作・鶴太屋
射殺され逆毛(さかげ)の人食ひ猫の尾も今は路傍に揺るる水仙
黒き笑ひのデヴィル・ウォンバット聴きし者耳を残して失踪したり
毛の生えしテレビが増殖する夢を覚めて憶へば髭ばかり伸びる
銛撃たれモビー・ディックが跳ねるとき海は血潮の聖杯となる
満身創痍のモビー・ディックはやすらへり潮噴きあげればアメリカが見える
夢を喰ふ獏(ばく)子飼ひして三十年ひともとの帆柱(マスト)睡りに残る
黒き獏わが血脈に棲むゆゑに空翔ぶものをなべて憎めり
夢喰はれ眠りは黒き山河となる花散る闇で吾(あ)に憑きし獏よ
みどりの夜春の卵が落ちてゐる路地に尿(しと)せり恋のウナギイヌ
小春日和の空き地に眠るウナギイヌ秋桜(コスモス)のひかり一身に浴び
ウナギイヌに雪玉ぶつけし子供らの雪夜は黒き鰻に巻かる
ツチノコの噂に賑ふ子供らの背なには黄金(きん)の夕陽が響き
みちのくのツチノコ酒飲めば甦る祖母に食はされしイモリの黒焼き
風の他界の矢口薬種店バチヘビの泡盛漬のつぶらな眼(め)せり
ラムネ飲みて河童天国想ひをり紫雲たなびく晩ともなれば
河童の木乃伊焼きし夜より人間の水掻き有(も)たぬことを怖れり
桃源郷に遊ぶ河童の幻影を霞む瞳(め)で視(み)し胡瓜をかじり
河童は頭(づ)の皿罅割れて死にたりと蠅の複眼の千の海干る
タイトルと選・笹公人
お題「UMA(未確認生物)」