昨日の夜、凄くひさしぶりにC-C-Bの関口誠人さんと飲みました。
関口さんは10キロに及ぶダイエットが成功していて、前回お会いした時とは別人のようでした。
今年のC-C-B復活の舞台裏話などで盛り上がり、楽しいひとときを過ごさせていただきました。
映画「その日のまえに」の話になったとき、
大林映画に出演したという話をしましたら、
「僕も好きですよ! 「同級生」も「みちのく三部作」も観ました!」
と言われました。
「同級生」!?
「みちのく三部作」!?
……それ絶対観たい!!!
学生服を着た山本譲二が石段を転がり落ちる映像が浮かんだけど……。
ちなみに「転校生」と「尾道三部作」の間違いです。念のため。
間違いといえば、
『路上』という短歌誌で僕のエッセイの校正ゲラが届いていたのだけど、
松島トモ子の「ミネラル麦茶」が、
「ミラクル麦者」
と誤植されていて、
「ミラクル麦者」
ミラクル → ライオンに首を噛まれても生きている
麦者 → 麦茶のCM出演を生業にしている者
ということで、あながち間違いでもないかも……と思ったり……
深読みしすぎだろ!
ということで、斉藤真伸さんの「秀歌鑑賞」の原稿が届きました。
今回は僕の憧れの歌人でもある「栗キョン」こと栗木京子さんの歌です。お楽しみください!
よろしく哀愁☆
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「スネ夫を殺して、ぼくも死ぬ!」
斉藤真伸です。
いまから四半世紀ほど前、某長期連載作品で知られる某有名漫画家が、「日本で銃器の保持がおおっぴらに認められるようになったらどうなるか」というテーマで読切を発表したことがあります。
もちろん、ささいなことから他人を射殺する事件が頻発して治安は急激に悪化。判定をめぐって後楽園球場(当時)で巨人ファンと阪神ファンが大銃撃戦をやらかしたりします。困った政府は、「誰でも殺していい日」を制定し、国民の攻撃エネルギーを発散させることに…と、かなりブラックな内容です。出来は良かったんですが、その後、この作者の短編集などには一切収録されていません。
それはさておき、こんな一首があります。
・普段着で人を殺すなバスジャックせし少年のひらひらのシャツ
作者は栗木京子さん。「観覧車回れよ回れ思ひ出は君には一日(ひとよ)我には一生(ひとよ)」という一首が広く世に知られている歌人です。「観覧車〜」の歌だけ取り出すと、「激しい相聞歌の人」といった感じですが、実は社会詠・時事詠の分野でも多くの優れた歌を発表しています。
掲出歌は第五歌集『夏のうしろ』に収録されており、「そして平成十二年、十七歳の少年が…」という詞書(ことばがき)が付けられております。平成十二(二〇〇〇)年五月三日に、九州で高速バスが、刃物をもった十七歳の少年に乗っ取られた事件です。
事件の詳細は、「西鉄バスジャック事件」でググるといろいろ出てきますので、そちらをごらんください。結局犯人は逮捕されるんですが、六十代の女性が刺されて死亡しています。十七歳の少年によるあまりに無謀・無軌道な犯行に、世間は呆れると同時に恐怖しました。
掲出歌ですが、「ひらひらのシャツ」という把握が実に怖い。この一点を捕らえることによって、犯人の内面とその行為の空虚さが見事に浮かびあがってきます。それと初句の「普段着で」に注目。格助詞の「で」って、短歌ではあまり好かれない語なんですが、この歌の場合は「で」のごつごつした、あらあらしい感じが、実によく似合っています。
この一首、よく読むとある疑問が浮かんできませんか? じゃあ、「普段着」でなければ人を殺していいのか? ってね。実はこの歌、別の歌とセットになっているんです。
・主義のため人殺したる少年は学生服着てゐたりき哀し
「普段着〜」のまえに置かれた一首です。「昭和三十五年、社会党委員長浅沼稲次郎氏は十七歳の少年に刺殺される」という詞書のとおり、「浅沼委員長刺殺事件」に取材した歌です。こちらも詳細は申しませんが、戦後日本の政治家暗殺事件としてはもっとも有名なものです。
ごらんの通り、「学生服」と「普段着」はみごとな対比となっております。「学生服」の少年は政治信条から「世のため人のため(もちろん独善的で、他人からみたら到底納得しがたいものですが)」政治家を殺した少年、一方、他人には理解できない身勝手な理由から丸腰の女性を殺した「普段着」の少年…。この二人の「十七歳」の違いは何なのか、また、共通するものはなんなのか。作者の思索はそのへんを彷徨します。
・コイン投げて手の甲にうく思春期の自傷と多傷は同じと言へど
この二首の次に置かれた歌です。結局、この二人は、「他人」を殺すことによって「自分」を滅ぼしてしまったのではないか。そういう思いに作者は至ります。「普段着」の少年がどうなったかは知りませんが、「学生服」の少年は獄中で自殺したそうです。
もちろん、いかなる理由があろうとも、この二人の少年がやったことは「人殺し」です。人間社会ではもっとも忌避される行為です。そして犯人側の事情など、殺された人間やその遺族にとってはなんの慰めにもならない、という厳然たる事実があります。
・被害者の葬りに集ひ来る人はみな喪服着る学生服着る
バスジャック事件の犠牲となった女性は長年教育関係のお仕事をされていて、お葬式には大勢の元教え子さんたちがいらっしゃったそうです。この歌でも、「喪服」「学生服」といった「服装」が重要なキーワードになっております。
さて、もう一度「普段着〜」の歌に戻りましょう。この事件を覚えている人は大勢いるでしょうが、犯人が「ひらひらのシャツ」を着ていたかどうかは、実は「どうでもいいこと」でしょう。しかし作者は、あえてそこに注目して一首を作りました。
社会詠や時事詠は、多くの人間が経験したこと・目撃したことを題材に詠まれますが、それだけに「大勢の人間が注目しているところ」を歌にしても、いい作品にはならないのです。むしろこの歌のように「どうでもいいこと」に着目して、そこから事件の本質や真理を引き出していく、これこそ優れた社会詠や時事詠をつくるコツだと思います。ついでにいうなら、世に言うところの「殺人」という行為の大半は「普段着」で行われるものでしょうね。
それでは、また。
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