作・鶴太屋
電話ボックス暮春の街に立ちたるを開けば異土への扉めき冷ゆ
大霊界の赤電話一基飛びたるを夏の憶ひ出のよすがとすらむ
逝ける友への電話 ふるへる受話器から洩るる『中国の不思議な役人』
電話線蔓草のごと繁れるを視てこの夢の果て踵(くびす)かへさむ
電話機に残るささやかな通話録永遠(とは)の一部とし珈琲飲めり
薔薇色の電話機夢に溶けてゆくわが日日を恥ぢアイロンかける
電話線かじるねずみの脳点(とも)る紫の夜明けにつつまれぼくら
ラムネ飲めば身ぬちを透かす夏が来る昔は携帯電話を運んだ
晩夏光カットグラスに響きあふこの室内楽も電話がやぶる
恋人たちの街角の電話鎮座して『冬の散歩道』聴きゐし70's
タイトルと選・笹公人
お題「電話」