2007年04月20日

鶴太屋劇場 第9回

しろたへに浄めて

作・鶴太屋


白き露地を猫の貌して来につれば秋刀魚焼くる香冴ゆる良夜ぞ 

漆黒の地球凍れる大寒のお達者くらぶベーゴマ大会

友無き日かなしみ憩ふ緑風荘うらに仔犬を抱きて滂沱たり

磊落をよそほふ同僚(トモ)の白き影銹(さ)びしヤカンが秋の陽の中

師の淡き影踏みつければ不意に昏れ俺は黄桜の酒に華やぐ

小麦いろの肌のマブしき十五歳菜穂子はイルカの海を身に有(も)つ

睦ハウス庭の白梅夕風に薫りて寒の熱の身体(み)恋ほし

熱燗のうつしみ過ぐる軒先に黒猫眠れり昔のごとかり

青き眼の仁王老いたり門前に焼き芋屋来たりショーバイはじむ

夏の火焔樹截り倒さずんば紺碧の仁王の尿(ゆま)る音が聴きたし
 
嗄れがれのこゑほんのりと紅(こう)ふくみ夏の座敷に鮎を食(た)うぶる

燗酒の咽喉(のど)灼くうつつ酒舗のうち黒猫眠るは昔のごとし

酔ひはてていよよ一縷の正気冴え狂気とまがふナイフしろがね

昼酒の胃の腑涼しききさらぎの郵便ポスト赤く佇ちゐる

棚に犇く書(ふみ)の黴くさきを愛し『青猫』もとめる寒の古書市

ここ過ぎれば京(みやこ)廃れて霊媒師の姉の居館にくれなゐの蔦

鉄屑の峨峨たる砦は蠅の王ひねもす睡る緋の襤褸(ぼろ)につつまれ

ほだ木には露の椎茸太りをり蒼き月光浴び一途なれ

朱欒(ざぼん)色の黄昏われを打ちのめし泣かせてくれる寒蝉のこゑ

弟切草のはなびら淡き黄をふくみ胃の腑の唏(な)けるひもじさにあり

風さわぐ烏滸(をこ)なる夏ぞ掏摸(スリ)の政余罪追及みどりの夜に

鬱金の半纏風にはためきゐたりけり世界尽まで咲きつづける薔薇

寵児得て一瞬玻璃に父の影 墓域にひろがる夕霞あかね

寒すずめ朝(あした)転(まろ)べりしろたへに身は浄まりて銀色の霜



タイトルと選・笹 公人

お題:「色」
posted by www.sasatanka.com at 13:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 鶴太屋劇場 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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