作・鶴太屋
白き露地を猫の貌して来につれば秋刀魚焼くる香冴ゆる良夜ぞ
漆黒の地球凍れる大寒のお達者くらぶベーゴマ大会
友無き日かなしみ憩ふ緑風荘うらに仔犬を抱きて滂沱たり
磊落をよそほふ同僚(トモ)の白き影銹(さ)びしヤカンが秋の陽の中
師の淡き影踏みつければ不意に昏れ俺は黄桜の酒に華やぐ
小麦いろの肌のマブしき十五歳菜穂子はイルカの海を身に有(も)つ
睦ハウス庭の白梅夕風に薫りて寒の熱の身体(み)恋ほし
熱燗のうつしみ過ぐる軒先に黒猫眠れり昔のごとかり
青き眼の仁王老いたり門前に焼き芋屋来たりショーバイはじむ
夏の火焔樹截り倒さずんば紺碧の仁王の尿(ゆま)る音が聴きたし
嗄れがれのこゑほんのりと紅(こう)ふくみ夏の座敷に鮎を食(た)うぶる
燗酒の咽喉(のど)灼くうつつ酒舗のうち黒猫眠るは昔のごとし
酔ひはてていよよ一縷の正気冴え狂気とまがふナイフしろがね
昼酒の胃の腑涼しききさらぎの郵便ポスト赤く佇ちゐる
棚に犇く書(ふみ)の黴くさきを愛し『青猫』もとめる寒の古書市
ここ過ぎれば京(みやこ)廃れて霊媒師の姉の居館にくれなゐの蔦
鉄屑の峨峨たる砦は蠅の王ひねもす睡る緋の襤褸(ぼろ)につつまれ
ほだ木には露の椎茸太りをり蒼き月光浴び一途なれ
朱欒(ざぼん)色の黄昏われを打ちのめし泣かせてくれる寒蝉のこゑ
弟切草のはなびら淡き黄をふくみ胃の腑の唏(な)けるひもじさにあり
風さわぐ烏滸(をこ)なる夏ぞ掏摸(スリ)の政余罪追及みどりの夜に
鬱金の半纏風にはためきゐたりけり世界尽まで咲きつづける薔薇
寵児得て一瞬玻璃に父の影 墓域にひろがる夕霞あかね
寒すずめ朝(あした)転(まろ)べりしろたへに身は浄まりて銀色の霜
タイトルと選・笹 公人
お題:「色」