作・鶴太屋
露の玉しとどなりけり流し雛暁(あけ)の空ゆけ悲の紺を薙ぎ
冬の浜辺に打ち上げられしキューピーを幻覚しをり位牌を担ぎ
はに丸ののたれ死にをる花野にて白ききのこを踏み躙りゐる
脣(くち)紅きからくり人形茶を運ぶ閑日の机(き)に黄昏の相
おきあがりこぼし倒れて返らぬまま泉水の亀が火を喰ひ散らす
藁人形火に焼(く)べ身命保ちたり二月の寒燈わが貌(かほ)映し
首もげしバービー悼みドーナツ食ふ睫毛きらりと蒼穹を刷(は)き
ぬひぐるみのお腹ほつれてふはふはと六腑真綿の陀羅尼をなぞる
九字切ればペコちやん人形あらはれりわが遠天(をんてん)の祈り揺るがせ
くれなゐの血と肉持てるわれなるかマネキン銃弾撃ちこまれ冬
マネキンに銃痕三つ虚空(そら)が視えぼくがみえちちははがゐる
マネキンの罅割れに舌挿し入れて夜毎堕ちゆくわが海のあり
マネキンに体温ほのと移るとき抱きしめてゐる乳房重たく
手にとりてずつしり重き銃弾と何も見てゐぬマネキンの眸(まみ)
膨らみゆくヒヤシンスの球痛ましく春愁ひのマネキンに備はざる
マネキンの両腕縛る春宵は自涜の花粉に渇きゐしわれ
廃ビルの庫(くら)にぎつしり詰まりゐるマネキンどれもどこかが欠けて
首筋に淡き愁ひの蜘蛛の子とぼくが見てゐる水着のマネキン
マネキンの朱き唇夢に顕ち褪せゆくままに冬ざれのデパート
タイトルと選・笹 公人
お題:「人形・ぬいぐるみ」