作・酒井景二朗
狼を追ふな資本を疑へとがなり續ける巨大テルミン
忸怩たるものを抱へて景品の白いギターを捨てる旅に出る
プリペアド・ピアノの中で死んでゐる小學五年生を救ひ出せ
轆轤首(ろくろくび)映る障子を開け放てば篳篥(ひちりき)千切る一陣の風
愛のこと何も受け付けない君はただ横たはるシタールだつた
大人ならやるべきことがあるだらう早く歸れとカリヨンが鳴る
ナナハンを樂器と言ひ張る男達なんか夕日に燒かれてしまへ
遠い日のでんでん太鼓聞くやうに眠れば去るか今日の不遇も
抱き難いぜ シンクラヴィアに成る爲の手術を受けた後のお前は
土星人でしたか夕べ訪れてオンド=マルトノ彈いたあなたは
銀色の古いSF服を着てミブリ操る人の若白髮
熱い海に沈沒していくメロトロン ダリの最後の叫びを鳴らし
ギュロを彈く要領だよと燒きそばをかき囘す手に惚れてしまふな
もう一行書かない譯にゐられない奴のチューバの風を受けたら
蓮の花開く三味の音 この町で僕は退化を始めるでせう
タイトルと選・笹公人
お題「楽器」