2010年02月14日

「一(1)」 総評

真昼のホワイトチェアから転げ落ちる
桂三枝を横目で見ながら
「バレンタイン・キッス」
を口ずさんでいる笹師範です。

佐野元春風か!

ということで、
大変お待たせしました!
どうしてもこういうボランティア仕事(作業に丸2日かかります)は
後回しになってしまいます。
ご了承ください。


今回のお題「一(1)」はどうでしたか?

いつもに比べると低調だったね……。
採れない歌が多かったです。

そうでしたか。

今回1首も採られなかった人は、
歌にする前に、
この発想・表現は本当におもしろいだろうか?
歌にするべき内容だろうか?
ということを自問自答してほしいです。
あと、なるべく
つくってから一晩は寝かせましょう。

なるほど。
客観的に見るためですね。

今日は、みなさんにとって
良い刺激になりそうな歌をご紹介します。
有名人のみなさんがつくった短歌です。


・出席を採り始めたら顔曇る一学期とは名字が違い
鈴木おさむ


・合唱コン リンダリンダを歌ったが みんなでハモるなんかキモイね
(鈴木おさむ)


・マドンナのブルマ見つけし更衣室 嗅ぎたる香り雨の野良犬
ピエール瀧


『鈴木おさむの胸キュン短歌』(ぴあ)より

どの歌も狙いがはっきりしているところが良いですね。
短歌の場合、あまりはっきりしすぎていてもいけないのですが。
表現の粗さを差し引いても
おもしろい歌だと思います。
鈴木おさむさんのような凄い人が
短歌にこだわってくれているというのは、
うれしいことです。


・プールの日替えの下着を入れ忘れ 帰りの私マリア・シャラポワ
眞鍋かをり

『サイゾ−』2005年10月号 
〜笹公人VS眞鍋かをり 対談〜より

これも名作ですよね。


・細いという漢字入ってる名字の人ハードル上がって皆デブに見える
(中山功太)

・ヤンキーが上のヤンキーに電話して上のヤンキーがヤクザに電話

・カニの殻からカニの身をほじる器具 パッと見ギリシャの兵士の武器だ


『中山功太ネタ全集』(ワニブックス)より

さすがはR−1チャンピオン。
うちのブログでも優秀作品レベルです。

みなさん即興にも関わらず
こんなに魅力的な歌をつくれてしまうのだから器用ですよね。
常に気の利いたコメントを求められる環境に
置かれているからでしょうか、
短歌にする前の段階での発想や
詩の核となる部分(「狙い」ともいえます)がしっかりしています。
さすが有名になるだけはあります。
彼らは「だから何なの?」と言われるような歌はつくりません。
そのあたりぜひ見習ってほしいです。

こういう人たちがもし短歌の「型」を身につけて、
本気で短歌に打ち込んだとしたら、
ぬるま湯に安住している歌人たちにとって
脅威的な存在となるでしょう。
まぁ、打ち込まないだろうけど……。


最後に
別格の谷川俊太郎さんの短歌をご紹介します。
(『文藝』での、谷川さんと穂村弘さんとの対談の中で紹介されていました)


・建物は実にかすかに揺れているそのことだけに気がついている
(谷川俊太郎)

・本棚にプランクトンの本があるこの一刻は無へと近づく

・午後四時の机の上に匙がある嬰児の声が庭に聞こえる

・枝枝も雲も私もハイドンも時の白紙に刷られる版画

・ほほえみに私自身も気づかない落ちた林檎が腐りはじめる



『詩を書く』谷川俊太郎・著より


凄いですね!

谷川さんの歌は、
短歌としてどうかという次元を超えていて、
明らかに何かが違っています。
天才のオーラがプンプンしている、
とても魅力的な短歌ですね。

他に、有名人がつくったおもしろい短歌をご存知でしたら、
ぜひ教えてください。

わが笹短歌ドットコムの常連投稿者である
ホラー作家の桐生祐狩(深森未青)さんも、
すでに余技の範疇を超えた歌をものにされています。

良い刺激になりました!
やる気が出ます!

でしょ。
そんなわけで、
1首だけでもいいので、
おっ、これは!と読者を唸らせるような歌をひねり出してほしいです。
みなさんにならできるはずです。
遊びだからこそ真剣にやりましょうぞ!!

武士(もののふ)か!

選歌とは「無言の批評」です。
採られた歌よりもむしろ
採られなかった歌に注目してください。
どこがいけなかったのかをよく考えてほしいです。
その際、
この「チェック表」
が役に立つと思うので、
ぜひ活用してください!

では、総評にまいります!

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まずは、高松紗都子さんです。


・一限を終えた窓辺に満ちてくる夏ゆるぎなくプールはひかる
(高松紗都子)

・アイドルが容疑者となる一刹那ガトーショコラは黒く砕けて

・ひなた道に出れば温もる両のもも一人の午後も寂しくはない



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・一年のはじめに誓う遠き窓ココアで十の指を温めつ
(鯨井五香)

・花冷えの待合室に集まりし一人ひとりが女を生きる

・銀色の降る真夜中に一橋大学前でだまってしまう



どの歌もイメージが浮かんできて、
よかったです。

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・木枯らしが飛び出しそうな本棚に一冊の春を差し込む
(富田林薫)

ポエジーがあって、
良い歌です。


・凍えそうなひとの手を取って一杯のホットココアに導く
 

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・バロム・1 二人の進路決まるとき怪人たちは静かに消える
(蜂谷希一)

うまいね。
しかし、18歳の青年が
昭和47年に放映された「超人バロム・1」
を詠むとは渋い!


・一月のサンタクロース 父さんが消える前の日もらった時計


蜂谷さん、受験合格おめでとう!

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・制服に着替えるために地下へ行き医療事務の一日が始まる
(イマイ)

・画面には日(ひ)に一回のデパス錠眠れぬ夜をわたしは知らない

・最後まで数字であらわされている<死後処置セット>1と入力

・0食が数日続き1食へ 若草色の項目を見る

・北館は一直線に伸びていて小春日和のひかりは遠い



ますます上手になりましたねぇ。
結社のチカラ?!
2首目が特によかったです。

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・一度きりじゃない人生 なら今はセックスよりも手をつなぎたい
(佐々木優)

・一生に一度の恋は13時発ののぞみが置き去りにして

・神様の仕打ちについてお話をしよう 一人でたつ銀杏の木


謎めいていてよかったです。


・初雪が哂ってやがるから 逃げた 君が見えない街の一月

・青春は深夜一時の暗闇とビタースイートサンバとともに


時代のムードがよく出ています。

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・ちょうどよく煮えたおでんに竹串がなくてお箸の一本でさす
(岡本雅哉)

・手放され倒れて弾む一輪車みたいに妻は酔ってベッドに

・文庫本の表紙のかすかな爪の跡は一筆書きのさよならでした



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・ひとまはり耳拭きくれし美容師よ貴方に言へる秘密がほしい
(深森未青)

・昭和五年発行「科学アムス」が記述する化石の群れの八紘一宇

・裏階段走り闇抜け幕裏にひとり震へるみんなのあなた

・卵巣をひとつ無くして艶めけるあなたとゆけば菖蒲(アイリス)が濃し


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・一本の丸太が置かれコロンブスの船が造られ始めた朝(あした)
(船山登)

・持ち運ぶのに弁当一個ぶんの体力が要る重い弁当

・俺の名が一字違っていたことは気にしていない合格通知



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・曲がり角ひとつ間違えたぐらいで自由になってしまうね、東京。
(高橋徹平)

「迷子」を「自由」と
言い換えているところがよかったです。
こういうちょっとした工夫が短歌の醍醐味です。


・口うるさい母の電話が切れたあと余韻がつつむ僕とワンルーム

・1本の鉛筆ころがる放課後の机のひだまり 君いるようで

・一等のない徒競走をはしらされ今度は草食系と呼ばれる


時代をとらえていて鋭いです。


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・待っている 世界を一新してくれる大きいひとを幹にもたれて
(虫武一俊)

・ただ一度転んだことをわけにしてお前は胸をいつまでせびる

・一瞬の光の連鎖 それぞれに三年分のアルバムを持ち



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・1度でも「ジャイアンシチュー」が喰いたいと思った俺は君と暮らせる
(104hero)

優れた「ドラえもん短歌」です。


・一年(ひととせの)後(のち)に聞きたる妻の屁に真の夫婦(めおと)らしさ漂う

・一時間待っても来ないあの人が知らない男と腕を組んでた


ちょっとベタだけど、
よかったです。

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・まっすぐな線はすべてのはじまりになって半紙を横切っていく
(小野伊都子)

・一日の途中で名字が新しくなって祝福のまんなかにいる

・ひとりからふたりになった朝のこと トトロの時計はみんな知ってる

・一段目登り始める勇気だけください あとは自分で行ける

・七ならべ一人で先に抜けたのは祖母 静かなる笑みを残して



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・一枚の白いタオルで拭くだけで忘れるような雨そして恋
(とおやまりん)

・砂浜に一って描いてあたらしい朝の地平を手に入れている


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・『一太郎』廃れ『WORD』が支配して思考がMS明朝になる
(松木 秀)

・一万円札を両替するときに二千円札五枚で出すな

・背後霊普通の人は一人だが高崎くんは霊にモテモテ



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・一齊に飛び立つ鳩の眞ん中にただ清らかな君の眼がある
(酒井景二朗)

・アイデアを一蹴されて歸る路の夕日が美しいのは何故だ

・朝早く一休さんが蹴倒したお地藏樣が微笑んでゐる



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・ていねいに型抜くジンジャーマンクッキーもうひとり子を産みたいけれど
(てこな)

・水筒の底のしずくは一晩でかわかなかった 君が恋しい

・ワンランク上の女になれたのか恋手放して〈マイ箸〉を持つ

・中一のわれの丸文字かけてゆくエリマキトカゲのノートひらけば



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・ひと掬い砂加ふれば築き来し城崩るるを知りゐて已(や)まず
(アスター)

・不夜城のひかり届かぬ片隅で彼はひとりの街娼となる


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・真冬日のボルシチがもう冷たくて今夜僕らは一人で眠る
(ミボツダマ)

・一瞬の光の中で僕たちは息をしていた 世界は巡る

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・骨折が一番恐い年なので今年目標下降修正
(おはぎ)

なるほど。


・一枚で事足りるのにコルセット春夏冬とプレミアが付く


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・プリンセスプリンプリンのサイコロのように一しかない通知表
(あんまさ)

・ボーイズラブを書いてみようか「一番はキミしかいない」というタイトルの

・武将好きなり山内一豊に滝川一益稲葉一鉄

・なんというか「一人」と「独り」ほど違うあなたは前者わたしは後者



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・「一番」とTシャツの胸に書かれたる幼い頃の強きアメリカ
(広瀬智深)

外人がよく着ていた「一番」Tシャツ、
最近はあまり見かけないですね。
ハルク・ホーガンを詠んだ歌かもしれませんが。


・この顔は只者じゃないとわれ思(も)いし最初の人は坂本龍一


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・観覧車一周の間に貴方から感染(うつ)されていた高所恐怖症
(たみ)

あるかも。


・1月は最も自信の持てぬ月 英語で言う時その発音に

・DSのタッチペンさと歌うかな平成の子はすうじの1を



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・観覧車から見下ろす街の夜景かな一期一会と言うは易きも
(佐々一竹)

・冬晴れが背中をそっと暖める一陽来復願う朝なり

・幾重にも衣裳整え舞台へと佐々一竹を演じきるため



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・失恋後自分探しの旅に出た友の土産は一六タルト
(ユーリーボ)

松山に行ってたのでしょうか。


・街角の洋菓子店の決めゼリフ「ロールケーキは一本勝負」

・今の子にあこがれの人を聞いてみたイチロー5人にマツイは1人



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・1×1を延々繰り返すような毎日 明日も続く
(人間失格)

・イチローを一郎と読むその時はスターもやはり平凡な人

・一日を無駄に過ごすを悔やむのに一年ばかり無駄に過ごしぬ

・一時過ぎ鬱々とするこの時に短歌があって良かったと思う



どれも共感を呼ぶ歌です。

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・『週刊バベル』ふろくの塔の完成の一歩手前で廃刊となる
(魚虎)

・J1に昇格するより難しい友達からの彼氏昇格


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・「1番じゃなくてもいい」と2番目のつもりの君は11番目
(伊藤夏人)

・何もかもリセットされる訳じゃない罪はどこかに一月一日


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・真夜中にひとりでかじるチョコチップクッキーみたく幸福な恋
(キタパラアサメ)

・ひとりではできないことがわたしにはたくさんあって、たとえば愛とか

・一日は日本全国映画の日なのでだれかとデートがしたい

・ひとりっこだからわがままなんじゃなくほんとはみんなさみしいんだよ



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・丑三つに一つ目小僧の訪(と)ふといふ少女の父に熟柿の匂ひ
(山城秀之)

・一つ家の鬼女を産みたる母御前(ははごぜ)の手帖に赤き手形のありぬ

・亡き耳で何を聞くやら芳一の消えぬ経文微光を放つ

・この謎はとけたとひとりごちながら去りゆく君の名は金田一



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・首に巻くネッカチーフは一文字隼人を知らぬ子どもらのため
(中村成志)

・からからのはだか畑にむく鳥が百羽蠢く こんなに一人


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・一月のヤル気のままでお花見を迎えることが今年の課題
(わだたかし)

・もうこれが最後の恋になるだろう 二十一回目の初恋を


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・一番になれないぼくは名前にも「二」の文字が付く長男なのに
(みうらしんじ)

・二番目に好きだったのに追憶の底で一番きらめくあなた

・一首だけ誰もが知っている歌を詠めないものか狂わぬうちに



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・さもなくば一等星の傍らで見えずとも在る星であれかし
(穂ノ木芽央)

・誰からも省みられぬその隙にまた今日一度きりの落陽


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・月曜の一時限目の数学はイニシャルトークの手紙が回る
(憂太郎)

・1Fの1年2組の廊下側だけが圏外と表示されたり


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・二歳児が涙でにらむこの時を一番古い記憶にするなよ
(そう蛸)

・一時間の値打ちが違うといいながら二次会にまで来んなお前は


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・年の瀬のキムタクのうた 一番になれなくなった言い訳としての
(しまやまひかる)

・「好きだから」なんじゃなくって「恐いから」だったんだね、あの「一緒に」って


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・雲ひとつない突き抜けた青空に何しに出たか忘れてしまう
(あげはた)

・君が引く一点鎖線のそちらがわ僕には壁は見えないけれど


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・一番に憧れながら目の前の試練をいつも塗りつぶしてた
(ひいらぎ)

・学年で一番取った四月から転落してゆく三年間で

・どうせなら誰かにとって一番になりたくてまだ走り続ける



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☆1首でもええじゃないか!!劇場☆


・けふもまたマクドナルドにぬばたまの牛の一部を食ひたりわれは
(はづき生)


・僕達はシーズン?のままでいい。再放送も録画もしない。
(貝柱ひとみ)


・一生(ひとよ)にて一度きりのわがままに 来て欲しいのと言えばよかった
(おおにしあやこ)


・かなしみは娘が書いた年賀状「大人になった」という一節
(西畠勇氣)


・船の一番先でタイタニックの真似しようぜと背後霊が言う
(風紋)


・途切れない言葉をつなぐ一番星には気づかないふりをしたまま
(はせがわゆづ)


・一晩中母は何かを探してる 通帳、カード、亡夫(つま)の面影
(山口ヤスヨ)


・怖いのは一人になることではなくて一人の日々に慣れてゆくこと
(小林ちい)


・こまごまと嘘を隠してふたりとも1回だけ死ぬんだろうなあ
(わたつみ)


・最初から言うつもりだったいろいろを言えず一言ごめんと言った
(滝沢勇一)


・黄昏にカレーの匂いただよいて一番星が光る「おかえり」
(佐井永)


・一礼の角度が揃う開店にシャッターの音響き合う朝
(猫丘ひこ乃)


 笹井宏之さんへ
・一生をかけて傾く瓶がある クロロホルムに春のさざ波
(瀧口康嗣)


・まなこふたつ持ちたるわれの心根(こころね)を一つ目小僧がじっとみており
(かわら)


・川の字になって眠るの夢だけど まだまだ今は1のままで
(ムラサキ・ピープル)


・階段を一段飛ばしで駆け下りた君の背中を今も追ってる
(コーヒーメイカー)


・極真に道場破りしに行って治療費として一万貰う
(MC・E)


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あきえもんさんです。

・知らぬ間にお昼の森田一義に慣れたのだから宇宙人もきっと
(あきえもん)

・正一に票は一つも入らずに生まれ持っての六票を守る

なるほど、おもしろい。


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鶴太屋さんです。


・デンドロビウム花咲くとみて蟾蜍(ひき)啼けり一陣の風身籠りゐしか
(鶴太屋)

・青葉寒 熊の眉間に一撃の銃(つつ)透きとほり水無月の水

・さくらばな一花(いちげ)氷れる夢の外溝(どぶ)に映るはネオンの街か

・一つ餅火鉢にふくれつつありぬわが窓透かせば濁世の灯(ほ)明り

・絶望の火の一滴(ひとしづく)胸に咲き来歴問へば砂はく蜆(しじみ)

・詩としての抒情装置は肯(うべな)へど水鶏(くひな)一羽も白く飛ばざる

・メタセコイアの一樹陽(ひ)の色真夏日に汗にじむ地(つち)白線ぐいと

・くろがねのにほひ流れて一閃の冬雷されば霙(みぞ)れてゐたり

・第一志望「血みどろ臓物ハイスクール」の少女吐瀉して時じくの胃痛

・海阪(うなさか)に一つ火の玉拝(をろが)みて濁世の穢れ美しく過ぐる

・碧落を支へし一日(ひとひ)の無聊なり湯舟の檸檬足もて沈め

・幽霊桜のこぬれに招く手が一つ蛇目傘(じやのめ)ぞ差せば黙して通る

・一番星枯木にかかるたそがれのあはれほろ酔ひ肝(かん)透きとほる

・桐一葉秋に揺れゐる望郷のこころ惨たり眼(め)に降るわくら葉

・どの男も一人オートバイ疾駆せり揮発油かをれるアデン・アラビア

・冬の果(み)の林檎にナイフ喰ひこませ一人(いちにん)の愛滅び去る見し

・野兎の血を垂らしつつ樟の樹の一眼(いちがん)薄(うす)う感じつつある

・栗鼠の血の麺麭(パン)に散るとき運河ゆく船一艘のなまぐさき火事

・『ロリータ』に一輪の押し花 傘をもて花を薙げども密林の孤独

・鯨カツの一切れ口に運びつつ思(も)ふ海のシェパードこそ狂犬か



鶴太屋さんは、
なんといっても自分の世界を持っているところが強いです。


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異能兄弟さんです。


・<1週間おためしセット>のサプリ飲み1週間だけ健康になる
(異能兄弟)

・顔半分マスクで隠れていてもすぐ誰だかわかる小沢一郎

・ナンバー1よりオンリー1って言われても乙女はカロリー0を求める

・<一見様大歓迎>と墓石に刻んで祖父は永久(とわ)に眠れり

・つぶやきが140字におさまらぬ男ブツブツ街をさまよう

・「独り言つぶやく奴に近づくな!」春一番が少女に告げる
 
・一青窈気取りで唄う恋人のブーツが臭うカラオケボックス

・吸引をされゆく脂肪一キロの余分にも五分の魂はある

・有名になる日のために取っておく1、1、1……の並ぶ通知簿


ヤンキー自慢?


・一卵性双生児の姉妹ねがえりを同時にうてば間延びする夜

・喜びは小匙3杯、悲しみは大匙1杯の人生が良い
 


駄作もありましたが、
殿堂入り投稿者の貫禄を見せつけてくれました。

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お疲れ様でした!

では、優秀作品発表をお楽しみに!

よろしく哀愁☆
posted by www.sasatanka.com at 16:23| Comment(9) | TrackBack(1) | 総評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年01月05日

「石」 総評


ところで、今回の「石」どうでしたか?

今回はちょっと難しかったかな。
靴の中に小石が入ったという歌がやたら多かったのが印象的でした。
そういう時代なんでしょうか……。

では、
では、
「総評」にまいります!
(コメントを付け足す歌もあると思うので、ちょくちょく見に来てください)

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まずは、
酒井景二朗さんです。

・インチキなテーマパークの石像に酸をぶつかけ泣かせてみたい
(酒井景二朗)

・成人に滿たず逝きたる友の部屋にいとも拙き投石機あり

・山路來て石より生ふる松見たり我は辛抱足らぬ者なり


オーソドックスな短歌ですが、
良いと思います。


・なめらかな團栗ひとつ石ひとつ冬枯れ森の土産物なり

・石の上鱒は見事にさばかれて爺樣と僕の夏は終つた



今年も酒井さんの活躍期待してます!

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松木 秀さんです。

・誕生石が胆石のようなおじさんが両手を上げる新橋駅で
(松木 秀)

おもしろい!
新橋が効いてます。


・偶然に辞世のうたが犬のうた石川啄木、島木赤彦

それは知らなかった。


・プログレの名曲「石をとれ」聴きてまだ痩せていた中学のころ

・札幌の白石区には競走馬ホワイトストーンのファン多かりき


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蜂谷希一さんです。

・名物とすべくトトロを切り出した石工の眼から光が消える
(蜂谷希一)

おもしろいし、説得力のある歌です。
目先の儲けに気を取られて初心を忘れてはいけないという
戒めの歌として読みました。


・微笑んでいるお地蔵さんの耳元で「しぬのがこわい」と言う小学生

・お遊戯の木の役と岩の役だけが使える三十分のテレパシー


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鯨井五香さんです。

・脳髄にみどりのひかり巡らせて原石だよってまだ思ってる
(鯨井五香)

「人はみんな磨けば輝くダイヤモンドの原石だ」
なんていう言葉がありますが、
それを肉体に当てはめて、しかも脳髄というパーツを出したところに
センスを感じました。


・ほがらかな冬に歌えばドロップの缶にまじっている飛行石

・朝まだきレールに冷える置き石のごとく静かに待っていようと

・心音は眠りてもなお冷えざりき よりしろのごとクオーツを抱く



上手ですねぇ。

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猫丘ひこ乃さんです。

・火打石をこころで打って送信す朝一番の「いってらっしゃい」
(猫丘ひこ乃)

・「撫で牛」に集まる人の温もりが重なるところ冷やさずにいる

・裾上げのごとく石づき切り落とす7ミリほどの椎茸の丈

・君がまた石に戻った日が来たらムアツふとんになってみせるわ


おもしろい。
猫丘さんの歌はやさしいですね。

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ユーリーボさんです。

・ご近所のおばさん達の集会に少し似ている環状列石
(ユーリーボ)

・ 人生に少し疲れたふりをして石狩川の鮭を見つめる

・ ラッパーを卒業したりその後は仏足石歌に挑戦したり


取り合わせがおもしろかった。

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伊藤夏人さんです。

・3人の時には君を石川と呼ばなきゃならない2人のルール
(伊藤夏人)

複雑な関係を匂わせています。


・対岸に向かって石を投げるとき山田久志のアンダースロー

・一人くらい失ったって泣くな俺 石を投げれば美人に当たる


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富田林薫さんです。
 
・カツカツと挨拶を繰り返しながら石畳と踵が出逢う夕暮れ
(富田林薫)

・石段を疾風の如く駆け下りて伊賀忍者専門学校に入学する

・明け方の川奈ゴルフコースで幸せの靴下を見つける石田純一

・水切りの達人になりたかった暮れるまで水面に投げつけた小石


好調ですね。

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西畠勇氣さんです。

・隕石がかつて壊した海岸で日本列島の破片を拾う
(西畠勇氣)

・人間の血にも肉にも驚かぬ殺人現場の方位磁石は

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ジオングさんです。

・石よりも静かに眠る廃村に夜な夜な響くうらべ唄かも
(ジオング)

うらべ唄?
わらべ唄じゃなくて?
そういうのもあるのかもしれませんが。


・ガンタンク通れぬからと石多き道開拓する公共事業

ガンダム短歌でました。

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愛媛県は今治のエロ事師
MC・Eです。

・君の眼を見れば誰でも石になる男ってのは悲しいものさ
(MC・E)

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人間失格さんです。

・道端で拾った石が宝石のように思えた頃が懐かし
(人間失格)

・「イシ」と聞き「縊死」が頭に浮かぶほど子供の頃は遠くなりけり

・石ころや火炎瓶など思いきり投げる気力も出ない平成


でもまぁ、そのおとなしさ・穏やかさが
平成の良いところでもあるのでしょう。


・人間は石ころ以下の存在と金高騰を見つつ思えり

歌がペンネームに合ってます。

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わたつみさんです。

・水面を弾き飛ばして行く石よ何をそんなに振り切りたいのだ
(わたつみ)

・墓石にちょろり水かけ手をあわせ ほんとだここに誰もいないよ

「千の風になって」への返歌として読みました。
いいとおもいます。

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虫武一俊さんです。

・靴下のなかの小石にさえおれはさらせさらせと諭されている
(虫武一俊)

・浮き沈む石の小島よ 駆けてさえいればなんとかなるはずだった

・見つけ出してくれるはずだと待っていてかくれんぼから化石ごっこへ


なるほど。

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中村成志さんです。

・海岸の小石を口に入れるなら黒く平たくなめらかがいい
(中村成志)

たしかに。


・ああ前兆がやってきた右側の睫毛からまた石になるんだ

・水面の影を波紋が追ってゆくサイドスローで投げ入れた石


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おはぎさんです。

・青空の飛行機雲を見上げつつ思い出す旅石につまずく
(おはぎ)

・宝石を耳首指にありったけ付けてテレビに出てる妖怪

HOSOKI女史?


・河原でカッコイイ石見つけたが漬物以外用途浮かばず

好調ですね。


>失礼ですが先生がお悩みの「尿路結石」には漢方薬「ツムラの「チョレイトウ」がよく効くようです。

貴重なアドバイスをありがとうございました!

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佐々一竹さんです。

・石貫の頑固親父が立ちまわる昭和は遠くなりにけるかも
(佐々一竹)

「寺内貫太郎」のことでしょう。


・石臼は我が腕で碾くしみじみと濃茶を点てて愛おしむため

・師の歌碑の礎がやや欠け始む岩は石経てやがて礫へ



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瀧口康嗣 さんです。

・光差すトースト冷えて石板のその一面に野イチゴ史あれ
(瀧口康嗣)

・たわむれに翡翠を語り尽くしたるパパこそ永遠(とわ)に夏のクオリア


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高羽佐兎子さんです。

・石段で「ちよこれいと」と言いながら駆けだす君が冬空を切る
(高羽佐兎子)

・書割のような町では迷えない方位磁石をなくしてみても

・深層の化石をさぐる指先にほどかれてゆく二重のらせん

・みずからを盤石なものにするための布石もあれば捨石もある


なるほど。


・石つぶて投げたつめたいてのひらで何をこわした駿河台下


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久哲さんです。

・尖ってはだめよ それではこの先の賽の河原で積み残される
(久哲)

暗示的な歌です。


・ゆっくりと午後の染みこむ英国にストーンヘンジと言う椅子がある

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小野伊都子さんです。

・ポケットの石はおみやげ 公園の小さな右手ゆれる12時
(小野伊都子)

・ひだまりのピアノの音でほどかれる 私の胸の小石いくつか

・走るのをやめてしまった足元に石と光と花びらがある



どの歌もよかったです。
方向性が見えてきましたね。

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深森未青さんです。

・狛犬であることが気に入らぬ石ほんとはもつと美人よあたし
(深森未青)

・あてどなく知らぬ河原を往くときも踏むと踏まぬの石選びつつ

・ふいに思(も)ふイースター島の巨石群見ぬままにこの生は果つると


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魚虎さんです。

・隕石が落ちてきたって僕らには片手で止める楢崎がいる
(魚虎)

・三畳紀中期ごろからやり直せアンモナイトの化石とともに

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広瀬智深さんです。

・口許の黒子艶めき少年を振り返らせる石川さゆり
(広瀬智深)

・石段にアジャリ見かけた夏の朝クマゼミの音の大きく響く

・砥石にて包丁研ぎし君の眼が昨夜はやけに血走っていた



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碧さんです。

・どうせなら4月生まれが良かったな ダイヤモンドが一番高いし
(碧)

・石切りを教えてもらうのホントはねどうでもいいの一緒にいたいの

淡い恋心を詠った1首。

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ふふさんです。

・思うまま小石ばらまく君の愛わからなくってすべって転んで
(ふふ)

・柔らかい石のようだよ父の肩固まりかけた会話もほぐれ


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柴田菜摘子さんです。

・誕生日プレゼントには石磨きセットをくれた叔父は無職だ
(柴田菜摘子)

悲しすぎる……。


・川べりで小石を投げる少年も必ずおじいさんになるんだ

・「コノイシニハパワーアルヨ」と隣人のフィリピン人が日々売りに来る


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104heroさんです。

・「医者になるっ!」石屋のせがれ反抗期「や」を縮めて密かに始まり

・「ローリングエメラルドぉ」って叫ぶ彼意味不明だがカッコよかった


その気持ち、わかる。

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てこなさんです。

・ふるさとの夜泣き石伝説話しやるもう抱っこせず眠れる子らに
(てこな)

てこなさんは、実にいろいろな角度から
子育て短歌を詠まれています。


・4℃の店内冷えて石たちに見透かされているマリッジ・ブルー

___________________


しまやまひかるさんです。

・“この町は石倉三郎だらけです、思ってたよりあたたかいです”
(しまやまひかる)

手紙の一節でしょう。
あたたかい歌です。
目の付けどころもよかったです。


・ストーンズがなくなるときのことなんか考えないでもう朝なのに

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空山くも太郎さんです。

・スニーカーの裏の取れない小石ほどの主張もできずにボーナスカット
(空山くも太郎)

・「靴の中に小石があるはず。痛いんです。」営業マンのストレス幻覚

ほんとにありそう。


・石を呑んだカナリヤみたいな失声の少女が飛び立つ窓には虹を

・川原には小さく積まれた石の塔 誰かを想い崩れずにいる


下の句がよかった。

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はせがわゆづさんです。

・ベランダにトマトが実った朝しずかに石鹸水から飛びだしたシャボン
(はせがわゆづ)

・大切に泡だてていた石鹸からゆっくり香りがこぼれおちてく


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みうらしんじさんです。

・ポケットの中の小石をほうりなげ「自由さぼくは」とつぶやいた夜
(みうらしんじ)

・靴底にはさまっている石ころのように運ばれたどり着く闇

・童貞の頃のおいらが萌えていた石野真子似のあの娘の八重歯


この場合、石野真子本人にしたほうが
良いと思います。

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はづき生さんです。

・かへりみち路傍の石をけつとばすくらやみのなかに埋まつてしまへ
(はづき生)

・玄関のわきには漬物石のあり祖母のつかひし大きめの石

・みづうみの崩れ斜面に音のして石とびこへて石みづに入る

・たひらなる湖面を打ちて石はねて波紋をのこし水わたりゆく

・おばさんの抽斗のおく南極の石五十年入れつぱなしだ



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とおやまりんさんです。

・なんだってこんなところに ノジュールになれざる石がここにも冷えて
(とおやまりん)

・君の部屋のポトスライムのさみどりのいろですピンキーリングの石は


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佐々木優さんです。

・僕たちは流されやすい 生協の白石さんの今を知らない
(佐々木優)

白石さん、ケータイ短歌に出演中ですよ。


・Googleも役立たず ぐるぐる廻る君の石兵八陣の中

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中森つんさんです。

・結石を落としたくって父さんがとんととんっと踏んでるタップ
(中森つん)

経験上、そう簡単には落ちません。


・豆ほどに小さくなって石鹸は東京湾へ旅に出ました

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たみさんです。

・七歳が小さな下駄を瞬足に履き替えのぼる長い石段 
(たみ)

いま流行りの「瞬足」を詠み込んでいます。


・水底に沈むオオカミ引き上げてヤギが取り出す光るイシたち

なんとも怪しげな魅力のある歌です。


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やましろひでゆき改め
山城秀之さんです。

・悪しきもの石になりぬと我が妻のうすく笑ひし夏の夕かな
(山城秀之)

・真夜中の逢瀬を好む女にて猫目石なる二つ名持ちぬ

・石垣の隙間を出でし蛇(くちなわ)の妻を見しより忽然と消ゆ


3首とも怪異を詠んだ歌です。

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滝沢勇一さんです。

・海底に沈む石像にお参りをしに行くような入水自殺
(滝沢勇一)

・石像のハチの顔して内定を待つ六畳の部屋にも夕暮れ

・三匹のこぶたのウーより生真面目にレンガを積むから一緒に住もう。


いいんじゃないでしょうか。

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憂太郎さんです。

・同調の圧力かかる教室で生きぬくために岩石となる
(憂太郎)

・保健室も居づらくなって石膏のレプリカ群と語りはじめる

情景が浮かんできます。


・ポケットのなかの原石僕たちはよくわからない比喩で呼ばれる

・朝はやく石器を埋めた少年が大きくなって神の手を持つ



回を重ねるごとに良くなってますね。

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佐井永さんです。

・夕焼けをゴールと決めて蹴り上げる小石や汗や青春とかを
(佐井永)

・河原には丸い石などころがって傷つけながらたどりついたの

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船山登さんです。

・石女(うまずめ)とオカマばかりにあらねども人が減りゆく釜石の街
(船山登)

・釜石の寂れし鉱山(やま)に湧く水にトロッコ線の鉄錆びぬなり


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あげはたさんです。

・携帯を手にしたことが無いだけで石器時代の人と呼ばれる
(あげはた)

ベタだけど、おもしろい。
静かな怒りが込められています。

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ミボツダマさんです。

・グランドを走る君には届かない石灰まみれの手を陽にかざす
(ミボツダマ)

・存在を吸い込むようにその人の墓石にそっと触れる左手

・ぽろぽろと心が欠けてゆくたびに夜な夜な積み上げる石の塔

・永遠を失うふたりにのしかかる小さな小さな四月の石よ


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ひいらぎさんです。

・笑ったり泣いたりしている石ころを拾って帰る夕暮れの道
(ひいらぎ)

・ポケットにしまった小石はからからと涼しい顔で洗濯機の中

いい感じです。


・幼子の二人が順に投げ入れる石の波紋が重なってゆく


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山口ヤスヨさんです。

・教室の窓から摘みし石榴の実その酸っぱさは初恋に似て
(山口ヤスヨ)

・その頬に触れる代わりに描いてる石膏のマルス君にそっくり

・痴呆初期の母との話は繰り返し賽の河原に石積むようだ

・「ねぇわたし家の鍵すらわからない」石油ストーブの香漂う母は


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小林ちいさんです。

・投げ込んだ言葉の小石 冷静な君の水面を崩してみたい
(小林ちい)

・雨垂れのように繰り返し愛を説くあなたの固い石穿つため

石は固いので、
「固い」は言わずもがなです。

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ムラサキ・ピープルさんです。

・石臼を早く廻して挽く人の この歳までにこぼしてきたもの
(ムラサキ・ピープル)

・想いなら海に沈めてしまいましょう 目に触れぬよう石へと変えて


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2010年宇宙の1首劇場


・抵抗の石を握りしてのひらを癒すをとめのやはらかき頬
(アスター)

・春になり雪だるまいた地面には墓標となったふたつの石が
(青田)

・デートではいつも小石がちくちくと転がる靴を買う人生さ
(帯一 鐘信)

・手のなかのロウセキあの子のぬくもりも握りしめてるおわかれの会
(穂ノ木芽央)

・石垣の下段に彫られた十字架はこれから先も城を見上げて
(イマイ)

・川底で傷つきながら丸まって今日もだれかにやさしくできる
(キタパラアサメ)

・神様が書き初めの際に使用した重石(おもし)としてのストーンヘンジ
(劇団☆MMP主宰)

・何気なく拾った石の残留思念読めば子供の頃の父と出会いぬ
(草蟲)

・玉石は所詮混じらず玉置浩二と別れし石原真理子は
(HY)

・ガラガラガラとわれらの頭に石落とす青いみ空をわれは憎む
(かわら)

・愛の石、道ゆく人にぶつけよう 満たされながら殴られてみよう
(花岡賢)

・石の花 紛争あるたび思い出す憤怒の銃口誰に向かわん
(ユメバク)

・踏みしめる十三段の石畳 君を無罪にできるのならば
(貝柱ひとみ)

・締め切りが近いの「石」で連想するは何?と甘えてみせる今宵
(おおにしあやこ)


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「笹短歌ドットコム」きってのインテリゲンチャ
鶴太屋さんです。

石に刻む少女(をとめ)風中そのむかし縊れし傀儡女(くぐつめ)の一人かは
(鶴太屋)

飢ゑ充たすとて石ねぶれども舌寒し クヌート・ハムスン忌の紫雲英田(げんげだ)

実石榴の熟るる季節に息吹きかけ琥珀少女(をとめ)のパッション・フルーツ

錐揉みの銀機絶巓をけずりたれば蜘蛛匍(は)ふ石にはしれる白露(はくろ)

大寒の鶏(とり)の蹴上ぐる凍土かなくちびる噛みて漱石の坐(ま)す

石動(いするぎ)の寒の市ゆく葱の香や雉子(きじ)の首提げ哭(な)けり美丈夫

骨壺のうたひをどれり大泉滉(あきら)の父たる黒石(こくせき)の骨

湧き来(きた)る数瞬の霧スコッチ乾(ほ)し石原裕次郎のにがわらひ

魚(うを)の棲む石あるべしや石を売るつげ義春に犬狼星(シリウス)ささぐ

浄夜なり道道の石響(な)り交へば紫水晶(アメジスト)の息吐ける少女子(をとめご)

石廊に花の葬儀のデジャ・ヴュ再(ま)た 砂糖漬けの父ほろにがき母

ギャングたち誰より死ぬる愛に死ね海石榴(つばき)咲く野にかぎろひの骨

オランウータン無心の眼澄みとほり宙(そら)への石段のぼらば楼蘭

祭囃子の記憶遙かに齢(よはひ)ふる 宝石の脳髄(なづき)飴いろに痺れ

墓標踏み倒し末枯(すが)るる故郷かな水晶石のうちの寒鮒(かんぶな)

ギリシアの裔の石殿炎ゆる日を伽藍ささふる女人柱(カリアティド)の黙(もだ)

石窟の画(ゑ)の馬駈くる形(なり)のままつぶらなる眼(め)は夜に濡れゐしか

ジェーン・バーキン歌へば熱のゆりかごに届けよ雪花石膏の詩(うた)

猫目石の釦(ぼたん)澄みたり精霊にゆき逅ひしのちのたかぶる炎

アヴェ・マリア聴きつつ凛(さむ)し石の薔薇けさ渾身の露湛へたる

囀り石のするどき傷や父(てて)なし子ひとり遊びに折る曼珠沙華

逢魔ヶ刻と笑ひて別れひとり蹴る小石のさむしあをき没陽(いりひ)よ

青き鬱のビタミン剤嚥(の)み夜をこめて読むなる明石海人のうた

紫苑雪野のしろたへ被(かづ)き枯れわたる点鬼簿焚けば石川淳の忌

石筆(せきひつ)を売るよろづ屋の世も過ぎて焼き茄子串に刺せば晩涼

石妖に憑かれ石工(いしく)の鑿(のみ)打てる火花と散ればひもじき蛍

根こそぎの夭(わか)き石楠花移し植ゑ鬱金(うこん)の鳥が花に溺るる

月光に碧(あを)き石筍きしりたれ薄氷の湖(うみ)わたる若僧(にやくそう)

娶らざる兄(え)に桜雨ふりそそぎ婚姻色の石斑魚(うぐひ)一尾や

他界の石ノ森章太郎ゑまひつつ草むす脳髄(なづき)のそよぐ少年



推敲してちゃんと良くなっているところが流石ですね。
しかし鶴太屋さんの創作の泉は枯れる気配がないですね。
そのあたりも頼もしく思っています。

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かんなさんです。

・あの夏の匂いを放つ引き出しの紙石鹸のケースを開く
(かんな)


・錆びついた線路に石を置いたこと咎めるような風に吹かれて


・靴底の小石と共に言いたくて言えないことを振り落とす朝


・川底の石踏みしめて歩くごと十五の君の揺らぐ六月


・失ってゆく事をしるポスターの石野真子には八重歯があって


・十月の野原が見える忘れ物みたいな形の石を拾えば



抒情的な少女漫画を読んだあとのような後味、
素晴らしいです。

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お疲れ様です!

全体的にレベルが高かったんじゃないでしょうか。

どこまでいっちゃうんでしょうか。

末恐ろしいです。
では、僕は仕事があるのでこのへんで。
2回目の日経新聞「読書日記」は何を書こうかな……。

まだ決めてないんですか?!

うん。
いつもギリギリ人生だから……。
今日が締め切りなんだけど。
急がねば……。

ということで、よろしく哀愁☆
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2009年11月23日

「人形・ぬいぐるみ」総評

どうも、シルバニア村出身の笹師範です。

そんな話初めて聞いたよ!

あれはいいコミューンだったな……。

コミューンじゃねえだろ!
怪しい方向に話を持ってくな!

ということで、
今回は「人形・ぬいぐるみ」短歌です。

どうでしたか?

おもしろい歌もありましたが(特にベテラン勢)、
いかんせん表現に隙のある歌が目立ちました。
文法の誤用や「てにをは」の使い方が間違っている歌も多かったです。
そういう歌はいくら内容がおもしろくても、コンテストなどでは容赦なく失格にされるので、気をつけたいところです。

あと、短歌をつくったあとに、
「歌意が相手にちゃんと伝わるかどうか」
を客観的に厳しく読み直す習慣をつけてほしいです。

なるほど。
ほかには?

えー、何度も言ってますが、
『念力短歌トレーニング』
を何度も読み直してほしいです。
ほかに初心者の入門書としてお勧めなのは、

『短歌を楽しむ』
栗木京子・著

『考える短歌』
俵 万智・著

の二冊です。
この二冊は初心者にも非常にわかりやすく書かれています。
それでいて上級者にも読み応えのある内容です。

とにかく表現の基礎をしっかり身につけてほしいと願っています。

今回は、「総評」が遅れてしまった(サボっていたわけじゃありませんが)お詫びをこめて、
いつもより丁寧に批評しています。
熟読してください。

それはありがたいです!

では、冬のクラクションを鳴らして
「総評」に移りたいと思います。

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まずは、
憂太郎さんです。

・ぱっとみてムックの方が愛情を受けて育った顔をしている
(憂太郎)

目の付け所が良かったです。


・会議には勝負ピカチュウ左胸の内ポケットに忍ばし臨む

ピカチュウグッズは金運を上げるか?


・赤ちゃんの人形あやすオバさんの独り言なぞ聞いてはいけない

・冗談のつもりで作ったわら人形机の奥から今夜取り出す


上の句が説明的で惜しいですが、発想は良いと思います。
実際にありそうな話だし。

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みうらしんじさんです。

・芽の出ないわたしがここにいるごとく髪ののびない人形ならぶ
(みうらしんじ)

・自傷癖ある青年の引出しに包帯巻いた少女のフィギュア

・年とらぬ少女人形みつめつつ愛らしかったアイドルおもう


伊藤つかさにかけてるのかな。


・いつの日か着ぐるみを脱ぐときが来て静かにぼくは旅立つ空へ
 
肉体を着ぐるみと表現しています。

なかなかよかったと思います。

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HYさんです。

・ミッフィーを小脇に抱え14才次女の読んでる「暗黒童話」
(HY)

微妙な年頃の娘の行動をリアルにとらえた1首。
でも、「14才次女」は、
「14才の娘」でいいんじゃないでしょうか?


・マネキンの上向き乳首憎らしくシャツの上から挑発している

・綾波の妙に安産体型な臀部のフィギア居間に鎮座す

・大トトロ抱き人形にて安眠すSEXレス歴5年の妻は


正しくは、
「大トトロのぬいぐるみ抱き眠りいる〜」
という感じでしょう。
細かいところにも注意を払いましょう。

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「異界のさびしんぼう」こと
酒井景二朗さんです。

・嗚呼華奢な肉人形に逢ふ爲の哀しい人の列につらなる
(酒井景二朗)

年季の入った一流の怪しさを
見せつけてくれました。


・戰場に空しく散つたおもむきで砂に埋もれてゐるミクロマン

絵が浮かびます。
R30にはたまらない風景。


・電源が呪詛をうそぶくさう今こそ學天則が暴れだす秋(とき)

「帝都物語」っぽい1首。
學天則、不気味な味わいがあります。


・にやんまげにとびつくほどのいきほひで戀を探つてみたらどうだい

「どうだい」って言われても……。


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3年C組鬼畜先生こと
深森未青さんです。


・さくらばな盛りて供せし人形は生家の庫に飢えてをりなむ
(深森未青)

・ありえざる睦まじさにて添ひて死ぬ事故実験車のダミーの家族

不気味ですなぁ。


・いとせめてかなた在りまさむ海なれど〈人形(ひとがた)流しご遠慮ください〉

上の句、これでいいのか疑問。


・埴輪馬のいとど大きに巨人族の説思はぬか宗像教授

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はせがわゆづさんです。

・ひだまりのなかにとけてくリカちゃんの髪が小指に絡まっている
(はせがわゆづ)

・リカちゃんの瞳の中の星ひとつこぼれるような君のまばたき

・ウェディングドレスのままで待っているリカちゃんの赤いくちびるは笑む

・リカちゃんの睫毛はやさしい色をしてきめこまやかに夜を縫ってく


ゆづさんの歌は、
作者名を見なくてもそれだとわかるところがいいです。

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空山くも太郎さんです。

・とび色の瞳は静か アンティークドールはずっと泣こうとしている
(空山くも太郎)

・鏡越し私の部屋の人形に会釈をされて振り返れない

「鏡越しに」としてください。
それにしても怖い歌だなぁ。


・人形を赤ちゃんみたいに抱く人の病歴にあるわずかな現実

「わずかな現実」が惜しい。


・覗いても硝子の瞳は反射する あの子は僕を見てくれたのに


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山口ヤスヨさんです。

・ちまちまと雛人形を飾るのはあれは何かの訓練でした
(山口ヤスヨ)

そうかもしれない。


・シルバニアの町に住んでる夢を見た先生にギュウしたら固かった

シルバニアファミリーのCMって、
しつこいくらいやってたよね。
売れてたんだろうなぁ。

__________________


イマイさんです。

・大きさの異なるふたつのてのひらは綿のつまったかめの甲羅に
(イマイ)

なるほど。


・同僚の着ぐるみバイトの話きくラー油の瓶まで薄暗い梅雨

・いもうとは静かに泣きはしなかったミッキーマウスのとれかけた鼻



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てこなさんです。

・言えぬ恋封じて〈母〉にもどるためぬいぐるみ用縫い針を買う
(てこな)

てこな調の、とれたての短歌です。


・初恋のさなかの子らが見ておりぬ少し黄ばんだウエディング・ベア

・子に似せたマジパン人形つくる昼 恋を産まない〈母〉になりたい            

・ぬいぐるみのように縫ったの?はなちゃんは自分のお腹の手術痕見る



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猫丘ひこ乃さんです。

・目を貼れど鶴瓶のように見えるから仕上げられずにいるスヌーピー
(猫丘ひこ乃)

正しくは、
「目を貼ると」でしょう。
無理に文語を混ぜると
おかしくなりがちなので気をつけたいところです。


・15体3列にしたこけしらに歌ってほしい「WE ARE THE WORLD」

怖いなぁ。

__________________


広瀬智深さんです。

・シェーをする人形の歯の黄ばみには昭和の路地の残り香ただよう
(広瀬智深)

「残り香ただよう」ではなく、
「香り漂う」でいいと思いますが。


・嘘をつくたびに小さくなっていくマトリョーシカの中身のように

深いですねぇ。

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ユーリーボさんです。

・生徒等が見てないことを確かめて「ナナちゃん」くぐる高校教師
(ユーリーボ)

・世間から忘れ去られた悲しみを踊りに注ぐフラワーロック

フラワーロック流行りましたねぇ。
バブルの匂いがします。


・サトちゃんとケロヨン並ぶ薬局を向かいの店のニッパーがのぞく


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たみさんです。

・飽きられたことを悟れば永遠に閉じることなきドールの瞼
(たみ)

・我も娘(こ)も優性遺伝を受け継ぎてくせ毛の雛の無きぞかなしき

・くるみ割り人形堅い意志もちてその実味わう夢も砕けり


プロに徹してるわけですね。


・人形の髪に留まった赤トンボ震えるリボンとなる影法師

なるほど。


・きしきしと肩の関節軋ませてリカちゃんパパの手旗信号

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船山登さんです。

・「左手」も見つかるように敵ながら祈っています 橋の上より
(船山登)

カーネル?


・ミッキーの中にバイトで入ってた吉野君たら細かったよね

リアリティを感じる会話です。


__________________


しまやまひかるさんです。

・シルバニアファミリーたちと同居した頃のぼくらとアイドルの死
(しまやまひかる)

作者の年齢がなんとなく見えてくる1首。


・「好きだよ」がいつも遅れるあなたいついっこく堂に弟子入りしたの?

おもしろい。

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松木 秀さんです。

・藁人形販売広告載っていた昔の「GON!」に執着をする
(松木 秀)

・使用済みダッチワイフはリサイクルショップになぜか売ってはいない


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西畠勇氣さんです。

・ヌイグルミ魂こもったかわいさは過剰に正しく死体に見える
(西畠勇氣)

・みぞおちを子どもに殴られしゃがみこむミニーから出たうめき声が雄

そんなもんでしょう。

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富田林薫さんです。

・また冬のサンタクロースのカッコしてケーキに乗るの不二家のペコちゃん
(富田林薫)

「冬の」は省略すべき。


・忘れられたリカちゃんハウスの片隅でわたるくんと抱き合って朽ちてゆく

・堂島ロールあきらめて何故あなたは太らないのとバービーに問いただす

・同窓会にて「仕事なにしてんの?」と聞かれ口ごもるミッキーの中のひと



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中村成志さんです。

・あたま無しアンパンマンをぶらさげたバックミラーに張りつく視線
(中村成志)

・大辞林の横で微笑むリカちゃんは髪の右半分だけ灼けて


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小林ちいさんです。

・プーさんがいると言われて向かう部屋さわりたいのはクマじゃなく君
(小林ちい)

・わたを入れ髪を縫い留め目を入れてあなた首の後ろを閉じる

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乙女座☆星子さんです。

・ともだちに言えないひみつ口のないキティにだけは話しておこう
(乙女座☆星子)

キティちゃんの人気の秘密は、
口のないところ。


・銀色のあなたの腕がもう少し強かったならいないこの部屋

・偽りの出張させて温泉にあなたを浸けてゆるキャラにする

・もう何も脱ぐもののないわたくしの最後のファスナーおろしていいよ



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ユメバクさんです。

・押入の奥に増えゆく問題はケロヨンサトちゃんカーネルサンダース
(ユメバク)

・リカちゃんの髪が伸びたと言い張りて君はひとつおとなになった

「言い張って」と
口語で統一したほうが良いです。

_________________


前回のチャンプ、
かんちゃんさんです。

・君に似た人形のいた蝋人形館への地図を捨ててしまった
(かんちゃん)

・大道具倉庫で眠るゴン太君の目が開くとき奇跡が起きる

ゴン太くんはたしかに神秘的なキャラだな。
何科の動物なのかもわからないし。


・日に2ミリ鼻毛の伸びる人形を前よりもなお愛しく想う


_________________


佐々一竹さんです。

・春浅し岩槻の町いっせいに人形の瞳が入れられ始む
(佐々一竹)

・死期悟る女男に涙のこぼれたる人形浄瑠璃曽根崎心中

・安っぽい人形焼きであるけれど精一杯の父の手土産

・焼け焦げた藁人形が甦る封印された過去をともない



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かわらさんです。

・みずからの手にマヨネーズをかけていたキューピーちゃんはどこにもおらず
(かわら)

・床の間の金太郎の耳もとに「言ってやった」と囁く兄貴

・前のめりに倒れし弥次郎兵衛の頭(ず)を潰したき心をころせど殺せど



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キタパラアサメさんです。

・もう一度ゼンマイ巻いてオルゴール人形みたく愛をつたえて
(キタパラアサメ)

・生きるのも死ぬのも嫌よ 血液の温度を知らず眠るマネキン

・「穢れろ」と言わんばかりにストーブの熱で溶けゆくリカちゃんの髪

・心臓を盗まれたまま理科室でわたしはただの人体模型



好調ですね。

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貝柱ひとみさんです。

・泣きながら薄紙に包(くる)む雛飾り あの日の吾も包んだままで
(貝柱ひとみ)

・愛失せて親切だけが残るなら外反母趾まで等身大に

・薬屋の赤うさぎ、甘美の目眩。熱は暫く下がらなくていい



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佐々木優さんです。

・一昨日の火事場の跡に残された焼け焦げたザク 尊い平和
(佐々木優)

・まだ出しておくお雛様 姉さんの未来の人に嫉妬していた

あまり見ないタイプの歌で、
おもしろかったです。


・愛すこと 人とはどこも違わない 叶わぬまでも傀儡師の夢


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高羽佐兎子さんです。

・壊されるために生まれる存在と知れば砕けるクラッシュダミー
(高羽佐兎子)

・人形(ひとがた)が人形(にんぎょう)となる歳月に寂しきものは降りつもりゆく


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柴田菜摘子さんです。

・ぼくの仮面ライダーは「もう時間」だと休憩室へ入っていった
(柴田菜摘子)

・ぬいぐるみのお腹の中に入ってるきみとわたしの隠れ家の鍵

「マルサの女」か!


・蝋人形微笑んだのが見えたのは自分だけかと逃げ出した友

・通夜のあとテレビつけるとぬいぐるみ振り回してる鳥居みゆきが



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小野伊都子です。

・おやつです ペープサートのおおかみが大きなかすてらたいらげている
(小野伊都子)

・ひみつとか涙をじゅっと吸いこんだ人形たちは甘く湿って

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ケータイ短歌でもおなじみ
おはぎさんです。

・此れは何皆に聞かれ「どうもくん」貰い手も無くあれは何者
(おはぎ)

・乾燥しコケシ人形ヒビ入り怨まないでね頭割れてる


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文月育葉改め文月郁葉さんです。

・リカちゃん派?ジェニーちゃん派?の問いかけに睫毛を伏せるブライスがいる
(文月郁葉)

・レプリカのジュモーは祈る もう二度と誰かの代わりをしたくないのよ

・傷つけあう覚悟はできたシュタイフのくまより弱い君といること



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ミボツダマさんです。

・にらめっこしましょブライスわらったらぱっちりおめめひとつちょうだい
(ミボツダマ)

・ひかりぐみ時代の嘘とリカちゃんの右腕はあの下駄箱の中

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都季さんです。

・「人形を愛しすぎてはいけないよ、情が宿る」と十歳の言う
(都季)

・抱き枕に出来るくらいのカピバラさん残業越えたら買うんだ泣かない

・恋人にするならムック掃除とか得意そうだし枕にできるし


答えを出しちゃってるところが惜しい。


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ひいらぎさんです。

・溜め息が誰のせいかも言わないしぬいぐるみだって捨ててしまえる(ひいらぎ)

・無造作に部屋に転がるウルトラマン今朝は確かにヒーローだった

・引出しの奥にピンクのクマがいて見て見ぬふりを決め込んでいる



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そう蛸さんです。

・古ぼけた超合金をもてあそぶ機械油の滲みた指先
(そう蛸)

・上の子は今度小学生ですよ イオンモールのマネキンのパパ


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岡本雅哉さんです。

・孤独ゆえまたカップルを脅しては河原に眠る空気人形
(岡本雅哉)

・コスプレでPerfumeライブに集ってはアンドロイドになる少女たち

「Perfume」と「アンドロイド」って、
ちょっと即(つ)きすぎでしょう。


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鯨井五香さんです。

・留守電のランプ見つめる文机のマトリョーシカの2体目がない
(鯨井五香)

・「すきだよ」と、教えた言葉くり返しアンドロイドは蛇腹をたたむ


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ボジョレーと女優と1首劇場


・デート前リカちゃんみたく着替えては無難な服を結局選ぶ
(中森つん)

・人形は右手に愛を受け止めて左手は涙拭くためにあり
(ごましお)

・ユーフォーキャッチャー人形選ぶ目つき似て面接官の優しい眼差し
(草蟲)

・行列が行き着く先にカリスマの美容師チャッキー鋏を握る
(たたこにゃん)

・ものいえぬ君の人形やめたとき清々しさと涙あふれて
(ふふ)

・世間体というきぐるみ着続けつまらぬ劇を演じ続ける
(人間失格)

・ウシくんとカエルくんとが共謀し頭巾の人の眼球を食む
(蜂谷希一)

・バースデイテディベアを川に流し自分探しの旅の了(をは)んぬ
(やましろひでゆき)

・さいごの日もう片方の目を入れてだるまは両の眼みひらく
(はづき生)

・螺旋(ねじ)巻けば少女ふたたび歌いだす『私は夢見るシャンソン人形』
(魚虎)

・人形のチョッキを編むのとわらう母わたしの身ごろのサイズをはかる
(ぱらん)

・服を買いメイクほどこす自分よりドールに費やす金も時間も
(あお)

・初投稿送信ポチと押す間際人形になる私の右手
(碧)

・街角のマリオネットの一幕劇おのれの糸をひたかくしにして
(穂ノ木芽央)

・おさなごのさみしく撫でるリカちゃんのひかりふぁいばぁみたいな髪よ
(逆巻なじ)

・もう何も感じないから大丈夫、喰い千切られても綿が出るだけ
(滝沢勇一)

・完璧な絶望なんてできやしない首から綿が出ないかぎりは
(虫武一俊)

・頬のとこ孫とそっくり微笑みて老女は喰らう人形焼きを
(佐井永)

・脱水後スヌーピーは両耳を洗濯ばさみで釣られゆらゆら
(惑星)

・人形のふりでベッドに腰掛ける 拐われるのを期待しながら
(佐藤愛)

・わたしでもわたしでなくてもかわらない人に抱かれて記号となった
(尾崎陽子)

・キン消しを机の上で戦わせ超人になる日を夢見てた
(わだたかし)

・その昔あいつがくれたうさぎさん実家に残して夫に嫁ぐよ
(おおにしあやこ)


_____________________
_____________________


あきえもんさんです。

・グランプリおめでとうその階段を登って人形の家においで
(あきえもん)

・夢を見る人形はもう四十(しじゅう)過ぎ 浅い眠りで夢ばかりの夜

・ピノキオが鼻伸ばしつつ人になるステキな呪文は「カイゴノシゴト」

・着ぐるみのキティのような子は我の目を避けながらオフクロと云う

・待ち人はもう来ないからナナちゃんの汚物のように丸まっている
(ナナちゃん=名古屋駅前の巨大人形)



ひさしぶりの「あきえもん調」
うれしかったです。

_______________________


鶴太屋さんです。

・露の玉しとどなりけり流し雛暁(あけ)の空ゆけ悲の紺を薙ぎ
(鶴太屋)

・冬の浜辺に打ち上げられしキューピーを幻覚しをり位牌を担ぎ

・はに丸ののたれ死にをる花野にて白ききのこを踏み躙りゐる

・脣(くち)紅きからくり人形茶を運ぶ閑日の机(き)に黄昏の相

・おきあがりこぼし倒れて返らぬまま泉水の亀が火を喰ひ散らす

・藁人形火に焼(く)べ身命保ちたり二月の寒燈わが貌(かほ)映し

・首もげしバービー悼みドーナツ食ふ睫毛きらりと蒼穹を刷(は)き


下の句のオリジナリティに注目しました。


・ぬひぐるみのお腹ほつれてふはふはと六腑真綿の陀羅尼をなぞる

・九字切ればペコちやん人形あらはれりわが遠天(をんてん)の祈り揺るがせ

・くれなゐの血と肉持てるわれなるかマネキン銃弾撃ちこまれ冬

・マネキンに銃痕三つ虚空(そら)が視えぼくがみえちちははがゐる

・マネキンの罅割れに舌挿し入れて夜毎堕ちゆくわが海のあり

・マネキンに体温ほのと移るとき抱きしめてゐる乳房重たく

・手にとりてずつしり重き銃弾と何も見てゐぬマネキンの眸(まみ)

・膨らみゆくヒヤシンスの球痛ましく春愁ひのマネキンに備はざる

・マネキンの両腕縛る春宵は自涜の花粉に渇きゐしわれ


どこか寺山っぽい。


・廃ビルの庫(くら)にぎつしり詰まりゐるマネキンどれもどこかが欠けて

・首筋に淡き愁ひの蜘蛛の子とぼくが見てゐる水着のマネキン

・マネキンの朱き唇夢に顕ち褪せゆくままに冬ざれのデパート



新境地の歌もあって、とてもよかったと思います。
殿堂入り投稿者ではありますが、
特別賞として『活弁士、山崎バニラ』山崎バニラ・著
をプレゼントいたします!

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かんなさんです。

・セルロイド人形を抱きおかっぱの祖母は五歳の夏の中へと
(かんな)

・百体のリカちゃん人形並べられどの体にも空洞がある

・さようなら、3月の風は理科室の人体模型の胸を吹き抜け


抒情的な歌。
3月っぽさがよく出ています。


・のびのびと両手をひろげ廃村の田圃の案山子が朽ちてゆく秋

・着ぐるみのジッパーを閉めまた時給800円のヒーローとなる

・ぬいぐるみ作家の部屋の幾百の眼に睨まれて動けない夜


辻村ジュサブロー先生の部屋は
生き人形がたくさんいて凄いらしいですよ。


・少年が右足首に眠る夜ナナちゃん人形光を放つ

・抱き人形のパンヤほぐせばほろほろと子供の頃の夢がこぼれる



安定感があってよかったです。
毎回新作が楽しみです。

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お疲れ様でした!

今回の「優秀作品」の賞品も豪華なので、
楽しみにしていてください!

では、新型インフルエンザなどに気をつけて
お過ごしください。

よろしく哀愁☆
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2009年10月09日

「猫」総評

劇団四季の「CATS」のカーテンコールの後には、
猫たちとの握手コーナーがあるらしいです。

へぇー、知りませんでした。

子供が優先的に握手されることが多いらしいですよ。

そうなんですか!
マル得情報をありがとうございます。

いや、まったく興味のない話だけどね……。

なら、そんな話すんな!!

ということで、
今回のお題「猫」でしたけど、
やっぱり猫という語が入った
慣用句、ことわざなどを使った歌が多かったね。

猫撫で声
猫も杓子も
猫に小判
猫の手も借りたい
猫を被る
猫の額
猫舌
猫背
猫可愛がり
etc……

たくさんありますねぇ。
しかもどれもネガティブなニュアンスの言葉ですね。

だよね。

江戸家猫八
猫ひろし
寒川猫持

なんていう名前に猫が入る
有名人の歌も多かったね。

一つもねえよ!
しかも故人は混じってるわ、
どれも微妙な感じじゃねえか!

えー、
そんなクレイジー・ナイトですけど、
「総評」にいきたいと思います!

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まずは、

キタパラアサメさんです。

・運命の恋をするため配置せよ雨と子猫と不良少年
(キタパラアサメ)

これはおもしろい。


・いつの日か失くす名前を刺繍するハローキティの白いハンカチ

・気づかないほうがしあわせなんでしょうたとえばキャッツ・アイの正体

・猫を抱くことはできても永遠に戻って来ない僕のひだまり



どの歌もとても良かったです。

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たみさんです。

・「この金魚全部死んだら猫飼うの」水に溶けゆく言の葉の毒
(たみ)

言霊の世界を描いた歌です。


・生きていた頃より少ししっかりとたてる足音宵に聞きつつ

・この街にもう用はなく去る猫の耳を掠める遠い笛の音

・モノクロの猫の夢中(ゆめなか)舞いこんだカナリアの黄が灯る一瞬


うまい。

この調子でがんばってください!

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高羽佐兎子さんです。

・定型を持たぬ肢体がすべりゆく部屋に見えない道筋つけて
(高羽佐兎子)

・警戒すミーアキャットのまなざしで教室のぞく四月のきみは

「警戒する」にしたほうが良いです。
こういう場合は字余りを気にしないほうがいいです。


・パソコンに打ち込む指の加減にて抱き寄せるからこっちへおいで

・ネコ年もネコ座もないのに愛されるネコ目ネコ科のきみの存在

・しなやかに待ち伏せている全身に夜の気配をにじませながら



短歌サイズの発想と、
短歌の勝負どころをわかっている作者で、頼もしいです。
完成度に関しては、まだまだこれからという感じですが。
期待しています。

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てこなさんです。

・もうひとり産んでみたいと言えなくて猫背のままで擂るとろろいも
(てこな)

・まるまったネコの絵があるハイリスク妊婦のわれの母子手帳にも

視点がいいです。


・猫鳴き症候群だった亡き子を思い涙しつつもわれは身ごもる

・反対を押し切って産む勇気なく子猫のようなパン生地を練る

・秋の陽が背中をすべる猫のようなポーズの逆子体操すれば


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松木 秀さんです。

・リビングを液晶テレビに変えてより猫の居場所がひとつ消えたり

さすがに巧いですね。


・まず目先を変えてみましょう「今日の猫入門。餌を食べないときは」

・吾輩と名乗りし猫は最期まで名前など無いままに死にたり

・中毒性は幼女ポルノの如くして猫にマタタビ、歌人に短歌


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なみさんです。

・仏壇に棲む黒猫のじやれたるにろうそくの火は細くまたたく
(なみ)

・かすかなる重みを持てる黒き猫われの瞼に乗る夜のあり

・猫じゃらし折り取りて来ぬどうしてもひとりなるとき傍らに置く


わかるよ、その気持ち。

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やましろひでゆきさんです。

・鉄塔の下に陣取る野良猫にアブダクションの噂ちらほら
(やましろひでゆき)

なるほど。


・門付けの瞽女(ごぜ)の形見の三味線にうつすら猫の温もりのあり

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夕夏さんです。

・いたずらに掲示板へと出入りするただただ愛想なき猫のごとくに
(夕夏)

鋭い感覚です。


・きょうもまたたびにいくのかゆうぐれにじょうしゅうせいのまたたび好きが

・纏い付く愛猫の足ちょと踏めば逆毛を立てて足に噛み付く

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深森未青さんです。

・猫殺しが子殺しにわらべ唄うたふ底冷えせまる秋の拘置所
(深森未青)

・虹の橋落ちでもしたか秋空の雲は無数の子猫らの顔

・崖下に子猫を投げたあの女(ひと)が理解(わか)ると言はば咎のあらむや


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はせがわゆづさんです。

・気まぐれに揺れた尻尾に誘われて深夜あなたは黒猫になる
(はせがわゆづ)

・ねこじゃらし片手に眠る膝のうえであたたかな春をやがてむかえる

・寄り添えばいつもひなたのにおいだった 気まぐれに鳴らす喉を撫でてた

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ユーリーボさんです。

・ 究極の食材使い調理した猫がきらいな「ねこまんま」あり
(ユーリーボ)

・猫バスにさつきとメイが乗り込んだ場所も今ではファミリーマート

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おおにしあやこさんです。

・私には猫というものあなた飼うその猫でしかありえません
(おおにしあやこ)

・身もだえの狂おしき声恋猫に託すこととすひとまず今は

・子ら巣立ち猫のフーちゃんに紙芝居聞かせる男(ひと)よ君が好きです

・畑仕事終えた足許近づきし舌のざらつき為すままにする

 
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橘みさとさんです。

・夕飯はサンマ家族の足元にミケは順繰り身をすり寄せる
(橘みさと)

・秋の陽の逆光に透け金色のミケはゆうゆう塀の上をいく

・完全な寝姿 尾を飲む蛇のごと猫は縁側で丸く眠れる


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しまやまひかるさんです。

・優秀な仔猫ねレッドツェッペリン流せばすぐにコンポを壊す
(しまやまひかる)

これはおもしろい。
よくできています。

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魚虎さんです。

・今われは闖入者らし猫たちがこちら見つむる駅裏の道(魚虎)

・三日前退職決めたる同僚がしまい忘れしダヤンのカップ

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みうらしんじさんです。

・一度だけサボって海へ行ったこと黒猫の眼が知っております
(みうらしんじ)

山崎方代の本歌どり。


・雨のなか靴を履かずに佇めば影絵のごとき猫が見ている

いい感じです。

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山口ヤスヨさんです。

・うちの子の背中押してよキティのリュックリンゴ3個分の力でいいから
(山口ヤスヨ)

・猫板に頬杖ついて長火鉢火箸で描く祖母の面影

・猫またぎなんて呼んでた塩ジャケは今や夕餉の四番バッター


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かんちゃんさんです。

・願わくば強い大きな黒豹か白い小さな猫になりたい
(かんちゃん)

・傷を負いし野良猫の血の跡の先 猫文字の遺書骸とともに

・両の手で子猫の頭おしつつむ おむすび結ぶ母のごとくに


うまい。

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佐々木優さんです。

・見た目ほど自由じゃなくてオス猫は恋も知らずに死に行くさだめ
(佐々木優)

・猫としてしか生きられず猫として生きる 丸めた背中のままで

・「生きるってそういうことよ」猫の目をしたひとの飲むカシス・オレンジ


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伊藤夏人さんです。

・元彼に会いに行ってもいいんだよ私の付けた鈴を鳴らして
(伊藤夏人)

・立ち込める煙で黄色くなったって君よ私を招き続けろ

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伊藤真也さんです。

・子供らに奪い合われて夕闇に伸びるよ伸びる猫どこまでも
(伊藤真也)

・クロネコの配達員から伸びるシルエットの耳を見て見ぬふりで

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HY(天井桃改め)さんです。

・皮むいた葡萄の実にもよく似てる黄色い猫の目我を凝視す
(HY)

・暗闇に猫の目徐々に慣れるごと失恋の傷癒えるを待とう

共感できる歌です。


・泣いている君の背中にささやかな肉球分の優しさあげるね

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小野伊都子さんです。

・公園のひなたでふたり猫になる ひげをくすぐるカタバミの花
(小野伊都子)

・野良猫の声で歌ったあのひとのスローバラードが風に紛れて

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蜂谷希一さんです。

・恋猫は春の季語だと教えれば梅雨の恋猫 むっ、と鳴きけり
(蜂谷希一)

・飼い猫の引っ掻き傷を戦場の古傷と云う戸田二等兵

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中村成志さんです。

・凹凸の意外に多き猫の背をなんどもなんどもなんども撫でる
(中村成志)

下の句に工夫がほしいです。

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乙女座☆星子さんです。

・猫に手を貸したいほどに何もないまったくなにもない日曜日
(乙女座☆星子)

・金曜の夜に背中を引っ掻いた愛を奏でる五線譜として

・入念に顔を洗って水曜日猫撫で声でごめんて言おう

・月曜の朝に大きく伸びをする 猫に小判な今日の青空


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文月育葉さんです。

・「あわぁぁぁん」「おわぁぁん」恋の季節には夜な夜な猫がするtwitter
(文月育葉)

・アラサーのなめ猫たちが集会でメタボについて語り合う夜

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はづき生さんです。

・お互いのまえあしあたまはらしつぽ重ねて三匹猫眠りゐる
(はづき生)

・塀にぶつかる刹那垂直に影は跳ぶ 猫いういうとブロックをゆく

・気配して灯り点ければ枕元のシーツを爪で引つ掻いた跡


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ふふさんです。

・目が合うと声をかけられ体当たりもしかして愛?ぼわぼわの君
(ふふ)

・会うたびにやせ細りつつ目が合えば鳴いてくれるの涙がポロリ

・窓の中一匹二匹三匹もおんなじ顔が驚いている

・愛猫になでなでしつつ悩み事目を細めては知らん顔して


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貝柱ひとみさんです。

・猫なで声ひとつだせないままでいる今日はもうすぐ終わってしまう
(貝柱ひとみ)

・「もう御呑みなさんな」と酔いどれの吾のハイヒールを掴む前脚

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ユメバクさんです。

・猫の手をまぶたの上に載せてみる昔に読んだ漫画のように
(ユメバク)

つげ義春さんの
「やなぎや主人」でしょうか。

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外神田外濠( ´・ω・) さんです。


・猫かぶるアイドル逮捕されマンモス並の化けの皮が剥がれる
(外神田外濠( ´・ω・) )

・家の無い人の隣に野良猫が無言で座る公園の午後

・野良猫の目の鋭さと家の無い人の瞳の弱さ悲しさ

・野良猫のようにネットカフェ難民も目には見えない殺処分かな


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ミボツダマさんです。

・ネコ型のあのロボットの好物を片手に母は昼ドラを見る
(ミボツダマ)

・雨の日は憂鬱だから元気よく立つ猫草の味が気になる

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岡本雅哉さんです。

・首都高を見下ろす猫は渋滞の車をまねてじっと動かず(岡本雅哉)

・週末はアキバに行こう路地裏でまたネコ耳の彼女に会える

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佐々一竹さんです。

・迷い猫今夜はどこで眠るのかまあるい月がきれいな晩だ
(佐々一竹)

・痩せ猫と肥った猫が睦まじく食事の時間めおとのごとく

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わだたかしさんです。

・ネコミミの魔法は解けて今夜から時給八百円の接客
(わだたかし)

・真夜中の猫なで声に見た夢はゼロが五個つく請求書になる

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小林ちいさんです。

・愛猫の背中を撫でる延長で私に触れるあなたが嫌い
(小林ちい)

・黒猫が高く鋭くジャンプする月に登ろうとしてるみたいに

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花関索改め単子改め渡邊単子さんです。

・金色のダリの黄昏うたたねの果てトラ縞の猫溶けてゆく
(花関索改め単子改め渡邊単子 )

・居眠りとあくび散歩に行方不明 勝負にならない なま猫将棋

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猫まっしぐら1首劇場


・乳をやる母猫の背をなでながら慣れないブラに戸惑っている
(みつこ)

・猫足型のミステリーサークル現れて麦畑の主(あるじ)家出猫思う
(草蟲)

・全身に死ねと書かれし白猫を抱きて眠る白髪の祖母
(かわら)

・恋人よいくらお金があろうとも もうマタタビは売り切れている
(西畠勇氣)

・びしょ濡れの仔猫はやがてやわらかな日差しのなかに天使と遊ぶ
(富田林薫)

・仔猫ってあったかいねと呟いた声だけ残るプラットホーム
(イマイ)

・つま先が砂浜を踏む夢を見てトイレから出る猫と目が合う
(中森つん)

・百歳へ少し残して逝った人飼っていた猫姿を消した 
(おはぎ)

・くさむらの猫のむくろが消えうせて五分遅刻の夏休み明け
(穂ノ木芽央)

・炎熱のブロック塀の黒猫に犬が行水させてやってる
(船山登)

・前脚をぐっと掴みて金の目をじっと見遣ればにゃぶふと鳴く
(ユメバク)

これ(元歌)のほうが良いです。


・曼陀羅に磔(はりつけ)された猫があり今宵華族がまた一人死ぬ
(酒井景二朗)

・9時過ぎに教室に来る女生徒の青いカバンにキティが揺れる
(憂太郎)

・母さんと猫にはちゃんと挨拶をしてねと念を押される玄関
(柚木 良)

・嗚呼今日も昨日と同じクタクタのカラダに流すネコマンマ
(そめいよしの)


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かんなさんです。

・四つ辻で猫と自転車ひく僕と制服の君が混ざりあう春
(かんな)

・君はまた猫だった日を思い出すネイルサロンの扉を開き

・この部屋に君は帰ってこないから猫のなる木を花屋で探す

・灰色の仔猫並べば春の日の植物となり光りはじめる

・十月の高い空へと猫は飛ぶ、魚の名のつく雲広がれば

・晩秋のベンチに座る老人は仔猫のような日溜まりを抱き

・散らばった五線譜の上に老猫はト音記号のように丸まる

・街角の猫が減るたび夕暮れは闇の方へと傾いてゆく

・よろず屋の招き猫の眼光る朝ダム湖へ村は静かに沈む

・老人はグレーの猫を抱きかかえアタゴオル行きの列車を探す

・ご主人様お呼びですかと猫耳をつけたハクション大魔王来る

・黒猫のタンゴタンゴと針は飛び真っ赤な靴は踊り続ける

・ナメ猫のレターセットは色褪せて「二十年後の私」へ届く


「なめ猫」にしたほうが良いです。


・中1の英語ノートに書きこんだgの形に仔猫は眠る

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かんなさんはおもしろいテーマさえ見つけられれば、
新人賞とかでもいい線いくんじゃないかな。

別に応募を勧めているわけではありませんが、
そのくらいの実力があるということです。

あとは、オリジナリティーを出せるかどうかが鍵です。
特異な実体験とかをテーマにしたらいいかも。

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お疲れ様です!

なかなか良い歌が多かったね。
今回、1首も採られなかったという人、
たくさんいると思いますけど、
めげずにがんばってください。
1首1首時間をかけて
心を込めてつくってほしいです。

みなさんの短歌が、
知らない誰かの心を揺さぶったり、
励ましたりすることも大いにあるのです。
これは素晴らしいことではありませんか。

うちのブログはアクセス数が多いですし、
なぜか異国からのアクセスもたくさんあります。
新聞歌壇にはかないませんが、
こんなに大きな舞台はなかなかないのですから、
1首1首に魂を込めようじゃありませんか。
ということで、
よろしく哀愁☆
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2009年08月27日

「海」総評

お待たせしました!

待ちましたよ……。

 「刑事物語」のDVD化くらいに
待たせちゃってすみません。

そんなタイムリーかつ強引なたとえはいりませんから!

しかしうれしいね。
「刑事物語」のDVD化。
これでベータのビデオデッキを使う必要もなくなるよ。

ベータって!
師範、そこまで好きだったんですか……!?

「刑事物語」はあの武田鉄矢がかっこよく見えてくるから
まったくもってイリュージョンだよ。
よかったら見てくださいね。

今日は、ちょっと真面目な話をします。

アンティークを扱う骨董屋の世界で、
弟子を育てる一番良い方法は
良い品だけを見せ続けることだそうです。

本物だけに触れ続けさせるというのが大事で、
どれが偽者かを覚えさせても審美眼は育たないのだそうです。

短歌の選歌眼を養う方法においても
同じことがいえるのではないかと思います。
たいていの短歌入門書では、
名歌秀歌をたくさん読むことを勧めていますが、
その理由はつまりそういうことなのだと思います。

こういう流れになると
決まって斎藤茂吉の歌を紹介したがる人が多いのですが、
いつまでも茂吉に頼っていてはいけないと思うので、
今回は比較的若い世代で、
安心してお勧めできる歌人の作品をご紹介します。

吉川宏志さんです。

先日発売された吉川さんの歌集
『西行の肺』(角川短歌叢書)
から、今回のお題でもある「海」の歌を何首かご紹介します。


・海底より引き揚げられしビール壜「キリンだった」と子どもが言えり
(吉川宏志)

・海はすぐ近くといえど何も見えぬ闇夜のなかに焼香をせり

・海風に錆びたる螺子は灯台の白き扉を汚していたり



流石の表現力に唸ります。

『西行の肺』には、こういった渋い歌だけではなく、
いろんなタイプの歌が収録されています。
たとえばこんな歌も。


・チェロ抱いて自動改札抜けむとする女人のありて列のとまりぬ

・旅先に見るみのもんた元気なり紙を剥がせば「虐待」の文字

・「父さんにおみやげ」と言い金色の原爆ドームを子は取り出しぬ

・ベランダの上にもだれか話しおり白い切手のような雪ふる

・夕立に影深くなる部屋のなか「どうするルパン」と聞く男たち



いい歌がたくさんあって刺激的な歌集でした。
『西行の肺』、お勧めです。


お知らせです。

朱川湊人×笹公人
「遊星ハグルマ装置」
更新されました!

今回は僕の短歌
「真剣白刃取失敗之図」
です。
ぜひご覧ください!


発売中の
『短歌』9月号(角川学芸出版)
に、「妄想惑星」というタイトルの7首を発表しています。


8月30日(日)
「毎日新聞」
に、「ネットと短歌の未来」というお題の
エッセイを寄せています。
やすたけまりさんと笹井くんのことも書いています。
やすたけさんへのささやかなお祝いです。


9月6日(日)20時〜

NHKラジオ第1
「夜はぷちぷちケータイ短歌」

ゲスト:髭男爵 歌人:笹 公人


9月のテーマは、「残」です。

この日の企画は、
「言い訳」です。
締め切りは9月4日(金)正午です。
日にちもあるので、ぜひチャレンジしてみてください!


ということで、「総評」にいきます!

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まずは、
たみさんです。

・殻の内に秘めた想いを遂げる日もあらん磯辺のあわびでさえも
(たみ)

哀愁が漂っています。


・月うさぎ海亀綱を引き合えば潮満ち引けど勝負はつかず

・砂浜に打ち上げられた木の人形もうすぐ君は良い坊やになる

・その船の海賊船でありしこと小さき鸚鵡の骨は示せり


おもしろい。


・見えぬ線ベーリング海に越えながら魚(うお)は小さく時遡る

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岡本雅哉さんです。

・突堤の先で秘密を告げられて脊椎にうごめいたフナムシ

・更新の絶えたブログの難破船にフジツボみたいな卑猥コメント

・海風を裂いて岬に立つことに迷いなどなく白い灯台

・あいまいでいたいふたりにカモメまで「白か黒か」と鳴いた桟橋

・月のない夜の浜辺に押し寄せる波だか闇だかわからない音



好調ですね。

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魚虎さんです。

・骨のないビニール傘がゆらゆらと波間ただよう海月のごとく
(魚虎)

・今日もまたあの娘は岩場へ向かうのかイソギンチャクと戯れたくて

・居酒屋で海鞘(ほや)を肴に呑みながら心臓移植の話はよせよ

・物言わぬ海鼠の口を切り裂いてしまう刃を誰もが持てり



3首目など鋭い感性を感じました。

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小野伊都子

・偽物の海に沈めたアサリからしぶとく生きろと飛んでくる水
(小野伊都子)

・あのひとの心に波が起きるたび淡く輝く夜光虫になる

・貝殻は14のとき投げ捨てたあたしのひみつの恋を知ってる


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空山くも太郎さんです。

・海沿いのポストはまるで灯台のように赤々漁港にともる
(空山くも太郎)

・黒い海上からながめ夜行便 危篤の知らせに覚悟しながら

・足ひたす波には青く夜光虫 対岸の灯は原発施設

・夜になりよけい波の音(ね)だけになる きみの答えをきくのが怖い


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てこなさんです。

・夏休みの諸注意プリント 幼稚園も小学校もイラストは海

・最澄と空海の声色を変え夫が子らに読む偉人伝


信玄と謙信とかではなく、
最澄と空海を選んだところもおもしろかったです。


・海綿状血管腫という子の額のあくまをクマの帽子で隠す

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めぐみさんです。

・灰色の日本海だけを海として18年を過ごした我ら

・海色に灰色をつかう日本海で生まれ育った子どもの性分

・清潔なプールに足をさし入れて汗と温度で生きものにする


なるほど。


・潮の匂い嗅ぎつつ思う少女の日一番最初の流血のこと

・海の底でひとを食べたかもしれない魚の肉をほぐす箸先



日本海へのトラウマを詠んだ最初の2首が
迫力があってよかったです。

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深森未青さんです。

・海を見る白衣の老女車椅子押す美少女とときに接吻(くちづ)く
(深森未青)

謎めいた、映画のワンシーンのようです。


・骨なべて集まるといふ海洞に波はピヤノを組み立てをらむ

・小説家衰えけるも輝ける海の小舟はつねに影曳く



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やましろひでゆきさんです。

・いづくより流れ来るか大量の医療廃棄物とひとりの女
(やましろひでゆき)

この取り合わせはおもしろい。


・波の音のきこえぬ夜に啜り泣く女に増えるワカメ食わせん

・月の夜にやうやく浜に出てみれば島までの道現れてをり


なるほど。


・魚臭き納屋より聞こえくる声は人には発音できぬ音霊(おとだま)

・臓物(はらわた)をむさぼられつつ海原より旧き神々の勝ち鬨を聞け


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加藤サイさんです。

・マスカラを溶かしたオイルのような海 嫌われ慣れた22の夏
(加藤サイ)

「嫌われ慣れた」がよかった。


・真っ白い砂浜なんて見たこと無い 見たこと無いから無いのと一緒

・ぐわぐわと浮き輪を揺らす波の上 さよならをいう練習をする

・べたついた潮の匂いが全身にまとわりついて泣けやしない



どの歌も気持ちがこもっていて、よかったです。

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貝柱ひとみさんです。

・サメ肝油噛むその口元で老人と海だのヘミングウェイだの
(貝柱ひとみ)

・フェラガモに残りし砂よ 玄関の隅 夏を忘れる儀式憶える

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暮夜 宴さんです。

・ぺしゃんこの鞄と赤い靴下と海とキャロルとクリームソーダ
(暮夜 宴)

・目指すのは11月の海 雨にテールランプの赤を滲ませ

・3月の海を描けば画用紙のなかで静かに打ち寄せる波


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はせがわゆづさんです。

・もう帰れない深海に似た空を見上げるふたりはいつかのくらげ
(はせがわゆづ)

・泡沫の海月を思う朝靄にとけたあなたのやさしいまぶた

・あたたかい海月に包まれたままでこぼれる笑みを掬いきれない

・ビル風にたゆたう街で真夜中を泳ぐ海月に恋をしている



ゆづさんワールド全開でした。

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はづき生さんです。

・海沿ひを車でゆけば大きなる鳶すれ違ひ影を落としぬ
(はづき生)

・ふりあふぐ水面(みなも)に波は銀いろのひかりの綾となりて耀よふ

・ひむかしの水平線の向かうよりうねりとともに夜は来にけり

・弓なりの浜の向かうに大輪の花火あがりてうつすらと消ゆ

・暁の波止場みおろせば昨日より粘りし人は竿を仕舞ひぬ



玄人っぽい歌ですね。
結社歌人なのかな。

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酒井景二朗さんです。

・怪獸が泣く泣く歸る荒海は土筆の煮汁色に染まつて
(酒井景二朗)

・辛すぎるアジア 海に數多の雜菌がはびこるアジア 我らのアジア

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文月育葉さんです。

・水田に風が走ればくっきりとみどりの海に波がうまれる
(文月育葉)

<2002年11月・石川県千里浜海岸にテレビ300台が漂着>
・どんぶらこどんぶらこっこと流されしテレビに映る東映のロゴ

________________


伊藤ミナさんです。

・夏果ての海にこころを置き来ればカラカラと風吹き抜けにけり
(伊藤ミナ)

・文芸のない町に生れ少年は列車のレールの先に海見ゆ

どこか寺山っぽい。

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蜂谷希一さんです。


・海原に打ち勝つごとき誤植かな 君の勧める「ファイティング・ニモ」は
(蜂谷希一)

・晩秋の海 晩秋の海の家 晩秋の海の家の静寂

・海渡るモーゼの杖を燃やしたき夢に駆られる教徒もありし


「モーゼの杖」に注目したところが
よかったと思います。

__________________


わかたけさんです。

・我が海の満ちて打ち上げられし子よいかなる旅路を辿るのだろう
(わかたけ)

・千代大海柔らかい胸に触りたいおしめ取り込む夏の夕暮れ

「千代大海の」と
「の」を入れたほうがいいです。


・剥き出しの肌に焼け付く夏の痛み日が沈んでも微熱は続き

___________________


「羽うさぎ」改め
高羽佐兎子さんです。

・耳の奥パルスの群れを走らせて蝸牛は波の音をあつめる
(高羽佐兎子)

・海賊はロマンのかけらを散骨し高速艇でマシンガン撃つ

・つまさきで触れただけなら何もかも知ってるように語るな海を

・手をひろげ君がおしえる海の中そこにわたしを入れてください


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キタパラアサメさんです。

・人生が二時間ドラマだったならそろそろ海へ飛び込むシーン
(キタパラアサメ)

・清潔なプール育ちの僕たちは消毒槽の子宮でねむる

・海のない街で生まれた悲しみを知るため青い絵の具を舐めた


1字空けの必要はないので、
くっつけてみました。

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佐々一竹さんです。

・序破急のリズムで波が押し寄せる関屋海岸にぎわいの夏
(佐々一竹)

・海沿いの村に住もうと決意せり石灰岩が崩れるまでに

・海鳴りが灯台守を目覚めさせ帰り支度をはじめる鴎

・この海は荒れねえ方が恐えんだ老潜水夫つぶやきにけり


今回は、この歌が一番好きです。

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水野加奈さんです。

・海岸であつめた貝と星砂がお金なんですキティのお店
(水野加奈)

ちなみに、
キティちゃんの身長はリンゴ5個分、
体重はリンゴ3個分です。


・海ゆきのバス待ちをれば会釈してとなりに座る老人と犬

・海風の見えやすき午後 民宿の柵に結んだ黄色いタオル


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小林ちいさんです。

・逃げ出した後はこっそりここに来る「母なる海」って誰かが言ってた

・すべりこみセーフで踏み出す夏の砂 9月初旬の浜は貸し切り


さわやかな青春短歌です。

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猫丘ひこ乃さんです。

・「食べたい」に「食べさせたい」も連れてゆく手にいっぱいの海の朝市
(猫丘ひこ乃)

・白き手のイソギンチャクの一群に山海塾の舞台を想う

なるほど。

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ユーリーボさんです。

・海水にポカリスエット混ぜてみた あまじょっぱさが癖になるかも
(ユーリーボ)

味を想像したくないなぁ。


・マイケルの死を悼みつつ海の底スリラーみたいに昆布が踊る

・マグロから一目散に飛び逃げるトビウオたちが空に近づく

 
__________________


虫武一俊さんです。

・行き先を伝えないまま降り立った駅のどっちを見ても潮風
(虫武一俊)

・なにもかも許せなかったひと夏の水平線に湧きあがる雲

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山口ヤスヨさんです。

・今日もまた夢の続きの母を追いとうに廃れた海の家まで
(山口ヤスヨ)

・会社には行ってないんだ先月から海にいたんだ言えなくて、その

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乙女座☆星子さんです。

・海岸をあなたと歩く 鼓膜にはあずきを揺する音が聞こえる
(乙女座☆星子)

・知らぬ間に水着のなかに入り込む砂はあなただシャワー浴びよう


歌の世界がペンネームに合っていますね。

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ももや ままこ

・コーヒーが二層になった汗かきのグラスの海で溺れた言葉
(ももや ままこ)

アイスコーヒーの氷が溶けて水になった部分と
コーヒーの部分を「二層」と表現しています。


・海岸に磯の香りの少女おり 太ももについた鱗をはらう

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ひいらぎさんです。

・水平線の向こうも水平線だって知った頃にはもう戻れない
(ひいらぎ)

うまい。


・悲しみは海に流せば海底で深海魚たちのえさになるでしょう

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イマイさんです。

・夢のなか海はどろりとしていたと退社を決めた女の黒目
(イマイ)

・高台より眺める海は薄暗く誰も言葉を交わさないまま

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都季さんです。

・海のある町に生まれて潮風が吹かない街で方向音痴
(都季)

・足元をさらわれてゆく感覚で波打ち際に立ち尽くしてる

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伊藤真也さんです。

・エビアサリタコイカホタテカニワカメヒラメアジ塩味にたゆたう
(伊藤真也)

・ほの暗い大陸棚で細目して皆既日食仰のくアンコウ

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伊藤夏人さんです。

・海までの距離を密かに測っても光子の胸のサイズは不明
(伊藤夏人)

・開く時、相当苦労をするだろう二人は貝のように合わさる

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みうらしんじさんです。

・曇天の〈クルスの海〉をおとずれて手を合わせずにぼくらは帰る

http://www.city.hyuga.miyazaki.jp/sightseeing/nature_cruz.html

昨年、テレビのロケで宮崎に行った時、
歌人の奥田亡羊さんと一緒にここにきました。
たしかに「叶」の文字に見えました。

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☆晩夏の1首劇場☆


・かなしいのいたいのみんな捨てたくてわたしごと流されていく日本海 
(ふみこ)

・海岸の砂浜掘れば遠い日のさびたナイフと裕ちゃんうかぶ
(おはぎ)

・海はひろいなおおきいな あなたが帰ってくるまで遠いわ
(ムラサキ・ピープル)

・飲み込んだすべての夢を消さぬようバクは静かに海へ潜った
(中森つん)

・「ふるさとの海のいろです」小包はビリジアン・ブルーのタイル一枚
(穂ノ木芽央)

・なにもかもやめた夏の夜公園で波のおとがした、東京なのに。
(滝沢 勇一)

・歌舞伎町の店のマットを持ち出して遅番のミユが日光浴する
(憂太郎)

・海の辺で「芝浜」演(や)りし明け暗(あけぐれ)の羽織姿の男見つめつ(かわら)

・われらえら呼吸したときの記憶をたどり深海に沈む都に住まふ
(富田林薫)

・喪いしふる里訪ね海に来ぬ海鮮丼は献立になし
(関根 忠幹)

・あの夏の海のなごりを灰皿に住まわせるほどまだすきがある
(佐伯杳明)

・「逢えない」が「逢わない」に変わる17時 海中道路は流れなくなる
(みつこ)

・かき氷のスプーンですくえる海こぼす君の後ろで僕は黙りぬ
(地球人)

・海までの距離15キロ 助手席の君までの距離17センチ
(佐々木優)

・あなたには知らない事が多すぎるフローネの猿の名前とか
(そう蛸)


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あきえもんさんです。

・まだ今日も女のようだジャニーズに内海光司を見つけたように
(あきえもん)

名前に海が入っています。


・シャブの波でサーフィンをするアイドルが海の深さを教えてくれた

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鶴太屋さんです。

・鬱血のリング泡だち韻(ひび)きたれボクサー倒るればまなかひの海
(鶴太屋)

・黒き楽譜にくるむトカレフ砂に埋め青年の眸(め)の冬の海荒る

ピストルを砂に埋めず、
黒い楽譜にくるむだけでも
十分魅力的な詩になると思いますが。


・象亀の眸(まみ)に古代の海映るごときゆふやけ拳(けん)かたく矚(み)る

・信天翁(あはうどり)白き羽搏つ泥濘や海鳴りくらきおほき曇り日

・冬の霓(にじ)たつ楡の天辺(てつぺん)吹かれゐつ遠景に鳴る荒海あをき

・星満ちて水甕あふる百日紅(さるすべり)白き花噴き海が呼んでる

・俯きて莨火つける 激浪の海鳴り聴きつつ男の背中

・海昏れてうつせみのわが繋ぎゐる漁船は涙(なんだ)と汗に饐えをり

・昏れて雪 鮟鱇ぶつ切る刃に触れて海辺の焚火のひとり視てゐる

・鷹の眸(まみ)くれなゐ走る 碧天は死に満ちたれば海の夏なり

・うつくしき溺死者海をさまよふを金貨に刻むウンディーネ恋ふ

・太古の素甕に棲みたる蛸のたこやきなり海の底まで流涕したり

・石榴狂へる天(あま)つ光に風生まれギリシャの海の夕凪澄めり

・絶海にひとり浮きゐる夢を見て露のヴァイオリン弾けば露の音(ね)

・音叉鳴る暮春のころは笛吹きて海の上ゆき鯊(はぜ)も釣りたり

・春の潮(うしほ)鬱鬱と荒れ船長は阿片に溺れゐき海の泡

・むらさきに海鼠(なまこ)暮れゆく冬の日は海の底吹く木枯しの音

・白き海光窓辺にうるむ海葡萄噛めば壊れし古時計鳴れり

・青銀河は雛罌粟(ひなげし)の束てのひらに海王星はしづかに炎ゆる

・渤海より使者来(きた)れりと古文書の紙魚の食ひ跡日本いつ滅ぶ



物語を詰め込みすぎていてどうかと思う部分もあるのですが、
それでも力技で読ませてしまう歌のオーラがあります。
詩の核となる部分は一つあれば良いと思うのですが、
そうしたら鶴太屋さんの歌ではなくなってしまうのかもしれません。
これまでのやりとりからも、そのへんの譲れない信念や美学を感じ取り、
毎回ほとんどの歌を採らせて頂いてます。
故・塚本邦雄先生が鶴太屋さんの歌を読んだら、
どう評価しただろうかと気になるところ。

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かんなさんです。

・砂浜にビキニの花を咲かすためイヴは真っ赤な林檎をかじる
(かんな)

・海からのバスのシートに思い出のように砂粒こぼれていたり

うまい。


・バスクリンマリンブルーの湯の中にビキニなど着ぬ身を沈めゆく

・ただ海を見ていただけの百年を古灯台は静かに語る

・防波堤離れて歩くいつまでも梅雨の明けない海の灰色

・海の家停車時間は五分ですバナナボートの通過待ちです

・地下ラボの液体クロマトグラフィーで正しく海であるか調べる

・海行きの最終電車は走りゆく電気クラゲの光を集め

・海からの風が吹く時えころじぃえころじぃって風車は廻る

・帆船のゆるい航跡追いかけて消えてしまった白いクレヨン

・あの海が忘れられないアラフォーの赤名リカから便りが届く


懐かしの「東京ラブストーリー」


・七月の笹舟きらら流れだす天の川から続く海へと

・星砂は硝子の壜を棺とし海に還れる日を待ち続け


これもうまい。
上の句が良かった。


・海の歌うたい続けて男らの皮膚の一部は短パンになる

・夕立の海の家にて寝転べば水音ばかり吾にのしかかる

・灼熱の砂を踏みしめあの夏は恋する人魚であったと思う

・夏空に遊泳禁止サイレンが空襲警報みたいに響く



ほとんどの歌を採ってしまいました。
盛り上がりにかける部分もありますが、
これはこれでツボをおさえていて、良くできています。

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お疲れ様です!
今回もおもしろい歌が多かったですね。

こういう大雑把な「お題」の時のほうが平均点が高いようだね。
やっぱりつくりやすいからかな。

次のお題は?

今度はマニアックなものにしようかな。

楽しみです!

「優秀作品」を選ぶのもかなり迷いそうです。

ということで、よろしく哀愁☆
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2009年07月12日

「ゲーム」総評

sasa-7.gif遅ればせながら「総評」です!

いまだにゲームといえば
旧ファミコンくらいしかやらないためか、
今回もgoogleフル回転でした。
投稿作品に「ラスボス」という言葉がやたら出てくるので、
最近のドラクエの魔王的な存在なのかな?と思って
検索してみたら、ラストボスの略だったんだね。

またひとつ勉強になりました。

ネット検索がなかったら、ちゃんとした選歌はできなかったと思うので、
今回のはネット時代ならではの「お題」といえるでしょう。

今回のゲーム短歌の攻略法は?

ゲームの世界を日常の世界に置き換えるということが、
おもしろい歌をつくるヒントになるかと思います。

たとえば、今月18日発売予定の『サイゾー』連載で、
「ドラクエ9」をテーマに8首つくったんだけど、
その中のこの歌なんかはそういう視点でつくりました。


・ドラクエの町の民家のタンスからパラゾール二個出でにけるかも 
(笹 公人)


なるほど!

でもこれを「おばちゃんの下着が出てきた」とかやっちゃうと
一気につまらくなってしまうので注意が必要です。
このへんはセンスの問題だけどね。

そういった視点から見て、
よくできてるなと思ったのは、
このあたりの歌です。


・ゼビウスの轟音響く空の下農業はやりづらいみたいだ
(酒井景二朗)


・「そんな傷、ホイミしとけば治るでしょ」母を想うは旅立ちの朝
(ももや ままこ)


おもしろい!
不思議な世界ですね。

そうだね。ゲームと日常の世界が交差してるよね。
ワンダーというか、マジックというか、イリュージョンというか、
とにかくそういう歌をつくりやすい「お題」だったと思います。


お知らせです。


『新彗星』第3号(笹井宏之追悼号)
が発売されました。

僕の
「短歌の申し子」
という笹井宏之論的な文章も載っています。
ほかの方の文章や短歌も充実しているので、
よかったらぜひ注文してみてください。


ということで、「総評」の旅へ出発します。
そして、伝説へ……。

古い!

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まずは、
ももや ままこさんです。


・「そんな傷、ホイミしとけば治るでしょ」母を想うは旅立ちの朝
(ももや ままこ)

・おい、俺よ。32歳でマイホーム建てれたはずだぜ人生ゲームは

「建てられた」と正確に表現しましょう。


・都会(まち)に住む子が知る森はどうぶつが洋服を着るゲーム機の中

・一列に歩けば角を直角に曲がりたくなる卒業式でも

この歌もおもしろい。

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はづき生さんです。

・爆撃を受けたナスカの地上絵にスペシャルフラッグ発見される
(はづき生)

ゼビウス。


・一時間おきに饅頭食べる彼をこっそりパックマンと呼んでる

・真夜中の地下通路には永遠に走り続ける男がひとり


ロードランナー。


・友達と一緒に上っていたはずのドルアーガの塔に今は僕だけ

・ペンタゴン付近に突如現れた浮遊要塞アンドアジェネシス


最後のは知らないけど、レトロゲームをおもしろく詠んでくれました。
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めぐみさんです。

・裏面に復活の呪文書かれてるチラシ片手にタイムセールへ
(めぐみ)

ティッシュの箱とか、割り箸の袋とか、
いろんなものに書いたものです。


・決められた台詞を話すためだけに村人たちは酒場へ通う

なるほど、そうだったのか。


・争わないことがただしく将棋さえ禁止になった三年二組

・空白を埋めたつもりがより一層白さ増してく深夜のテトリス

・当り前に2コン渡され妹が兄を見つめる夕ぐれの居間


そういうもんだよね。

今回も冴えてましたね。

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ひさしぶりに投稿してくれた
宮田ふゆこさんです。


・新しい恋人を呼ぶフランス語みたいにきみはモンハンと言う
(宮田ふゆこ)

なるほど。


・やりすぎは体に毒よと言いながら攻略本などあげたりするのだ

・君の全アイテム売れば<本当に別れますか?>と尋ねる画面


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山口ヤスヨさんです。

・冒険を終えた勇者は制服に着替えて隠れボス待つ校舎へ
(山口ヤスヨ)

・さぼらずに通え勇者よソロバンはきっと正義の武器になるから

・人生は人生ゲームによく似てる日々なんとなく金が出て行く


うまい。

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ユーリーボさんです。

・ボスキャラが逃げてしまった民主党 国はますます混迷したり

たしかにあれはボスキャラ顔だね。


・恋愛はゲームオーパー寸前のテトリスのように自由にならぬ

・負け試合 飛雄馬の父は突然に野球盤をもひっくり返す

  
改良の余地アリ。

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松木 秀さんです。

・ドラクエの宿屋になって言ってみたい「ゆうべはおたのしみでしたね」と
(松木 秀)

・テトリスの赤き直線ぶちこめば射精の如き快感がある

なるほど。

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外神田外堀( ´・ω・)さんです。

・Bダッシュただしていれば人生もマリオも落ちる奈落の底に
(外神田外堀( ´・ω・))

たしかに。


・テトリスでミスったような人生を誤魔化し誤魔化し延命をせり

・王様に魔王倒せと脅されて『はい』と頷く勇者の背中


サラリーマン的だね。


・ゲーム機が進化するほど名人の匠の技が懐かしくなり

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たみさんです。

・奪われた息子の魂探す旅 手垢まみれのDSの底
(たみ)

・火花散るドリフト息子の得意技 前頭葉から煙も出して

あるかも。
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魚虎さんです。

・未だトラウマ癒えることなき私の額の傷に弟切草を(魚虎)

・今しがた倒したばかりの曙が仲間になりたそうに見ている

これはおもしろい。
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てこなさんです。

・もういいかいもういいよって予定日の胎児とキックゲームをしおり
(てこな)

そんな「親子ゲーム」もあるんですね。


・「DSよりおもしろかった」と言う子ありわたしの短歌授業を受けて

それは凄い。
一度見学してみたいです。


・耳元にささやきを受け八歳が伝言ゲームで女に目覚む

・「恋はゲーム」などと言えずに入水した手児奈し思ほゆ 筆名変えて

・愛しさの砂つぶ足につけたまま「野球ゲーム」を読み返す夏


「野球ゲーム」とは、
『サラダ記念日』に収録された連作のこと。

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岡本雅哉さんです。

・鎧はない。裸になってふりだしはハローワークの大魔界村
(岡本雅哉)

・消える魔球ボタンを押せばその刹那 奈落の底に落ちるバッター

とんねるずの番組の
モノマネのコーナーみたいな感じ?


・窓のない部屋でひたすら倉庫番 夜明けが来てもまだ気づかない

「倉庫番」は、すごく初期のゲームです。

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羽うさぎさんです。

・積みゲーが崩れて今夜も眠れない賽の河原に石を置く指(羽うさぎ)

・延々と続く最後のファンタジー改装セールのチラシのように

RPGのキャッチコピーに目をつけた歌です。

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葉理さんです。

・この星で生きると決めた 泣きながらトカゲのようにピクミンを喰う
(葉理)

・木々揺らす風に微かな水の匂い 癒しの泉近づくを知る

ゲームの世界を抒情的に詠んでいます。

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きのしたゆうすけさんです。

・メガンテのような「好きです!」繰り返す俺のレベルはいつ上がるのか
(きのしたゆうすけ)

・ものすごいデブの双子にペンキ塗りぷよぷよにして消したい真夏

「ものすごい」を
他の言葉で表現してほしいです。


・スカートを華麗にめくりたいだけで昇龍拳の特訓してた

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暮夜 宴さんです。

・テトリスのように崩してみたくなる高層ビルに揺れる窓の灯
(暮夜 宴)

・マリオには無敵の☆があるように神様ぼくにどうか勇気を

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月下燕さんです。

・告白の気配を読んで身構える跳んだら落とすガイルみたいに
(月下燕)

・俺たちの何が違うとルイージは緑の甲羅を強く蹴飛ばす

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砂嵐さんです。

・ゲームめく午後五時よりのレジスター外の暮れゆくを知らぬ指先
(砂嵐)

・バスタブに攻略本を落としたよ試されるのは僕の何だろう

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深森未青さんです。

・HP失くししままに終わりたれば他者にすらもう続かない明日
(深森未青)

なるほど。


・崩れざるカードの城が気づかせた胸処つめたき夢の醒めぎは

・黙々と白線を踏むSHOOL KILL遠く消えつつなほもゆらげり


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富田林薫さんです。

・未来だれも判らないと言いたげな黒猫が跨ぐ人生ゲームの箱
(富田林薫)

・おかしいな上上下下左右左右BAと押しても最強恋愛モードにならない

有名な「グラディウス」の裏技。
このあたりまでは世代的にわかる。

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中森つんさんです。

・躊躇せず撃ち殺せるわゾンビでもエイリアンでもWiiリモコンで
(中森つん)

・明日もまた君の隣にいれるなら私はなるよテトリスの棒

乙女心を感じました。

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キタパラアサメさんです。

・永遠にラスボスだけは倒さない もう少しだけ勇者でいたい
(キタパラアサメ)

その気持ち、わかる。


・怪しすぎる箱も結局開けちゃって絶対後悔するんだ毎回

人生の暗喩としても読めます。

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滝沢勇一さんです。

・にぎやかな8bitのピコピコの真夏の夜が瞬間、寂しい
(滝沢勇一)

・流レ星ピュローンテ音トドット画ガ真夏の海ニフルフル楽園

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ひさびさの登場!
地球人さんです。

・あの夏に蒸発をしたぷよぷよの眼差し想う水溜り踏む
(地球人)

・プラスチックのルーレット回る音がする進路指導室は酷暑にて

だいぶ成長してきましたね。
「継続は力なり」です。

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伊藤夏人さんです。

・もう何度あなたの為に死んだだろう起きたらいつもの教会だった
(伊藤夏人)

・復活の呪文を一文字間違えた僕らの世界は取り残される

あのとりかえしのつかない感じが
伝わってきます。


・見たこともないスティックの持ち方をする女子高生次から次へ男を投げる

・ときメモのあらゆる女子は口説けても君のほっぺはピンクにならない


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柚木 良さんです。

・カセットの埃を飛ばす姉さんの背中はふるえてた いつまでも
(柚木 良)

姉さんに何があったのでしょうか。


・似て非なるものなんですな賢者にはなれない僕は単なる無職

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チェンジアッパーさんです。

・ヨッシーの背中にゆられこんなにも大きくなった吉村作治
(チェンジアッパー)

・十六年前からロード中ですと続く画面にうつる人形

・姫様も大魔王とも出会わないコンクリートに僕らはねむる

・黄緑の風をまとった青年がルーラと言って消えた カラカラ


カラカラは風車の音でしょうか。
わりと効いてると思います。

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そう蛸さんです。

・高三の冬にふられたスパルタンXの敵のひとりのように
(そう蛸)

あのあっけなさは捨てがたい。


・運転も恋愛とかも練習済みまだ始まらぬ僕の本番

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みうらしんじさんです。

・シムシティすぐ投げだした友人が知事選に出る夢かたりだす
(みうらしんじ)


・「人生はゲームじゃないよ賭けたっていいよ一文無しの俺だが」

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都季さんです。

・ぷよぷよと痛みの種が降ってくる色がないから消えそうもない
(都季)

・「群れること好きじゃないんだ」そう言ってあなたははぐれメタルを探す

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加藤サイさんです。

・王様の命令は絶対なんでしょう? 妻と別れてうちで暮らして
(加藤サイ)

・崩すためやさしく触れる指先はジェンガのようだと笑う キスして

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ひいらぎさんです。

・ドラクエもスーパーマリオも投げ出して中途半端に今も生きてる
(ひいらぎ)

・攻略本見ながらゲームするように上手くいかないもんだ子育て


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☆星空の1首劇場☆


・ゼビウスの轟音響く空の下農業はやりづらいみたいだ
(酒井景二朗)


・あの事故でスペランカーを笑えなくさせた田村よ 元気でいるか
(佐々木優)


・摩天楼聳えて遠きへリポート マリオの☆を浮かべたきかな
(真風)


・陽が暮れるまで駆け回る影踏みは夜に踏まれてゲームは終わる
(わだたかし)


・ヒーローになりたくなって(元々は人間だった)ゾンビらを撃つ
(蜂谷希一)


・「犯人はヤス。」とだけ祝電を打つ。僕は港で共犯者となろう。
(貝柱ひとみ)


・競馬(ゲーム)はね騎手(ひと)に馬が賭けるものなの あともにょもにょと寺山修司
(花関索改め単子)


・退屈で退屈で退屈なのはDSのせいでないとはわかってはいる
(長田絵理子)


・Yボタン私が押していてあげる協同作業は入刀以来
(たみ)


・ネクタイをしめて前職火付師と履歴書かきいるボンバーマン
(かわら)


・人生のゲームに負けた父ちゃんは消える魔球になってしまえり
(ウクレレ)


・みずいろのぷよぷよ消せずつまりそうケータイの画面 着信もなく
(空山くも太郎)


・ヴァンパイア、君に逢うまで迷宮(ダンジョン)にどれだけ無駄な血を流したか
(船山登)


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あきえもんさんです。

・またいつか会える気がする葬式のBGMはマリオにしよう
(あきえもん)

・ファミコンを見たいとせがむ子供らと週末親父に会いに行こうか
 
背後に様々なドラマを匂わせていて、
良いと思いました。


・じゃんけんに負けて告白した分も私の恋のひとつに数える

こういう「負け犬短歌」も
あきえもんさんの得意分野です。

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かんなさんです。

・永遠に四番はバース、ファミスタの時間はあの日止まったままで
(かんな)

・また夜がやってきたのをオンラインRPGの星空で知る

・ラスボスの潜むダンジョン旧校舎の音楽室に入口がある

・そう確かに約束をした「ぷよぷよが降りしきる夜お逢いしましょう」


絵が浮かんできました。


・山積みの名付け本から選びだす勇者に一番強い名前を

果たしてゲームに姓名判断は
通用するのか?


・たまごっちの電池は切れて静けさが満ちてくる午後の無人島へと

・四六時中あなたが触れてくれるならwiiリモコンになったっていい

・春の野にゲームウォッチは忘れられドンキーコングは微睡みの中

・新しいクエストを受け旅に出るスナフキンまた戻って来てね


ドラクエ×ムーミン、夢のコラボ。

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お疲れ様でした!
今回はどうでしたか?

今回のお題は意外なことに、
女性のほうが元気がよかったね。

地球人くんの歌を2首採れたのもよかった。
今回、1首も採られなかったという人も
続けていけば、必ずなんとかなるので、
また投稿してみてください。

ということで、
「優秀作品発表」お楽しみに!!

よろしく哀愁☆
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2009年05月26日

「食べ物」総評

遅れてしまってすみません!

もうほとんど隔月刊の雑誌状態ですね……。
師範もボランティアでやっているので、
みなさん勘弁してあげてください。

おっカンタくん、
たまにはいいこと言うじゃん!
廃刊にならないように踏ん張ります。

今回も5首投稿したのに1首もとられなかったという人がけっこういます。
その中から代表で、地球人くんの短歌についてアドバイスしたいと思います。

 
・野球部のフライ聴きつつ屋上でしらすにちりめんじゃこの手繋ぎ
(地球人)


まず、「野球部のフライ聴きつつ」
が漠然としすぎていて、表現になっていません。
フライの球が落ちてゆく音を聴くということなのでしょうか。
違いますね。

おそらく、

「練習中の野球部の金属バットの打撃音を聴きつつ」

という意味でしょう。
省略が強引すぎて意味不明になってしまっています。

これを省略して定型にするならば、

「野球部の打撃(練習)の音をききながら」

とかになるでしょうか。

オノマトペを使って

「カキーンって音ききながら屋上で」

「校庭のカキーンって音をききながら」



というのもありだと思います。

この上の句の案を歌の核とするのであれば、
下の句はあっさりと「弁当を食べてる」
くらいの内容にしたいところです。

 
下の句の
「しらすにちりめんじゃこの手繋ぎ」も意味不明です。

シラスやちりめんじゃこに手があるのですか?

おそらく、
しらすとちりめんじゃこが隣り合っていた、
あるいは混ざっていたという意味でしょう。

でもそれだと、下の句の重量がオーバーしてしまい、
読者は上の句をイメージすればいいのか、
下の句をイメージすればいいのかで、
混乱してしまいます。

弁当の話が出たからいいますが、
短歌は、あれもこれもと詰め込んだ
「幕の内弁当」ではいけません。
「日の丸弁当」でいいのです。
一点豪華主義で見せ場を一つに絞ってつくりましょう。

試しに添削してみます。


・カキーンって音ききながら屋上で弁当箱のじゃこ均(なら)してる


「弁当を食べてる」じゃ芸がないので、
弁当箱のなかのご飯にじゃこをまんべんなく散らしている描写を入れてみました。
「散らしてる」でもよいのですが、
「均(なら)してる」にして
校庭の砂を均す野球部員のイメージに重ねてみました。

地球人くんの意図するところとはかけ離れてしまったかもしれませんが、
このくらいでようやく佳作レベルの歌になります。

今回1首も採られなかった人は、
今後、投稿する前に家族や周囲の人に一度読んでもらって
歌意が伝わるかどうかを試すことをお勧めします。

そして、めげずに投稿し続けてください!

何度も言ってますが、
短歌上達の秘訣は、
良い歌をたくさん読むということです。

そこで、
最近読んだ歌集のなかで、
自分の中でヒットしたものをご紹介します。


『アスタリスク』大松達知歌集(六花書林)


学ランの中の真っ赤なTシャツをちらりと見せて反抗期なり

裏山の秘密基地そこにあるごとしケイタイ電話ひとつ置かれて

誤植あり。中野駅徒歩十二年。それでいいかもしれないけれど


 サッカー部員。
五分刈りにして反省す青春はかくきらきらと簡潔にして

ラーメンには宇宙があると店主言へりかく言ふ人の強さ羨しも

携帯電話を携帯と呼ぶ人々は太平洋戦争を太平洋と呼ぶか

下痢止めの<ストッパ>といふ名づけにも長き会議のありにけんかも



高校の英語の先生でもある大松さんの第三歌集です。
僕好みの実におもしろい歌集でした。

この短歌サイズの発想とバランスのとれた文体には、
みなさんが学ぶべき点がたくさんあると思います。

1首目の歌は、
思わず「金八先生」での沖田浩之のファッションを思い出してしまいましたが、いまでも同じなんですねぇ。
反抗期の伝統ファッションになっているのでしょうか。
昭和の残り香が漂う風景です。

ストッパは、尾美としのりさんのCMでおなじみですね。
尾美さんといえば「大林映画の人」というイメージだったのですが、
最近では「ストッパの人」という印象に変わりつつあります。

どうでもいいですよ、そんなことは!

最後になりましたが、
過去のメールの整理をしていたら、
笹井宏之くんの
「高須賞 〜日本美容短歌大賞〜」
への投稿作品が出てきました。

この3首です。


・くちべにを試す少女は紅葉をむかえるまえの山野のように
(笹井宏之)

・マスカラが涙のすじを下るときあなたはどうしようもなく素顔

・銀の湯をひろがってゆく黒髪がかすかに月のひかりを奪う



なかなかいいですね。

「笹井宏之ポエジー図鑑」

に追加しておきます。

「笹井宏之メディア掲載情報」

も、引き続きよろしくお願いいたします!

ということで「総評」にいきます!

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まずは、
小野伊都子さんです。

・肉じゃがに味がしみこむ要領であなたと歩く二十一年目
(小野伊都子)

・ねえ早く元気になっておばあちゃん ちらし寿司さえ教わってない

泣けます。


・ささくれた息子の心を包むようにロールキャベツをきっちりと巻く

親心を感じます。


・祈りにも似ているものをこめながら弁当箱に詰めるおにぎり

・三歳の小さな口に吸いこまれスパゲッティは旅を終えます



どの歌にも心がこもっていてよかったです。

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めぐみさんです。

・千歳飴を切りわけている千年を生きるのはすこしたいへんだから
(めぐみ)

なるほど。


・砂を噛む思いをするのが嫌だから口をつけないあさりの味噌汁

・ほっぺたに苺一粒押しこんでつぶさないよう過ごす初夏


こどもの無意味な行動を
とらえています。


・リクルートスーツで揺られる山手線あと三周でバターになれる

・いちご飴の紐を口から垂らしつつ足元だけを見ながら歩く


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深森未青さんです。

・砂抜きのさ中あさりがことり落つその方角のまぎれなき海
(深森未青)

・ラーメンの美(は)しき螺旋をテロメアの滅しゆくわれ雑にほぐせり

・スパイスをゲームの中で買い占めるセポイの乱など起こりはせぬか


おそらくドラクエのようなRPGでしょう。
おもしろい。


・ガザ地区で豚を炙らば紛争がなくなるやうな予感がするの


今回も深森ワールドを楽しませて頂きました。

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羽うさぎさんです。

・放課後のポテトチップの黒胡椒舌に感じてキスをためらう
(羽うさぎ)

うまい。


・おでん屋のコンニャクはんぺん大根で幾何を教えし老教師あり

・ロコモコのとろりふるえる黄身の上ハネムーンの空ひたすら青し

・子供らを育てたものは崩れない父の背中と母の肉じゃが


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ももや ままこさんです。

・明日には戻ってくる気がしてるから用意しておくね、エサもご飯も
(ももや ままこ)

猫と旦那が一緒に家出したのでしょうか。


・散らかった部屋を飛び出し真夜中へカップ焼きそばの真白き残骸

・午後三時ソフトクリームのてっぺんの穴の向こうに幼き誰か


細部に注目したところが
よかったと思います。

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富田林薫さんです。

・ステンレスシンクが我にかえるようなペヤングソースやきそばのお湯の奔流
(富田林薫)

僕だったら「ペヤング」をはずして
字数を合わせますが、
きっと「ペヤング」にこだわりがあるのでしょう。


・長江に身を清め一気呵成に書き上げる【冷やし中華はじめました】の張り紙

これはおもしろい。


・とても美味しそうに出来たチャーハンを「いただきます」の前に味見する蠅
 
「とても美味しそうに」を
他の言葉でどう表現するかが
短歌の基本だと思いますが……。

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伊藤真也さんです。

・三日月に腰掛けながらマンガ肉にむしゃぶりつけば 降る流れ星
(伊藤真也)

マンガ肉……
「ギャートルズ」とかに出てくる
アノ肉(骨付き肉)のことでしょう。
アニメ「はじめ人間ギャートルズ」のエンディングを思い出しました。


・やむを得ない局面なんだそのやわい手のひらでプリンすすらせてくれ

・マスターがなにも聞かずに差し出した力うどんを泣きながらすする

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てこなさんです。

・ゆで上がる白玉だんごをすくいおり負の感情に向き合えぬ子と
(てこな)

・レジ通過したときニラは香を放つあなたを越えて吾も香りたし

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魚虎さんです。

・最後まで売れ残りたるつぼ焼きのさざえの底に溜る哀しみ
(魚虎)

・ラーメンに浮かんだ油つなげつつキミの話を聞いていますよ

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はづき生さんです。

・一時間ごとにきっちりあの客はビッグマックを頬張りにくる
(はづき生)

・変わらないメニューと値段スマイルは今日も0円でした、さよなら。

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暮夜 宴さんです。

・反省はしても後悔などしない春のパスタをくるくる巻いて
(暮夜 宴)

・パルメザンチーズが粉雪みたいって南国生まれのあなたがはしゃぐ

・そのままでいいよと春のキャベツよりやさしく包んでくれるあのひと

・揺れるのはきっと今夜の三日月がライチみたいな色してるせい


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酒井景二朗さんです。

・今年もまた桃を剥く日がおとづれて不埒な夢がくすぶりだした
(酒井景二朗)

・葛切りのプールで泳ぐ惡徳をティーンエイジの君にあげよう

中年の悶々とした情念が伝わってきました。

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はせがわゆづさんです。

・舌先の薄荷どろっぷが消えた夜ゆっくり雨は透きとおってく
(はせがわゆづ)

・手のひらをすべるひかりはとめどなくほどけてくライスボールのように

・晴れた朝でしたあなたが砂糖菓子みたいに笑んでた春のはじまり

・ふわふわのオムライスの中で君がみる夢の続きをきかせてほしい



ゆづさんの歌には、
日曜の朝のホンワカ感がありますね。
その個性を大切にしていってほしいです。

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伊藤夏人さんです。

・もしサマータイムが導入されたって立ち食いそば屋で済ませるだろう
(伊藤夏人)

・くいしん坊!万才彼はくいしん坊!万才見ながら私を食べる

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ひいらぎさんです。

・食べ過ぎてもういらないとから揚げは皿に残って未練残って
(ひいらぎ)

・にんにくの入っていない手作りの餃子は君との会話のようで

・締めくくりイチゴパフェでしょ二人ではもうファミレスも行けないんだし

・声掛けていいのかどうかわからずに背中見つめるたこ焼き屋前

・真夜中のキッチンに立つ夫へとアドバイスする明日の弁当


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たみさんです。

・ひねた眼のあの子がいつも舐めていた逆渦巻きのソフトクリーム
(たみ)

むかしの漫画によくある風景。


・保守的な私と冒険するあなたカップの麺を選ぶときにも

・あかさたな占い最下位だった朝 かさかさ音をたてるシリアル


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星野ぐりこさんです。

・香ばしい音でソースがジュッと鳴きビールが美味い夜が始まる
(星野ぐりこ)

・潤ってふえるワカメは艶々と海を日差しをウフフと語る

・熱を持つ舌にマシュマロ乗せあって大事な場所をとろとろ溶かす

・温かいプディング崩す唇の柔さを思うキスしたくなる



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滝沢勇一さんです。

・コンビニのキュウリサンドが床に落ちた何だか俺はもう疲れたよ
(滝沢勇一)

・いつかもう何でもない日のただ甘い甘いショートケーキになるかな

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イマイさんです。

・ずいぶんと遠い地点にきたようで今日も朝からうどを食べている
(イマイ)

・鮭の身をほぐしつつ聞く夕方の天気予報は大雨ばかり

・戻れないことは知っているただ今日も水菜とじゃこのサラダを作る


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月下燕さんです。

・「唾液を出してはいけません。さあ、梅干を思い浮かべないでください」
(月下燕)

・はじめから分かっていたという顔で摘み過ぎ苺ジャムにしている

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水野加奈さんです。

・前掛けの蝶々結びがうごき出しあずき色した祖母がふり向く
(水野加奈)

「あずき色」が良いと思いました。
あずき色は、おばあちゃんの色なんですね。


・さくら咲く山の焼き場へつづく道ピザ屋のバイクが音たてて来る

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わだたかしさんです。

・牛丼か豚丼かすら悩むのにミホかアキかは決められないよ
(わだたかし)

・東京のソウルフードでおなじみのウイダーinゼリーを飲み込み走れ

なるほど。


・最高級イベリコ豚で作られた豚まん「ブタマネーゼ」の値段

・肉じゃがの魔法は解けたようだけど今ではポテトサラダに弱い


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空山くも太郎さんです。

・ひとんちのカレーを食べてまわる娘のリスカを止めてやれないでいる
(空山くも太郎)

・ぐりとぐら焼いてもらったカステラがしぼんじゃったね 午後はキャンセル

意表をついた結句が鮮やかです。

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柚木 良さんです。

・フルーチェを二人でわけるスプーンのひかりがすこし夢に似ていた
(柚木 良)

・におわない納豆などがほしいならAg+でもぶっかけろ

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船山登さんです。

・電話機でポップコーンを調理する未来に着いてしまったぼくら
(船山登)

あるかも。


・なぜだろう焼きそばだけは父ちゃんが作った方がうまかったなあ

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そう蛸さんです。

・おにわそと鬼は外って念じつつ齧る混ぜもせぬ納豆
(そう蛸)

・今晩はビーフシチューよ美輪さんが三島由紀夫に作った風よ

おもしろい。


・たんじょうびにじぶんでケーキを買わないと自分で決めた世界のルール

・紙皿に「君も食べな」とバーベキューおそらく雄の乳牛の肉


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憂太郎さんです。

・万能の先割れスプーンにつつかれてやんちゃ男子のコッペパン無残
(憂太郎)

「やんちゃ」はいらないです。


・納豆は誰も食べない給食の献立は町の納豆屋のため

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都季さんです。

・ざっくりとキャベツにナイフ入れる時浮かんだ黒い気持ちに戸惑う
(都季)

・おっとっとのヒトデは全部あげるから星が微睡むまでそばにいて

いいんじゃないでしょうか。

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Perfume大好き
岡本雅哉さんです。

・母さんのいびつな手作りドーナツがぼくの家族の理想形です
(岡本雅哉)

・かなしみの土手は破れてあふれ出すもんじゃは固まらないまま焦げる

・わたがしの匂いに釣られて集まった浴衣の金魚にぼくが釣られる

・Perfumeと同じ ひとつを選ぶのはムリさ 3つのスウィートドーナッツ


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あげはたさんです。

・ナポリタンミートスパしか知らなくて都会の光はまぶしく痛い
(あげはた)

・忘れないきっと一生覚えてる食べたことないポリンキーのうた

わかる。


・定食の漬物の下隠れてたエビのしっぽはいつからここに

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日野 寛子さんです。

・小鳥さんあなた専用綿菓子です 違ったあれは木蓮だった
(日野 寛子)

・死神のはやにえか誰のたましいだ? 違ったあれは木蓮だった

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新井蜜さんです。

・そよ風にゆらりふうわり誘われて春のおすすめ手長えび食う
(新井蜜)

・春雨にぬれて闇夜をおちていくわさび色したあなたの下着

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ユーリーボさんです。

・小刻みにコーヒーゼリーがふるえてる君がこの部屋出て行った夜
(ユーリーボ)

・廃屋の壁に貼られたポスターの深みを増したカレーの色合い

松山容子のボンカレーのホーロー看板は
廃屋での遭遇率が高そうです。

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真風さんです。

・生卵としょうゆとごはんに含まれる幸せという見えない滋養
(真風)

・見習っしゃい 粘り強かよ納豆は 掻き回し喰う母は鬼の目

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葉理さんです。

・大路は雨 筍を焼く 葬列が窓の向こうを通り過ぎてく
(葉理)

・爆音のコーラン 戦士一万がカレー貪る聖堂の地下

・衛星はアマゾン源流を写す 三浦キャベツの甘き葉脈

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チェンジアッパーさんです。

・ドラフトで一位指名をされそうな大根今日も食べ進めてく
(チェンジアッパー)

・香川県 うどんのせいで狭くなる日本一の小さい県よ

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キタパラアサメさんです。

・満月がホットケーキに見えたので君に電話をしようと思う
(キタパラアサメ)

・味のないフーセンガムをふくらます そうだあなたはもういないんだ

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☆1首劇場☆


・知り尽くすはずの名人キノコ採り山に入って音沙汰も無く
(おはぎ)


・割りそこねた卵のような心して月がゆくのを待つだけの夜
(西野明日香)


・噛むほどに漁師でありし亡き父のにおい広がるサキイカなり
(かわら)


・お寝坊のあなたにつくる小野リサの音も煮込んだセロリのスープ
(ぽっちり)


・鼻くそほじった手でごめん。割けるチーズをあげながら思うよ
(千のナイフと餞)


・スキヤキの肉に視線が釘づけで上を向けない5人兄弟
(ウクレレ)


・駅そばはひとりで食べます立ち呑みもひとりでいける大人ですから
(山口ヤスヨ)


・ガトー・ショコラフォークの先で傷つける甘すぎた夜を葬る儀式
(穂ノ木芽央)


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あきえもんさんです。


・肝吸いの熱さが喉を通りすぎ飲み込んでしまう言葉がひとつ
(あきえもん)

・納豆の容器を洗う 未練とはこんな形をしているのだろう

・マーメイドの踊り食いです胸にある貝は始めにお取りください

・銀杏を踏みながら行く 君もまた失業中だったのかニュートン


失業中とニュートンの取り合わせが
なんだかわからないけど良いと思いました。


・手渡しの手紙読まずに食べた後まだ居たんだと黒山羊は言う

・「おふくろの味」のコースは人参と牛蒡をアルデンテにいたします

・給食の三角食べは今もなお会社の新人−妻−愛人と


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鶴太屋さんです。

・はまぐりのしぐれ煮舌を過ぐるとき未生のわれをたまらなく恋ひき
(鶴太屋)

・たけのこの木の芽和へ食ふゆふまぐれ昔のごとく蝌蚪生(あ)れにける

下の句が見事だと思いました。



・うちむらさき割く一閃の断崖(きりぎし)をけふは離(か)れたりこころの夏

・茜濃き夏ゆふぐれの冷めゆきて煙霧のごとき胃のところてん

・冬の海あんこう鍋を惜しみてはまた注(つ)ぐ酒の杯の青菊

・春菊のほろ苦かるを食ひにけり青鈍(あをにび)色のさやけき弥勒

・蕗味噌の香にぞ噎(むせ)ぶは我ならずふるさととは杳(とほ)き煉獄

・若き日の山椒もみづる晩秋(をそあき)をうな丼熱き舌に崩るる



匂いたつような歌ばかりで、飲み屋にいるような気分になりました。
これも鶴太屋さんの歌が持つ力でしょう。

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かんなさんです。

・キャラメルのおまけの箱に詰まってる夢を落としてしまったのです
(かんな)

・暗号を送る相手を探しつつパスタを食べる窓際の席

・夕暮れのローカル線に乗り込んで一人で食べる冷凍みかん


夏っぽい風景。


・腹立ちをセロリにかえて混ぜあわす野菜ジュースをさあ召し上がれ

・ミルフィーユみたいに重ねてきた時は真冬のカフェでほろほろ崩れ

・くっついたセイロの隅の蕎麦のよう私を放っておいてください

・どうしてもわかりあえない事はある、静岡人はイルカを食べる


今回はこの歌が一番おもしろかったです。


・とけていくソフトクリーム後ろにも前にも進めぬ僕たちがいる

・迷う事ばかり多くて はじかみはどこまでかじればいいのだろうか



今回、ちょっとあたりまえで、
なおかつ説明的なモノローグが多かったように思います。

かんなさんの武器でもある「歌謡曲っぽさ」が裏目に出てしまったような。
そういう歌は、まだ発想の段階にあると思います。

短歌は31文字しかありません。
だからこそ選び抜いた言葉、
練りに練った表現で詠みたいものです。

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お疲れ様です!

やっぱり5首投稿してくれた人には、
なんとかして1首は採りたいと思って、
がんばって良いところを見つけようとするんですが、
それが一番疲れるね。
自分の精神状態も影響しているかもしれないと思って、
日にちを変えて読み直したりする場合もあるから。

そんな苦労もあったんですね……。

できれば全員のすべての歌を載せたい気持ちで選歌しています。
いつかそんな日を夢見て、がんばっていきましょう!

今日か明日あたり、

朱川湊人×笹公人
「遊星ハグルマ装置」

が更新されます!
今回は僕の短歌で、
タイトルは
「絶食書簡」
です。
ぜひご覧ください!

優秀作品もお楽しみに!

よろしく哀愁☆
posted by www.sasatanka.com at 00:31| Comment(31) | TrackBack(0) | 総評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年04月05日

「建物」総評

お待たせしました!
「総評」です。

えー今回の「建物短歌」
工夫されている歌が多くて、
おもしろかったです。

何度も言ってますが、
良い短歌をつくるコツとは、
「歌の中にはっきりとした答えを出さない」
ことだと思います。
答えに有無を言わさぬ破壊力があれば、
読ませる歌にもなるのですが、
そういう作品にはなかなかお目にかかれません。

道歌のようなジャンルもありますし、まぁ例外もありますが、 最初から答えが全部出ちゃっている内容は、
短歌ではなく、評論やエッセイ、
あるいは小説などにすべきだと思います。

7〜8割くらい答えがわかっているけど、
最後の最後まではわからない。
だから最後の判断は読者に委ねる
というような歌が理想だと思います。
答えを誘導していって答えが出る直前で止める。
これが短歌をつくるコツのようなものではないかと思います。

なるほど!

答えが出ちゃっている歌というのは、
今回の投稿作品では、

・あこがれのお菓子の家の現実は暑さに弱く雨には溶ける
(ユーリーボ)

「現実は」といって、
「暑さに弱く雨には溶ける」という答えを全部説明してしまっています。
こういう場合は、
お菓子の家が暑さと雨でドロドロになっている光景を
ストレートに詠めばいいのです。
そのほうが作者の意図である「現実の無惨さ」が何倍もよく伝わります。


・江戸城に天守閣まであったのは家綱までの4代限り
(江戸検1級秋葉文人)

この歌も、事実というか作者の雑学の知識を
そのまま31文字にしただけの散文です。
学研の『まんが日本史』とかのページの端っこにある
「豆知識」のコーナーそのままです。

そういう「豆知識の歌」というのは、
よほど変な珍しいものでないかぎり、なかなか歌になりません。

初投稿の人が多かったので、
基本的なことを書いてみました。

作歌上つまづいた時は『念力短歌トレーニング』を読めば、
きっと何かヒントを得られると思います。
ぜひ隅から隅まで読んでみてください。

わかりました!

では、「総評」にいきます!

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まずは、
はせがわゆづさんです。

・真新しい私になってく日曜日コインランドリーのひなたの匂い
(はせがわゆづ)

春っぽい、良い歌です。


・教会の鐘を遠くに聞きながらキスした甘いバニラみたいな

・海の家で愛を誓ったばかりです 雪どけはまだ遠いねほら貝

・飛行機雲追いかけていく梅田スカイビルから君まで一直線に



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めぐみさんです。

・闘わないことを非難されている気がして仰ぐ安田講堂
(めぐみ)

・火炎瓶を投げてたひとが壇上で文学を説く900番教室

・時計台から見下ろせばキャンパスは外の世界と地続きだった

・闘わない我等を非難する大人は安田講堂に立ち入り禁止

・白黒の写真でかつて見たよりもぼやけて見える安田講堂



道浦母都子さんの歌集『無援の抒情』を彷彿とさせる一連。
実体験でしょうか?
それともなりきり詠でしょうか?

いずれにせよ実感がこもっていて、読ませます。


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イマイさんです。

・雨ごしに数多の血管見下ろして答えにつまる東京タワー
(イマイ)

道路を血管に見立てているのでしょう。


・これからはここが日常 一軒家の瓦の屋根は白光りする

・一日で気配の消えたアパートは空き家のにおい溢れ出てくる


「空き家のにおい」が
おもしろかった。


・吹き荒ぶ風に途方に暮れている寄り添うだけのショッピングモール

・図書館の閲覧室の大人たち行く充てのない平日にいる


「行く充てのない」は、
余計な説明でしょう。

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山口ヤスヨさんです。

・歌舞伎座を裏の路地から眺めれば太き電線はらわたのごと
(山口ヤスヨ)

「はらわた」が、
歌舞伎の切腹の場面を暗示していてよかったです。


・もう誰も通って来ない学び舎のちりがみの花を濡らす春雨

・学校が解体されても消えないで黒板のすみ君の告白



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富田林薫さんです。

・頑張っても3号までと知りながら買ってしまった『週刊 安土城をつくる』
(富田林薫)

富田林さんらしいオリジナリティがあります。


・金融の神の怒りをかったブルジェドバイ崩れ落ち結局はもとの砂漠

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深森未青さんです。

・ゆふさりのひかり湛へるネット内墓地トツプペエジの金字塔
(深森未青)

いずれネット墓地が主流になるかも……。


・登るより下りるが難しいのよとフエイ・レイ言ひて王(わう)は哭きたり

・狂王の湖(うみ)にしづみて白鳥(はくてう)の城はくづれつなほくづれつつ

・島となり軍艦となり島となる千年生くる魚(いを)は知らずも


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暮夜 宴さんです。

・ハチミツをもらいに行けばプーさんの家は春までCloseのまま
(暮夜 宴)

秀逸なディズニー短歌。


・しあわせは竜宮城に眠らせていつかあなたもロマンスグレー

うまい。


・信念と書かれた額が燃え上がる極真空手道場の夜


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てこなさんです。

・フライパンに入れたあさりのように泣く余熱のZeppTokyoを背に
(てこな)

絶妙な比喩だと思いました。


・この日々に飾り包丁いれるごと裂いてホテル ザ・マンハッタンで


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松木 秀さんです。

・「人形屋佐吉」の黒い店先も覆い隠して春の雪降る
(松木 秀)

・宝くじもし当たったら全力で再現してみたい二笑亭

・函館の近くと炭鉱の近く巨大仏像の残骸はあり



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やすたけまりさんです。

・「今月の組み立てふろく」のりしろがずれてゆがんだ太陽の塔
(やすたけまり)

・のりしろのしろは白だと思ってた 住友童話館は虹だった

絶妙な下の句によって、
上の句のモノローグが活きました。


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虫皮さんです。

・頓挫せしリゾートホテル屋上の錆ゆく重機に鳥憩いけり
(虫皮)

近未来のドバイの風景。


・星月夜 蟻塚あまた並び立ち人類はもう滅亡しました


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文月育葉さんです。

・楳図ハウスを知らぬ夫に紅白のシャツ着て両手を広げていたり
(文月育葉)

寺山修司本歌どり。
よくできています。


・午前九時開館告げる美術館『種まく人』は背筋を伸ばす

絵の中の人が、
客が来る前に準備をしているという歌。


・海沿いのホテル『エーゲ海』で処女を捨てシーツの海に溺れる人魚

・ほろほろと鱗を落とし教会のバージンロードを人魚は歩く



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星野ぐりこさんです。

・建物に守られながら生きてきた君の野性に期待はしない
(星野ぐりこ)

・足元に頭を置かれそういえば2人だっけ、と思うアパート

「置かれ」がちょっとひっかかりました。


・団地にはカレーの匂いが良く似合い「母さん」なんて呼びたくもなる

・死んでいく声ばっかりを聞いていた白さが目立つ病院の中



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酒井景二朗さんです。

・100tの鐵の鎖を搬入する 天使立入禁止の塔に
(酒井景二朗)

・エボラ熱大感染を省みず宇宙へ去つて行つた都廳舍

・死ぬのなら昆蟲館と決めてゐるこの身全てを蛆にあづけて


イメージが浮かんできて、
気持ち悪かったです。


・天空に一瞬見えた樓閣が崩れた 夏を拂ふ夕立


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真風さんです。

・見晴るかす平屋ばかりの町並みをスパイダーマンとぼとぼ歩く
(真風)

・摩天楼空に浮かびしへリポート ルパンの影が夕日に消える


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滝沢勇一さんです。

・午前二時渋谷の巨大液晶が光ってテストテストテスト
(滝沢勇一)

謎めいていて、よかったです。


・電車から見える送電鉄塔が怖いからもう、どこにも行けない

・純粋な気持ちで廃墟を見に行って卑猥なことを少ししようよ



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都季さんです。

・青空に一番近い場所だったジャングルジムは小さくなって
(都季)

・廃墟にも夏の影濃く足元でいつかの光が音高く散る

・紫に一瞬光る電波塔 都市伝説が配信される

うまい。


・博物館地下収蔵庫の梟の瞳に流れ星は瞬く


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104heroさんです。

・真下からエッフェル塔を覗き見るカメラ片手にタシロのキモチ
(104hero)

・父のいた古アパートが壊されて青空増えた景色ただ見る

1回休んだ間にパワーアップされてますね。
とてもよかったです。

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新井蜜さんです。

・少しだけ丈の短い棺に寝るロンドン塔で首をはねられ
(新井蜜)

・先立ちし者も後追う者たちも集いてホテル・カリフォルニア燃ゆ

・白抜きのワールドトレードセンターに突っ込んでいく零戦の群れ


会田誠さんの絵「紐育空爆之図」を彷彿とさせる歌。
同じ発想の歌に大辻隆弘さんの

・紐育空爆之図の壮快よ、われらかく長くながく待ちゐき  (大辻隆弘)

という有名な歌がありますが、
想い・心情がこもっている分、大辻さんの歌のほうが上です。
たとえ空想の歌であっても、
それを良いと思うのか、悪いと思うのかが
伝わるくらいの「想い」は漂わせなければいけません。

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水野加奈さんです。

・ゲゲゲの家とよびたきツリーハウスよりおとこのくさめ聞こえくるなり
(水野加奈)

・カーラジオ眠りつつ聞く海沿いのドライブインの破れたひさし

・〈太陽の塔〉なる記憶スケッチにクリオネですかとナンシーの声


絵が浮かんできます。

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団地ファンの
虫武一俊さんです。

・農機具の倉庫の壁に錆びついた鶏がいて静かなる夏
(虫武一俊)

・ゆうぐれに隅のソテツがざわめいて校舎の影は人を襲えり

・夜の果てにスターハウスが沈むとき肩からほどけ落ちるふろしき

・耳をすませば坂のむこうに群がれるビルとビルとが睦みあう春


余談ですが、団地ファンのひとりとしてみなさまに「スターハウス」を一度は見ていただくことをオススメしたいです。
現在各地で建て替えが進んでいるので……
あの、どの角度から見ても飽きないフォルムは必見です。


なるほど。
グーグルの画像で見ましたが、
たしかに味わい深いですね。

「ふろしき」が昭和っぽくて効いてると思いました。


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さやさんです。

・鐘のない寺から僧がいなくなりひっそり死んでゆく僕の村
(さや)

・鉄塔のようねと言ってほほえんだ水着の白を思い出せない

・思い出せ 血みどろの校舎裏の俺 今よりたぶんマシだった俺



どの歌もおもしろかったです。


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憂太郎さんです。

・3Fの2年2組の教室の窓側だけが圏外になる
(憂太郎)

・午後9時の横浜駅の構内で違ふ制服着てゐたA子

・三本のオバケ煙突一本に重なる路地にポン引きが立つ

・第4期造成されしニュータウンに往時のままの団地妻をり



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佐々一竹さんです。

・鉄路果て海とのはざま門司港という名の駅舎たたずみにけり
(佐々一竹)

・火の消えし窯の煙突見上げたり或る若者の死を悼むため

笹井宏之くんを追悼する歌でしょう。


・雨けむり人まばらなる天主堂被爆マリアの像は黙しぬ

・清正公の築きしあげにし石垣を蟻一匹が登りつめたり

・いにしえの島津を知りし館かな桜島をも借景として



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小野伊都子さんです。

・ドイツ菓子みたいな形の校舎から甘い明日を夢にみている(小野伊都子)

ドイツ菓子といってもたくさんあるので、
具体的な菓子名にしないといけません。
おそらく「シトーレン」のことだと思いますが。


・病院は紙ひこうきを飛ばす場所 ハロー神様お元気ですか

・こんなにも揺れるだなんて あのひとのひと言だけでワラのおうちだ

・あのひとのビルを支えるたくさんのネジのひとつになれますように


鉄郎(銀河鉄道999)っぽい発想。


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わだたかしさんです。

・放課後の影にのまれた西館が七つの謎で動き始める
(わだたかし)

・アカサカのアカサカサカスまえのサカ アカサカサカスサカで差す傘

言葉遊びの歌ですが、お上手です。


・ジュリアナの地下に隠れたボディコンがアラフォーになりまた扇子ふる

・例えれば東京ドーム十個ぶん愛しているよ からっぽだけど


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つぼねさんです。

・駅前の高層ビルが建ってから我が家の日の出は2時間遅れる
(つぼね)

・「みぃちゃんは大きくなったら王子様とお城へ行くの」とラブホ指さす

ちょっとありがちか。


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岡本雅哉さんです。

・足元に伸びる巨大なギロチンの影をたどれば凱旋門が
(岡本雅哉)

・たわむれる親子のあいだ石垣もお堀も消えるこどもの城で

・常磐の温泉テーマパークにはフラのリズムで粉雪が降る



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伊藤夏人さんです。

・西本願寺御影堂の瓦の裏に君の名をそっと書きます
(伊藤夏人)

・柱にはちょうどいいのでガチガチのままでお席でお待ち下さい


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西野明日香さんです。

・ぼくたちはどうせちぎれてしまうからエッフェル搭の風はいらない
(西野明日香)


・聖堂に張り付く膝が動かない 眩しきマリア遠すぎる道


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伊藤真也さんです。

・足音に耳をそばだて唇でリコーダーに触れた旧校舎
(伊藤真也)

・時計台のどこまでも長いシルエット もう少し好きでもいいですか


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花関索改め単子さんです。

・父母(ちちはは)と子のアルバムを岸に置き夢の砦は水面(みなも)に消ゆる
(花関索改め単子)

「岸辺のアルバム」(山田太一・作)への
オマージュとして読みました。


・高楼の叢林の底にある光ヘプバーン忌の緑の舘


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蜜さんです。

・見ないふりしてあげるから屋上の鍵を盗んで告白しなさい
(蜜)

・制服でもう学校に来ないでよが最後の言葉の卒業式


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ひいらぎさんです。

・思い出はそれ程ないけど子供にもいずれ見せたい京都タワーを
(ひいらぎ)

・京都タワー見えなくなると不安だしやっぱり結婚取りやめようか

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加藤サイさんです。

・「離さない」真っ赤な嘘で染められた東京タワーを君とも登る
(加藤サイ)

・かみさまがいるかどうかもわからずにうたっていたましろいおみどう

・休館の美術館ではルノワールの少女が雨と踊っている



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そう蛸さんです。

・粘質の春一番が吹き抜けるぎろちんみたいな風水ビルを
(そう蛸)

「ギロチン」とカタカナにしたほうが、
ビルっぽさが出ると思うけど。


・鐘が鳴る鐘が鳴るはかいしに空のひろさをつたえるために


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柚木良さんです。

・書庫深くブーツを磨く老司書の階級章のごとき目のしわ
(柚木良)

・はじめての跳躍のとき手をついた跳び箱深く倉庫に眠れ


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船山登さんです。

・「WC」と住宅地図に載っている角の御手洗さんのお屋敷
(船山登)

・人の世の新陳代謝(メタボリズム)か「建て替え」で消える中銀カプセルタワー

中銀カプセルタワーとは、
メタボリズムを提唱した黒川紀章さんの代表作です。


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ウクレレさんです。

・枇杷の実のごとく明るき太陽の塔の瞳に男の影あり
(ウクレレ)

立てこもっているのでしょうか。


・バリアフリーになってしまえり大阪城 諸人こぞりて攻め落とされる

・ピサの斜塔よりも傾く本社ビル派遣社員がころがり落ちる



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穂ノ木芽央さんです。

・気がねなく咲く満開の桜木を無人の社宅の柵越しに見ゆ
(穂ノ木芽央)

・踊り場のコンクリートのつめたさを知ることもなく大人になりて

・さいごだよグラビア真似て赤煉瓦もたれて笑ふ液晶画面


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楓さんです。
  
・少年や淫語の夏の後始末産屋の木綿カーテンを濯ぐ
(楓)

・僕のび太君は道造僕は君愛を歌いて犬小屋に棲む


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かわらさんです。

・安土城のプラモをつくる母の目が一瞬光りぬ 「光秀」を聞けば
(かわら)

・東大寺の巨大な微笑みふくらみて今宵ひとつの死は成就せり

・水筒の黄金水を返したまえ 清水寺から飛び降りし友



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・子規記念博物館の上空に

石ころが
落ちてきました

(MC・E)

正体バレバレのMC・Eです。
子規記念博物館で作者がわかった。

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☆ビーチャの1首劇場☆


・直ぐに建つ東京タワーや大橋もあやとり紐で一瞬のうち
(おはぎ)


・宇宙へと羽ばたくためのエネルギー蓄えし豊田スタジアムの屋根
(魚虎)


・たくましく成長したね子供たち 不敵に笑う太陽の塔
(ユーリーボ)


・石三つ重ね小さき手を合わす白猫鳴きて雲かけて消ゆ
(中宮清子)


・地下深くゆるゆると降り別れ際互いに触れずこれからのこと
(あげはた)


・4号館うらの廃棄パソコンに保存すきみとのわずかなデータ
(空山くも太郎)


・蔦が這う暗く汚れたマンションが幼なじみにすこし似ている
(雪千代)


・片割れの靴があちこち転がりて人待ち顔すシンデレラ城
(たみ)


・駅名でつぎ住む町を決めようか 読めない駅を読む きれんうりやぶり
(木村比呂)


・泣きもせず笑いもせずに七色にかがやくタージマハールのきもち
(わたつみいさな)


・青空に京都タワーの嘘くささ 転居通知は破り捨てます
(月下燕)


・生真面目なサトルは今も廃校の廊下で校内放送を聞いてる
(やましろひでゆき)


・子供らにお化け屋敷と呼ばれてた誰かさん家のただ古い家
(江戸検1級( ´・ω・)秋葉文人)


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あきえもんさんです。

・捨て犬を拾うがごとく鉄屑を集めてゴミの屋敷は賑やか
(あきえもん)

いいとこと突いてます。


・「天地無用」悟りのように貼り付けて命を包む段ボールハウス

・私なら屋上に居ます大丈夫最短距離で降りませんから

・キシキシの髪からがさがさの踵まで褒めて「建物探訪」の人



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鶴太屋さんです。

・校舎ごと時空を漂流するならばぼくは噛みくだく白き錠剤(タブレット)
(鶴太屋)

・グワシして指攣(つ)る日本は花冷えの楳図ハウスを訪なふ神神

・あめーばの分裂してゆく夜のシャーレ旧館奥のピアノは透きつつ

・東京タワー裡(うら)に鎮座せしUFO覗けばDEVOのさてぃすふぁくしょん

・マチュ・ピチュの遺跡しづかに炎えやすく乾季待つこころの花まつり

・エッフェル塔離陸する刻(とき)百人の吟遊詩人の黒焦げのギター

・世界貿易センターのかけら刃のごときを握りて奔る新聞少年

・ジョン・ベリマン詩集にうすく凍りたる雪を払ひて図書館の冬

・アラミーダ・ホテルの微塵の空焼けてエリオット・スミスは翳を歌ひき

・千枚の翅の顫へる蝶の吻(くち)、塔に縊(くび)れし屍(し)に群がりて

・ピサの斜塔きぬぎぬのごとかたむくを裸のままに剥きゐる林檎

・夏の港の倉庫に犇く貘たちの夢は凛(さむ)くて一屯(トン)の氷塊

・後架わきの早咲きの薔薇 枯草熱のぼくは洟かむ春の館に

・大理石にうるはしき接吻(キス)刻みたるタージ・マハルは熱く冷えゐる

・麗(うらら)かなるパルテノン神殿の朝焼けは青く燃えつつ眠れる水夫

・玉葱齧るごとし眸(ひとみ)に沁みとほる甘き曇天のサグラダ・ファミリア

・春は痩せ犬、夏片眼猫 億万の涙(なんだ)を歌ひて万里の長城

・素寒貧、胃の底までも風沁みれば皇居の堀の鳰(にほ)裂き啖(くら)へ



いろんな国の建物を詠んでいて、
どの歌も楽しめました。
いつもながら鶴太屋さんの守備範囲の広さには驚かされます。

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かんなさんです。

・夏の日のビッグエッグを飛び跳ねるオレンジ色のスーパーボール
(かんな)

・巻き貝のなかをたどってゆくような古灯台の螺旋階段

・たんぽぽの綿毛ほわんと六本木ヒルズの上に花を咲かせる

・コンパスを優雅にまわす丸ビルの設計技師の細い指先

・取り壊し期限が迫るアパートの外階段に腰掛け眠る

・少年は太陽の塔の影の下、時限爆弾胸に抱えて

・ポッキーを並べたような影が消え高層ビルは闇へと溶ける

・はりぼてのケーキのような教会で確かめられる「真実の愛」

・「その昔、耐震偽装があったとさ」古い厨で蓮根を切る



安定した実力を感じて、頼もしかったです。
直喩にもうちょっと意外性がほしいという気もしました。


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お疲れ様です!

今回、力作が多くて全体のレベルが高かったです。
1首も採られなかった人もけっこういましたが、
どの人にも惜しい歌というのはあったので、
がんばってまた投稿してください。

「優秀作品」の発表は、8日以降になります。
よろしく哀愁☆
posted by www.sasatanka.com at 14:05| Comment(34) | TrackBack(0) | 総評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年02月13日

「UMA(未確認生物)」 総評

どうも笹師範です。 「UMA」難しかったみたいですね。
今回のお題の表現上の罠と攻略法については、
『念力短歌トレーニング』の「都市伝説」とほとんど同じなので、
1首しか採られなかった、または1首も採られなかったという方は、ぜひ熟読してください。

残った歌はけっこうレベルが高いですね。

そうだね。
全体的にますますレベルが上がってきてるね。
怪しいお題の時だけ登場する深森さんが投稿してくれたのもうれしいです。

お知らせです。

本日13日発売の『ネムキ』(朝日新聞社)
の連載「念力短歌道場」の序文で、
笹井くんへの追悼文を書いています。


追悼座談会に出演させて頂く
3月20日の「笹井宏之さんを偲ぶ会」

まだ空きがあるようです。

真伸さんのような深読みもおもしろいのですが、
僕は、笹井くんの短歌には暗喩はほとんどないと思っています。
その天才的な映像イメージをストレートに楽しむという読み方をしているので、
そのあたりについての話もしようと思います。

笹井くんのコーナーは、もうしばらくお待ちください。

では、「総評」にいきます!

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まずは、
深森未青さんです。

・みづうみの深きは海におよばねど光るたまごをつね底に持つ
(深森未青)

ネッシーか恐竜の卵でしょう。


・純白の雪のあしあと計りたる巻尺つひに返却されず

・ばちへびに異形の牝のあらむこと抱かれ足らざる夜半に思へり

・千年を祀られてなほ醜女なり式部が池の鯉の伝説


どれも今回のお題のお手本のような歌。
どの歌も因果関係や答えを言っていないところが良いです。
それにより、歌に奥行きが生まれました。
深森さんはこういう怪しいお題だと俄然力を発揮されますね。
さすがはホラー作家……。

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松木 秀さんです。

・雪男 たった足跡だけなのに何で男とわかるのだろう
(松木 秀)


さすがのおもしろさです。
僕なら
「たった足跡だけなのに」を
「足跡ひとつだけなのに」としますが。

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酒井景二朗さんです。

・耳もとのスカイフィッシュの脱け殻を「きれいでしょ」つて脅しか、それは
(酒井景二朗)


耳垢のこと?
おもしろい!
酒井さんは、おもしろ短歌のセンスもありますよ。

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暮夜 宴さんです。

・荒れ狂うヤマタノオロチの如き影おとして夏の螺旋階段
(暮夜 宴)

うまい。


・耳元で君がケサランパサランってささやくような冬の陽だまり

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てこなさんです。

・UMAを宿してもいい鴨居見つつ両脚ひらく夫(つま)不在の夜
(てこな)

・奥様のクローゼットにかくされてイエティ、毛皮がこんなに痛い

・それならばなぜに抱いたの疑問符のシーサーペントがあなたをねじる

・角のおれたジャカロープよわたくしも爪まるくして主婦へと戻る



UMAをテーマにした連作になっています。
どの歌にも女の情念を感じます。
「UMAを宿してもいい」のフレーズにはびっくりしました。

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はせがわゆづさんです。

・何万年も前から呼んでいたようなイエティの足跡を背にして眠る
(はせがわゆづ)

・かくれんぼって聞こえた気がしたツチノコの見えないしっぽが指からこぼれる

・秘め事はスカイフィッシュが心臓をすり抜けてく時の羽音にあずけて

・毛先には片道切符を絡ませてケサランパサランは桃源郷へ

・君の夢を見たい今夜は特別にケサランパサランを抱いて眠るよ



今回も自分の世界があって良かったです。
癒しがあります。

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イマイさんです。

・朝靄の猪苗代湖にたたずんでわたしときみがイナッシーになる
(イマイ)

情景が浮かんできます。


・強風で止まるゴンドラ 灰色の影はいつしか雪男の背

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都李さんです。

・イエティでいいよ毛並みもふさふさだしとりあえず今抱き締めてくれよ
(都李)

発想は良いのですが、
だいぶ改良の余地があります。


・トトロには会えてないからまだあたし大人になんかなりたくないの

・ツチノコが床に転がる「靴下は脱いだら洗濯機に入れなさい」


座布団一枚。

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やすたけまりさんです。

・未確認食物連鎖 風を喰うスカイフィッシュをだれかがたべる
(やすたけまり)

空のプランクトンみたいな存在?


・つぎつぎと青いミミズをのみこんだ百年鰻の照らす川底

・里山は春にふくらむ未確認生物たちをたくさんたべて


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富田林薫さんです。

・「雪おんな愛しているよ」こうみえて雪おとこだってハートは熱い
(富田林薫)


・みずからの体毛をほぐしひとりぼっちのひつじ男がセータを編む

・ユニファイドメモリアーキテクチャ=UMAと言えばさり気なく知的か

・SMAPに森くんと言う未確認メンバーがいたらしいと噂する小学生
 

好調ですね。

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めぐみさんです。

・宇宙にもぼくの仲間はいなかった虚ろなまなこで呟くガチャピン
(めぐみ)

泣けます。


・白雪に赤いからだは映えるだろうムックは山に帰ってったよ

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花関索改め単子さんです。

・いずこより来ていずこゆくかまいたち枯れ野の土に血は染みてゆく
(花関索改め単子)
 
「かまいたち」を流浪の武士の暗喩として
読むこともできます。


・まなこ刺す臭いのもとを訪ぬれば公園いっぱいの野糞の丘が

UMAじゃないんですけど……。
ま、いいか。

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穂ノ木芽央さんです。

・いつまでも探しつづけていたいのに きみのこころを泳ぐネッシー
(穂ノ木芽央)

下の句が魅力的でした。

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魚虎さんです。

・寂しさに耐える日々ですわが夫(つま)がオオアリクイに殺されてから
(魚虎)

有名なスパムメールを題材にした歌。
おもしろい!
でも、「オオアリクイ」はUMAじゃありません……。


・逃げ出したスライム探す貼紙を街のどこかで見かけたような

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矢島かずのりさんです。

・「女でしょ」チュパカブラだよ「どうみてもキスマークでしょ」チュパカブラだよ
(矢島かずのり)

・ヒバゴンか 知らないやつといるきみか どちらを追うか悩む雑踏

どっちも恐ろしい結末が待ってそうです。

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ユーリーボさんです。

・古代にも存在しない大きさのゴキブリ送ると脅迫メールあり
(ユーリーボ)

・カンタくん結構UMAだと思うけど誰も触れない誰も言わない



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江戸検1級秋葉文人さんです。

・中国産ウナギの中にツチノコが混ざっていたりするかも知れぬ
(江戸検1級秋葉文人)

・『メイド服を着た男の化け物』を見なかったことにする白昼

・モンスターばかり溢れる現代をUMAは恐れて逃げる


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中村成志さんです。

・木もれびの上(へ)にバチヘビは蜷局(とぐろ)巻く視力検定「右下」のごと
(中村成志)

なるほど。

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西野明日香さんです。

・庭先を掃いては空にジャンプする少女はきっと魔女へと変わる
(西野明日香)


・完璧な父の背中がどことなくネッシー思わせバスに消えゆく

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たみさんです。

・出ておいで〜少女の声の無邪気さに負けそな日もあるまっくろくろすけ
(たみ)

・目的はトロールに会うためと告げ揉めに揉めたり入国審査

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ウクレレさんです。

・三河屋の倉庫で眠り冬を越すはずのツチノコ1ケースあり
(ウクレレ)

「三河屋」と「ツチノコ」の取り合わせには
魅かれるものがありましたが、改良の余地があります。


・目を凝らしても見えないよ 「これ欲しい」と君のゆびさすスカイフィッシュ

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わだたかしさんです。

・ネッシーは捏造だって説がある でもアッシーはいるんだ(ココに)
(わだたかし)

・アッシーでメッシーだったあの頃に仕えてましたワンレンボディコン


バブルなUMAを詠んでくれました。

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柚木 良さんです。

・「いつかやるだろうねと話してました ツチノコ色のセーターでした」
(柚木 良)

でかすぎだろ!

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そう蛸さんです。

・おれはもうからっぽだもうネッシーが去ったネス湖だほんとからっぽ

失恋か、リストラか。


・自販機のあったか〜いを押したときぼくらのヒバゴン探しはおわり

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嶋田電気さんです。

・ここに来てカラダを縦にふりあげろシーサーペント 旅立ちの朝
(嶋田電気)

・満月の夜に獣の毛が生えて昨日までのぼくを失う

狼男。

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山口ヤスヨさんです。

・UMAならば大事にされるはずなんだ人間だから仲間はずれだ
(山口ヤスヨ)


・背徳の香りは誘う君とならデビルツリーに溶かされたい夜

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小野伊都子さんです。

・ないしょだよ コロボックルの大きさで君の心に住み着いたこと
(小野伊都子)

・イエティに抱きしめられて動けない 右ポケットに白い恋人

「白い恋人」が効いてます。


・ゆっくりと君のうなじに触れてみるIDナンバーまでも愛しい

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かわらさんです。

・雪の夜に吾(あ)が連れて来ししろがねのこびとの胸が赤く灯れり
(かわら)

・巨大なる卵のまえに結局は母を座らす おおつごもり

妙な味があって好きです。

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 ☆UMAな1首劇場☆


・畑から帰る途中でばちへびに遭ひ弟を身ごもりし母
(やましろひでゆき)

・友の無き吾子の枕辺に置かれたる『人外魔境 有尾人ドド』
(やすぼう)

・夜明けまで湧き満つる影が覆う街 探してみようか石住むサカナ
(夢視る獏)

・病院の廊下で見たよぐるぐると管を操る点滴獣に
(おはぎ)

「点滴獣を」だと思いますが。


・『全身がガン細胞』だと知った日のゴジラよ 全て壊してしまえ
(蜂谷喜一)

・君の名はニホンカワウソ僕の名はエピオルニスだ謎のスパイだ
(はづき生)

・ネッシーの大群ごめん元カノの話で俺らそれどこじゃない
(範馬くまさん)

・いっそもう、件(くだん)になって君守る気分になる 闘病生活
(空山くも太郎)

・大きくて目のやり場にも困るけど酔ってあなたは件の如し
(佐々木優)

・紅白に出演中のPerfumeのポーチに眠るケサランパサラン
(岡本雅哉)

・火星からの定期船を待つあいだキノコのふりで過ごすワレワレ
(伊藤真也)

・迫りくる朝日を浴びて幸せのケサラン・パサラン踊ろう共に
(恭子)

・俺お前毛深いだけだと思ってた。イエティか、なら冬には強いね。
(滝沢勇一)

・あなたこそ未確認でしょネッシーはいるって言ってよねえドラえもん
(伊藤夏人)

・我が校の地下駐車場に水が這う池田先生の朝は濡れ髪
(地球人)

・水面に体毛浮きたる露天風呂 桶ですくうは十五のイエティ
(ももや ままこ)

・近頃は厳しい冬に恵まれず雪男の背も夏毛に替わる
(あげはた)

・カーテンの破れ穴からのぞいてる緑色の目誘っているの
(ダンデライオン)

・阿寒湖の底に生息するらしい突然変異をしたまりもっこり
(文月育葉)

・その昔口裂け女に怯えしも今じゃ口酒女となりぬ
(お局ハケン)

・UMA研夜ごと現る美人秘書ローマ字の名は Aya Shiinaなり
(猫丘ひこ乃)

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<殿堂入り投稿者コーナー>


あきえもんさんです。

・彷徨えるチェリーボーイは女とはUFOに乗って来るのだと言い

「女」を「彼女」とかにしたほうが、
意味が通じると思います。


・ゲレンデのマジックのように雪男だって街では小柄かもしれぬ

・手術着の緑が医師の眼に映りキャトルミューティレーションが始まる


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鶴太屋さんです。

・射殺され逆毛(さかげ)の人食ひ猫の尾も今は路傍に揺るる水仙

・黒き笑ひのデヴィル・ウォンバット聴きし者耳を残して失踪したり

・毛の生えしテレビが増殖する夢を覚めて憶へば髭ばかり伸びる


・銛撃たれモビー・ディックが跳ねるとき海は血潮の聖杯となる

・満身創痍のモビー・ディックはやすらへり潮噴きあげればアメリカが見える


『白鯨』オマージュ。


・夢を喰ふ獏(ばく)子飼ひして三十年ひともとの帆柱(マスト)睡りに残る


・黒き獏わが血脈に棲むゆゑに空翔ぶものをなべて憎めり


下の句が寺山してます。


・夢喰はれ眠りは黒き山河となる花散る闇で吾(あ)に憑きし獏よ

・みどりの夜春の卵が落ちてゐる路地に尿(しと)せり恋のウナギイヌ


・小春日和の空き地に眠るウナギイヌ秋桜(コスモス)のひかり一身に浴び

・ウナギイヌに雪玉ぶつけし子供らの雪夜は黒き鰻に巻かる


鶴太さんのウナギイヌへの偏愛ぶりは謎です。


・ツチノコの噂に賑ふ子供らの背なには黄金(きん)の夕陽が響き

高度経済成長期の夕陽の美しさ。


・みちのくのツチノコ酒飲めば甦る祖母に食はされしイモリの黒焼き

・風の他界の矢口薬種店バチヘビの泡盛漬のつぶらな眼(め)せり

・ラムネ飲みて河童天国想ひをり紫雲たなびく晩ともなれば

・河童の木乃伊焼きし夜より人間の水掻き有(も)たぬことを怖れり

・桃源郷に遊ぶ河童の幻影を霞む瞳(め)で視(み)し胡瓜をかじり

・河童は頭(づ)の皿罅割れて死にたりと蠅の複眼の千の海干る



鶴太屋さんはいろんなカードを持ってる歌人だなぁと
あらためて思いました。

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異能兄弟さんです。

・白龍の逆鱗のごと夏の陽にきらめく父の無精髭なり
(異能兄弟)

・河童への転生を乞い入水せしホームレスの頭(ず)の紙皿哀れ

そんなホームレスいるか!


・ヒバゴンは泣いてた黒い雨に濡れ(昭和20年8月のこと) 

・ゴミヤシキオオイエネコが棲むという噂の家の老婆死にたり


イメージが湧いてきます。


・少年は昭和の原っぱ駆けていたUMAみたいな青洟垂らし

・「身の内のUMAを見つけてやるのよ」と少女はリスカ繰り返したり

・イエティという名のバンド、足跡を残すことなく消えてしまえり


なるほど。
「イエティ」ってバンド名としても良いですね。
ちょっとニューウェーブっぽいバンドのイメージ。

・ひとりでにブランコ揺れて鵺(ぬえ)の啼く声で軋めり満月の夜は


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お疲れ様でした!

パソコンの調子が悪い(やたら重い)上に、
たくさん検索したので、時間がかかってしまいました。

では、「優秀作品」の発表を楽しみにしていてください!
次回はもっとつくりやすい「お題」を出します!

よろしく哀愁☆
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2008年12月30日

「店屋・店名」総評

笹師範です。

大変遅れてしまって申し訳ありません!
年末進行などで忙しくて、正月も部屋にこもって仕事をすることになりそうです。
とりあえず「総評」をUPいたします。
評は、あとでどんどん付け足していきますので、
何度も見にきてください。

お疲れ様です!
どうでしたか今回の「店屋・店名」は?

店名を意識しすぎたあまり
何を伝えたいのかよくわからない歌が多かったです。

そういう歌は、
「ふーん、そういう店があるんだ。それで?」
となっちゃう。
「それで?」のあとがほしいのです。

なるほど。

その店に対する愛情や思い出や怨念や告発、
なんでもいいから作者の想いをこめてほしいのです。

奇抜な店名だけの破壊力だけで乗り切るというのはけっこう難しいです。
店の名前のおもしろさは、あくまでオマケくらいの気持ちでつくって頂きたい。

了解しました!

12月24日に放送された
「ウキ→ビジュ」(中京テレビ)
ゲスト・笹公人(第2回目)

こちらで配信されています!

今回の「アイドル短歌」は、暮夜宴さんと文月育葉さんの歌を紹介しました。
ぜひご覧ください!

では、「総評」にいきます!

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まずは、

中村成志さんです。

・今日からは青き縞あるローソンの制服を着る三河屋主人
(中村成志)

・縁日の屋台のうしろほの暗く銀杏の蔭で鳴る発電機

・マンモスの牙人形(ひとがた)に削られてさむき道辺に売られていたり


しっかり物を見ているところに好感が持てます。

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てこなさんです。

・おなかの子病気と知った雨の日に日比谷花壇にとどくほおずき
(てこな)

・授乳室のごとく霞んで みどりいろの円座がならぶ駄菓子屋のすみ

「みどりいろの円座」に
注目したところが良かったです。


・お囃子の音をまとって露店抜けテスクテスクと日常に戻る

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暮夜 宴さんです。

・豆腐屋の親父は昔ばくち打ち水に浮かんだ目のないダイス
(暮夜 宴)

・プラッシー買いに走ればいっせいに米屋の前を飛び立つ雀

・デニーズの夜をまるごと占拠して無傷な戦士みたいに、ふたり


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骸骨マンさんです。

・石屋にて無能の人が石を売るだれも知らない多摩川がある
(骸骨マン)

つげ義春へのオマージュ。
下の句がよかったです。


・丑三つ時に営業している時計屋の歪む時空に駆けこむ人あり

・虫屋にてメガボールへと話すのはナウシカにどこか横顔の似た子


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ももやままこさんです。

・午後八時ネットショップの行列へ人差し指はダッシュしていく
(ももやままこ)

・主亡きモードイトウのシャッターは最後の音を街に響かせ

・向日葵が花屋のドアの向こうからいらっしゃいませと挨拶している


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はせがわゆづさんです。

・イヤホンをわけあう三時のマックにてプチパンケーキにのせた告白
(はせがわゆづ)

・振りむけばミスタードーナツ甘い指輪で愛人になる約束を

・青くないローソンみたいに見たことない笑顔で歩く君をみつけた

・陽だまりにとけこんでいくうたたねは猫カフェにいるしあわせに似て



いつもの淡いゆづさんワールド、よかったです。

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やましろひでゆきさんです。

・駅前のセブンイレブンがある日突然ポプラに変わったような衝撃
(やましろひでゆき)

ふつう逆だと思うのですが、
まぁそこが衝撃なんでしょう。


・あの書店の作家志望の店員が書いたポップの文字ははみだす

細かい文字でいっぱい書いたのでしょう。

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魚虎さんです。

・外されていた赤福の広告が駅中のそこここに戻りぬ 
(魚虎)

三重県にお住まいの魚虎さんならではの歌。


・念トレは買われるときを待ってますヴィレッジヴァンガードの片隅で

片隅ってところが悲しいね。


・仏壇屋めぐりに疲れて一軒の店でネーポン買い求めたり

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104heroさんです。

・マック過ぎ吉牛スタバケンタモスファミマ曲がると祖母のタバコ屋
(104hero)

こういう道案内短歌は、
正岡子規の時代からあって、いまでもよく見かけます。


・「白木屋(しらきや)」か「白木屋(しろきや)」なのかもめにもめ白黒つかず宵は過ぎゆく

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伊藤夏人さんです。

・空手家に割られた瓦を補給する屋根屋は創業元治元年
(伊藤夏人)

>蛇足ですし、間に合わず意味はないですが私もお題考えてみました。
>マニアックなテーマ「神社仏閣」
>普通なテーマ「建物」

おもしろそうですね。検討してみます。

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めぐみさんです。

・駄菓子屋のおばあさんが本当はおばさんだったと気付いた二十歳
(めぐみ)

そういうもんです。


・昭和って歴史のなかのことでしょう駄菓子屋を知らぬ少女がつぶやく

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佐々一竹さんです。

・鳩居堂に漉き師ふらりと立ち入りぬ嫁ぎたる娘を見守るごとく
(佐々一竹)

・人形師 瞳に命籠めにけり節句準備のせわしさのなか

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たみさんです。

・店内が丸見えですがナルシスト御用達ですか?この美容室
(たみ)

・子どもらはマサイのような目の良さでおもちゃ屋のキリン遠くに見つけ

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西野明日香さんです。

・町中の花屋を探したむっつの秋母の「ももの花」みつけられずに
(西野明日香)

・焦点のぼやけた目をしてマスターは怪しいふたりの影に溶け込む

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外神田外堀( ´・ω・)江戸検2級秋葉文人さんです。

・駄菓子屋とエロ古本屋で放課後を過ごす学ラン色の青春
(外神田外堀( ´・ω・)江戸検2級秋葉文人)

・ジャンク屋に人造人間の足とか売られる日まで我生きるべし

ペンネーム長すぎます。

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新井蜜さんです。

・マクドナルドの百円コーヒー値上げして百二十円 じっと手を見る
(新井蜜)

・ジュンク堂書店の椅子で今日もまたひらめきを待ち一日過ごす

・時計屋の壁の多数の時計たち微妙にずれて意地を張ってる

・ふんわりと熱く弾むは井村屋のあんまんときみの白きちちふさ


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イマイさんです。

・空気まで違う気がするローソンは青くて白い未来の先に
(イマイ)

・病院のななめむかいの果物屋ふかい昼間のかなしい匂い

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くまさんです。

・また俺はTSUTAYAでロッキー借りちゃった答えじゃないってわかってるのに
(くまさん)

・ファミマにもちゃんとシャッターあるのにね君の口には何で無いのか

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虫武一俊さんです。

・四ケタの時給に今夜デビューです 若草萌ゆるファミマの制服
(虫武一俊)

・方眼の床に立ちたる散髪屋に「ふつうで、はい」と告げて目を閉づ

・銀色は永久に勝者にならざりてナイフショップに籠りゆく熱


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地球人さんです。

・咳込みし鶏(とり)の望みはケンタッキー コーラの炭酸にて安楽死
(地球人)

・「ほか弁」じゃなく「ほっともっと」の店員は蛍原徹ヘアーのあの娘

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酒井景二朗さんです。

・涼しげなアリスを安く賣る店に行かないことに決めた 門出だ
(酒井景二朗)

・パチンコ屋マルゴのネオンの裏側で血の出るやうなキスをしないか

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かわらさんです。

・血まみれの指を見つめて昨夜(きぞ)あいしネイルサロンの女を思う
(かわら)

・シンナーをやめると言いし恋人と手錠を買いに百均へ行く

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あげはたさんです。

・幼き日通いつめてた駄菓子屋の時の流れは水飴のよう
(あげはた)

・体重計体脂肪計血圧計ポイントカードもただ溜まり行く

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わだたかしさんです。

・吉野家でツユダクたのむ勇気すらないからきっと彼女がいない
(わだたかし)

僕も言えないタイプです。


・簡単に終わらせられる恋だからマクドナルドでサヨナラをした

・笑笑で別れ話をするキミのセンスの無さに笑って泣いた


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小野伊都子さんです。

・六花亭バターサンドの空き箱に九歳の春が閉じこめてある
(小野伊都子)

・一冊の本をふたりでのぞきこむ 絵本カフェにはかすてらのにおい

・お肉屋のコロッケふたりで食べながら夕陽は今日も赤いと笑う


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そう蛸さんです。

・駄菓子屋で花火みつけたときみたい君をみつけた移動教室
(そう蛸)

・レジ前の花火を薄くながめつつBOMBの会計終了を待つ

BOMBは、
『BOMB』にしたほうが良いです。

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やすたけまりさんです。

・ならんでる黒いものより怖かった「かもじや」という看板の文字(やすたけまり)

一度見てみたい。


・バターボール3個10円いつだってガラスのなかでころころねむる
・お店ではない場所が商店街にうまれてそこにだけ陽があたる

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ひいらぎさんです。

・変わりゆく暮らしの中でローソンのからあげくんはいつも優しい
(ひいらぎ)

・休日にハッピーセットと騒ぐ子はマクドナルドという名を知らない

なるほど。


・「ありがとうございました」が「おかえり」に聞こえるリンゴマークのスーパー

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長田絵理子さんです。

・千回の逢瀬を既に重ねれど君のスマイル今日も0円
(長田絵理子)

・眩しくも優しいコンビニ真夜中に眠れぬほどに疲れた日には

・終わらせる方法だけを知らなくて真夜中ひとり佇むコンビニ


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☆魅惑のチキルーム☆


・ほしかった「しむら金物店」にあるデカイたらいが今はもうない
(帯一 鐘信)


・父さんの子供時代の写真には今も変わらぬ駄菓子屋の婆
(はづき生)


・コンビニの蛍光灯に照らされて帰れない子がチキン貪る
(天井桃)


・借りてきたアクション映画さながらの「TUTAYA」前での大捕物あり
(ユーリーボ)


・おいしいのは待ってる時間クリスピークリームドーナツ君と立ち食い
(山口ヤスヨ)


・ラーメン屋戦争というこの町のだれも入っていない一軒
(奈楽)


・目に見えぬ壁に阻まれ入れずに 丸善前の1人の書生 
(猫)


・百均ですべて揃えた新婚は別れる時は粗大ゴミ無し
(おはぎ)


・延長に備えた肩が冷えていく ありがと「ホテル甲子園・夏」
(柚木 良)


・言ったもん勝ちだねきっと世の中は「俺の巴里」ってサ店もあるし
(文月育葉)


・「ちゃちゃ姫」の順番待ちで高校の恩師と出会いベクトル習う
(小田何歩)


・うらぶれた商店街の彫金師アタシと同じ指輪をしてた 
(ダンデライオン)


・押しつぶすど根性おれにはなくてアニメイトで買う平面少女
(カー・イーブン)


・崖の上で金魚屋はじめたる父の笑みに宿りし確かな予感
(やすぼう)


・その夏をリセットせねばと母は立ち全力疾走海の家へと
(じゃっどん)


・かそのむらのなみだのように電気屋のパナソニックは青くかがやく
(富田林薫)


・突然に右折したがる背後霊ハンドル切ればオートバックス
(ウクレレ)


・ファミレスで頷きながらストローの空き袋をただ弄んでた
(都季)


・早朝のマクドナルドで向かい合い昨夜のことを言えないふたり
(イツキ)


・メガネドラッグでメガネしてない店員を見かけた朝にうちあけるから
(みうらしんじ)


・ばかでかい笑った豚の看板が見えたらそこです、ブッチャータケウチ
(滝沢勇一)


・インパラのような少女をライオンが見守っている三越の前
(岡本雅哉)


・吉野家の李さんセブンイレブンの王さん午前四時に笑顔で
(ヤマダワタル)


・店内にテレビを置いて一儲けしたクラウンのママの13回忌
(憂太郎)


・クリスマスケンタッキーの行列に迷わず並ぶ(ため息をつく)
(嶋田電気)


・ラーメン屋そば屋肉屋の息子達 思えばみんな太っていたな
(植竹)


・どこまでも厭味なひとねMIKIMOTOの前で待たせて あの日みたいに
(穂ノ木芽央)


・横丁の駄菓子屋のみよちゃんはいま横丁の「みよちゃん」で酌する
(酒井あんな)


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☆殿堂入り投稿者コーナー☆


あきえもんさんです。

・ショーウィンドー越しに必ず睨まれるトータルビューティファッションつかさ
(あきえもん)

・小浜市のゲームショップに颯爽とYES,Wii CANの幟はためく

「we」を「wii」に変えたという。


・式場の奥には斎場がそびえる後戻りなき道に戸惑う

・「おまかせ」とトサカ男に囁けばシンと静まるみゆき美容室

・因幡屋の婆さんが死んだ チッとしか言わない爺さん一人残して


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鶴太屋さんです。

・喫茶店の卓に彫られしハングルのあはきを見てゐつ愛憐の語か
(鶴太屋)

・青き霙しんしんと降る夜の深さ喫茶ほんやら洞をつつめり

・冬籠り凍星酒盃に浮かべれば憶ふもつきり屋の少女を淡く


つげ義春の名作『もっきり屋の少女』オマージュ。


・流れ降りしき降る雪のほの明かり鰻屋うな八越(こし)の冬なり

・場末なる哈爾濱食堂こきこきと支那竹噛めば夕焼けにけり

・秋元屋にやきとん食らふ淋しさは橋の墜ちゆく冬夜の深み

・豆腐屋の柩に水漬(みづ)く豆腐なれば血の釘一本孕みてゐたり


冬の店屋を抒情的に描いています。
思わず引き込まれます。

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異能兄弟さんです。

・産道のごとき通路の先にある個室ビデオのしずかな光
(異能兄弟)

・悲しみで汚れた心も当店へ、しみ抜き名人稲積収蔵

・宇宙母船(マザーシップ)のごとき大型ショッピングモールいつしか飛び去りゆかん


その感じ、わかります。


・時計屋に電波時計の溜め息は満ちて師走の街おも苦し 

・おもちゃ屋の超合金の「超」の字が異様にまぶしかった昭和よ

・ほやほやのキノコ雲みたいなシェフ・ハットのせて「洋食 梵(BOMB)」の二代目

・大きなる鼻の穴にはミツバチの巣があるという花屋の女

・ミッキーとミニーが御影石となり駅ビル地下の墓石屋に笑む

・< 店じまいセール > 9年続けたる靴屋ほんまに閉店したり


「ほんまに」が効いてる


・クリスマス・イルミネーション灯るころ般若心経ながす仏具屋


おもしろかったです。
異能さんは歌に関西弁をどんどん取り入れたら良いかもしれません。

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かんなさんです。

・もう君は待っていないと知っている吉田書房をまた覗き込む
(かんな)

・「どうしても欲しい物」などない事をドンキホーテへ確かめに行く

・あの人を射止めたいのと小間物屋「秀」で少女は簪を買う


「必殺仕事人」をかけてます。


・KIOSKで一緒に買った溶けかけのポッキー君はどこにいますか

・一月の果物店に溢れだす春の香りをひとつください

・メールさえ返してこない人を待つオープンカフェに北風が吹く

・もう誰も立ち止まらないマハラジャのネオンがかつて輝いた場所

・ハイヒール脱いで夜明けのファミレスの濃くなりすぎたコーヒーを飲む


「濃くなりすぎた」は、
「煮詰まりすぎた」にしたほうが良さそうです。


・横丁の風呂屋を探しに父は行く四十年の時遡り

・小料理屋「さだ」にあかりが灯る夜男が一人町から消える

・廃業の薬局の床に正露丸数珠玉のごと転がってゆく

・極寒のネイルサロンを包み込むダイアモンドダストのま白き光

・午前五時メイド喫茶の壁際に充電中の少女が並ぶ



なかなかよかったですが、
もうちょっとかんなさんならではの世界がほしいところです。

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お疲れ様でした!

年内に区切りをつけておきたいので、今日か明日中に「優秀作品」を発表いたします!

お楽しみに!!

よろしく哀愁☆
posted by www.sasatanka.com at 21:22| Comment(10) | TrackBack(0) | 総評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする