作・鶴太屋
デンドロビウム花咲くとみて蟾蜍(ひき)啼けり一陣の風身籠りゐしか
青葉寒 熊の眉間に一撃の銃(つつ)透きとほり水無月の水
さくらばな一花(いちげ)氷れる夢の外溝(どぶ)に映るはネオンの街か
一つ餅火鉢にふくれつつありぬわが窓透かせば濁世の灯(ほ)明り
絶望の火の一滴(ひとしづく)胸に咲き来歴問へば砂はく蜆(しじみ)
詩としての抒情装置は肯(うべな)へど水鶏(くひな)一羽も白く飛ばざる
メタセコイアの一樹陽(ひ)の色真夏日に汗にじむ地(つち)白線ぐいと
くろがねのにほひ流れて一閃の冬雷されば霙(みぞ)れてゐたり
第一志望「血みどろ臓物ハイスクール」の少女吐瀉して時じくの胃痛
海阪(うなさか)に一つ火の玉拝(をろが)みて濁世の穢れ美しく過ぐる
碧落を支へし一日(ひとひ)の無聊なり湯舟の檸檬足もて沈め
幽霊桜のこぬれに招く手が一つ蛇目傘(じやのめ)ぞ差せば黙して通る
一番星枯木にかかるたそがれのあはれほろ酔ひ肝(かん)透きとほる
桐一葉秋に揺れゐる望郷のこころ惨たり眼(め)に降るわくら葉
どの男も一人オートバイ疾駆せり揮発油かをれるアデン・アラビア
冬の果(み)の林檎にナイフ喰ひこませ一人(いちにん)の愛滅び去る見し
野兎の血を垂らしつつ樟の樹の一眼(いちがん)薄(うす)う感じつつある
栗鼠の血の麺麭(パン)に散るとき運河ゆく船一艘のなまぐさき火事
『ロリータ』に一輪の押し花 傘をもて花を薙げども密林の孤独
鯨カツの一切れ口に運びつつ思(も)ふ海のシェパードこそ狂犬か
タイトルと選・笹 公人
お題:「一(1)」