2009年01月26日

笹井宏之さん

笹井宏之さんが亡くなりました。
1月24日、インフルエンザを拗らせて、26歳という若さで……。

J-WAVE「笹公人の短歌Blog」そして「笹短歌ドットコム」の常連投稿者であり、
短歌結社「未来」の後輩でもあった笹井くんは、
自分にとって可愛い弟のような存在でした。
信じられない。
ただただ途方に暮れています……。

彼の天才的なポエジーは昨年歌壇の話題をさらい、
今後の活躍がもっとも期待される若手歌人でした。
まぎれもない短歌界の新しいスターでした。

もっぱら葉書やメールでのやりとりでしたが、
その謙虚でピュアで繊細な人柄を好ましく思っていました。

後輩でありながら、先輩の自分をいろいろフォローしてくれたり、本当にやさしい人でした。

アマゾンの『笹公人の念力短歌トレーニング』のページの一番上のレビューは、
犀名義で笹井くんが書いてくれたものです。
これも僕や投稿者のみなさんへの
笹井くんからの大きなプレゼントとなりました。
宝物にしたいと思います。

笹井くんのご冥福を心からお祈りいたします。

こんなに素晴らしい短歌をつくるひとがいたということを、
みなさん忘れないでください。

____________________


・それは世界中のデッキチェアがたたまれてしまうほどのあかるさでした

・あやとりの東京タワーてっぺんをくちびるたちが離しはじめる

・集めてはしかたないねとつぶやいて燃やす林間学校だより

・ゆっくりと国旗を脱いだあなたからほどよい夏の香りがします

・表面に〈さとなか歯科〉と刻まれて水星軌道を漂うやかん

・ここは銀河系のわらじ さむがりやの馬鹿者どもがすあしをつつむ

・太平洋戦争を生き抜いてきたサンタクロースたちの腹筋

・「スライスチーズ、スライスチーズになる前の話をぼくにきかせておくれ」

・天井と私のあいだを一本の各駅停車が往復する夜

・横たわるワイングラスにあんこうの頭がひかる古いお話

・水田を歩む クリアファイルから散った真冬の譜面を追って


       『ひとさらい』笹井宏之歌集(BookPark)より

___________________


・1999年ちょーピンチだったと語るNASAのガングロ 

・目のところ3になってる藤子キャラ あれは大概ピンチの時だ

・安らかにお眠り下さい きんさんとぎんさんにメダルなんか要らない

・鉞(まさかり)にくちびるつけて金太郎 愛する人ができたんだ、と


「仮面ライダー」
・そのうちにたった一人を守りたくなる日が来るよ お面ライダー 

「月光仮面」
・もう何処の誰だかちゃんと分かってる月光仮面の墓にマントを 

「エイトマン」
「近頃の新幹線には勝てない」と漏らす焼き鳥屋のエイトマン

「食パンマン」
・西日差す食パンマンの背後へとバターひと箱持って近づく 


「つのだ☆ひろ」
・つのだ☆ひろ そのまんなかの星にある国ではメリー・ジェーンが国歌 

・じゃんかじゃんか踊りをおどる案山子には稲穂がちゃんと失笑します 

・おばさんが雪を何度も確かめる しばし盲導犬をわすれて

・配線の切れた黒電話を耳に歌う Imagine all the people... 

・母の手に陶片ひとつ握らせて去ってゆくレインコートの男 

・うごきだす新幹線の車窓には白い帽子でうつむく彼女 

・カーテンをあければ体育館中の蛍の光ひっそり消える

・アルバムに折り畳まれた校庭が砂をこぼしている文机


          J-WAVE「笹公人の短歌Blog」より抜粋

___________________


・真っ白になりたいときはiPod miniへ転送した風を聴く 

・ミュージックステーションへとゆくはずの特急を待つギター少年


・いのちあるものに等しくおとずれる白い砂嵐の時間帯

・父の手をはなれたテレビリモコンが朝、床に身を横たえている

・廃品になってはじめて本当の空を映せるのだね、テレビは

・チャンネルをあなたの部屋にあわせてもカーテンが波打っているだけ


・液晶を泳ぐイルカのきょうだいを親指のうごきでねむらせる

・鰯雲のうろこのなかへ釣り針のように突っ込んでゆく旅客機

・消えてゆく尊いもののひとつとして金魚掬いのときのおじさん

・未来への問いはゆるゆる吸い込まれシーラカンスの水槽の中

・化石にはならないでしょう 庭土に尾ひれのようなふたばがひらき

・やどかりは潮騒を聴くためだけに貝殻を背負っているらしい


「ドラゴンボール」
・あめかぜにうたれなぶられひきつづき出番を待っている筋斗雲

「妖怪人間ベム」
・人間になれますように 廃駅のいたるところで雨、ひかりだす


・道場にあやめのような人がきてしばし花瓶となる師範代


 「耐震強度偽装問題(建築士)」
・野ねずみの巣立ちのように拘置所を出てゆく姉歯さん まるぼうず

 「90年代北朝鮮大飢饉」
・かろうじてその生きものは人でした 火にも水にもなれないままの

 「黒船来航」
・そいそーすふれいばあ 四月の浦賀 風邪っぴきのマイケル二等兵

 「終戦」
・ぶらんこにひとつふたつと乗せられるつめたいあぶらぜみの肉体


  「平原綾香(Jupiter)」
・歌声のひらはらとふる冬の夜に私はすこし木星でした 

  「中島美嘉(雪の華)」
・簡潔な情事ののちをうっすらとカーテン越しにふる雪の華

  「一青窈(もらい泣き)」
・もらい泣きしてくれそうなひととみる映画の海がやたらきれいだ

  「Sarah Brightman」
・そしてサラ・ブライトマンの声帯をふるわせている黄昏の風


・目の奥に黄砂のけぶる土地があり雨を、君の雨を待っている 

・水面を緋鯉おおきくひるがえり別れ話は白紙になった

           
   「笹短歌ドットコム」より抜粋

___________________


・マンボウのようにヨーロッパの人が長椅子を立ち上がって消えた 

・ひとしれず海の底へと落とされた大王烏賊のなみだを思う


・酒屋からファミリーマートへ変わっても日暮れの窓は果実酒の色

・雨になるゆめをみていた シャンパンを冷蔵庫深くにねむらせて


・さすらいの蜂蜜売りは知っている 馬場さんが欅だったことを


「ガンダム」
・雪の降るみなもに全砲身を向けしずかに錆びてゆくガンタンク

「ONE PIECE」
・ゆくあてのない旅をする人々へ麦藁帽のキーホルダーを

「スラムダンク」
・しあわせのかたちは春の日溜まりの安西先生ではないかしら
  

 『笹公人の念力短歌トレーニング』(扶桑社)より抜粋


posted by www.sasatanka.com at 09:16| Comment(10) | TrackBack(0) | お知らせ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
今日は泣けてしまって仕事になりません。<br />
ダメ派遣社員。<br />
師範の記事を読んでいっそうダメです。<br />
彼と同時期に投稿時代を過ごせたこと、<br />
彼の作品に触れられたことを<br />
私は誇りに思います。<br />
決して忘れません。
Posted by 沼尻つた子 at 2009年01月26日 10:27
昨日、私も訃報を知りました。<br />
心に響く歌をもっともっと読みたかったです。<br />
人柄が短歌に反映されるのだということを私は彼に教わりました。<br />
<br />
心よりご冥福をお祈りいたします。
Posted by 西野明日香 at 2009年01月26日 14:00
僕は笹井さんのことを今日初めて存知あげました。<br />
ですが、掲載されている短歌を読んでいくと、<br />
柔らかい雰囲気に、なんだか心惹かれる思いがします。<br />
歌集の「ひとさらい」読んでみたいです。
Posted by 地球人 at 2009年01月26日 18:52
アマゾンのレビューが笹井さんの書かれたものだったとは存じませんでした。とても簡潔で分かり易い文章ですね。<br />
笹井さんとは直接お話しする機会もなく、自分と投稿時期が重なっていたのもほんの僅かでしたが、活躍されるのをみるのが楽しみだったけに、ただただ残念でなりません。
Posted by 魚虎 at 2009年01月26日 19:42
実は私、笹師範の歌や本やこちらのブログと出会う前に笹井さんの歌と出会っていまして……<br />
その言葉のやわらかさと世界観の不思議さにとりつかれて、完全にファンになってしまいました。<br />
師範の「念力短歌トレーニング」と書店で幸運にも巡り会ったときも、「おお、ここにも笹井さんがいる!」という興奮から引き込まれて、そのままレジへ持ってった次第でしたし。<br />
<br />
いまだって、歌人で一番注目している人でしたし、これからまたどういう笹井短歌を見ることができるのかと期待感でいっぱいだったんですが……<br />
悔しいです。
Posted by 虫武一俊 at 2009年01月26日 21:17
本當に早すぎますよね。<br />
いつか屹度傳説になることを願ひます。<br />
心よりご冥福をお祈りいたします。
Posted by 酒井景二朗 at 2009年01月27日 00:52
どうにも信じられなくて、絵空事のようで、ただただ途方に暮れていたのが、この記事を読んでようやく泣きました・・・ありがとうございました。<br />
心より心よりご冥福をお祈り致します。
Posted by 中野玉子 at 2009年01月27日 01:48
私も、笹井さんの歌や言葉がとても好きでした。<br />
ネット投稿という形ではありましたが<br />
すこしでもご一緒できたことを、誇りに思います。<br />
<br />
早すぎる訃報に、本当に残念でなりません。<br />
心からご冥福をお祈り致します。
Posted by 小野伊都子 at 2009年01月27日 11:45
笹井宏之の死を信じていないと言えば不謹慎だろうか?実際、信じられないのだ。昨日の仕事の合間、ぼくは笹井宏之のことをしばしば考えた。思考がいつの間にかそこに導かれてしまうのだ。帰ってきて、『ひとさらい』に手を伸ばし何度目かの通読をした。一見ルースにみえる言葉の配置が、実は緊密に連繋し、稀有の詩的結晶を形づくっていたことは「笹短歌ドットコム」の投稿者すべてを凌駕していた。ぼくは嫉妬しつつも、感歎し、瞠目させられることが幾度もあった。笹井宏之は死んでいない。ぼくの本棚には、明石海人全歌集と安藤美保の遺歌集の間に『ひとさらい』が燦然たる輝きを放っているのだから。
Posted by 鶴太屋 at 2009年01月27日 22:34
みなさまコメントありがとうございます。<br />
<br />
みなさんの想い、テレパシーで笹井くんに伝わっていると思います。<br />
3月に「偲ぶ会」が行われるので、詳細がわかり次第お伝えいたします。
Posted by 笹師範 at 2009年01月28日 11:18
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