作・鶴太屋
金太郎のまさかり暗く冷えゐるに母恋ひのうたは繊(ほそ)く聞こえ来(く)
睡りの底の浦島 罌粟(けし)の咲くごとく竜宮城は四季薫りゐし
熱き栗爆(は)ぜる刻(とき)いつさるかにの合戦閉ぢて北をし思ふ
あらぬ世の花さか爺(ぢぢ)のさくらばなひかりに濡れて汝(な)が胸を流る
夏陽(なつび)の少年頬紅潮したとふれば滾つ瀬い征く一寸法師
『かさこ地蔵』
雪に雪地蔵の凛たる賜物(たまもの)を憶(おも)へば目深に帽かぶり去る
『かちかち山』
仔兎の籠見つめをり隠(こも)り沼(ぬ)の狸をさらに殴(う)ちし春雪
『こぶとりぢいさん』
こぶ取られ頬を裹(つつ)める春風の霊気に満つる嶽(やま)を呼吸す
『鶴の恩返し』
しまし丹頂憩ふ水の上(へ)機(はた)を織る曾祖母の写真褪せて黄葉(もみぢば)
『おむすびころりん』
おむすびを臼搗(づ)く白き鼠たち根の国の秋を饒(ゆた)かに踊る
『わらしべ長者』
藁の代はりにギターを抱(かか)へ放浪のつまづけば気儘な愛欲(ほつ)し
『分福茶釜』
茶釜に尾の生えしを思(も)えば苦き笑み新茶の馥(かを)りの綱渡り少女
『舌切り雀』
日向ぼこ黄金(くがね)のごとき麦秋に雀と爺(ぢぢ)の侘びしきなからひ
〜『舌切り雀』へ捧ぐ〜
こころ羞(やさ)しくスズメ焼きをり頭より齧れば涙の舌滂沱たれ
タイトルと選・笹公人
お題「日本昔ばなし」