマを感じています。
自分を含め最近の20代・30代は勉強嫌いが多いから、そのへんは安心だという話もあるけど・・・。

kanta_03.gif難しいですねぇ・・・。
師範自体が伝統と断絶のボーダーラインに立っているから、
そのへんのことがよく見えているのでしょうね。

sasa-6.gif伝統の良さと、それを維持する大切さもわかっているし、
そこから切れたおもしろさも知っている。
そのへんのことをわかりすぎている自分が
よりによって教える側に立ってしまったから、よけいに葛藤が大きいのです。


kanta_07.gifなるほど! だんだん話が逸れてきましたが、
要するに講座に出てほしいと。

sasa-6.gifそうだね。とりあえず講座に出て「歌会」を体験してほしい。
うまい具合に成長しようと思ったら、歌会に出るのが一番。
独学は罠が多くて危険ということであります。
あと、BLOGには限界がある。

kanta_09.gif更新も遅いし。

sasa-5.gifそれは言わないって約束でしょう、車掌……。

kanta_08.gifだから車掌じゃねえから!!

sasa-6.gifそれとあとひとつ言っておきたいのは、
創作の本質は、伝統うんぬんより、
もっとほかのところにあると思っています。
インスピレーションが湧き起こる瞬間の快感や、
歌を詠む喜び、これらを忘れてしまったら元も子もないと思っています。
短歌を詠むこと自体は修行でも苦行でもないんだから、
どうかそこを忘れないで頂きたい。

kanta_05.gif了解!


sasa-7.gif
朱川湊人(小説)×笹公人(短歌)
「遊星ハグルマ装置」
第三回が公開されました!

ぜひご覧ください!

ということで、「総評」にいきます!

_______________________

まずは、
かんな(旧 佐田やよい)さんです。

・思春期のぬるい水面を泳ぎだす足を生やしたオタマジャクシが (かんな)

・窓際の制服にうつる陽の光 4月9日君をみつける

「入学式」とか「始業式の日」とはせずに、
具体的な数字を出したのが効果的でした。


・春雷をふりきるようにオレンジのレインハットで駆け上る坂 

・簡単にはなした右手 春風のぬくもりをまだ探し続ける

・思い出はもらったボタンとしまいこみ一番バスのタラップを踏む

・君が住む街を探せば春霞こくなっていく午後の屋上

・泣きながら切った電話を思いつつ噛みしめている桜餅の葉

・毛根がざわついている体から春が蠢きはいだしていく

・改札を迷うことなくすり抜ける働きアリの列にくわわる


現代批判が込められています。


・できたてのイチゴジャムからでる湯気のように消え去る初めての恋

今回もとてもよかったです。

_______________________

正統派の
瑞紀さんです。

・春の夜の時計屋が言うさあどうぞ好きな時間をお持ちください 
(瑞紀)

・夕暮れがゆっくりと来る春だからたゆたっているブランコの上

・『春の雪』返せないまま色褪せてゆく背表紙をときどき撫でる

・海からの風おさまりし春の午後とびら開けばみずの匂いす

・「降参」のメールに笑みはひろがりて春の勝鬨橋を渡りぬ

・制服の肩にひとひら春をつけ子は地下鉄の一駅を乗る

・長身を時に反らして<春>を弾くヴァイオリニストの美(は)しき指先 

・青年の腰で揺れたる鍵束のやわき音聞く春のサロンに


お上手です。
瑞紀さんは、ふつうに短歌結社でも活躍できますよ。

_______________________

小野伊都子さんです。

・割れそうな恋の卵を温めていちから育ててみたい春です 
(小野伊都子)

・フルーツのにおいの風が吹き抜ける 春休みには恋が宿題

・上着など持たず出かける 春風は優しく甘い指を持ってる

・蝶々に案内されて公園の特等席にきみと座った

・ここからは裸足になって歩きましょ たんぽぽの国 風のふりして

・「リラの花はもう咲いたかい?」 ムーミンのもとにギターの彼が戻って

・春にだけ通じる暗号みたいだね ピクニックとかハイキングとか


おもしろい。


・海へ行く赤い電車はすいていてレンゲ畑を置き去りにする

・あたらしい場所に行くのも悪くない 猫のしっぽの方角に花

・ドロップの缶から続けていちご味出てくるような日曜日です


歌謡曲調ではありますが、
色彩感があってよかったです。

_______________________

砺波湊さんです。

・曲がり角で食パンくわえた美少女とぶつかることなく春は過ぎ行く 
(砺波湊)

ベタンカでました。


・頬杖の君が降らせるグラニュー糖 春の雪として紅茶と混じる

うまいねぇ。


・飛行船を見上げるためにあおのいた 嵐なんてない春の真昼に

・期待どおりの日々は来ないね 春一番なんかに負けず靴をおろした

・つま先で綿毛をみんな蹴散らせば春の陽の中にほどかれてゆく

_______________________

水野加奈さんです。

・また会えたつくしタンポポ菜の花を映す川面に迷子のアザラシ 
(水野加奈)

・春の夜にマツモトキヨシを訪れてシャンプーのほか買うものはなし

・「中学の同級生に似ている」とまたも云われむ知らないひとに

・アカペラで校歌うたえばぬばたまのオタマジャクシに足生えはじむ

・「花を見に行きます 母より」残されし金魚の餌と携帯電話

・なんとなく右の肩だけ重いんだ首塚前の花見の日から

・窓ぎわのケシゴム香る参観日チョークを折ってばかりの教師

・愛なんて考えなくてもかまわない小動物になりたい夜明け

・明日のこと想えば出ずるさびしさを分け合う春の回転木馬と


この調子でがんばってください。

_______________________

ヤマダワタルさんです。

・めぐりくるはるはしずかでちっぽけでロボット兵士の掃除の季節 
(ヤマダワタル)

・ここにいる全員の首がすぽぽぽぽんと飛ぶ空想する春の朝礼

・天井の照明すべてがっちゃんと落ちる空想する春の朝礼

・春風にくすぐったそうに揺れているたんぽぽよ聞け 親父が癌だ

・1チーム1機限りのロボットがヒット 春日部共栄先制

・名残り雪窓辺を白く染め上げて二人のために枯れるサボテン

・「今年の春はたちが悪いです気をつけて」確かに。会いたくてたまんない

・雪解けの曲がり角にて錆びきったロボット兵士の腕を拾った


ひさびさの純粋妄想短歌。
2首目にはどこかモダニズム短歌の匂いも感じます。
4首目もショック度高し。
次回はもっといろんなバリエーションの妄想で楽しませてください。

______________________

今宵の宴は何色?
暮夜 宴さんです。

・元気よく弾む音符になれなくて春のよき日に全面休符 (暮夜 宴)

・背中から抱きしめられて今わたし羽化をはじめる蛹のように

・一面のシロツメグサにくすぐられ泣き笑いした春のあぜ道

・3月の風に揺らめく影ありて後ろの正面あなたを発見

・確率は1/1000000らしい親ゆび姫の棲むチューリップ


5首目が特におもしろい。

______________________

好調な
はせがわゆづさんです。

・始まりの確かな予感 春先のひなたで恋は発見される (はせがわゆづ)

・時間のない桜の海に立ち尽くす君への視線もうごまかせない

・芽吹くその瞬間にただ焦がれつつ雪を静かに静かに融かす

・のぞき穴からたんぽぽが咲き乱れ告白せよと急かされている

・今はまだまどろみにいるようなまま春のうららに笑い合えれば

・ポケットには春がつまっているのです 初めて指を絡めあった日


どれも良かったです。
いまの文学少女的な感性を大切にしてください。

_____________________

ラブタイタイさんです。

・おーいお茶買ってひとりの夜桜に二十歳の窓から風が吹きくる 
(ラブタイタイ)

・春キャベツ一枚はがす指先に(罪じゃないよ)と教えてあげる

・ゆですぎた菜の花のような身をひとつ畳にあずける湯上りの女

・ハタ坊の旗の横から新芽出てぐんぐん伸びる春がきました



お上手です。

_______________________

やっと男性がでました。
酒井景二郎さんです。

・腹を出し巧みに媚びる野良猫とはつかずはなれず歩む春の日 
(酒井景二郎)

・隱し事だらけの手帳破り捨て春の眞中に墜落しよう

・ピューと吹く!ジャガーな氣分 青春のけものみちからまだ出られない

・櫻菓子竝ぶデパ地下くぐりぬけ春のふところ淋しくなりぬ

・韻を踏む餘力もなしとたふれこむ春の布團の生ぬるきかな

・オロナミンCのハフラウ看板が昭和の春から微笑みつ放し


旧カナ使いがいい味出してます。
この調子でがんばってください。

_______________________

着実に成長されている
嶋田電気さんです。

・新緑の萌える県営球場にすくと浮きたつ白線の白 
(嶋田電気)

・芽吹く青避けて始める草野球ひとりふたりと駆け出してゆく

・新しい歯車になる春が来て時計の鳩は巣にひきこもる

・今夜こそ炬燵をしまうつもりだがさかりのついたネコがうるさい

・手のひらに花びらが舞い落ちてきて手つかずのまま春はすぎゆく

・ハマグリのように背中に貼りついた花びらだからそのままにして

・花吹雪舞う公園であの人はくノ一みたく消えてしまった

・春に似た季節のようで春でなく恋だったのだ もう戻れない

・ブラウスのボタンとボタンのすきまからお花畑が見えた ピンクの


春らしくポカポカしてます。
努力のあとも窺えて、よかったです。

_____________________

てこなさんです。

・撮影用「入学式」の看板が5つはほしい 行列長し (てこな)

・「うんちしてきましたかあ」と元気よく聞かれはじまる入園式は

・ライオンバスではありません ようちえんバスです 入園1日目です

・投げつけた夫婦茶碗のひとひらの桜であなたは小指を切った

・白無垢を着る禊かな春疾風 忘れなさいと吹く突き刺さる 



5首目が良いです。

_____________________

おなじみ
新井蜜さんです。

・席に着きベルトを締めよジェット機は春の嵐に突っ込んで行く (新井蜜)

・宙吊りの心のように春風に吹かれ揺れてる午後のブランコ

・花びらの降るなか女がふたり来てインターフォンに告げる福音


3首目、とても良いです。

____________________

穂ノ木芽央さんです。

・生煮えの春菊食みて君からのさいごの手紙ひらかんとす (穂ノ木芽央)

・床下の老いたる蛇が絡みあふ春画愛好家(マニア)の寄合座敷

上の句と下の句を逆にしたほうが良いと思います。


・ボッティチェリを模写(うつ)す学生 恋人に捧ぐ花探しあぐむ 今日も

・きつとあの店からなんだね君の声のうしろで鳴つてゐるヴィヴァルディ


5首目も春っぽくていい感じです。

_____________________

秋野道子さんです。

・蒸しあがる新玉ねぎは透きとおり春のとばりの降りるキッチン (秋野道子)

・忽然と菜花の色のインコ居り種や仕掛けを探すベランダ

・唄う吾の写真一葉春うらら蘇りくるムンクの「叫び」

・蝶々は羽根を閉じます眠るとき 赤ずきんちゃん膝閉じなさい


4首目が良いです。

_____________________

富田林薫さんです。

・ねがわくばうまれかわって花びらをあなたのあなたの窓辺に散らす 
(富田林薫)

・がむしゃらに歩道をいそぐ人々にささやくようによびとめて花

・菜の花にほほをうずめてわたくしは春のはたけの風景である


謎めいているところがよかったです。


・ふりそそぐ芝生のうえの陽光をオオイヌフグリとしてあじわう

_____________________

しらぬいまちこさんです。

・黄砂の夜まとわりついて眠れないタクラマカンの駱駝の吐息 
(しらぬいまちこ) 

下の句がリズミカルで魅力的。


・春の野で毒と見まごう草ばかり摘みし乙女に求婚すべきか

____________________

イマカコさんです。

・好きな花 伝えておけばよかったな 春を待ってるふりもできるし 
(イマカコ)

・真冬から握ってた手をひらいたらオタマジャクシが泳いでました
いい感じです。

_____________________

長田絵理子さんです。

・終わるからこんなに綺麗なのかもね失恋話桜を見つつ (長田絵理子)

・瑕のない玉には皆が飽き飽きで桜の下には死体の噂

・記念写真怒った顔して写ってたセーラー服の似合わぬ彼女

・「性欲を信じれるなら幸せよ」春の盛りの猫になりたい

・空青く花咲き乱れ鳥が鳴き僕らは静かに狂ってゆくよ


この調子でがんばってください。

___________________

水面走さんです。

・君の目に映る世界の眩しさににょきり顔出すつくしん坊主 
(水面走)

・新しき帽子の先に散り桜パチリと残す未来の君へ

・うまい酒入ったからと兄の声故郷の桜満開を知る

・春のように優しい人と言われてた借金だけを残した父は


____________________

魚虎さんです。

・加茂川の水あざやかに映したる空一面に散る桜花 (魚虎)

・葉桜になるより早く書き終えよ「春めきまして」で始めた手紙

・はつ潮は物憂きうねり伴いて少女に青き春の訪れ

・名鉄の赤い車輌に乗って行こう このホームから始まるシーズン

・唐突に『杉と檜のスパゲッティ』思いついてはクシャミ一つする


おもしろい。


・久方の光のどけき公園でクラスメイトはシンナー吸えり

_____________________

ももや ままこさんです。

・先生の後ろから来た春小僧 これから飛び交う声に構える 
(ももや ままこ)

・春風に乗って来るから火曜日のゴミに丸めたティッシュが増える

・真夜中に戯れ春売る紫のスイートピーは背伸びしている

・頬かすめ木々の緑を吹き抜けた春一番が「元気ですか」と

・肩寄せるラッパ水仙お互いを求め合うかのような口づけ

・たんぽぽが地面を割って育つから私も咲いてみたいの、多分


______________________

帯一 鐘信さんです。

・だんだんと白くなりゆく生え際を少し光らす春のあけぼの 
(帯一 鐘信)

・春色の列車がどれかわからない負け犬探す俺に木漏れ日

・春という言葉になぜか敏感になってる俺の洞穴住居


_____________________

104heroさんです。

・凩に肩すぼませて歩けどもキミのよこなら「春」とよびたい 
(104hero)

・春凪がボクにヒトコトいわそうときらりきらりとせなかをつつく

_____________________

かわらさんです。

・春場所の最前列に見つけたり紅葉(もみじ)みに行きて帰らぬ妻を 
(かわら)

・春一番が街を吹き抜け静脈の透けしふとももをさらってゆけり

______________________

タイラー&トマソンさんです。

・男塾 校門前の桜木の根元に眠る業の亡骸 
(タイラー&トマソン)

・花の席 会場包む熱気あり 桜の中のペー・パー探し

・うたた寝で時間を搾取する彼の日めくりはまだ1月のまま


意味不明の1字空けが気になったので、
勝手に直しておきました。

______________________

周之さんです。

・艶めかしい嘘を残して去ったんだ 植樹した木と僕との関係 
(周之)

・いままではそんなつもりじゃなかったがワンピースから息吹漂う

______________________

蝶ちゃんさんです。

・さくら散る悲しまなくていいんだよゴージャスに咲くきみ八重桜 
(蝶ちゃん)

・菜種梅雨いつまで寒く降り続く熱き酒肴と胸板恋し

・ほろろんと誰弾くとなく響く弦春の河原にひとりレッスン

・猫サマが夜な夜なデート騒がしく乳飲み子に声似てて起こされ

________________________

カー・イーブンさんです。

・一年後「現役アイドル」の肩書きでアダルトビデオを出すためのデビュー
(カー・イーブン)

・きんいろの薄いスプーンで掬われた心地がしてる 恋なんだろう

・しめやかな春雨だけが涸れ井戸の底にこごった冬をほどける


______________________

かぶともしさんです。

・ふきのとういっぱい踏んだ?まだ時差が面白くて仕方ない彼方より 
(かぶともし)

・初春の寿司職人の名札に光る『趣味はパン作り』ごちそうさまです

・シュノーケル越しに新入りうぐいすと洗濯物をななめ見る春


______________________

末松さくやさんです。

・腹痛を訴えたいがあのひとの今年の春は東京の春 
(末松さくや)
 
・卓上がピンクに浸食されていくとてもただしい少女の春だ


2首目、おもしろいです。

______________________

下北佐古さんです。

・目印のパンを私が食べたからスナフキンのいない春です 
(下北佐古)

・一年中買える春もあるんだと知らない頃の桜がきれい

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そうがわさやこさんです。

・モトカレの消息を知る知りたくはなかったはずの春一番です 
(そうがわさやこ)

・ぽんぽぽぽん たんぽぽぽんぽん しちゃったら 綿毛ふうわり私もふわり

・なんとなく思いつくまま君にキス 桃色に染まる頬にまたキス

・ひらひらと花から花へ舞う蝶々 春ねあなたも蝶々のようね

・お花見に二人で行った お別れをしてたのは誰も気付かなかった


この明るさを大事にしてほしい作者です。

_______________________

タイラー&トマソンさんです。

・青々と葉桜薫る緑道の片隅の山 花弁の亡骸
(タイラー&トマソン)

・暖かい微笑み浮かべ毒をつく春の夜風のようなあなたよ

・夏になり秋冬来ても暖かに そうですわたしゃ今田ハルです


______________________

游 ききあさんです。

・アロマ水・氷・炭酸 透明な殺意にも似た春の夕方 
(游 ききあ)

鋭い感性を感じます。


・午睡する貴方の頸に春の日が真綿のようににじり寄ってく

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歌乱亭カラスさんです。

・去年見た枝垂れ桜が咲いているそうです君は帰ってきますか 
(歌乱亭カラス)

・遠方の山の緑が萌える朝 寄り添うような陽射しあります

・ブカブカの学生服の中にいる中一に春一番よ吹け


______________________

そう蛸さんです。

・我が膝で愛犬腰を使いおりオレとオマエは散らない桜 
(そう蛸)

・どうすれば花見に誘われられるだろう立ち止まり見上げる花見

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おとくにすぎなさんです。

・「春用の切手いちまい。」窓口で言えたらこんな手紙も出せる 
(おとくにすぎな)
 
・キイテクレテウレシカッタヨ春風にぺんぺん草のうなずく速さ

・貝殻はすみれの香り せっけんの箱からひとつあの子がくれた


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にんじんさんです。

・三角がやわらかくなって膨らんで丸になったら春なんだって 
(にんじん)

・ほうぼうに散らばっていった仲間からふいに電話のある四月末

・見上げれば青に溶けゆくさくら色くしゃみをひとつ桜がひらり

・自転車で夕暮れの坂駆け上るまだ沈むなよ桜見るまで


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・いつまでも待ってるからね渡り鳥鶯谷の駅のホームで (regimantas)

・今春より廃校になりし小学校にオバケの子らの入学式始まる (紫塚れを)

・新しい靴下買ってきた夜に正しい暮らしをしようと思う (村本百足)


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あきえもんさんです。

・風に乗り桜の花が舞うたびにヘンゼルはまた元の道行く 
(あきえもん)

・質問をされて質問で返した園長先生の春一年目

・春キャベツ新たまねぎを買いに行く毛玉の付いたセーターのまま

・バス停のたびに両目を泳がせる女生徒が一人 また春が来る

・幸せを祝うツバメの巣を落とし乙女のようにはしゃぐ雀よ

・前輪をもがれて二度と動かない車に桜の花びらが落ちる

・米を研ぐ水道水の冷たさに気付かぬ朝は春の始まり

・お散歩の列から離れ泣きじゃくる園児がひとり(去年はふたり)

・春菜という少女が来ます 花見では軍歌をうたうような顔した


3首目、7首目、8首目が良いと思いました。
だんだん正統派っぽくなってきてますね。
うまい具合に伸びていってほしいものです。
本来の「おもしろ短歌」路線もやめませんように。

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鶴太屋さんです。

・春光の街を闊歩し靴鳴らすこの歓びの桜いろなる 
(鶴太屋)

・春の扉(と)を押して風吹く日曜日土筆(つくし)摘みけりこのほろ苦き

・陽だまりに春の生まるる一日を無為に過ごせり土龍(モグラ)鳴けるも

・春塵の道を行き交ふ旅人の永遠のゆふべ背(せな)に残れる

・夜の水に散るさくら花金泥の影をば曳きて春惜しむなる

・春雪の飛騨望みおく窓際にランプ玉そつと研(みが)くたそがれ

・歳月はまばゆいばかり蕗味噌の苦みを愛(を)しみ酒を酌むかな

・花街をたもとほる日々燕待つ五月の想ひに澄みわたる空

・春雷に銀碗の光(て)り鈍く浮く箸さへ持てぬだるき熱の身


明治時代の春という感じでよかったです。
このレトロっぽさが鶴太屋さんの武器です。

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松本響さんです。

・桜まで天に向かって散るなんて無重力にもほどがあります
(松本響)

・世界には光があふれストロベリーシェイクで君を汚したい春

・もう嘘はやめてください 舌のない四月生まれの鳥が啼いてる

・花びらと目が合ったなら逃げなさい 僕らを襲う春のピラニア


シュールな漫画みたいな世界で、
おもしろいです。


・制服を脱がせないまま春色のルージュに僕がほどかれている

・逆立ちで歩き続けて自販機の闇をのぞけば落ちていた春


こういう詩的な歌があるところも頼もしいです。


・すこしだけピンクを足して姉さんが春限定の呪文をさけぶ

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kanta_07.gifどうでしたか今回は?

sasa-6.gifあいかわらず女性が元気だけど、
全体的に悪くないんじゃないかな。
読み応えがありました。

sasa-7.gifこのBLOGの常連投稿者に関しては
もう「ネット短歌」とか揶揄されるようなレベルではないです。
たった1年(J−WAVE時代を含めると2年)でよくぞここまできたと感慨深いものがあります。

kanta_05.gifほんと、読んでいるだけのボクも楽しいです。

sasa-7.gif今回1首も選ばれなかったという人もめげずに
どんどん投稿してください!

kanta_10.gifチェックリストも出たことですしね!


sasa-4.gifということで、
よろしく哀愁☆
posted by www.sasatanka.com at 06:18| Comment(8) | TrackBack(0) | 総評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする