作・かんな
もう君は待っていないと知っている吉田書房をまた覗き込む
「どうしても欲しい物」などない事をドンキホーテへ確かめに行く
あの人を射止めたいのと小間物屋「秀」で少女は簪を買う
KIOSKで一緒に買った溶けかけのポッキー君はどこにいますか
一月の果物店に溢れだす春の香りをひとつください
メールさえ返してこない人を待つオープンカフェに北風が吹く
もう誰も立ち止まらないマハラジャのネオンがかつて輝いた場所
ハイヒール脱いで夜明けのファミレスの濃くなりすぎたコーヒーを飲む
横丁の風呂屋を探しに父は行く四十年の時遡り
小料理屋「さだ」にあかりが灯る夜男が一人町から消える
廃業の薬局の床に正露丸数珠玉のごと転がってゆく
極寒のネイルサロンを包み込むダイアモンドダストのま白き光
午前五時メイド喫茶の壁際に充電中の少女が並ぶ
タイトルと選・笹公人
お題「店屋・店名」