ひょんなことから憧れの大林宣彦監督の新作映画「その日のまえに」(原作・重松清)に出演させて頂くことになりました。
エキストラではありません。
なんと、永作博美さん扮するヒロインの兄役であります。
兄役と聞いても、当初は、画面をよ〜く見ていないとわからない隠れキャラ的な役だろうとタカをくくっていたのですが、いただいた台本を見たら、けっこうたくさんセリフがあってびっくり。暗記力がない自分にとってはかなりの量でした。
うれしい悲鳴を上げつつも、3日がかりでなんとかセリフ覚えたのであります。
しかも役名は、精六。
セリフは「バイナラ」のみ。
斉藤清六かっ!
「欽どこ」じゃないんだから・・・。
5月28日(水) 衣装合わせ
川崎のスタジオで衣装合わせ。
まずは、精六(僕)の奥さん役をやる柴山智加さんにご挨拶。
柴山さんは大林映画の常連。
彼女が出演していた「ふたり」や「青春デンデケデケデケ」などの名場面が頭をよぎる。
主演の永作博美さんと南原清隆(ナンチャン)さんにもご挨拶。
お二人とも、気さくでとても良い人。
そして、大林監督と12年ぶりの感動の再会!
二浪突入記念の傷心旅行で尾道ロケ地めぐりに行った時、大林監督がたまたま同じホテルに泊っていて、バッタリお会いしたのでした。
次の年に尾道に行った時も喫茶店でバッタリ監督とお会いしたのでした。それで、お会いするのは12年ぶり。
ご縁のある人とは不思議とこういう現象が起きますね。
監督の指示の下、衣装さんが役柄に合った着物とスーツを選ぶ。
大林映画の世界では、たいてい男は家で着物を着ている。
家長イコール着物姿というイメージが監督の中にあるのでしょう。
5月30日(金) ロケ
ついに「その日」が来た。
早起きをしてセットがある川崎の体育館へ。
スタッフのみなさんにご挨拶をしたあと、
小沢一郎あたりが休日に着てそうな紺色の着物に着替える。
共演の柴山智加さん(僕の奥さん役)と一緒に特殊メイクを受ける。
40代の頃と50代の頃の2回に分けてメイク。
メイクでみるみるうちに初老の男に変身していった。
特殊メイク完成!
代議士の休日ではありません。
覚えてきたセリフを頭の中で復習しているところに、
ADの人が急遽変更したセリフを持ってきた。
必死で覚えたセリフが、だいぶ変わっていて大いに焦る。
とにかく暗記が大の苦手なので、逃げたい気持ちになる。
カンニングペーパーを用意したのだが、本番で使えるかわからないので、最終手段として、V6の番組で見たMr.マリックの超記憶術を実行することに。
この記憶術は、人間は痛かった記憶は忘れないという傾向を利用したもので、体の部分に番号をつけて、そこに痛みのイメージを加えて覚えさせるという方法。
セリフのキーワードとなるのは「金」「病気」「保証」だったので、
目の中に金貨を詰められ、鼻の穴に鋲を入れられ、 口の中にコショウの瓶を詰め込まれ・・・というハードSMの責め苦のようなシチュエーションをイメージして、なんとか覚えることができた。
そして最初のシーンを撮るためにロケ現場へいざ出陣。
監督から演技指導もあり、いよいよスタート!
(ロケ時の写真撮影・大林千茱萸さん)
カンニングペーパーを足元に置いたのだが、ちゃぶ台なのでカメラに映ってしまう。
「その紙どけてくださ〜い!」と助監督。スタッフも苦笑している。
いよいよヤバイぞ・・・・・・。
そこで、Mr.マリックの超記憶術を実行。
それでも、めちゃくちゃ緊張していたことも手伝って、
体の演技を覚えたら、セリフが飛んでしまい、 セリフを意識したら、体の演技を忘れてしまいで、NGを連発。
演技ってこんなに大変なものだったのか!
俳優って凄い!と今更思い知ることに・・・・・・。
これほど泣きたい現場に遭遇したのは、
近年では身延山でクマに追いかけられた時以来だろうか。
緊張のあまり1986オメガトライブのカルロストシキばりに(古い!)震えていたのだが、監督が「ナイフが無いふ」的なダジャレで和ませてくださり、 少し余裕が出て、なんとかようやくOKを頂いた。
この時、マシンガンのように繰り出される監督のダジャレは新人をリラックスさせるための武器であったということを知る。
電話で妹(永作さん)に激怒するというシーンだったのだが、
緊張の震えが怒りの震えに見えていることを祈るばかり。
超記憶術を実践中の筆者。
監督一流のダジャレに和む。
次のシーンでもセリフの変更があり、
またMr.マリックの超記憶術でなんとか乗り切る。
そして、またしてもNG連発で落ち込む・・・。
共演の柴山さんはさすがプロ。 どのシーンも一発でOK。
次のシーンでもセリフの変更があり、
(以下同文)
今度は体の演技がとても難しかった。
残すはラストの車の中でのシーン。
ここはセリフが短いので余裕だなと、「さびしんぼう」(歌・富田靖子)を口ずさんでいたら、 ADの人がやってきて、
次のシーンは号泣しつつ両手でおにぎりをむさぼり食いながら
セリフを言うという演出になっていることを知らされる。
号泣する準備はできていなかった!!!(江國香織風に)
もうやるっきゃないということで、喉に指を突っ込んで無理やり涙を流して、 そのあと11年前に死んだ愛犬のことを考えながら、
山下清画伯よろしく両手でおにぎりをむさぼりながらセリフを叫んだ。
カット!
「もうちょっと怒りをこめて号泣しよう」と監督からダメ出しがありNG。 最近あった怒りのエピソードを思い出して再びチャレンジ。
カット!
「妹をなくした悲しさも出そうか」と監督からダメ出しがありNG。
妹役の永作博美さんが本当に自分の妹だと思い込めばもっと泣けるかもしれないと思い、そういう人生をイメージをしていたら、「あんな妹がいたら、ちょっと、否、かなりうれしいよネ!」という具合に雑念が浮かんできて、頭の中でribbon時代の永作さんが歌い踊る映像が流れ、さらには、同じく乙女塾出身のCoCoの映像までもが流れてきた。続けて、CoCoといえば「ライブヴァージョン」って曲の曲名ヘンだったよなぁ・・・曲名にライブヴァージョンはないよなぁ。ライブヴァージョンのライブヴァージョンってなったらもっとまぎらわしいし、CD買わねえぞ!・・・などとしょうもない雑念が次から次へと浮かんできたので、慌ててかき消す。
そうこうしているうちに、おにぎりが4つなくなり、あと2つしか残っていないという状況に陥る。
今度NGを出したらスタッフのみなさんにかなり迷惑をかけてしまうので、大いに焦る。
周囲には山ほどのスタッフがいて、ADへの叱咤が飛び交う。
このADへの叱咤は間接的に自分に向けてのものだということはわかっていた。
号泣する準備もできていた。
そしてスタート!
カチンコが鳴る。無我夢中でやったので、どんな演技をしたのか全く覚えていない。
カット!
おそるおそる目の前を見ると監督がニコニコしながら両手でマルをつくっていた。
この時監督がつくったマルは、白鶴のCMの矢崎滋のそれよりも美しかったということを付け加えておきたい。
とにかく、この時の感動は一生忘れないと思う。
お疲れ様でした〜!の声が体育館に響き渡り、スタッフの方が
「これにて笹公人さん、柴山智加さんの出演シーンはすべて終了しました! お疲れ様でした〜!」
と言って体育館に拍手が響きわたった。
「あ、こういう場面「情熱大陸」とかで見たことあるゥ!」
などとシロウト丸出しなことを思いながら、
大林監督とプロデューサーの恭子さんと握手。
あたたかいお言葉をかけていただき、感激。
監督のお嬢さんであり映画感想家の大林千茱萸さんも「堂々たるものでしたよ」と褒めてくださった。
心臓は強いほうだし、物怖じしないタイプだとは思うのだけど、
今回のは本当に寿命が縮まるほど緊張していたのでした。
これにて、全4シーン、半日がかりのロケが終了!
最後に記念撮影。 板尾課長ではありません。
怖ろしくて自分の出ているシーンを見る勇気はありませんが、おそらく大林映画始まって以来の怪演・奇演になっているのではないかと思われます。
映画館で見た時、どうか僕のシーンでゲラゲラ笑わないでください。
涙なくしては見られない映画なので・・・・・。
「その日のまえに」(大林宣彦・監督)
は、公開は11月です!
名作の予感がします。ぜひ映画館に観に来てください!
どうかよろしくお願いいたします!!!
「その日のまえに」
原作:重松清・著『その日のまえに』(文芸春秋刊)
映画脚本:市川森一
撮影台本 :大林宣彦 南 柱根
監督:大林宣彦
製作:?WOWOW ?PSC
主な出演者:南原清隆 永作博美 風間杜夫
公式サイト
以上、怒涛の映画デビューでした。
よろしく哀愁☆
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『その日のまえに』は大好きな小説だったので、いまから楽しみです。<br />
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絶対観にいきます。
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『その日のまえに』は大好きな小説だったので、いまから楽しみです。<br />
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絶対観にいきます。
重松作品は評判がいいので、原作も読みたいと思います。
(このところ、投稿さぼっております・・・)<br />
(講座には参加させていただきます)<br />
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俳優デビュー、おめでとうございます!<br />
特殊メイクもとても似合っていらっしゃいます。<br />
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偶然ですが、先日『さびしんぼう』をみたんです。<br />
友達に薦められて。<br />
当時はあのメイクだけでひいていたのですが<br />
ジーンとくるいい映画でした。<br />
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『その日の前に』も楽しみです。<br />
早く11月にならないかなあ。。
ありがとうございます!<br />
演技は想像以上にひどいと思うので、笑わないでください。<br />
<br />
>雲母音さま<br />
ありがとうございます!<br />
原作もとっても泣けます。<br />
ぜひ読んでみてください。<br />
<br />
>瞳さま<br />
ありがとうございます!<br />
J-WAVE時代に投稿されていた方ですよね。<br />
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「さびしんぼう」は、30歳を越えてから観ると、ますます良いですね。大傑作だと思います。<br />
ちなみに僕の特殊メイクをしてくださったのは、「さびしんぼう」のメイクも担当した岡野千江子さんです。<br />
<br />
また歌ができたら投稿してください。