作・酒井景二朗
毛だらけの蛾の羽ばたきを思はせる音を響かせ去りゆく單車
しどけなくつぶれた蝉をまたいだら向かひの屋根に秋が來てゐる
太陽に傷つけられた子の夢は尺取蟲で測れるぐらゐ
薔薇十字會の跡地といふ場所に光る蛹がいくつもいくつも
透明な巨大水黽(あめんぼ)あらはれて消えたロプ・ノール湖の水面に
斑猫(はんめう)をさしむけられたあの日から毛拔き迄もが怖くてならない
ラフレシアに噛みつく蟲の數々を集めて作る 囘春藥を
てつぺんにミンミンゼミをとまらせてヤケにはりきるトーテムポール
國道をまたぐ竹節蟲(ななふし)から落ちる少女(をとめ)の涙、裂けた携帶
軒先に蜂の巣下がる家見れば何か家ごと泣いてゐるやうだ
タイトルと選・笹公人
お題「虫」